帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第9章 世界での新たな展開

9.7 しでん戦闘機パイロット

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 瀬川英二は、国立海山大学の工学部機械工学科の2年生であった。年齢は19歳、ラグビー部の所属で、ポジションはウイングであり、体力と運動神経には自信がある。ある日、材料学の授業の時間の教室に、軍服を着た、引き締まった体の浅黒い顔の精悍な顔立ちの若者が現れた。

「ええ、授業の前に少しこの方からお話があります」
 老教授がいつもの少し甲高い声でその若者を紹介する。

「航空自衛軍の三村2尉です。重力エンジン戦闘機“しでん”のパイロットです。今日は皆さんに幹部自衛官への勧誘に来ました。ご存知のように、今わが国のみならず人類は、アンノによって危機にさらされています。あのハヤト氏が探査した結果、アンノ機を操る生物は極めて危険な存在です」

 三村は、低めの声でそう言ったあと、皆にハヤトが探査したアンノのパイロットの印象を念話で送る。
「これで、アンノの危険性が解っていただけると思います。このまま手をこまねいていたら、地球は近いうちにアンノ機に襲われるでしょう。現状ではアンノ機に対抗できる機動が可能な戦闘機は“しでん”しかありませんので、現在その大増産が行われています。
 しかし、“しでん”にはパイロットが必要です。さらに、“しでん”を運用するためには母艦とその乗員必要であり、さらに整備を担当する整備員が必要です。これは発表されていませんが、政府はこの日本をアンノから守るために、戦時体制にもっていくことに決定しており、そのために必要な施設・機材・人員はすべてそのために動員されます。
 その一つとして、私どもに皆さんを戦闘機要員または他の要員として、自衛隊にリクルートすることが許されています。どうです。皆さん。自分の家族、またこの日本を守るために自衛隊に入っていただけませんか」

 三村は皆を見渡しながら一旦話を終え、再度口を開く。
「アンノとの戦いは1年以内に始まると考えており、その期間は最大1年と考えています。つまり戦いが始まって、1年後には我々が勝って、相手を追い払うまたは滅ぼすか、または敗れて、占領を受けることで決着がつくわけです。しかし、敗れて占領された場合には、それは極めて過酷なものになるでしょう。
 ですから、皆さんが自衛軍に入る場合、基本的には2年の時限となります。さらに、無条件の復学が可能ですし、新入社員並みの給料が出て衣食住は無料です。さて、質問があればお受けします」

 瀬川は手を挙げて言う。
「機械工学科2年の瀬川です。質問よろしいですか?」
「瀬川さん。どうぞ」
「ええ、私は応募する場合にはしでんのパイロットになりたいのですが、どういうことが資格になるのでしょうか?」
 瀬川の質問に三村答える。

「重力エンジン機は、ジェットエンジン機のようにGもかかりませんし、操縦はそれほど複雑ではなく自動車と大差はありません。ただ3次元の運動に適応が必要ですが。また、体力はさほど必要ありませんので、女性でも基本的には問題ありません。
 知力についても矯正視力で1.0程度で十分です。知性については学生の皆さんの場合には問題ないでしょうから、条件は3つですね。“3次元への適応性”、“鋭敏さ”、“判断の早さ”ですので、やはりテストがあって向いてない場合にはパイロットになれません。
 しかし、もし“しでん”の操縦に向いていなくても機械工学であれば、いくらでもやってもらえることはあります」

 しかし、瀬川はそれを聞いて『大丈夫』と思った。彼は、鋭敏さ、判断の早さは自信があったし、ゲームランドの3次元シミュレータで高い適応性を示していたのだ。瀬川は、すぐさま自衛隊の“しでん”パイロットとして応募して、首尾よく“しでん”のパイロット候補として採用された。

「瀬川候補生、“しでん”1021に乗れ!」「はい!」宮崎県新田原飛行場で、瀬川は、正面に立った第2群教官長から乗機を告げられ、返事と共にようやく慣れてきた敬礼をして、50mほど離れた1021と番号を書かれたタンデム座席である乗機に駆け寄る。アルミ製のはしごを登りながら不思議に思う。

