キミと僕との7日間

五味

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珍しく。というか、此処に最初逃げるように、それとも何かを求めて新しい場所に、そんな感じでここに来るようになってから初めてだろうか。
いつもは勉強をしている時間ではあるけれど、課題も終わっているからと、祖母と二人で並んで縁側に座りのんびりお茶を飲んでいる。
いつもはこの時間は、勉強するか、祖父と並んでここから出て、その先で作業をしている。
何となく、初めてここに来た時の僕が、祖父と並んで、よくわからないなりに何となく、自分で思うように、それともただありのまま、どう育てるのかを必死で悩みながら、時折踵を持ち上げながら鉢植えと向かい合っていた姿が見える気がする。
そんな事は当然あるわけもないし、自分の姿なんてそんな風に見える訳もないだろうけど。ただ、もしかしたら、まったく気にしなかったけれど、祖母はこうして僕と祖父を眺めていたのかもしれない。

「じーさん。でかけるの、初めて見たかも。」
「そうね。普段買い物も月に一度くらいですから。」
「そっか。」

こうして祖母と話すのは久しぶりだろうか。
これまでは夜中に出かけたりしなかったから、食事の後に縁側からぼんやりと外を眺めながら、そこで話しかけられては答える、そんな事をしていたけど。
今回は出かけているからその時間も取れていない。つまり最後に来た、前の夏以来だろう。年末年始は両親も一緒だから、僕だけが話すというわけでもないし。なんだかんだと母と祖母がよく話しているから。

「星。好きなの。」
「えっと。見るのは好きだよ。星座の話も面白いし。でも、望遠鏡で覗いてって、そうまでは思わなかったかな。」
「そう。」
「うん。ここからいつもみたいに見てるだけでも、すごくきれいだし。
 わざわざそこまでしなくてもって。図鑑で見たら十分かなって。」
「それはそうでしょうね。」

祖母は僕の言葉にただ笑う。

「でも、何だろ。惑星とか、星雲とか、そういうのは今回初めて望遠鏡で見たけど、面白かったよ。」
「そうでしょうね。恒星は個人の望遠鏡で見ても、正直大きさが変わるだけですから。」
「なんか、物によっては少し違って見えるって。」
「うーん。本当に少しだけ、ね。あの子の持ってるものはかなり大きなものだけど。」
「やっぱり、詳しいんだ。」
「うちにもありますよ。これまで興味がなかったようだから、出さなかったけど。」
「へー。あ、もしかして母さんが。」
「ええ。あなたのお母さんの後輩でもあるのよ、あの子。」

それは、なんというか驚いた。
ただ、詳しく答えてくれなかった当たり、細かいことは僕が母に聞けと、そういう事なのだろう。
ただ、そうなると少し申し訳ないなとそんなことも思うけど、やっぱり恒星にまでは興味が持てない。

「月とか、火星とか見るのは面白かったかな。」
「そうでしょうね。本当にこうしてみるのと全く違って見えますから。」
「うん。面白かった。それと、自作のプラネタリウムには興味があるかも。」
「そうね、あの子に聞いてみるのもいいんじゃないかしら。」
「ばーさんは、作ったことあるの。」
「ええ、ありますよ。」

そうして、祖母とのんびり縁側に並んで話す。
そのついでに、ちょっとした愚痴を、疑問をこぼしてみる。

「そういえば、あの子なんで驚いてたんだろう。」
「色々聞かれていたでしょう。」
「そうかもだけど、声、そんなに低いかな。」

これまで一度もそんなことはなかったし、なんだか驚いてしまった。
まさか性別を間違えられてるなんて、思ってもいなかったし。

「さぁ。」

そういって祖母はただ楽しそうに笑っている。

「えー。」
「私にとってはかわいい孫、それだけですからね。」
「それは、それでいいけど。」

見た目にはそれなりに気を使っているつもりなのだ、僕自身。
綺麗とかかわいいとか、そう言ったのはどうでもいいけれど、僕が僕に似合っている、そう思えることが重要だと思って、そうなる様に、それくらいには気を使っている。
だからめんどくさくても、こうして髪を伸ばしているのもあるわけだし。

「うーん。案外そそっかしい子なのかな。」
「そうかもしれませんね。」

そういって、祖母にぼんやりと違うかもしれないと言われても、これまであった時に、特に星、天体、そう言った物について質問をしたとき、その彼女の振る舞いを思い出せばあながち間違いでもない気がする。
あの怒涛の様な説明と、こちらが理解しているのかお構いなしでひたすら情報を投げつけてくる様子は、そんな気もする。
そして、そこで思い出した。

「そういえばさ。」
「どうかしましたか。」
「うん、あの子の説明よくわからなくって。」

どういう事でしょう、そういう祖母に説明をすると、祖母はおかしそうに笑う。

「それで、じーさんとか、ばーさんからアドバイスがあるかなって。」
「特にありませんよ。」
「えー。」
「嬉しかったんでしょうね。ここで人に会って、そんな相手が自分の好きな物に興味を持ってくれて。」
「だからって、こっちを置いてきぼりにしたら、どうなんだろう。」
「それも経験ですよ。良いではないですか。本人が悩んでいるならともかく。」
「えっと。僕はよくわからなかったよ。」
「じゃぁ、分かるようになるまで聞けばいいだけですよ。それとも面倒かしら。」

祖母に言われて、僕は首をかしげる。
何となく、ああして色々と話す彼女の声、それをBGMにするのは嫌いじゃない。
面倒というか、聞き流してもいいなら、好きな部類に入るかもしれない。
でも聞き流すのは失礼だし。
そうして僕が悩む様子を、隣に座る祖母がしばらく眺め、突然立ち上がったと思えば、祖父と彼女が戻って来たらしい。どうやら、結構な時間、僕は悩んでいたようだと、そこで気が付いた。
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