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第3章 注目を浴びる『処方』
3.3 K半島戦争1
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KT国では、軍の実権を握る将軍たちの支持を得て、新たに最高指導者になった安ショジンであるが、文チョン大将及び財務長官の李リジョンと共に金正成の随員であった朴ヨンナムの報告を聞いている。朴は、随員であるうちに金正成のパスワードを盗みだし、彼の管理する秘密口座や隠し金庫の在りかをつかんでいたのだ。
そうであればこそ、安は独裁者の処刑を簡単に決断できたのだ。これは、早くから安と繋がっていた彼は、安を通して自白薬を手に入れ、独裁者がいつものように泥酔して寝ていることを良いことに彼の起きかけにそれを施した。
その結果、コンピュータに入っている彼の管理している資産のデータと、情報を引き出すためのパスワード及び資産の在りかが判った場合の、金などを引き出すための必要な情報を聞き出したのだ。
独裁者はその後、薬から覚めても二日酔いとしか思わず、朴の工作がばれることはなかった。
朴が、2人にコンピュータの画面を見せて説明している。
「これが、現金の在りかと証券等をまとめてあるリストです、さまざまなファンドや口座また証券としてこれだけあります」
そのリストを見て文大将がうなる。
「うーむ、なんと120億ドル強か。どうも先代以前からの資産に手を付けていなかったようだな。人民を飢えさせておいて、自分はいざとなったらこの資産と共に逃げるつもりだったのだな」
「ええ、しかし、これだけあれば話は変わってきますよ。我が国は悲しいかな元々貧しい我が国ですから、この金で当面は国の運営はやっていけます。さらには、その後うまくあちこちの国から援助を引き出して、さらに国際的な禁輸等の封鎖が解ければ、また海外に労働力を派遣してなどで何とかやっていけると思います。
その間にインフラを整え、外からの企業を呼び込んで、徐々に豊かと言えずとも穏やかに暮らしていける国にできます」
安は考えながら言うが、それを聞いて李が付け加える。
「そうです。実際に、次の秋の収穫まで食料が相当不足しており、農業長官から今の国連の規制が解けたとしても必要量の買い付けに20億ドルが必要との話がありました。そうでないと、4月ごろから餓死者が相当出ます。あと、どうしても、石炭と石油の買い付け等も必要ですが、そう言う用途にこの金は非常に助かります。実際これだけあれば、1年以上はなんとかなるでしょう」
「うん、いずれにせよ、必要な資金を取りまとめてくれ。しょせんその金では財務長官の言われるように1年程度しか持たない。いずれにせよ、海外からの援助を取り込むことが必要だ。それと、資金不足で開発が進んでいない様々な鉱山も早急に必要な投資をしてその操業も開始なければならん。
それから、あの金星8号とテポドンはK国に売りつけよう。彼らのロケット技術はお粗末なものだからな。そういうふうにあらゆる知恵を絞って、国民が少しはゆとりを持って暮らせるための資金を稼がなくてはならん」
安が財務長官の言葉に頷き言う。それに対して文将軍が述懐する。
「ふむ、やはり君を指導者に選んでよかったよ。私にはそういう絵は全く描けない」
そういうことを言い合っている、今や国のトップになった3人に対して、朴がさらにコンピュータを操作しながら言う。
「文将軍、安将軍、財務長官、ありました。ここに隠し金庫の中身のリストがあります。開いてみましょう」
4人はしばらく無言でリストを見つめる。
「金が150トン、約60億ドルか。あとは合わせても1億ドル足らずだな。しかし、よくぞ金をこれだけ貯め込んだものだな。多分、3代にわたって貯めたのだろうが、これはこれで助かるな」
