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次に目を覚ました時には、私は赤ちゃんの私で、でも前世の記憶もちゃんと持ったままだった。
懐かしい母と祖父母と暮らした家で、まだ若く美しい母が、私を抱いてあやす。それを見ていた祖母が目を細め、私のことを撫でてから、家の掃除を始める。懐かしい昔に戻っていた。
神様の不思議な力で、私は自分の人生をちゃんと始め直せたらしい。
赤ちゃんというのは制約が多く、目もろくに見えないし、もちろん会話もできない。だから、私には考える時間がたっぷりあった。
私はグローリアさんを幸せにするために、いくつかの計画を練った。転機となる出来事はいくつかあって、1つ目は私が父に迎えに来られて伯爵令嬢になる時、2つ目は夜会でジェームズと出会った時、3つ目はジェームズがグローリアさんとの婚約を破棄する時だ。
最初、私がジェームズと出会わなければ2人の関係は上手くいくと思ったのだが、元々私との出会いがなくても、ジェームズはグローリアさんに対してあまりいい印象を抱いてはいなかった。確実に幸せにするには、私がジェームズとグローリアさんの仲を何とか深める必要がある。
そこで考えたのが、父が迎えに来る前に使用人としてグローリアさんに接触する機会を得る、というものだった。そうすれば、グローリアさんとジェームズの仲をグローリアさんサイドで応援できる。2人の仲が盤石になったことを確認してから、父の元に戻り、ジェームズには会わないようにすれば良いのだ。
そのためには、グローリアさんの側に仕える侍女にならなくてはいけないけど。
そこまで上手くいくか分からなかったので、他にもいくつかパターンを用意しておく。でも、グローリアさんのメイドになること、それがベストな方法のような気がした。
12歳になったある日、私はついに動き出した。
グローリアさんのお家、アシュクロフト侯爵家は大きなお屋敷なので、12歳の子供でも皿洗いなど簡単な仕事をさせるメイドとして雇ってもらえるのを、掲示板に張り出された貼り紙を見て知っていた。
母にアシュクロフト家に奉公に出たいと相談すれば、少し申し訳なさそうにした後に、了承してもらえた。働き盛りの男性がいない我が家は、とても貧乏だったのだ。
そうして私は父が迎えに来る前に、アシュクロフト侯爵家にメイドとして仕えることができた。
アシュクロフト家は私が思っていた以上に大きく、メイドの仕事もきっちり分業されていた。私は勤め始めて暫くは、キッチンから出ることさえなかった。そのため、グローリアさんを見ることはできなかった。
アシュクロフト家には、お坊ちゃまが2人と、お嬢様が1人いる。娘はグローリアさんしかいないので、さぞかし甘やかされているのだろうと思っていたけど、グローリアさんは侯爵令嬢として恥じない振る舞いを身に着けようとしているそうで、旦那様や奥様の前で甘える素振りを見せないと、メイド仲間から聞かされた。
私の思っていたグローリアさん像とは全然違って、少し驚いたのをよく覚えている。
それから、私の仕事ぶりはというと、自分で言うのもなんだけど、これがなかなかの物なのだ。
アシュクロフト家は、銀のお皿が多いのだが、銀はすぐに曇るので、皿洗いのメイドの仕事の1つにこの銀皿磨きがある。この銀皿磨きはこだわりだすととても時間がかかるので、ほかの若いメイドは皆あまり好まない仕事なのだが、私はこの銀皿磨きが好きなのだ。
前世、王妃になってからは、社交がとても多かった。私は元々人と話すのは好きな方だったけれど、それでもたまに1人になりたい時があった。1人になり、家庭教師に教わった刺繍にもくもくと打ち込むのが好きで、私の前世での1番の趣味だった。
銀皿磨きはこの刺繍に通ずるものがあって、もくもくと磨きだすと、止められなくて、ついほかのメイドの分までやってしまっていた。
そんな風に仕事をしていたら、ある日キッチンを取り仕切るメイド、ヘッド・キッチンメイドに呼ばれた。
何かしてしまったのだろうか、不安に思いながらキッチンの横にある使用人用ダイニングに入る。
ちょうど昼ご飯と夕ご飯の間の、今の時間は誰もいなかった。
「何でしょうか?」
ヘッド・キッチンメイドの顔を見ながら、私は困ったように切り出した。ここでクビになってしまったら、計画が狂ってしまうのだ。
「そんなに怖がらないで、いい話よ」
「いい話?」
首を傾げた私に、ヘッド・キッチンメイドは微笑む。
「貴女をキッチンメイドにしたいのよ」
「本当ですか!?」
驚きのあまり大きな声を出してしまい、慌てて口に手を当てながら座ると、目の前のヘッド・キッチンメイドはおかしそうに笑った。
今は皿洗いしか任せて貰えないけど、キッチンメイドになったら、材料の下拵えや調理もできるようになる。つまりは出世だ!
