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29章 豊かな実りを願い
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トモエとユーフォリアが共謀して、中々に難しい手を打った。そして、オユキとしても己の体調に対する不安が拭えない以上はアベルに対して配慮を見せることも難しい。当の本人、アイリスにとって譲れない事。それが、一度アベルの庇護かから外れる事である以上は、其処に選択肢が存在しない。オユキに掛かる負担を、この場にいるものたちはアベル以外がよしとしない。
旗色が悪い事には、当然アベルも気がついたのだろう。言葉を重ねることは諦めて、アイリスを一瞥したうえで、ため息一つ。
「まぁ、想定通りではあるからな」
「おや。でしたら最初からとも」
「それも難しいこと位は、お前らでもわかるだろう」
確かに、オユキもアベルの言い分は理解できる。なんとなれば、オユキよりも聡いものたちは揃って訳知り顔。オユキとしては、其処に如何なる差があるのか気になりはするのだか、そればかりはそうした感情に向き合ってきた時間の差としか言える物でもない。
「次は、少しは安心できそうですか」
「そういや、お前らにはいってなかったか」
「一応、噂はお伺いさせて頂きました」
噂、要は隣国でオユキが雨乞いに駆り出されていた頃。アイリスの方で、何があったのか。祖霊を降ろした、そこまではまだ良かった。しかし、そこで呼ばれた相手が、その場にいると考えていた人間が不足していた。もとよりアイリス含めての話し合いで、配置は決めたのだ。祖霊にしても、アイリス経由で認識しているのだと誰もが考えていた。
だが、実態は違ったのだ。
「よもや、認識されていたとはな」
「その、場にいたともなれば」
「だが、イマノルという例も」
「アベルさんは二度ですし、魔国で願ったときには」
そう、彼は魔国でアイリスの祖霊から加護を得ようという時に。一つの成果を、目覚ましいと読んでも良いものを残していた。かの柱に刃を届け、その身に纏う衣服を、毛皮と共に肌を僅かとはいえ切り裂いて見せた。確かに過日のように陽炎を、惑わしの火を用いることはなかったが。それでも、氷雪を司り周囲の環境を当然とばかりに書き換えはしていたのだ。多少はオユキが、取り込んで、打ち消して。そうした真似は多少はしてみたのだか、慣れぬ力であるには違いながった。寧ろ、より一層場が乱れて都言うことも多かった。そんな中で、確かに刃を届けたアベルであれば、確かにかの祖霊から目をつけられても仕方あるまい。それ程をなした相手を、トモエとオユキが評価しないのは、トモエは単に己の振るう奇跡の下でやはりトモエに届かぬから。対してオユキはそもそも加護の働かぬばで、戦と舞妓の名の下に開かれた大会でアベルをどうにか下している。加護を含めた 能力では、やはり遥かに及ばないのだが。アベルにしても、己が過小評価されていると考えることが難しい。加護を含めて、それをトモエにしろオユキにしろ認めているのだから。
「それに、必要なことかと」
「本人に聞いたところ、別に必要はないとのことだったんだが」
「アイリスさん」
「嘘はついて無いわ」
祖霊に認められなければ、婚姻もままならない。流石にそのようなことは無いらしい。それが、一つの事実ではあるのだろう。だご、問題となるのはそればかりではない。セラフィーナから、彼女の両親がどのようなものたちだったかは聞いた。だが、アイリスからは全く聞いていない。来歴にしても、たまにそれを伝える事はあれど、正式に話を聞いた覚えがない。
ともすれば、アイリスの認識では既に共有されているのかもしれないが。
「私も、そうなる時には」
「伝えたけど、聞き取れていないんだもの」