最初に安がつぶやくように言い、暫く黙った後に文を向いて続ける。
「文将軍、これだけの資産があれば、少し話は変わってきます。戦をする必要はないのではないでしょうか。全滅覚悟の戦は必要ありませんよ」
しかし、文将軍は安を見つめて静かに言う。
「いや、戦は必要だ。我が国はああいう指導者に導かれてきたために、いわゆる犯罪国家として国際的に見なされるようになった。これを一掃する何かが必要だ。それには、金正成の無謀な命令で戦争を始め、それを君が収めたという形が必要であり、彼の死を発表していない今がチャンスだ。
更にいえば、今後も我が国に軍の存在は必要だ。無論、身の丈に見合った最小限の予算でのものになるが、現在の国民を治め、落ち着いて施政を行うために軍という力の背景が必要だ」
文の言葉に、安はその顔を見つめていたがぽつりと言う。
「そうですね。けじめと誰でも判るはっきりした区切りは必要です。しかし、文将軍……」
文将軍は、にかりと歯を見せて笑い、明るく言う。
「なに、私は戦いたいのだ。これを私の最後の花道にしたい。しかし、一方的にやられはしない。戦車やヘリ、戦闘機では劣っているかもしれんが、我が兵の練度は負けていないし隠し玉もある。互角に持ち込んで休戦に持って行こう」
文将軍は、軍の編成を急いだが、KT国の現状の力では2個師団約2万2千人に完全武装させ、戦車を200両そろえるのが精いっぱいであった。この戦車、KT国名伝馬号は、旧ソ連のT72 をベースにある程度近代化して100mm砲を備えたもので、120mm砲が殆どの近代戦車の中で見劣りがするものであった。航空機は最初から勝負にならないので出さないが、これは貴重な人材であるパイロットを無駄に死なせたくなかったのである。
文は3日で編成を終え、その後200kmの進軍を開始して、5日目には朝鮮半島中央部のピョングガン付近の国境に布陣した。戦車は長距離を移動するときは、そもそも自走するものではないと言われるが、枯れた技術のソ連戦車をベースにしただけあって、210両で出発した伝馬号は200両が無事に到着した。
無論、この動きは衛星によって米軍に捕まれており、K国に駐在する米軍、国連軍は一気に緊張した。米軍・国連軍とその指揮下のK国軍との協議が至急行われ、K国軍3個師団3万4千人、米軍1個師団1万1千人の出動が決められ、直ちに動員が始まって、KT国軍とほぼ同じタイミングでK国側のチョルウオン郡に集結した。
もっとも国境に近く陣取っているのは、急きょ編成された3個、第2、第3、第8師団を集めた、K国第1軍であり、司令官は第3師団長崔ジュンエ中将であった。崔は弁が立つこともあって、エリート街道を走って来た軍人で、軍政の面では高い能力を示しているが、臨時大統領の金ユッケにとっては彼を司令官にすることは不安があった。
これは、彼には会議等では何度か実際に会って話もし、彼の人前での話を聞いてもいたが、どうも重みがないというか、軍人としての覚悟が無いように感じてしょうがなかったのだ。しかし、参謀総長や軍務長官が揃って推薦するのでそれを押し返すのも難しく、自分の懸念を説明数するのも難しいためそれを認めたが、なお不安があったので彼の信頼する朴パンクツ少将を師団長代理として、子飼いの第8師団をつけたのだ。
この、KT国の軍の動員の意図と対応については様々な議論があったが、中でもチョルウオン郡に集結した国連軍の会議を紹介する。K国に駐留する国連軍として、イギリスやフランスの連絡将校も一応は入っているが、実質的には米軍とK国軍の合同軍である。
その会議の米軍の出席者は、米軍側は今回の国連軍の司令官である米K国駐留第1師団長のジョン・キンドル中将と副官他の随員である。また、K国軍の出席者は第1軍団司令官かつ、第3師団長崔ジュンエ中将、第2師団長安シーラム中将、第8師団長代理朴パンクツ少将である。キンドル中将が、テントの中のポータブルのスクリーンに映したKT国の軍の配置を映した衛星写真を見ながら口を開く。
