憧れの世界でもう一度・終章

五味

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最期への道

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 トモエは、シグルドと簡単に言葉を交わした後に、オユキから向けられている催促の視線に改めて向き合う。
 オユキにとっては、こちらに来た時から、こちらに来てすぐに出会った彼らからの事にしてももはや心を残す対象ではなくなってしまっている。
 一昨日に、十分に話したからだろう。
 ここにきて、オユキの最も良くないとトモエが感じている部分。
 あまりにも果断であり、トモエだけに重きを置きすぎている部分というのが、悪い形で出てしまっている。
 そうなるほどに、オユキはこちらでの生活に疲弊している。

「では、次に会う事があるのかは分かりません。お決まりの言葉しか、贈る事は出来ませんが」

 他に、己の係累に、かつて己が産んだ子供たち、そこからさらに先。それらに対して送った言葉と同じものかと言われれば、それすらももはやトモエの記憶に遠い。

「今後とも、健やかに。悲しい事が有れど、つらい日々が有れど、その先に多くの幸福がある事を願っています」
「なんか、それって」
「ええ。別れの言葉です。繰り返しますが、一先ずとなるかは分かりませんから」
「あんちゃんは」
「今のオユキさんは、私でもどうなるかは分かりませんよ」

 既に、オユキはある種の完成をこちらで見ている。
 そして、最たる問題というのはトモエではオユキの加護を奪うことが出来ない。
 戦と武技に与えられた奇跡、トモエが行えるこの場での事を外にも持ち出せる奇跡。他にも、オユキが種族としての特性を積み上げていくのと同様に、トモエが行使できる奇跡の数も増えている。だが、それにしても比翼連理の断りを示す功績があるために、オユキにはそこまでの影響を与えることが出来ない。
 トモエは、かつてオユキが使っていたトモエという姿を得ている今のトモエに対しては、やはりオユキのほうが優勢ではあるのだ。現状のところ。
 オユキは、氷の乙女たちの協力を得て、セツナからの誘導を受けてクレドすらも巻き込んで。
 未だに、トモエが己の同族たちに合えていないことも含めて。
 己の祖たる存在から言われた、異なる大陸にいるのだとそうした話を受けたこともあり、もはやこの短い期間では間に合わぬと考えたこともある。借りに会ったところで、それでオユキ程の純度を、トモエが己の願望、過去に失ったものに加えて、オユキには、もしもオユキであれば、かつてのトモエとの差異を与えた上でとするならばと考えた姿。
 だからこそ、あまりにもオユキに馴染んでしまっている。
 最初こそ戸惑いと、不慣れが出ていたものだが、そのような物は関係ないとばかりに能力そのものは利用できるようになっている。相も変わらず、理屈を並べ立てる悪癖は変わっていないのだが、そんな者よりも早くオユキは理解する、さらには其処にさらなる物を加えて実践できてしまう。
 理屈を重んじるのは、オユキがそれを他の者たちに対して説明する必要がある場面という物に数多く直面してきたから。
 なんとなれば、両親が遺したものを、他の者たちでも扱えるようにと考えた上で、己の理解よりも先に大言できてしまうのだと、実践できてしまうのだという現実を置いて他の者たちもできる様にと振る舞わなければならなかったから。
 今のオユキを構成する物、その多くはトモエと出会ってから構成されたものでしかない。
 オユキは、両親がオユキの前からいなくなった瞬間、そこまでに培った物を一度全て放棄したうえで改めて己を構築しなおしているのだ。
 だからこそ、あまりにも歪に。
 そして、同じ流れをこちらで採ったこともあり、トモエが気が付くことが出来なかったのだが、オユキが改めて己の定義を行おうと考えている時に、流派としての、印状を得るために必要とされている心構えをトモエの解釈も交えて話してしまった。
 その結果が、今のオユキだ。
 人国に向かうまでは、露呈しなかった。
 オユキを利用しようとする多くの者達、神々の祝福からは汚染された国と言う訳でも無いというのに、はるか遠いあの国での出来事。
 それに対抗するためにと、オユキが己の中に定めてしまった事が、やはりあまりにも大きい。
 こちらに来てからという物、トモエの側にいる間はオユキはすっかりと安定をしていた、トモエという存在にすっかりと過去と同じように依存していた。だが、幸いにも、こちらではオユキが己を任せることが出来る相手が、作用を行われた結果として、こちらの世界でオユキが改めて親と感じるセツナの存在もあって、他を使って、そちらに流れる形で己を改めてとしたことが今は良くない方向に働いている。
 トモエも、どうしたところでこれまでに経験の無い事であり、ここまでこじれるだけの原因がだれにあるのかといわれれば、間違いなく半分はトモエにある。