『重力エンジン機にはしごというのは、究極のハイテクとローテクだな』
 同じようなタンデムの練習機は、瀬川はこうして滑走路に来た段階では100機、50mほどずつ間隔を空けて並んでいたが、多くが離陸して今は半分ほどしか残っていない。

 後部座席にはすでに指導官の仁科2尉が座っており、はしごで左手をつかんだ状態で敬礼する瀬川に軽く答礼する。瀬川は座席に座り直ちに計器をチェックする。座席の正面には15インチ程度のスクリーンと、回転・上下動ができる操縦桿が設置されている。

 加速・減速は自動車と同じ足元にあるアクセル・ブレーキべダルによっているが、これはできるだけ自動車に近づけたものだ。基本的には操縦はスマホの画面の操作と同じく魔力によっているので、別にペダルを使う必要はない。一応、前面の円錐部に窓はあるが、戦闘時にはシャッターが下りるようになっており、外部の視界カメラでとらえるようになっている。
 これは、しでんは水中に深さ50mまで潜れるようになっているので、水圧はそのシャッターで耐えるのだ。

 後部座席の仁科が指示を出す。
「瀬川候補生、今日は初飛行だが、シミュレータのつもりで、気楽に行け。まず操縦機能のチェックを行え!」
「ハイ、教官。操縦機能チェックを行います」
 瀬川は答えて、動力をONにして、動力をペダルの操作を含めた定型のチェックシーケンスを行う。

「チェック完了。異常ありません。全操縦系正常です」
「よし、候補生、垂直上昇、秒速10mで高度1000mまでだ」
「はい!教官殿、垂直上昇、秒速10mで高度1000m了解しました」

 答えた瀬川は魔力でスクリーンに働きかけて、上昇開始、速度、高度を入力する。ふわりという感じでしでん1021は浮かび上がり、速い速度で上昇し始める。動いているのは感じるが、まったく重力変化は感じない。
「教官殿、高度1000mです」

「よし、候補生。機の姿勢を報告せよ」
「はい、教官殿、X・Y軸0度、Z軸90度、X軸方位角15度です」
 瀬川が答えるが、X軸は機の軸線、Y軸はX軸に対して機の水平面の90度の軸、Z軸はX軸の機の鉛直面の軸である。さらにX軸方位角は機首の方向で、北が0度で東方向に読むようになっている。

「よし、候補生。では、方位角18度、上昇角5度方向に加速度3Gで前進し、秒速1000mに達した後600秒間定速飛行せよ」
「はい、教官殿、方位角18度、上昇角5度方向に加速度1Gで前進し、秒速1000mに達した後600秒間定速飛行します」
 瀬川は復唱した通りに入力すると、機は方向を調整して9.8m/秒の加速を始める。わずか1分半後には定速に達し、秒速1㎞で角度5度の上昇を続ける。レーダーには同様に新田原飛行場から多くの練習機が、四方八方に散っているような形で遠ざかっているのが捉えられている。

「候補生、レーダーの検知内容を報告せよ」
 快晴の青い空を駆けている快感に浸っていた瀬川は、教官の声に我に返った。

「はい、教官殿。現在レーダーに捉えられている“しでん”練習機は68機であり、5機が上昇中です。そのほかに民間航空機が3機捉えられており、うち1機はジェットエンジン機で他は重力エンジン機です。しでん練習機の最も遠い機の距離は152㎞で高度は3万2300m、秒速1350mで遠ざかっています。最も近い機は、上昇中のもので距離32㎞、高度750m、秒速1020mで遠ざかっています」

「よろしい。十分だ。しばらく飛行を楽しみなさい」
「はい、教官殿。ありがとうございます」
 瀬川の初飛行は問題なく順調に終わったが、これは単に飛んできたというだけのものだった。しかし、2回目~5回目は急上昇、急降下、急旋回、背面飛行、シャッターは開けてスクリーンをOFFにした状態での飛行、シャッターを閉めてスクリーンをOFFの飛行など様々な訓練飛行が行われ、1回のフライトも2時間余になった。