「まず、全体的な状況をまとめておこう。KT国軍が2個師団の動員をかけて、ピョングガン付近の国境沿いに布陣した。この動員については、今のところ彼ら、KT国側からはなにも発表はない。その師団は推定だが、ピョンヤン付近に配置されている第1師団と、第3師団に特殊部隊である第10師団からも加わっているようだ。
この衛星写真を見る限り、完全に臨戦態勢であり国境を越えて攻めてくる公算が強い。戦車は、彼らのいう伝馬号が200両で、さらに50台のロケット砲が載っているトラックが配置されている。ここまではいいかな?」
これに対して、崔ジュンエ中将がしゃべり始める。
「はい、それらは承知しています。しかし、どうしても彼らは本気とは思えません。かれらは、兵員こそは2個師団をそろえ、特殊部隊が加わり確かに個人の戦闘能力は高いかもしれません。しかし、近代戦は個々の兵の戦闘能力より、戦車、戦闘ヘリ、航空機による支援の強力さで決まるものです。
そういう意味で、彼らのそれに相当するのは、第2世代の戦車が100両、第2次世界大戦レベルのロケット砲搭載のトラックが50台です。また航空支援も考えていないようです。もっとも彼らの航空機が出てきてもまさにわが方の戦闘機には鎧袖一触ですがね。対して、我々は米軍のM1戦車50両、アパッチヘリ20機を計算にいれなくても、第4世代のK2戦車が50両、第3世代のK1戦車100両に、戦闘ヘリ30機、さらに航空支援も受けられます。
この戦力差を考えれば、戦端を開けば1日で片が付くのではないでしょうか。金正成も、多分核を封じられて半ば気が狂ったと見えますな」
調子よくしゃべる彼を、キンドル中将が不愉快そうに見ていたが、彼が口を開く前に、朴パンクツ少将が言う。「崔閣下、そのような楽観的な話は困ります。私も聞いていましたが、臨時大統領の金閣下はおっしゃっていましたよ。『最大の敵は油断である。敵に対してはあらゆる可能性を考え、瞬時も気を緩めることなく、もしその戦いが必要ならそれに挑んで欲しい』閣下のお話は明らかに油断だと思います」
崔がむっとして言い返そうとすると、キンドルも口を出す。「崔閣下、朴少将の言う通りです。夢、油断なさらぬように。私はKT国軍を強敵だと思っています」
『口だけ達者だが、KTはお前たちとは違うぞ』キンドルは内心このように崔をののしりながら、口には和らげてこう言いつつ、この戦に不安を抱えるのだった。実際、キンドルはK国軍を全く評価していなかった。朝鮮戦争時のK国軍のだらしなさは、米軍の間にきっちり引き継がれている。
彼自身もK国軍の将校とも付き合い、訓練もしばしば視察していたが、彼らはしゃべることは調子いいが、いざと言う時に踏ん張る気迫が全くと言って感じられなかった。その点日本の自衛隊は、隊員そのものは共に戦うに足るが、あの憲法がある限り十全の能力は出せない。難しいものだとキンドルは考える。
ちなみに、キンドルは駐留軍司令官から政府の意向である、“戦わない”と言うことをきつく言われている。K国軍に基本的に戦わせろということだ。その意味で、崔がたぶん手柄の独り占めをしようと考えてであろうが、米軍を後衛に置くという提言を素直に受け入れている。
また、崔はK国軍司令官として自分の第3師団と第2師団を前衛に置き、第8師団を米軍との間の中衛とでも言える位置につけている。『多分、あの朴少将が煙たいのだろうな。しかし、馬鹿だな。明らかに第8師団は彼が指揮する師団と練度及び覚悟が違う』キンドルはそう思うのであった。
朴とキンドルの言葉に、崔は次の言葉で少ししおらしいところを見せたが、根本的には変らないようだ。
