憧れの世界でもう一度・終章

五味

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空虚な道

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 ここに至る一つの事実として。
 トモエとオユキの認識は全て置いて起き、たとえ、トモエとオユキの実際としてはかつての流れの内に戻ったのだとして。
 こちらの世界からは、トモエとオユキが失われることは、もはやない。
 かつての世界に合った、哲学問題。
 それにしても、己の立場から、科学という物にその身を捧げていたオユキとしては昨日が揃っていれば問題が無いと答えたことだろう。全く同じ名前を与えたのだとして、そこにあるのはせいぜい改修を繰り返した記録、数値として表示される、もしくは名前の前後に何かをつけて。
 これまでに散々に行ってきたことであり、オユキにとっては、やはりその程度。
 現状の己の認識、それが終わる以上は、やはりどうでもよいとしか考えられない。

「セッカ様、コユキさんには、お世話になりましたね」

 トモエに言われて、今後の事の一切を言及せずに。
 戻る事は決まっており、その際に神に、こちらの世界の創造神にどの程度の手が加えられているのか、その程度の差でしかないとオユキは認識している現状で、今後に関する言葉を残して。
 今となっては、ステルナの案内のままに、よく分からぬ空間を歩いている処。
 そして、異空と流離に属する力でもあるため、オユキが己の力でとしてしまえばこの後の場面であまりにも問題が多い。どうしたところで、オユキの振るう力というのは、場に影響を与える。苦手な場、そこで力を振るうだけでかなり削られるものが多くなる。
 ここ半年の事、全てを放って、慣れた相手ばかりと共に暮らしていた日々。
 すっかりと居住性という部分に振り切った馬車と、カナリアも使えるようになった転移の魔術を存分に使う日々。
 その中で、加護をため、大きく失われていた本質に対して氷の乙女たちからの補佐を受けて補填をしていき。
 そして、オユキとしても十分と思えるだけの物をようやく得られたことになる。
 トモエと、この後に待ち受けていること。
 何を問われるのか、何を選ぶのか。そして、この後にどうなるのか、そんな事はとうにわかっている。

「どうにも、手を焼かされましたが、私たちの集落でも久しぶりの事ですし」
「此処まで幼い子が、私たちの暮らす場ではなく、長らく外にいたというのは、流石に私たちも思う所がありましたから。族長様が私たちの為にと代表して攫われて、少したって戻ってきたかと思えば、でしたから」
「あの恐ろしい炎熱の鳥が、よもや里の外に生まれていた私達の同族に対してとは、考えもしませんでしたけど」

 かつてとは、全く異なる流れの中で、ただまっすぐに歩く。
 こちらに来るときには、真白の空間をトモエと二人で歩いていた。
 過去の事を、かつての世界の家族たちの事を放しながら。
 しかし、こちらでこうして歩くのは、案内役のステルナに加えてセツナからオユキの世話役にと与えられた二人と共に。
 先ほどまでの舞台には、この二人はいなかったものだが、いったいどうした理屈か今は。

「貴女の世話をセツナ様から頼まれているのだもの」
「オユキちゃんの事だからね。トモエばかりに任せていると、どうしても中に炎の流れが少し入ってきちゃうし」
「私としては、それにしても望むところではあるのですが」
「トモエのほうは、貴女の信仰だけでかなり回復するというのに、貴女に流れてくる力が苦手な属性というのは。全く、セツナ様も気が付いていたでしょうに」
「恐らく、早々にご説明を頂いたものと思いますし、そのあとからもいくらかこう、少しでもよくなるようにと手ほどきは色々と頂きましたから」
「結局、オユキちゃんに近い私たちが側役として頼まれているのだから、オユキちゃんも私達らしいよね」

 オユキにしてみれば、全く納得のいくものではないのだが。

「それにしても、セツナ様もご存じであったのですね」
「おばあ様、えっと、本人にはやっぱり伝えないで欲しいのだけど、本当に長く生きているので」
「本人は氷の乙女から外れていないっていうけど、私達じゃあそこ迄純度と位階を上げていくのは難しいしね」
「数少ない純血ですもの。私たちの祖が、初めて作ったというのだから」

 さて、今になってセツナという存在に関しての情報が続々と出てきている。
 これまでは、いよいよ聞くことも叶わなかっただろう言葉聞こえるというのであれば、ステルナの作るこうした通路というのはいよいよ知識と魔、法と裁きの外側にある道になるのだろう。
 では、どうして言葉が伝わるのかと言われれば、そもそもこうしてオユキが道行きを頼む相手である以上、言葉など口にせずとも直接伝えられるような存在ばかり。

「私としても、言われた時にはよもやと思いましたが」
「他の異邦人たち、過去の異邦人、かつての世界で創造神様が作られた、ヒト種の者たちにしても基本はそのままだったのですけれど」
「オユキちゃんの伴侶は、こっちに来るときに直接手が入ってるもんね」
「半分とはいえ、柱としてあるとは流石に考えてもみませんでした」

 そもそも、オユキの記憶では、オユキがこちらに来るときに確認した時ですた、トモエの瞳は緑だったはず。
 だが、気が付いた時には、こちらに来た時にはもう髪の色と同じ色に変わっていた覚えがある。
 こちらで出会った、シグルドという少年と全く色味として同じ。

