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第14章 異世界との交流が始まった地球文明
13.4 ジムカクの動乱3
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ポラサル・サキイ少将はあの“しでん”が出現する状況に顔をしかめた。ミモザラ共和国のザラムム帝国侵略軍の先行軍の司令官である彼には、亜大陸レガシピの首都になっているジュラムス市占領の役割りが当てられている。
ミモザラ共和国では、その選民思想に基づいて、この世界を征服して支配者たるのはノメラであると教え込まれていた。それは、ノメラにとっては至極当然の思想であり、そのために営々と努力することは当然のことであった。
しかし、最下層で奴隷であるカルバン人にとっては、迷惑千番の思想であって、そのための努力などとんでもないことである。だが、残念ながらその方向に従うしか他に術はなかった。一方、“平民に位置付けられているミモザラ人にとっては、なかなか複雑なものがあった。
彼らには、さらに下の階層カルバン人がいて、それに比べればましな生活はしているが、多くはようやく食べることに不自由はしないレベルである。カルバン人に対してはどのように扱ってもいいが、上位にあるノメラは絶対的な存在で、ノメラの最も貧しい者でも、その立場の差はおいても、一般のミモザラ人に比べれば贅沢三昧というものであった。
さらには、ミモザラ人の様々な技能を持っている者達はいわば亜ノメラであり、ノメラともおおむね対等な態度でつきあえる。しかし、彼らに対してもノメラが絶対的な権力を持つ点は違わない。
結局、7億の人口を持つミモザラ共和国であるが、その人材の内の概ね9割はノメラに奉仕するのみの存在である。そのような世界が、12億の人口を持ちそれぞれがその国に帰属意識を持つザラムム帝国に敵う訳はないのだが、ある意味そのことによる人権意識が弱みにもなっている。
サキイ少将の指揮下には、旅団1個7500人、第1大隊、続く第2・第3大隊が与えられており、それぞれ空間ゲートを通して、ジュラムス市に送り込み、その市民を人質に占領体制を確立することがその役割である。ミモザラ共和国は、ザラムム帝国を征服するために営々と努力を重ねてきた。帝国の征服軍(実は探検隊)を撃退して以来、その実態を調べるために多くの偵察員を帝国に送り込んで継続的に情報を集め、技術を盗み出してきた。
最初の接触の時点で、帝国の“征服軍”の軍備が明らかに自国のものに勝っていることを知って、共和国の最高指導者である総統が指導して海路から偵察隊を送り込んだのだ。その当時のミモザラ共和国の、蒸気機関と帆走を組み合わせた船では5千㎞を超える海を渡るのは困難であった。
しかし、支配下の海洋民族であったある地方のミモザラ平民の技術もあって、送り出した5隻のうち2隻が帝国の辺境にたどり着いた。それからは、その優れた偵察隊の指揮官による働きで、ザラムム帝国から技術を継続的に入手するシステムが完成した。
とは言え、これはすでに3つの亜大陸を統合した、ザラムム帝国にとって情報を秘匿する必要を感じなかったという点が大きい。そして優れた総統の指導は、それを実用化することで、軍事技術の改善に努め、軍事技術についてはむしろミモザラ共和国を凌ぐまでになっている。
ただそれは、人間への洗脳や遺伝子レベルの改造、自殺兵器の開発などただ効率と有効性のみを狙ったものになっている。そのために、ノメラも大いに努力したが、その支配下の平民と奴隷も大いに働かされ、さらにその体を“使われる”ことになった。
また、ザラムム帝国において花開いた民政への技術の波及は、ミモザラ共和国においては殆ど見られなかったために、平民以下の生活レベルの向上にはつながらなかった。そうしているうちに、ミモザラ共和国にとって世界征服の準備が整ったと判断する時が来た。しかし、その時にサーダルタ帝国の侵攻が起きたのであるが、その侵攻が無ければ、悲惨な戦争の末にミモザラ共和国の支配下に入った可能性も大きい。
その意味では、ジムカクの多くの人々にとっては、極めて過酷かつ残酷な征服者であるノメラでなく、『文明人』であるサーダルタ帝国に支配されたことは、むしろ幸せであったと後に言われたものである。
ちなみに、サーダルタ帝国は当然ミモザラ共和国も征服しようとしたが、その防衛手法はキチガイじみていた。まずは、『洗脳した』奴隷と平民の兵をして、全く降伏などをさせずに自殺攻撃させ、その間を縫ってノメラが攻撃する。さらに不利になると、平気で奴隷と平民を盾につかって自分たちは逃げ延びようとする。
サーダルタ帝国にとっては、相手を区別せずに全滅させることは容易であったが、すでに偵察の結果、被支配者が過酷な支配をされて、同情すべき立場でかつ明らかに知的生物であることは判っていた。その時点で、文明人の彼らに無差別に殺戮することは不可能であった。
