ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー

文字の大きさ
22 / 60

22

しおりを挟む
「尋問魔法は言葉通り、尋問時に使うと相手がペラペラと話してしまう魔法です」

 ダン様は冷静に話してはいる。だがいつもより少し早口な感じがする。もしかしたら緊張しているのかもしれない。そう思うと私の気持ちもなんだか落ち着かなくなってきた。どこか緊迫した空気が漂っている。

 私はあの時のことを思い返していた。確かに話をさせたくて少し圧をかけたかもしれない。しかし魔法を使ったという感覚はなかった。普通に会話したつもりでいたのだが、それが違ったというならどうしたらいいのだろう。

 今後誰かと話をするにも無意識に魔法が使われてしまうのであれば、会話ができなくなってしまう。相手の意思に反することであれば、それは完全に人権を無視したことになってしまうからだ。そういうことであれば、私は人と付き合わない方がいいだろう。そうだ、そうしよう。

 最初からそのつもりだった。マンガみたいに嫌な結末を迎えたくはない。誰とも交わらずに魔法を極めよう。そう思っていたんだ。・・・でも何故だかそうすることが嫌だった。すごく寂しい気持ちになったのだ。

 身の潔白だけは話しておこう。私は意を決して口を開く。簡単なことだ。魔法を使うつもりではなかった。結果的に使っていただけだ。そう言えばいい。ダン様は理解してくれるはずだ。

「わ、私・・・、そんなつもりでは・・・」

 それなのに、簡単に言えるはずだった言葉が出てこなかった。しどろもどろになってしまい、却って怪しい言い方になってしまう。落ち着こう。そう思いながら悪いように考えてしまう。だってリサは幸せになれないのだ。やることが全て裏目に出て不幸になる。それがリサなのだ。

 そうだ、もしかしたらこのまま投獄される恐れだってある。牢獄でリクライニングチェアとティーセットを作る日々を想像してしまい、私はゾッとした。そうなる前に逃げ出すべきか。でも逃げ出してもダン様がどこまでも追っかけて来そうだ。どうしよう。どうしたらいい?

 ダン様は再び大きなため息をついた。今度も長く深いため息である。永遠に息を吐き続けるのかと思うくらいに長い時間、彼は何も言わなかった。

「何を考えているかわかりますよ、リサはなかなか頭がいいですからね」

 ようやく話し出したが、褒められているのか貶されているのかわからなかった。そしてダン様は笑顔だった。恐ろしく美しい笑顔で私を見つめる。その笑顔が怖い。

「尋問魔法は罪人に使うのであれば問題はありません。むしろ有益なものです」

 確かにペラペラと話してくれるのであれば、ありがたいだろう。「吐け、吐くんだ」と机をドンと叩く必要もなくなる。この世界でそんなことをしているかわからないけど。きちんとした司法制度は存在していると思う。

「しかし、誰にでも使われるのであれば問題です」

 ダン様の言葉に陛下が口を挟む。

「えー、いいんじゃないか。相手が話す分には問題なかろう」

 ダン様が深刻な表情なのに陛下は特に何も考えていない様子でヘラヘラしている。子供っぽく唇を少し尖らせて、拗ねたような言い方だ。いいのか?そんなんで。

 ダン様はそんな陛下の顔を見もしないで話を続けた。

「犯罪者が相手であれば、問題はないでしょう。しかしリサは学生です。誰にでも尋問魔法を無意識に発してしまったら、リサの人間関係にヒビが入るのは確実でしょう」

 ダン様は私が最初から人間関係を構築するつもりがないということを知らない。おそらく、平民で孤児のリサでも学校に馴染めるように気を遣ってくれるだろう。その思いを踏み躙るかもしれないけど。学校生活がどうなるかはまだわからないけど、やはりバッドエンディングには向かいたくない。

「そうかぁ・・・」

 しかしそこで陛下が何故だかニヤリと笑った。悪巧みをしている悪党の顔である。なんか、悪い予感がする。絶対何か思いついてるよね。私がそんなことを考えていることに気づいたのだろうか。目が合うと陛下はまたもやニヤリと笑い、ダン様を見る。

「ジョンを呼べ」

 陛下がダン様に命じる。ダン様は一瞬戸惑った感じだったが、すぐに部屋を出て行ってしまった。残ったのは私と陛下。気まずい空気が流れていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり
恋愛
拝啓 お父様 王子との婚約が破棄されました。わたくしは執事と共に家出いたします。 悪女と呼ばれた令嬢は、親、婚約者、友人に捨てられた。 彼女の危機を察した執事は、令嬢に気持ちを伝え、2人は幸せになる為に家を出る決意をする。 準備万端で家出した2人はどこへ行くのか?! 残された身勝手な者達はどうなるのか! ※時間軸が過去に戻ったり現在に飛んだりします。 ※☆の付いた話は、残酷な描写あり

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...