オユキの疑いが、表に出たからだろう。なにやら仲良く応酬を始めようとしている、そんな二人の意識をオユキは軽く手を打ち合わせて引き付ける。自分たちがそれを行うには、もちろん場所や時間を多少は選びもするが。他人のそれに、特にこうして体調に問題を抱えている状態では、付き合おうなどという気分でもない。
オユキの目的は至極単純。この場をいかに早々に片付けて、次の予定に向かうのかだ。こうして会話をしている今も、正直なところ豊穣祭に向けての事は進んでいる。時間を使わなければならないのは、アベルではない。アイリスと、カナリアを引き合わせてなるべく早期に雨乞いの祭りと豊穣祭との橋渡しもしなければならない。実のところ、オユキに、ファンタズマ子爵家にふられている仕事も少なくない。加えて、トモエとオユキの祝言が近いこともあり、それぞれにあれこれと用意がいるのだから。
「決まり、ですね」
「ああ、仕方あるまい」
「あの、そこで不満げにされるならば」
トモエとオユキは譲歩したはずだ。言外にそう訴えるように、アベルをオユキが睨む。お前に不足がなければ、そもそもこのような面倒など起きていないのだぞと。流石に相手は公爵家当主。それを直接口に出さない配慮は、当然オユキは持ち合わせている。そういったものを、叶うなら無視を、ここまでの関係や積み上げた功績をもって押し潰すつもりなのが、トモエとユーフォリア。
「これ以上を求めるのなら」
「わかっている。その方が抑えようとしているのは」
アベルがそのようなことをいうものだが、理解があるなら、是非とも粛々と受け入れてくれないものかと、オユキはそう口にするしかない。彼が某かの困難を、というよりも、アイリスとの関係において困難を抱えているのは流石に理解もできる。だが、それを本人も同席しているばで、相談するなどというのは愚策でしかない。
アベルの求めていることの一つには、かつてオユキが願って叶えられた一つの奇跡があるのだろう。だが、それを願おうにも、今のオユキにそこまでの余裕もなければ、認められるに足る積み重ねがあるとも思えない。むしろ、確かな約束を、保証を求めるのならばアイリスの祖霊に向かえば良い。トモエとオユキは当然のこととしてそう考えている。
「どれ程望まれたとして、私はその選択をしませんよ」
「それは」
何か、不足が有るのかと。そう問いかける姿勢そのものが、まさにそれなのだとオユキはいいたくもなるのだ。勿論、アベルという人間のこれまで。おおよそ想像のらち外に置かれたこの人物。かなり難しい人生を、これまで、とかく注意を何処までも払って生きて来たのは理解ができる。己の自由な選択等という贅沢とは無縁だったことも想像に難くない。
それが今、こうして。恐らくははじめてだろう、自分が求めるものを手に入れようと、かなりの打算が背後に有るのだとしても。
「私が手を貸すのは、恐らく最終局面とするのが良いでしょう」
どのみち、アベルではなくこの後。しばらく共に暮らすことになるアイリスから、散々に話を聞かなければならない。と、いうよりも、今この場で、こうして益体もない話を続けようとするアベルには、是非ともアイリスがどんな視線を寄せているか気が付いて欲しいものではある。
アベルには、アイリスが万全であるとそう見えているのだろう。アイリスが、そう見せているのだろう。弱ったところを見せたくない、そうした思考も少しはあるだろうがそれ以上に。見せたくないのだ、弱って、みすぼらしい己の姿を。周囲の全てを欺こう、それもある程度は行っているにはちがいない。だが、アベルには更なるものが必要になる。トモエとしても、アベルのどこにそれ程をアイリスが見込んだのか皆目検討もつかないのだが。蓼食う虫も好き好き、そこはいよいよもってお互い様。
「なんにせよ、少し回りの方に話を聞くのが良いかと」
「回り、か」
「アベルさんでしたら、王都に多いでしょうから」
「だが、そのものらは」
「相応に目立ちますし、私がいうのはどうかと思いますが、目立つ振る舞いはしましたから。」
