憧れの世界でもう一度・終章

五味

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決断

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 トモエの答えを切欠に、二人の花舞台が始まる。
 この世界に来て、実にこれが四度目。

「意外、ですね」
「そうですか」

 一度目は、こちらに来て間もない頃の闘技大会。
 二度目は、そこから実に二年が空いてから。
 三度目は、人国から戻り、トモエがオユキを攫う為に必要となったから。
 その全ての舞台は、戦と武技の名のもとに、あらゆる加護を排したものとなっていた。
 筋力に関しては、流石に例外となっていたのだが、それでもその全てでトモエがオユキを下している。
 だからこそ、この場では、最期の場では、オユキが求めるのは加護も含めた全てを持ってと考えていた。

 しかし、トモエの想定の速度、オユキが魔物を狩る時に見せる速度と、今実際にオユキが刃を振るう速度が一致しない。トモエにしても、加護までを万全に利用する時の速度と、今の速度が異なっている。
 明らかに、常の、戦と武技から与えられた功績。
 加護の一切を排する指輪をつけている時、言ってしまえば、日々の鍛錬でオユキと向かい合っている時、それとトモエの能力が変わらない。トモエの考えでは、この場での事は互いに能力の全てを使て、そうなるはずであったのだ。だからこそ、意外に、遅れが生まれる。
 オユキの接近を、過剰に許してしまう。トモエが、オユキに許すまいと考えた位置、そこにオユキの侵入を許してしまう。

「トモエさんの返答を、まだ正確には聞いていませんから」

 流派の皆伝としては、許されない。
 トモエとしては、確かにこれは失策だろう。後で、後があるならばきちんと反省し、改めて己を戒めなければならない事柄。

「そうですね」

 トモエの懐を狙って飛び込んできたオユキ、そして、少しでも己の身を入れる空間を空けようと、深く湾曲している肉厚で幅広の片手剣をトモエに向けて振っている。それを、トモエは当然とばかりに受け止めながら、曲線を使ってオユキが力を逃がそうとするのを、どうにかそれをさせまいとこちらも細かく動かしながら。

「私の本音は、先にもお話ししました。だからこそ、約束として私はこういいましょう」

 オユキはトモエからどうにか印状を与えられているだけ、だからこそ、皆伝の先達としてトモエは振る舞うのだ。

「こちらでの生活は、やはり楽しい事が多いのです。過去には得られなかったものが、あまりにも簡単に得られてしまいます」

 太刀を、受け止めた位置から、オユキがトモエの背後に回り込もうと考えて、少しづつ曲線を使って押し込もうと、オユキの有利を作ろうとしていたところを、要諦を見極めてオユキが力を逃せぬ角度でもって力を頼みに振り払う。
 あまりにも軽いオユキの体は、トモエが片手で振るう太刀で実に簡単に弾き飛ばされる。
 その場に居付ける様に、上から下にとして、そのばえで手首が壊れるような向きにもっていかなかったことは、トモエから見てオユキの褒められる点ではあるだろう。下から武器を入れて、それでも、トモエが太刀を振るうには下から上へとしなければならなかった、その程度にはオユキもトモエの技に対して我を通して見せたのだから。
 オユキは、相も変わらず、こちらに来てからという物背は伸びていない。
 時に、オユキ自身があまりにも気にするからこそ、衣装に基本として頓着しないからこそ、有効な方法でもって誤認させていたこともある。他との対比で、長く使っているリース伯爵から贈られた化粧台の前に座る己の位置、それを考えれば身長が一切伸びていないことなど理解も及ぶだろうというのに、気が付いていない、騙されている。
 トモエのほうはどうかといえば、こちらも変わらない。
 年齢を考えたときに、確かにとトモエも考えはするのだが、それにしても少しの誤差くらいは。

「こちらで、オユキさんがいなければ私はもはや生きていくことはできません、いいえ、それを望みはしません」
「私たちの、いえ、私の複製が」
「オユキさんと同じです。私は、疑い続けられるほど強くはありません」
「私も」
「ですが、オユキさんは今まで持ったでしょう」

 そう、これがオユキではなくトモエがオユキの立場であったならば。

「私は、確かめるための方法として、極端な手段を選んだことでしょう」

 オユキは、トモエの記憶にない、流派の技を知っている。
 その事実だけでも、トモエの父が教えたのだと納得は出来たとして、トモエが教えていない事を、そこまでの時間など無かっただろうとトモエが考える事を習い覚えている様子を見ていればいやでも猜疑は募っていっただろう。
 今、トモエがオユキを疑わずに済んでいるのは、己の作った姿をオユキが良しとするまでの間にかなりの抵抗を見せていたことに加えて、トモエはこちらに来るまでの間にかなりの期間を試練として過ごす時間があった。
 その中には、実のところ誘いがあったのだ。
 トモエを試すかのように、かつてのオユキ、典仁の姿をしたナニカがトモエに声をかけたのだ。
 迎えに来たと、己もついには生を終えたのだと、探していたのだと。
 実に、あの手この手で、姿にしても実に様々。
 だが、そのどれもに対して、その時のトモエ、未だに榛花としてのかつてのトモエは偽物だと断定した。
 声をかけられるほどに近づかせてしまったのかと、そこに驚きを覚えながらも実に容赦なく切り伏せていったものだ。そして、長い時の果てに、今の典仁がやってきたのだ。
 己の直感を信じる、己自身を刃と考えるからこそ、己の判断の一切を疑わないトモエだからこそ、疑わずに済んでいる。
 見た目だけは似ている、見た目だけしか似ていない存在を、一体どれだけトモエは切り伏せたのか。
 そうした経験のないオユキが、トモエを疑うのはやむを得ないと、そう考えるしかないのだ。