「無論、私に油断などはありません。私の話は、彼我の戦力を客観的に比較してでの話であり、後はどれだけこちらの戦力を損なわないように、というだけです」
そう言いかえす。その崔に、キンドルはK国はなぜこんな馬鹿を司令官にしたのだとののしりながら再度言う。「それが、油断です。相手を強敵と考えて準備に当たってください。お願いします」
崔は、流石に今度はよけいなことは言わず同意する。
「わかりました。十全の対応をします」
ちなみに、このKT国の唐突な動きに対して、K国臨時政府とアメリカでは、やはり金正成が精神を失調しているのだろうという考えが支配的であったが、半島の中央部と言う人口の希薄な地点に軍を配置したことに戸惑いを隠せなかった。普通であれば、K国に最大の出血を強いるソウル付近に布陣するはずで、その場合米韓軍の戦いは格段に難しくなってくる。
そうでないのは有難い話ではあったが、過去の金一族が支配するKT国のやり口にしてはおかしいということである。一つの意見として、KT国が幕引きを図っているのではないか、そしてその後のことを考えて、犠牲者を多くしたくないのではないかという意見もあった。しかし、大多数の意見は核ミサイルを事実上無効化された金正成がおかしくなっているというもので、特に意義を見いだせない今の時期に、しかも半島中央部への軍の配置を考えてのことである。
両軍が見合って、1日過ぎた後の正午、久しく対外的には沈黙していたKT国からの放送が驚くべきことを言った。「我が国の偉大なる指導者、金正成様は決心された。わが朝鮮半島は、帝国主義のアメリカに支えられたK国によって、不当に2分されて久しい。しかしながら、これはわがKT人民共和国の旗の下に統一されるべきである。従って、今日3月28日正午、我がKT人民共和国はK民国に対して宣戦を布告する」
世界、とりわけK国は大騒ぎになったが、アメリカも政府と軍には緊張が走り、あわただしい協議の結果、米韓軍からは北側攻撃しないことにした。やはり、ソウルのいわば人質への攻撃が怖いのだ。しかし、当然最前線のチョルウオン郡に布陣した国連軍には警戒を現にするように指示が飛んだ。
そうであればこそ、安は独裁者の処刑を簡単に決断できたのだ。これは、早くから安と繋がっていた彼は、安を通して自白薬を手に入れ、独裁者がいつものように泥酔して寝ていることを良いことに彼の起きかけにそれを施した。
その結果、コンピュータに入っている彼の管理している資産のデータと、情報を引き出すためのパスワード及び資産の在りかが判った場合の、金などを引き出すための必要な情報を聞き出したのだ。
独裁者はその後、薬から覚めても二日酔いとしか思わず、朴の工作がばれることはなかった。
朴が、2人にコンピュータの画面を見せて説明している。
「これが、現金の在りかと証券等をまとめてあるリストです、さまざまなファンドや口座また証券としてこれだけあります」
そのリストを見て文大将がうなる。
「うーむ、なんと120億ドル強か。どうも先代以前からの資産に手を付けていなかったようだな。人民を飢えさせておいて、自分はいざとなったらこの資産と共に逃げるつもりだったのだな」
「ええ、しかし、これだけあれば話は変わってきますよ。我が国は悲しいかな元々貧しい我が国ですから、この金で当面は国の運営はやっていけます。さらには、その後うまくあちこちの国から援助を引き出して、さらに国際的な禁輸等の封鎖が解ければ、また海外に労働力を派遣してなどで何とかやっていけると思います。
その間にインフラを整え、外からの企業を呼び込んで、徐々に豊かと言えずとも穏やかに暮らしていける国にできます」
安は考えながら言うが、それを聞いて李が付け加える。