私の周りの同い年のメイドたちの中にはまだ、キッチンメイドになった者はいないはずだった。
「銀の食器を丁寧に磨くでしょう? いい働きだからお皿洗いだけじゃもったいないって話が出たのよ」
グローリアさんの侍女への第2歩目くらいを踏み出せた気がする。じわじわと嬉しくなるのを抑えて、ヘッド・キッチンメイドにお礼を言ってから退出した。
懐かしい母と祖父母と暮らした家で、まだ若く美しい母が、私を抱いてあやす。それを見ていた祖母が目を細め、私のことを撫でてから、家の掃除を始める。懐かしい昔に戻っていた。
神様の不思議な力で、私は自分の人生をちゃんと始め直せたらしい。
赤ちゃんというのは制約が多く、目もろくに見えないし、もちろん会話もできない。だから、私には考える時間がたっぷりあった。
私はグローリアさんを幸せにするために、いくつかの計画を練った。転機となる出来事はいくつかあって、1つ目は私が父に迎えに来られて伯爵令嬢になる時、2つ目は夜会でジェームズと出会った時、3つ目はジェームズがグローリアさんとの婚約を破棄する時だ。
最初、私がジェームズと出会わなければ2人の関係は上手くいくと思ったのだが、元々私との出会いがなくても、ジェームズはグローリアさんに対してあまりいい印象を抱いてはいなかった。確実に幸せにするには、私がジェームズとグローリアさんの仲を何とか深める必要がある。
そこで考えたのが、父が迎えに来る前に使用人としてグローリアさんに接触する機会を得る、というものだった。そうすれば、グローリアさんとジェームズの仲をグローリアさんサイドで応援できる。2人の仲が盤石になったことを確認してから、父の元に戻り、ジェームズには会わないようにすれば良いのだ。
そのためには、グローリアさんの側に仕える侍女にならなくてはいけないけど。
そこまで上手くいくか分からなかったので、他にもいくつかパターンを用意しておく。でも、グローリアさんのメイドになること、それがベストな方法のような気がした。
12歳になったある日、私はついに動き出した。
グローリアさんのお家、アシュクロフト侯爵家は大きなお屋敷なので、12歳の子供でも皿洗いなど簡単な仕事をさせるメイドとして雇ってもらえるのを、掲示板に張り出された貼り紙を見て知っていた。
母にアシュクロフト家に奉公に出たいと相談すれば、少し申し訳なさそうにした後に、了承してもらえた。働き盛りの男性がいない我が家は、とても貧乏だったのだ。
そうして私は父が迎えに来る前に、アシュクロフト侯爵家にメイドとして仕えることができた。
アシュクロフト家は私が思っていた以上に大きく、メイドの仕事もきっちり分業されていた。私は勤め始めて暫くは、キッチンから出ることさえなかった。そのため、グローリアさんを見ることはできなかった。
アシュクロフト家には、お坊ちゃまが2人と、お嬢様が1人いる。娘はグローリアさんしかいないので、さぞかし甘やかされているのだろうと思っていたけど、グローリアさんは侯爵令嬢として恥じない振る舞いを身に着けようとしているそうで、旦那様や奥様の前で甘える素振りを見せないと、メイド仲間から聞かされた。
私の思っていたグローリアさん像とは全然違って、少し驚いたのをよく覚えている。
それから、私の仕事ぶりはというと、自分で言うのもなんだけど、これがなかなかの物なのだ。
アシュクロフト家は、銀のお皿が多いのだが、銀はすぐに曇るので、皿洗いのメイドの仕事の1つにこの銀皿磨きがある。この銀皿磨きはこだわりだすととても時間がかかるので、ほかの若いメイドは皆あまり好まない仕事なのだが、私はこの銀皿磨きが好きなのだ。
前世、王妃になってからは、社交がとても多かった。私は元々人と話すのは好きな方だったけれど、それでもたまに1人になりたい時があった。1人になり、家庭教師に教わった刺繍にもくもくと打ち込むのが好きで、私の前世での1番の趣味だった。
銀皿磨きはこの刺繍に通ずるものがあって、もくもくと磨きだすと、止められなくて、ついほかのメイドの分までやってしまっていた。
そんな風に仕事をしていたら、ある日キッチンを取り仕切るメイド、ヘッド・キッチンメイドに呼ばれた。
何かしてしまったのだろうか、不安に思いながらキッチンの横にある使用人用ダイニングに入る。
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