そう。オユキだけでなく、アイリスも。戦と武技の巫女として、散々に目立つ振る舞いをしてきたのだ。ならば、見覚えのあるものたちとているだろう。こうなる前の彼女を知るものとているだろう。まずは、オユキが行える劇薬のごとき手段ではなく、そうしたより穏当なものをまずは。
助言は、十分とは言えないかもしれないが、アベルも、アイリスも今は互いに少し距離を置くことが必要なのかもしれない。少なくとも、オユキはアベルのこうした振る舞いを見せられた以上は、同じだけをアイリスから聞き出さねばなるまい。アイリスからも、それが当然といわんばかりに視線が送られてもいるのだから。
「トモエさん」
「そうなりますか」
「はい。どうやら知らぬ方が多いようですし」
そして、オユキがアイリスから話をきかなければならない。その時間にあわせてトモエがアベルから話を聞いても良いだろう。確かにある、役割分担として。どうやら、オユキがアイリスと食事をする。それを望んでいるのは、そうした情報を収集してくれと望んでのことでも有るらしい。オユキが、一先ずそれで決まりとばかりに話をきれば、アベルのほうでもどこか落ち着いたように。加えて、アイリスからは、本当に色々と言いたいことがあるのだとばかりに。
「では、アベル様」
「ああ。ファンタズマ子爵家に預けるとは言え、いや、預けるからこそ」
「流石に、ある程度間を空けて頂けますよう」
流石に、いくら顔見知りとは言え、隣国ではなく、神国で連日公爵本人から訪問を受けるのはオユキとしても非常に困る。アベル本人が、というよりも周囲からの見え方が。さらには、ユニエス公爵家なら通すのかとこれまでに散々断ってきた他の家からの僻みの手紙もとたんに増えていくことだろう。ことと次第によっては、アベルに直接ファンタズマ子爵家と縁を結びたいからと話が向かう可能性もある。
そのようなこと、当主その人が知らぬはずもないというのに。
「トモエを、向かわせますので。勿論、マリーア公爵からの許可を得た上で」
「約束というには、心許ないが」
「その辺りまで含めて、マリーア公爵はアベルさんに請求していると思いますよ」
相場はわからないが、これまで公爵家当主が憎からず、はっきりと好意を寄せている相手の世話をして、その結果が、今のオユキの手元にある目録だけという事もなかろう。
旗色が悪い事には、当然アベルも気がついたのだろう。言葉を重ねることは諦めて、アイリスを一瞥したうえで、ため息一つ。
「まぁ、想定通りではあるからな」
「おや。でしたら最初からとも」
「それも難しいこと位は、お前らでもわかるだろう」
確かに、オユキもアベルの言い分は理解できる。なんとなれば、オユキよりも聡いものたちは揃って訳知り顔。オユキとしては、其処に如何なる差があるのか気になりはするのだか、そればかりはそうした感情に向き合ってきた時間の差としか言える物でもない。
「次は、少しは安心できそうですか」
「そういや、お前らにはいってなかったか」
「一応、噂はお伺いさせて頂きました」
噂、要は隣国でオユキが雨乞いに駆り出されていた頃。アイリスの方で、何があったのか。祖霊を降ろした、そこまではまだ良かった。しかし、そこで呼ばれた相手が、その場にいると考えていた人間が不足していた。もとよりアイリス含めての話し合いで、配置は決めたのだ。祖霊にしても、アイリス経由で認識しているのだと誰もが考えていた。
だが、実態は違ったのだ。
「よもや、認識されていたとはな」
「その、場にいたともなれば」
「だが、イマノルという例も」
「アベルさんは二度ですし、魔国で願ったときには」