「そうです。実際に、次の秋の収穫まで食料が相当不足しており、農業長官から今の国連の規制が解けたとしても必要量の買い付けに20億ドルが必要との話がありました。そうでないと、4月ごろから餓死者が相当出ます。あと、どうしても、石炭と石油の買い付け等も必要ですが、そう言う用途にこの金は非常に助かります。実際これだけあれば、1年以上はなんとかなるでしょう」
「うん、いずれにせよ、必要な資金を取りまとめてくれ。しょせんその金では財務長官の言われるように1年程度しか持たない。いずれにせよ、海外からの援助を取り込むことが必要だ。それと、資金不足で開発が進んでいない様々な鉱山も早急に必要な投資をしてその操業も開始なければならん。
それから、あの金星8号とテポドンはK国に売りつけよう。彼らのロケット技術はお粗末なものだからな。そういうふうにあらゆる知恵を絞って、国民が少しはゆとりを持って暮らせるための資金を稼がなくてはならん」
安が財務長官の言葉に頷き言う。それに対して文将軍が述懐する。
「ふむ、やはり君を指導者に選んでよかったよ。私にはそういう絵は全く描けない」
そういうことを言い合っている、今や国のトップになった3人に対して、朴がさらにコンピュータを操作しながら言う。
「文将軍、安将軍、財務長官、ありました。ここに隠し金庫の中身のリストがあります。開いてみましょう」
4人はしばらく無言でリストを見つめる。
「金が150トン、約60億ドルか。あとは合わせても1億ドル足らずだな。しかし、よくぞ金をこれだけ貯め込んだものだな。多分、3代にわたって貯めたのだろうが、これはこれで助かるな」
最初に安がつぶやくように言い、暫く黙った後に文を向いて続ける。
「文将軍、これだけの資産があれば、少し話は変わってきます。戦をする必要はないのではないでしょうか。全滅覚悟の戦は必要ありませんよ」
しかし、文将軍は安を見つめて静かに言う。
「いや、戦は必要だ。我が国はああいう指導者に導かれてきたために、いわゆる犯罪国家として国際的に見なされるようになった。これを一掃する何かが必要だ。それには、金正成の無謀な命令で戦争を始め、それを君が収めたという形が必要であり、彼の死を発表していない今がチャンスだ。
更にいえば、今後も我が国に軍の存在は必要だ。無論、身の丈に見合った最小限の予算でのものになるが、現在の国民を治め、落ち着いて施政を行うために軍という力の背景が必要だ」
文の言葉に、安はその顔を見つめていたがぽつりと言う。
「そうですね。けじめと誰でも判るはっきりした区切りは必要です。しかし、文将軍……」
文将軍は、にかりと歯を見せて笑い、明るく言う。
「なに、私は戦いたいのだ。これを私の最後の花道にしたい。しかし、一方的にやられはしない。戦車やヘリ、戦闘機では劣っているかもしれんが、我が兵の練度は負けていないし隠し玉もある。互角に持ち込んで休戦に持って行こう」
文将軍は、軍の編成を急いだが、KT国の現状の力では2個師団約2万2千人に完全武装させ、戦車を200両そろえるのが精いっぱいであった。この戦車、KT国名伝馬号は、旧ソ連のT72 をベースにある程度近代化して100mm砲を備えたもので、120mm砲が殆どの近代戦車の中で見劣りがするものであった。航空機は最初から勝負にならないので出さないが、これは貴重な人材であるパイロットを無駄に死なせたくなかったのである。
文は3日で編成を終え、その後200kmの進軍を開始して、5日目には朝鮮半島中央部のピョングガン付近の国境に布陣した。戦車は長距離を移動するときは、そもそも自走するものではないと言われるが、枯れた技術のソ連戦車をベースにしただけあって、210両で出発した伝馬号は200両が無事に到着した。
無論、この動きは衛星によって米軍に捕まれており、K国に駐在する米軍、国連軍は一気に緊張した。米軍・国連軍とその指揮下のK国軍との協議が至急行われ、K国軍3個師団3万4千人、米軍1個師団1万1千人の出動が決められ、直ちに動員が始まって、KT国軍とほぼ同じタイミングでK国側のチョルウオン郡に集結した。
