帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第14章 異世界との交流が始まった地球文明

14.2 ジムカクの動乱

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 アメリカ合衆国のアナザ基地は、地球同盟の管理になっており、事実上マダンを始め、サーダルタ帝国に至る有人異世界の窓口になっている。従って、地球から直接移転できる知的生物が住む、マダンの他のもう一つのジムカクでの血なまぐさい動乱の話はアナザ基地に持ち込まれた。

「ジムカクで騒乱というか、戦いが起きたと言うが、どういう状況か出来る限り詳しく教えてほしい」
 異世界外交局の局長、アラン・カーギルが聞く。聞かれているのはジムカクに派遣されていた、異世界外交局の職員であるミモザ・キャンプであるが、他に2人の異世界外交局の職員に、異世界派遣軍の司令官であるチャールス・ジラス大将とその秘書官がいる。

「ええ、サーダルタ帝国はすでに、ジムカクから引き揚げつつあり、その艦艇及び要員の大部分の引き上げが終わって、現地における様々な処理を任された僅かな要員しか残っていません。一方、ジムカクは大きさ的には地球に近く、陸地はほぼ5つの大陸に分かれて、総面積は全体の30%程度です」

 キャンプ女史が説明を始めるが、ジムカクでは5つの大陸の内の3つが一つの帝国に治められ、他の2つに統一国が成立している。その大陸3つを占める帝国であるザラムムは、サーダルタ帝国の支配下にあったが、人口12億で全陸地面積の60%をしめる、圧倒的な経済力と力を持っている。

 また、文明レベルも地球の20世紀後半程度のもので、すでに地球における家庭で使う電気機器レベルのものは実用化しており、さらに大洋を渡る船舶や航空機を実現して、自国内になっている3つの亜大陸では頻繁な交通を実現している。

 政治的には立憲民主制をとっているので、皇帝と言えども絶対権力を持つわけでなく、貴族院と衆議院の議員は選挙で選ばれている。軍はサーダルタ帝国に征服される前は、圧倒的な戦力をもち、他の2大陸の国では如何にしても敵わないレベルであった。

 このように安定した政権の下で、国民の生活は飢えることもなく様々な便利な機器に囲まれた豊かなものであった。このような帝国がなぜ他の2大陸を征服しなかったかというと、まず遠隔地であること、さらにあまりにもその国の民度が低くさらには狂暴であり、同じ国民にするには問題が多すぎるということになっている。

 その2つの大陸、ミモザラとカルバンは最も近いザラムム帝国のある大陸から5000km以上離れており、征服のための遠征にも相当な船腹が必要である。どちらも共和制をとっているが、完全な独裁制であり、支配者のノメラの称号を持つ者達が国民の生殺与奪の権を握っている。

 その上、支配者のノメラは人口の1割程度であるが、彼らはザラムム帝国の国民に勝る豊かな生活をして、平民であるミモザラ人は貧困にあえいでおり、その下に奴隷階級である被征服民であるカルバン人がいるという構図である。

 ミモザラ共和国の人口は3億人であるので、ノメラは約3千万人であるが、その成人男女はほとんど例外なく戦士として育てられている。言ってみれば、ノメラは日本における武士階級のようなものであるが、その下層の者達が極端に虐げられている点が異なる。

 その意味では、昔の朝鮮のヤンパンのようなものだろう。まさに、ヤンパンが道を歩いていて人を襲って金品を奪っても咎められなかったという話そのままである。また、実際に奴隷はおろか、平民にも乱暴を働くノメラは数多く、それも極めて残虐に相手を扱うということなので武人としての気品などは全くないようだ。

 また、人口の6割を占めるミモザラ人の平民は、その下に奴隷階級であるカリバン人がおり、彼らを虐めることでそのプライドを保っているという情けない状態である。これら、ノメラは選民思想が卓越しており、彼等ノメラは天から支配者たるべく運命づけられていると教え込まれる。

 従って、他を征服して従えるということは必然であり、その延長の中にミモザラ人の征服、さらには隣接してある亜大陸のカルバンを征服して、かれらを支配下に置いている。
 ミモザラ人の海岸に住んでいるものには航海術に優れているものがあり、彼らを使ってノメラはザラムム帝国の領土の亜大陸に渡り、比較的古くから様々な情報を集めてきている。それは、場合によっては技術者を攫うという手段を含んだものだった。

