キミと僕との7日間

五味

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「じゃ、今日は帰るよ。」

始めて、彼女に向かってこんな風に声をかけた気がする。
いつもより少し早い時間、今日は彼女の天体観測にかける思いを聞いていたから、練習もしっかりできたしとそう告げる。どこか彼女は残念そうな顔をするが、そのあたりは僕の都合だってあるのだ。

「ここ最近、朝起きたときに眠気が残ってて。」

そう。祖父は当たり前のように僕が起きる前から起きているし、それに加藤とかは考えてないけど手入れの時に舟をこぎそうになるのはよろしくない。

「えっと、まぁ、うん、そうだよね。」

そう言ってしまえば恐らく日が沈むころに置きだす彼女は、そう応える。

「ちょっとした興味なんだけど。」
「えっと、何かな。」
「天文学者の人って、大丈夫なの。」

どうにも彼女を見ていると、誰も彼もが夜、日が沈んでから起きだして仕事を始めるように思えて仕方がない。
勿論他の仕事でもそうなっているのは知っているけど、学者というからにはひょっとして学生の頃からと、そんな事を考えてしまう。

「えっとね、電波望遠鏡って言う昼間でも観測できる望遠鏡もあるし、宇宙にある望遠鏡のデータを使ったりね。」
「それって、個人でどうにか出来たり。」
「それは、無理かな。」

何となく彼女が話しを逸らそうとしているのに気が付いてしまう。きっと僕のそれは先入観とか、偏見とか、そう言ったものかもしれないけど、一部正しい事でもあるのだろう。
そう言った物を使える立場になる迄は、自分で観測をしようとそう考えたら今の彼女みたいにならざるを得ないのだろう。

「その、今更だけど風邪ひいたりしないようにね。」
「うん、春もそろそろ終わりだし、この時期は大丈夫。」
「ああ、冬。」

冬の星空、それは僕も流石に聞いた事が有る。

「湿度が低いから、向いてるんだっけ。」
「はい。」
「その、嫌だよ。僕。祖父母の家のすぐそばで凍死事件とか。」
「ごもっともです。最善をこれまでも尽くしてきました。」

どうにも彼女の返答がいつもと違うのは、それだけ僕も普段と違うという事なのだろう。
そこで彼女自身の心配よりも先に、どうしてもこの場所がそんな舞台になるというのは耐えられない、そんな感想が先に出てきてしまうけど。
それくらい、僕にとってここは大事な場所であることは事実なのだから。

「えっと、今後も、泊めてくれるように頼んでおくね。」
「その、それについては、頂いたお手紙に書いてあって。」

どうやら僕が気が付くようなことは、とっくに気が付いていたらしい。

「そっか、なら安心かな。」
「信じてるんだね。」
「うん。」

祖母か、祖父か、二人のどちらかが彼女を見ていれば、危険な真似は許さないだろう。昔から祖父は僕にこれをすると危ない、あれは危ないものだと、そういう事だけは試すかとも調べろとも言わず教えてくれた、そういう人なのだから。
きっと、祖母は昔に経験があるのだろうし多分何かいい方法を彼女に伝えるだろう。

「でも、そっか冬か。」

冬の星空は、確かに特別に見えたそんな記憶がある。
いつもは開け放たれた縁側から見るのに、冬の間は、特に年末年始はなんだかんだと両親も一緒に、閉められたガラス戸越しに雪の積もった庭をぼんやりとみるのだ。
僕が祖父母の家に来るようになってから、二年ほどたってからだろうか。両親もすっかりとその時だけは休みを取って、年の瀬にごめんなさいと、そう祖父母に謝りながらも僕と一緒に泊まり込む。
そんななか、すいて気の付いたガラス越しに見える星空は、確かにとても特別に見えたのだ。
いつもは家に帰ってもたまに電話があったり、仕事道具を広げたりする両親も、ただこたつに入って祖父とお茶を飲んだり祖母があれこれと持ってくる食べ物をのろのろ食べたりと、とても楽しそうにしているのだから。

「綺麗だよね。」
「うん。さっき君も言ってたけど、湿度が低いから、本当によく見えるんだ。」
「そういうものなんだ。」
「えっと、湯気とか光を通しにくいでしょう。レーザーみたいに波長が整ってないから散乱しちゃって。それに減衰もあるし。」

何やらまた彼女の話が始まりそうだったので、僕はそこで話を無理やり切る。

「えっと、それじゃまたね。」
「あ、うん、そうだったよね。うんまた。えっと、朝にかな。
「そうだね。起きたときに来てなかったら、迎えに来るけど。」

先ほどの話で、この時期は朝にもやが出ることも有るなと思い出す。
それなら彼女はそれが出る前には天体観測を止めて、移動をしようとそう考えるのかもしれない。

「えっと、今日は一先ずこの子を置かせてもらうだけかな。」
「あ、そっか、他にも荷物はあるよね。」

僕と違って、彼女は流石に着替えや食料なども持ってきているだろうし。
僕の服は、頻繁にここに来るようになってから、そっと置かせてもらったりもしている。時期によっては嵩張るし、冬に至っては祖父のコートを借りたりもするし。

「うん。先に荷物を置かせてもらったら、向こうに戻って、残りを持って夕方に、かな。」
「そっか。えっと、それじゃ。」

そう声をかけて、僕は彼女に背を向けて、山を下りる。

「その、ありがとう。」

難のお礼なのかぱっとは思いつかずに、そのまま彼女に背を向けたまま軽く手を振って山を下る。
身体も冷えてきているし、その成果少し眠くなってきていたから。
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