もっとも国境に近く陣取っているのは、急きょ編成された3個、第2、第3、第8師団を集めた、K国第1軍であり、司令官は第3師団長崔ジュンエ中将であった。崔は弁が立つこともあって、エリート街道を走って来た軍人で、軍政の面では高い能力を示しているが、臨時大統領の金ユッケにとっては彼を司令官にすることは不安があった。
これは、彼には会議等では何度か実際に会って話もし、彼の人前での話を聞いてもいたが、どうも重みがないというか、軍人としての覚悟が無いように感じてしょうがなかったのだ。しかし、参謀総長や軍務長官が揃って推薦するのでそれを押し返すのも難しく、自分の懸念を説明数するのも難しいためそれを認めたが、なお不安があったので彼の信頼する朴パンクツ少将を師団長代理として、子飼いの第8師団をつけたのだ。
この、KT国の軍の動員の意図と対応については様々な議論があったが、中でもチョルウオン郡に集結した国連軍の会議を紹介する。K国に駐留する国連軍として、イギリスやフランスの連絡将校も一応は入っているが、実質的には米軍とK国軍の合同軍である。
その会議の米軍の出席者は、米軍側は今回の国連軍の司令官である米K国駐留第1師団長のジョン・キンドル中将と副官他の随員である。また、K国軍の出席者は第1軍団司令官かつ、第3師団長崔ジュンエ中将、第2師団長安シーラム中将、第8師団長代理朴パンクツ少将である。キンドル中将が、テントの中のポータブルのスクリーンに映したKT国の軍の配置を映した衛星写真を見ながら口を開く。
「まず、全体的な状況をまとめておこう。KT国軍が2個師団の動員をかけて、ピョングガン付近の国境沿いに布陣した。この動員については、今のところ彼ら、KT国側からはなにも発表はない。その師団は推定だが、ピョンヤン付近に配置されている第1師団と、第3師団に特殊部隊である第10師団からも加わっているようだ。
この衛星写真を見る限り、完全に臨戦態勢であり国境を越えて攻めてくる公算が強い。戦車は、彼らのいう伝馬号が200両で、さらに50台のロケット砲が載っているトラックが配置されている。ここまではいいかな?」
これに対して、崔ジュンエ中将がしゃべり始める。
「はい、それらは承知しています。しかし、どうしても彼らは本気とは思えません。かれらは、兵員こそは2個師団をそろえ、特殊部隊が加わり確かに個人の戦闘能力は高いかもしれません。しかし、近代戦は個々の兵の戦闘能力より、戦車、戦闘ヘリ、航空機による支援の強力さで決まるものです。
そういう意味で、彼らのそれに相当するのは、第2世代の戦車が100両、第2次世界大戦レベルのロケット砲搭載のトラックが50台です。また航空支援も考えていないようです。もっとも彼らの航空機が出てきてもまさにわが方の戦闘機には鎧袖一触ですがね。対して、我々は米軍のM1戦車50両、アパッチヘリ20機を計算にいれなくても、第4世代のK2戦車が50両、第3世代のK1戦車100両に、戦闘ヘリ30機、さらに航空支援も受けられます。
この戦力差を考えれば、戦端を開けば1日で片が付くのではないでしょうか。金正成も、多分核を封じられて半ば気が狂ったと見えますな」
調子よくしゃべる彼を、キンドル中将が不愉快そうに見ていたが、彼が口を開く前に、朴パンクツ少将が言う。「崔閣下、そのような楽観的な話は困ります。私も聞いていましたが、臨時大統領の金閣下はおっしゃっていましたよ。『最大の敵は油断である。敵に対してはあらゆる可能性を考え、瞬時も気を緩めることなく、もしその戦いが必要ならそれに挑んで欲しい』閣下のお話は明らかに油断だと思います」
崔がむっとして言い返そうとすると、キンドルも口を出す。「崔閣下、朴少将の言う通りです。夢、油断なさらぬように。私はKT国軍を強敵だと思っています」