「オユキさんには、話していませんでしたが、私という生命が失われ、オユキさんとあの場で会うまでの間には、それはそれは長い時間があったのですよ」
「ええ、想像は出来ています。技の完成度が、私の知るかつてのトモエさんとは違います。選択肢として、かつてでは選ばなかったような方法を、選んでいます。姿形が変わった、身長が伸びた、私との肉体能力の関係性が逆になったという以上に」

 トモエがオユキをはじく力を利用して、オユキはそのまま後ろに大きく飛んで。
 せっかくだからと、会話の中でトモエは容赦なく追撃を行うために移動を行って。
 移動にしても、此処までの間に散々に便利だと実感している急激な位置の移動。武技による、あまりにも連続性のない移動は、使おうと考えたところで利用が出来ない。トモエの腕力と、己の脚力までを利用したオユキを追いかけるには、振りぬいた腕が邪魔をするからこそ、一息に追いかける事は出来ない。
 だからこそ、オユキがどのようにトモエの仕掛けに血合おうするのかが楽しみなのだ。

「そこで、私に対して行われた試し、それと同じだけをオユキさんにというのは芸が無いと考えたのでしょうか」
「あの、トモエさん、流石にそれは」

 あまりにもあまりなトモエの評価に、オユキが苦笑いを思わず浮かべる。
 互いに、互いを殺すのだと、確実に致命とする技を放つのだと考えて動き回っている。
 だというのに、会話はどこまで行っても常の温度。
 話題ばかりは、流石にこの場に合わせた物を。
 追いかけ、追いついたからこそ、トモエは軽くそれこそ外から見ても、分からぬ物にはわからぬ程度に腕を回し、関節を固めて、骨に力を通すことで早く動かす。武器を持つのは、手に引っ掛けている部分を使って打ち出すように。そして、刃が届いた先で、改めてつかめば、そこで確保を、動きを変えればいいのだと流派で考えているからこそ。
 太刀こそ至上、そうした流派ではある。
 しかし、開祖の遺した言葉なの中に、鍛錬の段階、技の追及の果てに徐々に得物を短く。最終的には、己の手を、指を使う事こそが等と言う話とて残っている。
 だからこそ、目録として当身術がある。
 そして、オユキには簡単に説明をしたからだろう。
 同じ速度を出すための方法を使って、しかし、オユキのほうは武器を保持するために飾り緒を手首に通せるようにと結わえていることもあり。そちらまでを使って、トモエから太刀を奪おうという構え。
 そして、それこそトモエが狙った動きでもある。

「私は、ええ、ですから。オユキさんの言葉に応える形では、こちらに残りましょうと、誘いましょう」
「私の疲労を、私がこのようになる事を」
「それは変わらず認める気はありません」

 瞬間的に、一息に柄を握る力で己をトモエは一度調整したうえで、体が固まる、そこに改めて内向きに軽く回した肩と肘を外側に回しながら一息に振り下ろす。
 今回のオユキの失敗は、先ほどはトモエにこのような手段を取らせぬ様に避けたというのに、上から下に、押さえつけるような力を使わせぬ様にと動いていたというのに今回はそれを許した。トモエがよもや追いかけるとは考えていなかったのか、対応として後手に回った。
 後手に回り、上から下へと振り下ろされるトモエの太刀に対して何かをと考えているならば良し、そのように考えながらも、容赦なく二つに切り分けるという意思を持ち、技を使って。

「だからこそ、それは、言わぬが花と言うものです」

 この約束の果て、トモエが勝利してしまえば、オユキは残ると言い出してしまうだろう。
 互いの大切な約束のうえでの事なのだ。
 どちらも望まぬというのに、この世界に揃って残る事と相なってしまう。
 オユキは、互いに望んでいないのだから、このような問答も、必要ないと考えている。ならば、トモエが行うべき問答、オユキとの間で話すべきなのは、やはりオユキがトモエを誘導しようとしている方向なのだろう。

「トモエさんは、こちらに残るのだとして」
「覚悟は、あります。あらゆる意味での」

 だからこそ、オユキは今トモエに覚悟を問うているのだ。
 こちらに来るにあたって、オユキの姿を作り、後悔する事は無いのかとそうして話したはずだというのに、トモエは後悔を抱え込んでしまった。
 そんなトモエの姿に、オユキにしても公開をしてしまった。
 そして、その事実が、ただただ互いに根深い疲労を与えていくのだ。

「私は、この世界が好きですから。楽しめます、かつての世界にはなかった、あらゆることが流派を背負うと決めた私に、嬉しい事ばかり。だからこそ、私はまだ私の求める道を、こちらでも歩きたいのです」

 そして、振り下ろした刃は、オユキの日本の武器に絡めとられて、そらされながら。
 これが、神授の太刀でなければ、横からの力を、普段はそちらに力が働くと考えない方向からの力を加えたのだとしたら、おることもできたかもしれない。

「だからこそ、これは私の我儘です」

 改めて、今一度。
 オユキの憧れた世界で、トモエもオユキから話を聞いて、憧れを覚えた世界で。
 もう一度、この世界で生きてみようと。
 今のつらさというのは、そこにオユキが用意した大前提があるからこそ生まれているのだからと。
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