 そうして、オユキが己と同じ種族の者たちと話しているのを、やはりトモエとしては微笑ましく眺めながら。
 もっとも、こうして眺めていられるようになるまでは、オユキと揃ってかなり険悪になったりもしたものだ。

「トモエは、このままでいいのかしら」
「ええ、他に行いようもありません。既に、こうなる事は私としては決まっていたことですから」
「相も変わらず、定命の者たちは忙しない事」
「翼人種の方々にしても、ここ数年の間は変わることも多かったかとは思いますが」
「変化など、当然の事です。私たちは」
「一所にとどまることを良しとせず、生まれる新たな風に乗って、でしょう」

 周囲は水と癒しに包まれているとよく分かる、青緑の光を薄く放つ透明感のある場。そして、そこに走るとぐろを巻いてまっすぐと伸びる焔。
 馬車の外をこれまで見る事も無かったのだが、成程トモエとオユキは門を通るたびにこのような空間を通っていたらしい。道理で、トモエは門を潜るたびにはっきりと回復をしていき、オユキは覿面に弱っていくわけだと今更ながらにその様な納得を得る。

「私たちの邸宅と、氷雪の乙女の里とを繋いでいる門は」
「あちらは、私たちの祖が示す力、道の形とは根本から異なります。冬と眠り、雷と輝きに戦と武技、他にもいく柱彼の力が満ちており、より混然としているとでも言えばいいのでしょうか」
「ステルナ様は、通られたことが」
「私が通ってと言う事はありません」

 そも、ステルナに関しては、このように己で道を開くことが出来るのだ。
 ならば、わざわざ門を通る必要など当然ない。

「私は、いえ、私以外には族長様方と他にも幾人かは見ることが出来ますから」
「ええと、門を開かずにと言う事ですか」
「門はあくまで私たち以外に分かり易い形であり、道はそこにありますから」
「興味深い話が、やはり色々と聞けるものですね」
「あなた方の側には、あのなかなかにどうにもならない裔がいるばかりでしたからね」
「カナリアさんの扱いは、なかなかに難しいようですが」
「あの子が己の立ち位置をとにかく難しくしているだけです。私たちは、ただ自由にある、それ以上でもそれ以下でもない翼なのですが」

 何とも、難儀な種族だと、トモエは改めてため息の一つでもつきそうになるものだ。
 反面、オユキに関してはすっかりと仲良くなっている、オユキにしては珍しく随分と早くから気を許していたいよいよ歳の近い相手に囲まれて。
 会話にしても、何処か楽し気にしているように見せているのだが、内実はやはりどうにもならず。
 相も変わらず、オユキはいよいよ外行き。
 この辺りにしても、せめて同じ種族であればとトモエは考えていたのだが、やはり重要なのは同族ではなくともにある時間なのだろうと、ことここに至っても散々に思い知って。
 要は、いまオユキが己の同族たちに、ここ一年と半分ほどの時間を折に触れて過ごしていた相手に対して向けているという言葉というのは、あくまで別離の言葉でしかない。
 二人にしても、最早オユキを翻意させる気が無い。
 見た目に、中身にもそこまでこだわらない、そこまでの時間を互いに使っておらず、オユキの内面とほとんど同じような特徴を持つ種族たち。ならば、考えることなどオユキとさして変わらない。
 同じ見た目、似たような中身。しかして、備えている物が同じであれば、何一つ問題が無いと考える相手なのだ。
 そして、セツナをはじめとして、トモエに対して幾度となく問いかけられたのだ。トモエに対して、冬と眠り、氷の乙女たちの祖霊から、課され、果たした試練をトモエは考えざるを得ない。
 何故だか、トモエには理解が出来たのだ。問答などすることも無く、一体オユキが、本物のオユキがどれなのかが当たり前のようにわかったものだ。
 同じ試練を、オユキが課されたのかは聞いていないのだが、そもそもオユキが今のトモエに対して明確に疑っているのはトモエにしても嫌でも理解している。
 オユキが設定した、かつてのオユキが使っていた姿をトモエに贈ったはずだ。だというのに、なぜ瞳の色が違の科、何時、変わってしまったのか。その様な些細な、しかし二人の時間で基本として目を合わせて話をすることが多いためにその都度オユキの心に疑念として降り積もる、最も大きなもの。

「オユキさんに、私が私であると言う事を、如何にして証明するのか」

 つまり、トモエに与えられている、与えられたであろう試練というのが、それなのだ。
 トモエ自身は、トモエとしての自認では、間違いなく己自身なのだ。
 だが、ここに至るまでに散々に思い知ったことがある。思い知らされたことがある。
 神々であれば、神々は、平然とそうした存在を作り出すことが出来るのだと。

「今になって、オユキさんと最初に交わした言葉を反省してしまいますね」

 トモエに課された、今から果たさなければいけないものではなく、トモエに対して用意されていた期限付きの試練ではなく。あの、真白の空間で、己の存在をどこまでも漂泊するような空間でただオユキを待つという試練でもなく。

「オユキさん、なかなかに頑固なのですよね」
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