そう、彼は魔国でアイリスの祖霊から加護を得ようという時に。一つの成果を、目覚ましいと読んでも良いものを残していた。かの柱に刃を届け、その身に纏う衣服を、毛皮と共に肌を僅かとはいえ切り裂いて見せた。確かに過日のように陽炎を、惑わしの火を用いることはなかったが。それでも、氷雪を司り周囲の環境を当然とばかりに書き換えはしていたのだ。多少はオユキが、取り込んで、打ち消して。そうした真似は多少はしてみたのだか、慣れぬ力であるには違いながった。寧ろ、より一層場が乱れて都言うことも多かった。そんな中で、確かに刃を届けたアベルであれば、確かにかの祖霊から目をつけられても仕方あるまい。それ程をなした相手を、トモエとオユキが評価しないのは、トモエは単に己の振るう奇跡の下でやはりトモエに届かぬから。対してオユキはそもそも加護の働かぬばで、戦と舞妓の名の下に開かれた大会でアベルをどうにか下している。加護を含めた 能力では、やはり遥かに及ばないのだが。アベルにしても、己が過小評価されていると考えることが難しい。加護を含めて、それをトモエにしろオユキにしろ認めているのだから。
「それに、必要なことかと」
「本人に聞いたところ、別に必要はないとのことだったんだが」
「アイリスさん」
「嘘はついて無いわ」
祖霊に認められなければ、婚姻もままならない。流石にそのようなことは無いらしい。それが、一つの事実ではあるのだろう。だご、問題となるのはそればかりではない。セラフィーナから、彼女の両親がどのようなものたちだったかは聞いた。だが、アイリスからは全く聞いていない。来歴にしても、たまにそれを伝える事はあれど、正式に話を聞いた覚えがない。
ともすれば、アイリスの認識では既に共有されているのかもしれないが。
「私も、そうなる時には」
「伝えたけど、聞き取れていないんだもの」
オユキの疑いが、表に出たからだろう。なにやら仲良く応酬を始めようとしている、そんな二人の意識をオユキは軽く手を打ち合わせて引き付ける。自分たちがそれを行うには、もちろん場所や時間を多少は選びもするが。他人のそれに、特にこうして体調に問題を抱えている状態では、付き合おうなどという気分でもない。
オユキの目的は至極単純。この場をいかに早々に片付けて、次の予定に向かうのかだ。こうして会話をしている今も、正直なところ豊穣祭に向けての事は進んでいる。時間を使わなければならないのは、アベルではない。アイリスと、カナリアを引き合わせてなるべく早期に雨乞いの祭りと豊穣祭との橋渡しもしなければならない。実のところ、オユキに、ファンタズマ子爵家にふられている仕事も少なくない。加えて、トモエとオユキの祝言が近いこともあり、それぞれにあれこれと用意がいるのだから。
「決まり、ですね」
「ああ、仕方あるまい」
「あの、そこで不満げにされるならば」
トモエとオユキは譲歩したはずだ。言外にそう訴えるように、アベルをオユキが睨む。お前に不足がなければ、そもそもこのような面倒など起きていないのだぞと。流石に相手は公爵家当主。それを直接口に出さない配慮は、当然オユキは持ち合わせている。そういったものを、叶うなら無視を、ここまでの関係や積み上げた功績をもって押し潰すつもりなのが、トモエとユーフォリア。
「これ以上を求めるのなら」
「わかっている。その方が抑えようとしているのは」
アベルがそのようなことをいうものだが、理解があるなら、是非とも粛々と受け入れてくれないものかと、オユキはそう口にするしかない。彼が某かの困難を、というよりも、アイリスとの関係において困難を抱えているのは流石に理解もできる。だが、それを本人も同席しているばで、相談するなどというのは愚策でしかない。
アベルの求めていることの一つには、かつてオユキが願って叶えられた一つの奇跡があるのだろう。だが、それを願おうにも、今のオユキにそこまでの余裕もなければ、認められるに足る積み重ねがあるとも思えない。むしろ、確かな約束を、保証を求めるのならばアイリスの祖霊に向かえば良い。トモエとオユキは当然のこととしてそう考えている。
「どれ程望まれたとして、私はその選択をしませんよ」
「それは」
何か、不足が有るのかと。そう問いかける姿勢そのものが、まさにそれなのだとオユキはいいたくもなるのだ。勿論、アベルという人間のこれまで。おおよそ想像のらち外に置かれたこの人物。かなり難しい人生を、これまで、とかく注意を何処までも払って生きて来たのは理解ができる。己の自由な選択等という贅沢とは無縁だったことも想像に難くない。