また、ミモザラ共和国は、すでに支配下に置いたザラムム帝国に比べると圧倒的に貧しく、支配下に置くとむしろ重荷になる可能性が大きいと判断された。
さらには、やはり距離が大きいことから、ザラムム帝国には危険はないとされ、その支配下の2つの亜大陸に封じ込めるということになった。その後は、サーダルタ帝国によりレーダーで見張りがされて、ザラムム帝国には船舶・航空機の一切の接近が出来ないようになった。
事実その後、ミモザラ共和国からザラムム帝国への情報収集の船と航空機は撃沈・撃墜されている。共和国は潜水艦も持っているが、潜って5千㎞を航行できるものはなかったので、浮上時に発見されてやはり撃沈されている。こうして、ミモザラ共和国は孤立したが、かれらにはもう一つ開発している手段があった。
それは、奴隷種族のカリバン人に対して、人体実験を様々に試みる中で発見されたものである。その処方の一つで、脳の魔力を司る器官の手術と薬品の投与によって、様々な魔法を高度に使わせることが出来るようになっている。その中に空間魔法でゲートを形成して、空間を繋ぐことが出来る者が現れてきた。
ただその種の被検体は殆ど、自意識を失っていわば正気でなくなるが、電気ショックに伴っての命令には従う。その空間魔法は、距離にはあまり関係がないようであったが、目に見えないところでは送り先を合わせるのに苦労をしていた。だが、様々な試みの中で魔法による探査ができる者の念話による指示により、接続できるようになる地点を設定できるようになってきた。
こうして、領土内の隣の亜大陸までであれば、ゲートを繋ぐことができるようになったが、目標のザラムム帝国までの5千㎞までは探査を伸ばすことは困難であった。しかし、そのうちに脳への手術で魔力を増大させ、その魔力を他の者が使うことができるようになった。
このことで、ノメラの探査能力があるものが、3人以上の魔力を増大させた奴隷とゲートを開ける能力を持つ奴隷を使って、ついにミモザラからザラムム帝国へ移転できるようになった。さらに、3人程度は手で持てる程度の荷物を持って、連続してゲートを通って転移できるようになって、再度ザラムム帝国への偵察(スパイ活動)が始まった。
これは約50年前であるが、その前から年間に10回を越える、サーダルタ帝国による偵察・破壊活動を避けながら、主として地下で行われる武器の製造は続けられてきた。サーダルタ帝国による偵察・破壊活動とは、敵対的な共和国の軍備・技術の発達を防止するために、不定期にガリヤーク機によってミモザラ共和国を探査し、武装あるいは武装に転じる可能性のあるものを破壊するものである。
このなかで、彼らはあくまで征服のための兵器製造を続けてきた。それは、魔力による発火を防ぐ火薬であり、それを使った爆弾、銃器、火砲と航続距離の長い航空機、さらに多くの兵員が乗れる潜水艦である。その開発の中には、空間ゲートの改善も続けられ、全体で20人を越える能力者を集めて、魔力を蓄えた状態であれば、2時間程度の間に2500人の兵員を武器と共に転移させることができるようになった。
しかし、その量の転移を行うと担当していた奴隷とノメラは1日程度は魔力が回復するまで休む必要がある。
このため、サキイ少将は今のところ第1大隊2500人の兵しか転移できなかったのだ。しかし、当初の見込みではジュラムス市役所すなわち、市の中心部に送り込んだ、2500人の兵とある程度の重火器によって、実質的な同市の制圧は終わるとみていた。
なお彼らは、10㎞四方をを超える市域に展開するために、移動用のバイクを持ち込んで、基本的に2人乗りで移動している。ところが、すでに“しでん”という航空機が市の上空を飛び交っている。あれは、傍受していたテレビ放送によると、極めて飛行速度が速く強力な銃砲を持っているらしく、おそらく共和国が実用化している戦闘機では相手にならないだろう。
持ち込んだ機関砲であれば、当たれば撃墜できる可能性は高いが、残念ながら今のところ5基しか持ち込めていないし、あの3次元で自由自在の動きを見ていると、よほど運に恵まれないと撃墜はできないだろう。
その点は、サーダルタ帝国のガリヤーク機相手でも殆ど同じであったが、まだ地球という世界から持ち込んでいるあの“しでん”は、十分に戦力化できていないと見ていたのだ。さらに、“しでん”の搭乗訓練がすでに行われていることが、侵攻のタイミングが今しかないという判断になった。
「大隊の者はすでに十分な人質をとったか?」
ポラサル・サキイ少将は傍にいる副官のニマイ・カザイマ少佐に尋ねた。少佐は弁当箱位の通信機を肩から掛けて、盛んに各中隊に連絡をしている。
「はい、少将。1-1中隊、1-3中隊、1-5中隊の所属小隊は、ほぼ拠点を確保して各兵1名以上の人質を確保しています。しかし、1-2中隊の半数と1-4中隊の半数弱は未だ移動中で、人質を確保できていません」
少佐が答え、サキイ少将は応じる。
「ふむ、まだ確保できていない小隊には急ぐように伝えよ。各隊は威嚇に十分な数の者達を殺したな?」
「はい、十分でしょう。報告によれば殺した数は概数で2千人ですから」