「インディクスさんに頼んで、オユキさんを浚ったところが決定的だったのでしょね」

 オユキの仲の良い、かろうじて仲良くできているステルナ。
 だが、オユキと違って炎獅子の流れを持つトモエは、それよりも幅の広い相手と交流を持てている。

「ですから、私としても責任をとは言いません。オユキさんの事なので、私が行うべきことがあるというだけですから」

 そして、オユキに視線を送る。
 氷の輝きを宿す、深い青の瞳。その視線が、ただただトモエを見つめている。
 そして、その奥にあるのは、オユキが行ってしまった一つの失敗に対する反省。
 今回の事ではない。それよりも前に行った、トモエに対して、約束としての優先権を与えてしまうという、これまでオユキが絶対に避けていたこと。人国に向かうという決断、そこでトモエに対して優先権を改めて渡してしまった事を、今も考えている色。
 加えて、この世界での疲労の結果として。

「なので、行きましょうか、オユキさん。私たちの事、それを改めて始めるために」

 トモエは、改めてこの場から、この後に行く場で始めようと考えて。
 オユキは、ただ終わりに向けて。
 こちらに来たばかりの頃は、互いに同じ方向を向けていたとトモエは考えているのだが、今となってはすっかりと異なる方向に向いてしまっている。
 かつてでも起きていたことではある。
 その度に、互いにきちんと時間をとって話し合って。
 もしくは、互いに互いを尊重するのだという形をとって、どうにかしてきたことでもある。

 だが、今も存在している問題として、この問題の解決方法というのは、かなり厳しい条件が付くことになる。
 この世界が、容赦なくオユキの存在を、異邦人であり、巫女でもある。さらには、使徒の子供であるというあまりにも便利な事実を持つオユキという存在を、この世界は求めてしまう。
 その歪がある限り、オユキがどうしてもそれを断れぬ以上は、己の存在意義を底に立脚している以上は、オユキは今後もただただ弱っていく。
 かろうじて、他の者たちからも氷の乙女たちからの力添えもあって、今はどうにか己の望むままに動けているだけに過ぎない。
 そして、そうした性質をオユキが持っている以上は、難しい事ばかり。

「ええ。もはや、語るに及ばず」

 オユキとして、唯一誇れることとでも言えばいいのだろうか。
 こちらの世界に来て、トモエが一番最初に口にしたこと、それだけはここからの事で叶えることが出来る。
 神殿の一部という意味では、これまでに何度となく通っていたことではあるのだが、それを改めて。

「では、ステルナ様」
「オユキさん、一応は、こう、公務のようなものですから」
「確かに、そうした側面もありますか」

 きっと、ではない。
 トモエのこうした言葉が、オユキを仕事の場へ、己をむさぼろうとする者たちへと送り出してしまう、送り出さざるを得ない、過去にも行っていたことなのだと軽く行ってしまう、トモエの言葉にしてもオユキを散々に傷つけてきたのだろう。
 トモエが、オユキはともかく、少なくともトモエがこの世界を楽しめるようにと。

「そう、ですね。繰り返しにしかなりませんが」

 すでに、伝えるべき言葉はこうして事が始まる前に伝えたはず。
 だが、トモエに言われるというのならば、まだ何か伝えるべきことがあるのだろうとオユキは考えて。
 改ためて周囲を眺めてみれば、成程、こうして直接言葉を伝える機会のある者たちばかりではない。そうした者たちにしても、開会に先立っての事で十分かと考えていたものだが、トモエの様子を見るにやはりそうでは無い様子。
 関係の深い相手がいるのかと言われれば、そもそもいまこの場にはオユキの馴染んだ異邦人たちがいない。
 ユーフォリアは、ファンタズマ子爵家の人員として今後もある事を望んだ。
 万が一、ではなく。
 トモエとオユキの帰結が、互いに自覚の上で来たのだとして。
 しかし、こちらの世界の柱たちは、間違いなく行うのだ。トモエとオユキ、その二人の存続を行う事を。また、大きく形を変えて。互いの存在、記憶、それに対してあまりに明確な作用を行ったうえで、トモエとオユキ、ファンタズマ子爵家の存続は行われることになる。
 そして、戦と武技が伝えようとした言葉、法と裁きによって、容赦なく止められた言葉。

「あくまで、創造神様の神殿に訪うだけです。少々距離もありますので、どうしたところで戻るのに時間もかかるでしょう。ただ、それに関しては、今までも幾度か会った事」

 そう、初めての時は魔国に向かったときに。次には、華と恋。そして、オユキの療養先としてすっかりと定着してしまった、その先にある、二つほどの国を超えた後に、さらにいくつかの国に属さぬ、国にならぬ者たちが暮らす場を超えてたどり着いた先。
 実際に、トモエとオユキに関しては、フスカの手によって早々に運ばれた門を使って移動したために、そこまでの苦労など得てはいない。

「ですから、少々王業な準備となったことにつきましては、やはり私の体調不良というのが大きいのです」

 そろそろ四つになろうかという次代の王。そのあとに生まれた、まもなく一年が経とうかという、新しく生まれた姫。立太子の儀はまだだが、トモエとオユキが折に触れて、二人を通して神々から力を与えられたこともあり、立体鎬における最有力候補どころではなく、ほぼ内定している存在がある。

「為すべき事、引き受けた仕事がある以上は、そうですね療養を行いながらとなるでしょうが」
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