 その中で、ミモザラ共和国は近代的な鉄鉱生産、内燃機関、さらには近代兵器の技術も入手し、ザラムム帝国にそれほど劣らない兵器体系を構築している。その中には、5千㎞の距離を渡ることのできる船舶の技術も含まれ、それを使って、ザラムム帝国を攻略することはもはや既定路線であった。

 しかし、相手の兵力の強大さに慎重な準備が必要とさらに軍備を増強しているときに、サーダルタ帝国の侵攻が起きたのだ。さて、サーダルタ帝国の侵攻はザラムム帝国から始まった。それは当然であり、偵察の結果でも、ザラムム帝国の経済の発達は明らかであってその兵力も卓越している。しかし、火薬に頼る武器体系であり、航空機もプロペラ機のレベルであった。

 一方、当然ミモザラ共和国についても調べられた。こちらは、一部に豊かなものもいるようだが、全体として明らかに貧しく、武力のみはそれなりのレベルであるという認識になっている。だから、豊かなザラムム帝国から先に征服して、その後ゆっくり征服するという計画になっている。

 ザラムム帝国は、サーダルタ帝国の侵攻にまったくまったく歯が立たず、たちまち制空権を取られて、見せしめのための多少の爆撃で降伏した。この点はマダンと同じ状態であったが、ミモザラ共和国は違っていたらしい。
サーダルタ帝国は、同じように火薬を爆発させるという魔法を使い、相手の武器を無力化して、ミモザラ共和国の制空権をとったが、ノメラはめげなかった。

 それどころか、爆撃をされると平民や奴隷を駆り立てて多くの人々に被害が及ぶようにしたのだ。これは、サーダルタ帝国の爆撃が、人に極力被害を及ぼさないようにという点を逆手にとってのことだと思われる。 ガリヤーク機で戦闘員を地上で掃討しようとしても、戦闘員たるノメラは姿を隠して狙いようがない。さらに、やむをえずサーダルタ帝国兵が地上に降り立つと、刃物をもって襲い掛かってきて、少なからずの兵員が命を落とした。

 結局、サーダルタ帝国は労多くして益が少ないとみて、ミモザラ共和国についてはたまに哨戒飛行をして、兵器を見れば破壊するということで、事実上の封じ込めを行うことで満足した。一方で、ザラムム帝国には総督府をおいて、警察組織のみを残して軍備を破壊した。それが結局悲劇を招いたのだ。

 地球との協定に基づいて、サーダルタ帝国の総督府を解体して、総督府軍が少数を残して引きあげたのは2ヶ月前である。そこには、地球同盟異世界軍がサーダルタ帝国の引き上げ監視団として駐留していたが、その戦力は母艦“むさし”1隻にその艦載機である“しでん”の定数80機に“らいでん”は5機のみであった。

 それは、5日前のことである。
突如、ザラムム帝国領土の2番目に大きい大陸の最大の都市、ジュラムスから悲鳴が入ったのだ。それは、巨漢の逞しい戦士がジュラムスで暴れまわっているというのだ。急ぎ、しでんが1編隊8機が出発して母艦から座標を示されたジュラムスに向かう。

「ああ!ここはジュラムスの市役所前広場ですが、多数の死体だと思いますが、人の体が倒れており、辺りには血が大量に飛び散っています」
 編隊長の村田少尉がマイクに向かって叫ぶ。1時間ほどかけてジュラムスに向かった彼らは、座標の示す市役所前向かって高度を下げていった。そこには、多分100を越える体が横たわり、拡大してみたところでは、皆血を流しており、中には頭を半ば吹き飛ばされているものもいる。

「ああ、確かに死体のようだ、どういうことだ!」
 送られた映像を見た母艦からの応答だ。
「わかりません。それと、市役所の前だと思いますが、人が大勢、10人位立っています。中を向いていますが、何を見ているかわかりません。あ!一人が振りむいて走ってこちらに来ます。あ、倒れた!どうも中から何かで撃たれたようだ!」

 村田は一瞬戸惑っていたが、その場面の意味に気づいて怒りがこみあげてくる。
『あれは、人々は中から飛び道具を持っているものに脅されて動けないのだ。そして、一人が我慢できなくて逃げ出したところを撃ち殺したのだ。何という悪辣なことを!』