 5回の訓練飛行の後、教官の会議が開かれた。
「諸君、このご苦労であった。それぞれ、担当訓練生の講評を行う。皆も知っての通り、この講評の結果を持って、単独飛行の訓練を許すかどうかを決めたい」
 山階2佐第2群教官長が口火を切って50名の教官を見つめる。

 現在行われている訓練によって、自衛隊としては半年以内に2万名のしでん搭乗員を養成しようと計画している。  
 訓練期間は2週間で、一定の飛行ができるようにしようというもので、その後は続々できてくる“しでん”による飛行で、実戦に耐えれれるようにしようということだ。

 したがって、如何に短時間で単独飛行に耐えられるようにするかが大きなポイントである。アンノ出現までの自衛隊の“しでん”保有数は予備機を入れて250機であったが、タンデムの練習機は別に50機あった。自衛隊はこの練習機を有効に使って、過去3年半パイロットを続々と増やしており、アンノ出現からはそれを加速していた。

 現時点で、一応教官を務めることにできるパイロットは1020人に達し、ほぼ全員の1000人がそれぞれ3人の練習生を受け持って、訓練を初めている。もし1週間で、訓練生に単独飛行を許すことができれば、月間1万2千人の訓練を行うことができるのだ。瀬川の教官の仁科の報告の順番になった。

「ええと、次は仁科2尉だな。君の訓練生は、女性の村上、男性の瀬川、女性の澄田だな。AIの判定では、皆問題ないようだが、中では瀬川が特に優秀、澄田がちょっと劣るというところがだが、君の評価を言ってくれ」
 山階2佐の言葉に仁科が応じる。

「はい、今まで聞いていると、ほとんどの訓練生の単独飛行は問題ないようですが、私の受け持った3人もその通りで、単独飛行は問題ないでしょう。澄田が劣るという判断のようですが、瀬川なんかと比べるとそうですが、劣ると言われる反応は人並みで、もう少し慣れるとそれなりのパイロットになりますよ。
 瀬川は、あれは天才でしょう。特に予備テストの結果にも出ていますが空間把握能力がすごい。その上にあの反射神経ですから。機動戦だとすでに私は敵いませんね」
 仁科の言葉に山階2佐が感心して言う。

「そうか。君がそこまで言うのだったら、これは楽しみだね。“しでん”の攻撃システムはミサイルがダメということだから、機関砲とレールガンしかない。どちらも肉薄して正確に相手に当てる必要がある。結局、パイロットの腕が非常に大きい比重を占める。天才級のパイロットというのは有難い。うん、時間もないから続けよう。では次は………」
 すべての訓練生150名について、講評が終わり、山階2佐が締めくくる。

「皆ありがとう。さて、結局5日の訓練で、1名を除いて単独飛行が可能ということになった。こういう言いかたは良くないかもしれないが、やはり重力エンジン機は操縦しやすいのだね。なにしろ、Gに耐える必要がないからな。それでいて、最大加速は10Gに達するし、最大速度は3万mの高さだったら、マッハ5だからね。
 さらにはマッハ2での航続距離は1万㎞に達する。あとは武装だな。今のところ、25㎜の機関砲1門に同じ径のレールガン2門だが、レールガンの威力はとんでもないが毎秒1発しか撃てない。まあ、このあたりの開発部門の奮闘に期待したいところだな。皆、ご苦労であった。引き続いて、訓練を続けてほしい」

 このように、単独飛行の許可を得た訓練生は、直ちに様々な基地に散って単独飛行での飛行訓練を行う。瀬川が配属されたのは、宮崎空港を半分仕切って自衛軍基地にした宮崎基地である。基地には、すでに予備10機を含めて130機の新品の“しでん”戦闘機が配備されており、整備班250名もすでに配置されている。

 この隊は宮崎戦闘隊と呼ばれ、隊長は三島亮介3佐であるが、ほかの自衛軍出身者は副隊長の崎田2尉である。この編成を見るように明らかに自衛軍出身者の人手が足りておらず、当面訓練中は訓練生の中から8機ずつの分隊長を選ぶことになっている。しかし、実戦に入ると、現在教官を務めているベテランが、各地の基地航空隊に配置されることになっている。
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