それが今、こうして。恐らくははじめてだろう、自分が求めるものを手に入れようと、かなりの打算が背後に有るのだとしても。
「私が手を貸すのは、恐らく最終局面とするのが良いでしょう」
どのみち、アベルではなくこの後。しばらく共に暮らすことになるアイリスから、散々に話を聞かなければならない。と、いうよりも、今この場で、こうして益体もない話を続けようとするアベルには、是非ともアイリスがどんな視線を寄せているか気が付いて欲しいものではある。
アベルには、アイリスが万全であるとそう見えているのだろう。アイリスが、そう見せているのだろう。弱ったところを見せたくない、そうした思考も少しはあるだろうがそれ以上に。見せたくないのだ、弱って、みすぼらしい己の姿を。周囲の全てを欺こう、それもある程度は行っているにはちがいない。だが、アベルには更なるものが必要になる。トモエとしても、アベルのどこにそれ程をアイリスが見込んだのか皆目検討もつかないのだが。蓼食う虫も好き好き、そこはいよいよもってお互い様。
「なんにせよ、少し回りの方に話を聞くのが良いかと」
「回り、か」
「アベルさんでしたら、王都に多いでしょうから」
「だが、そのものらは」
「相応に目立ちますし、私がいうのはどうかと思いますが、目立つ振る舞いはしましたから。」
そう。オユキだけでなく、アイリスも。戦と武技の巫女として、散々に目立つ振る舞いをしてきたのだ。ならば、見覚えのあるものたちとているだろう。こうなる前の彼女を知るものとているだろう。まずは、オユキが行える劇薬のごとき手段ではなく、そうしたより穏当なものをまずは。
助言は、十分とは言えないかもしれないが、アベルも、アイリスも今は互いに少し距離を置くことが必要なのかもしれない。少なくとも、オユキはアベルのこうした振る舞いを見せられた以上は、同じだけをアイリスから聞き出さねばなるまい。アイリスからも、それが当然といわんばかりに視線が送られてもいるのだから。
「トモエさん」
「そうなりますか」
「はい。どうやら知らぬ方が多いようですし」
そして、オユキがアイリスから話をきかなければならない。その時間にあわせてトモエがアベルから話を聞いても良いだろう。確かにある、役割分担として。どうやら、オユキがアイリスと食事をする。それを望んでいるのは、そうした情報を収集してくれと望んでのことでも有るらしい。オユキが、一先ずそれで決まりとばかりに話をきれば、アベルのほうでもどこか落ち着いたように。加えて、アイリスからは、本当に色々と言いたいことがあるのだとばかりに。
「では、アベル様」
「ああ。ファンタズマ子爵家に預けるとは言え、いや、預けるからこそ」
「流石に、ある程度間を空けて頂けますよう」
流石に、いくら顔見知りとは言え、隣国ではなく、神国で連日公爵本人から訪問を受けるのはオユキとしても非常に困る。アベル本人が、というよりも周囲からの見え方が。さらには、ユニエス公爵家なら通すのかとこれまでに散々断ってきた他の家からの僻みの手紙もとたんに増えていくことだろう。ことと次第によっては、アベルに直接ファンタズマ子爵家と縁を結びたいからと話が向かう可能性もある。
そのようなこと、当主その人が知らぬはずもないというのに。
「トモエを、向かわせますので。勿論、マリーア公爵からの許可を得た上で」
「約束というには、心許ないが」
「その辺りまで含めて、マリーア公爵はアベルさんに請求していると思いますよ」
相場はわからないが、これまで公爵家当主が憎からず、はっきりと好意を寄せている相手の世話をして、その結果が、今のオユキの手元にある目録だけという事もなかろう。
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