 彼は機の高度を落として、大きく開いた玄関の中を覗き込む。自動望遠の機能のため黒っぽい何かのスーツを着た男が、何かその腕に抱えて立っているのが見えるが、そのそばには同じような服の多分女性が一人いる。またその周りには少し距離をおいて、ザラムム帝国の普通の服を着た男女が数十人立ったり座ったりしている。

“しでん”から送られたその映像を見た、“むさし”艦長の山路美智子大佐は思わず言う。
「あれは、何だたっけ。ああ『ノメラ』ね。ミモザラ共和国のキチガイ兵士。ミモザラ共和国のエリートね。だけど、どうやって来たのかしら。レーダーでは監視していたのに」

「たしかに。船舶や飛行機で来たのではないでしょう。どのくらいの数かわかりませんが、数が少ない場合には意味がないし、占領するつもりであれば、少なくとも数千人の戦力が必要でしょう。でも彼らのあの戦術は厄介ですよ。
 人口が150万人のジュラムスの至るところにあの調子で彼らが展開していたら、そして市民を人質にしていたら手を出せません」

 異世界外交局の職員である、ミモザ・キャンプが言うのに、頷いて山路艦長が命じる。
「そうね、調べさせましょう。しでんE-3025、村田少尉、あなたの隊を分散させて、市の他の地区で同じことが起こっていないか確認してください」

「村田、了解! 各機聞いたか?市内に散って、状況を確認せよ。それぞれ報告のこと。また地上からの対空射撃に注意せよ。では分かれろ!」
 その結果は、明らかに最悪のものだった。
 市内のいたるところで同じように市民が虐殺されて、ノメラと思われる兵士に多数の人々が人質にされている。山路艦長とキャンプはザラムム帝国の連絡武官のずんぐりした濃い肌色のシモザ・ザイカスと協議をする。

「あれは、ミモザラ共和国の『ノメラ』という者達ですね?」
 山路艦長が聞くのに、ザイカスが答える。

「そうです。われわれのミモザラ共和国に関する情報は、我が国に潜伏していたミモザラの諜報員を寝返らせて国の情報を聞き出したのが殆ど唯一です。ずっと以前ですが、ミモザラ共和国に上陸した探検隊はほぼ全員が殺されています。
 とにかくあのノメラは狂暴で好んで人を殺すようです。そして勝つためにはどのような手段を使おうとも、勝てば正義であると教え込まれているようです。その典型的なやり方が、敵を捕らえて人質にするというもので、見せしめに殺して見せるべきということです。
 ですからやり方は彼らの典型的なものです。また、彼らの医学レベルは高くて、遺伝子レベルで操作をして優れた兵を作り出しているといいます。だから、今回どうやってジュラムスに来たのはなにかそれが関係あるのかもしれません」

「ふーん、ますます厄介だね。あなたの国では、人質の市民が殺されてもやむを得ないとは言えないでしょうね?」
 山路の言葉に顔色を悪くしてザイカスが答える。
「ええ、それで犠牲が少なくなるのだったら、やむを得ませんが、こうしたケースではその決断は難しいです」

「でも、それでは私たちは手を出せませんよ。結局大都市のジュラムスは残虐な彼らの占領下に入り、市民は奴隷になります。とは言え、私どもの地球でも人質の犠牲は無視して彼らを攻撃することはなかなかできないわね」
 山路も考え込み、やがて言う。

「彼らは、あのノメラが貴人で同じ大陸人の平民がいて、もう一つの大陸の人は奴隷なのね。かれらは、サーダルタ帝国が引き揚げたことをきっかけに、あなた方のザラムム帝国を支配しようとしているわけね。つまり、あなた方を奴隷にしようとしているわけだ」

「その通りだと思います。残念ながら、我が国は実質的にサーダルタ帝国から武装を解除されていますから、あなた方の助けなしには国を守れません」
 ザイカスの言葉に、今度はキャンプ女史が応じる。

「それは地球のドクトリンに明確に反します。わが地球同盟はノメラのその試みを阻止しなくてはなりませんし、サーダルタ帝国でさえ叩き返した我々にはそれは十分可能です」

「簡単に言ってくれるけど。確かに彼らのミモザラ共和国を壊滅させることは可能です。でもそうすれば制圧下の平民と奴隷も犠牲になります。それに、あのジュラムスを解放することは大変難しいわよ。ええい、しかたがないわね。事態がここに至ると一旦アナザ基地に帰って指示を本部の指示を仰いできます」

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