『口だけ達者だが、KTはお前たちとは違うぞ』キンドルは内心このように崔をののしりながら、口には和らげてこう言いつつ、この戦に不安を抱えるのだった。実際、キンドルはK国軍を全く評価していなかった。朝鮮戦争時のK国軍のだらしなさは、米軍の間にきっちり引き継がれている。
彼自身もK国軍の将校とも付き合い、訓練もしばしば視察していたが、彼らはしゃべることは調子いいが、いざと言う時に踏ん張る気迫が全くと言って感じられなかった。その点日本の自衛隊は、隊員そのものは共に戦うに足るが、あの憲法がある限り十全の能力は出せない。難しいものだとキンドルは考える。
ちなみに、キンドルは駐留軍司令官から政府の意向である、“戦わない”と言うことをきつく言われている。K国軍に基本的に戦わせろということだ。その意味で、崔がたぶん手柄の独り占めをしようと考えてであろうが、米軍を後衛に置くという提言を素直に受け入れている。
また、崔はK国軍司令官として自分の第3師団と第2師団を前衛に置き、第8師団を米軍との間の中衛とでも言える位置につけている。『多分、あの朴少将が煙たいのだろうな。しかし、馬鹿だな。明らかに第8師団は彼が指揮する師団と練度及び覚悟が違う』キンドルはそう思うのであった。
朴とキンドルの言葉に、崔は次の言葉で少ししおらしいところを見せたが、根本的には変らないようだ。
「無論、私に油断などはありません。私の話は、彼我の戦力を客観的に比較してでの話であり、後はどれだけこちらの戦力を損なわないように、というだけです」
そう言いかえす。その崔に、キンドルはK国はなぜこんな馬鹿を司令官にしたのだとののしりながら再度言う。「それが、油断です。相手を強敵と考えて準備に当たってください。お願いします」
崔は、流石に今度はよけいなことは言わず同意する。
「わかりました。十全の対応をします」
ちなみに、このKT国の唐突な動きに対して、K国臨時政府とアメリカでは、やはり金正成が精神を失調しているのだろうという考えが支配的であったが、半島の中央部と言う人口の希薄な地点に軍を配置したことに戸惑いを隠せなかった。普通であれば、K国に最大の出血を強いるソウル付近に布陣するはずで、その場合米韓軍の戦いは格段に難しくなってくる。
そうでないのは有難い話ではあったが、過去の金一族が支配するKT国のやり口にしてはおかしいということである。一つの意見として、KT国が幕引きを図っているのではないか、そしてその後のことを考えて、犠牲者を多くしたくないのではないかという意見もあった。しかし、大多数の意見は核ミサイルを事実上無効化された金正成がおかしくなっているというもので、特に意義を見いだせない今の時期に、しかも半島中央部への軍の配置を考えてのことである。
両軍が見合って、1日過ぎた後の正午、久しく対外的には沈黙していたKT国からの放送が驚くべきことを言った。「我が国の偉大なる指導者、金正成様は決心された。わが朝鮮半島は、帝国主義のアメリカに支えられたK国によって、不当に2分されて久しい。しかしながら、これはわがKT人民共和国の旗の下に統一されるべきである。従って、今日3月28日正午、我がKT人民共和国はK民国に対して宣戦を布告する」
世界、とりわけK国は大騒ぎになったが、アメリカも政府と軍には緊張が走り、あわただしい協議の結果、米韓軍からは北側攻撃しないことにした。やはり、ソウルのいわば人質への攻撃が怖いのだ。しかし、当然最前線のチョルウオン郡に布陣した国連軍には警戒を現にするように指示が飛んだ。
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そんな少年の物語。
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