もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー

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  それまで微笑んでいたアリスが突然緊張した面持ちになり、何かを考え込むような仕草をし出した。今は山道に入り、少し薄暗い場所を進んでいる。馬車酔いでもしたのだろうか。

「アリス、大丈夫?少し寝たら?着いたら起こしてあげるから」
  
  グレンが声をかけた。俺が言おうとしたことを先に全て言われてしまった。アリスは顔を上げ「少し止まってもらえますか」とグレンを見て言った。

  アリスの表情は固い。何か考え込んでいる様子だ。グレンがすぐに合図を出して馬車は止まった。

「こっちの方」

  馬車が止まるとすぐにアリスは俺とグレンの間を指さした。

「こっちの方から、魔獣が近づいてきています」
「え?魔獣?」

  俺とグレンは声を上げた。

「3…4、5。5頭いますね。大きいです。4つ足で羽も生えてる」
「は?」

  こんなところで魔獣か。確かに魔獣に出くわすのは運みたいなものだ。被害を減らすために魔獣討伐は定期的に行っている。だいぶ減ってはきているが、まだ完全というわけにはいかない。

  俺とグレンで何とかして、アリスは先に王都に送るべきか。アリスの身を守るのが先決だ。俺の頭の中でやるべきことを組み立てる。グレンもおそらく同じことを考えているのだろう。緊張が伝わってくる。

「とりあえず、幕を厳重にしますね」
  アリスの声に空気感が変わった。

「魔獣からは私たちが見えないようにしました」

「へ?」

  間の抜けた声をグレンが出した。俺は声すら出なかった。魔獣からは見えない?

「あ、見えないだけじゃなくて声も聞こえないと思います」

  グレンと目が合った。明らかに動揺している。

「魔獣相手なので、匂いもしないようにしましたよ。魔獣って敏感ですもんね」

  アリスの声は何だか楽しそうだ。

「でも、私たちからは見えちゃうんですよね。見えない方が危険ですしね」

  もはや、何を言っているのかついていけない。

「でも馬は見えちゃうと怖いですよね。なので馬たちは魔獣が見えないようにしました。魔獣だけ見えないはずです」

  アリスはにっこり笑う。

「でも、スティーブさんは魔獣が見えちゃいますね。声を出してもいいけど、そうすると馬がびっくりしちゃいますよね」

  困ったな、と小さく言うので「スティーブは魔獣征伐のプロなので、声を出したりしない」と言うと、安心したように笑った。

  その瞬間、魔獣が近づいてきたのがわかった。馬車が反動で揺れる。凄い迫力だ。これが相手なら俺とグレンでも無理だったと思う。馬は何事もないかのように静かにしている。本当に見えていないようだ。アリスはニコニコ笑いながら「魔獣って凄いですね。初めて近くで見ました」と喜んでいる。

  魔獣たちが通り過ぎ、音が聞こえなくなってから
「あ、もう大丈夫ですよ」
とアリスは少し残念そうに言った。

  俺とグレンは呆然とした。こんなことができるなんて信じられない。スティーブは興奮していたが、少しして落ち着きを取り戻した。

「しゅ、出発してよろしいですか」
「そ、そうだな」

  スティーブもグレンも動揺は隠せない。もちろん俺もそうだ。何なんだ、いったい。魔獣から見えなくするってどういうことなんだ?

  俺は横に座るアリスを見た。アリスは相変わらずニコニコして「いいもの、見ちゃいましたね」と言ってうふふと笑ったのだった。

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