「うむ。当面、敵はあのしでんという戦闘機のはずだ。地上戦闘員の投入は時間がかかるはずだ。そもそもこのジュラムス市には拳銃を持った警官しかいなかったからな。各中隊長には戦闘機に身をさらさないように伝えよ」
「はい、伝えます。あ!閣下“しでん”が降下してきます!音がしないから厄介です」
「おお!降下して来るな。我々も人質を盾にしよう」
少将は言いながら、副官と共に近くの建物にこもる1-1-3-2分隊に近寄る。8名の分隊員は椅子に腰かけ、銃をもってその周囲に座り込んでいる人質の男女を威嚇している。
その外の樹木に根本には、様々な方法で殺された人々が血まみれで積み上げられているために、辺りには濃い血の匂いがたち込めている。その人質は女・子供が大半で、その多くが恐怖にすすり泣いている。
“しでん”は彼らの方に近づいてくるが、多くの人質の存在を知ると何もできず上空を緩やかに旋回する。
『チャンスだ!』少将は思い、念話で近くの機関砲を任せている小隊長に命じる。
『あの上空の戦闘機を撃ち落とせ!』
『はい、撃墜します!』
喜びを含んだ念話の答えと共に、数瞬後左手の木陰から機関砲の轟音が鳴り響く。
撃たれることを警戒していなかったザラムム訓練生に操縦された“しでん”に、炸裂弾が続けて命中して、その底部に連続した爆発が起きた。さらに、1発が25mm高張力鋼板に開いた炸裂口から飛び込んで、重力エンジンの電磁装置を打ち砕いた。
機がたちまち浮力を失った結果、殆ど速度がなかった機は、石のように地面に落ちた。100mを越える高さから、概ね水平に落ちたしでんは地面に激しく叩きつけられて操縦士は失神した。彼は重症である。
一方で、機が破損によって機能を失ったことを知ったAIは、衝撃でその機能を失う前に、重力エンジンの心臓部を如何なる知識も収集できないように溶解するスイッチを入れる。バッテリーの短絡によって発生した熱は、数秒で重力エンジンを溶かして金属の塊にする。
その破壊された“しでん”を見て、サキイ少将と副官を含めた10名のノメラは喝采を上げるが、別の“しでん”が急接近するのを見て警戒する。しかしその“しでん”は、20人を越える人質を見て上空を通り過ぎるのみである。
それを狙って、再度機関砲が咆哮するが、そこにはくるりと信じられないほどの機動をおこなった“しでん”からレールガンが放たれる。
口径25mm秒速7㎞の赤熱した弾は、人質のいない機関砲のそばに着弾したが、その巨大な運動量によって土を熱に変えて爆発し、機関砲と2人の銃手を吹き飛ばす。
鍛えられた戦士であるノメラを、バラバラに吹き飛ばすそれを見たサキイ少将以下のノメラ達はりつ然とするが、少将は人質の有効さを尚も確信するのであった。
ミモザラ共和国では、その選民思想に基づいて、この世界を征服して支配者たるのはノメラであると教え込まれていた。それは、ノメラにとっては至極当然の思想であり、そのために営々と努力することは当然のことであった。
しかし、最下層で奴隷であるカルバン人にとっては、迷惑千番の思想であって、そのための努力などとんでもないことである。だが、残念ながらその方向に従うしか他に術はなかった。一方、“平民に位置付けられているミモザラ人にとっては、なかなか複雑なものがあった。
彼らには、さらに下の階層カルバン人がいて、それに比べればましな生活はしているが、多くはようやく食べることに不自由はしないレベルである。カルバン人に対してはどのように扱ってもいいが、上位にあるノメラは絶対的な存在で、ノメラの最も貧しい者でも、その立場の差はおいても、一般のミモザラ人に比べれば贅沢三昧というものであった。
さらには、ミモザラ人の様々な技能を持っている者達はいわば亜ノメラであり、ノメラともおおむね対等な態度でつきあえる。しかし、彼らに対してもノメラが絶対的な権力を持つ点は違わない。
結局、7億の人口を持つミモザラ共和国であるが、その人材の内の概ね9割はノメラに奉仕するのみの存在である。そのような世界が、12億の人口を持ちそれぞれがその国に帰属意識を持つザラムム帝国に敵う訳はないのだが、ある意味そのことによる人権意識が弱みにもなっている。
サキイ少将の指揮下には、旅団1個7500人、第1大隊、続く第2・第3大隊が与えられており、それぞれ空間ゲートを通して、ジュラムス市に送り込み、その市民を人質に占領体制を確立することがその役割である。ミモザラ共和国は、ザラムム帝国を征服するために営々と努力を重ねてきた。帝国の征服軍(実は探検隊)を撃退して以来、その実態を調べるために多くの偵察員を帝国に送り込んで継続的に情報を集め、技術を盗み出してきた。
最初の接触の時点で、帝国の“征服軍”の軍備が明らかに自国のものに勝っていることを知って、共和国の最高指導者である総統が指導して海路から偵察隊を送り込んだのだ。その当時のミモザラ共和国の、蒸気機関と帆走を組み合わせた船では5千㎞を超える海を渡るのは困難であった。
しかし、支配下の海洋民族であったある地方のミモザラ平民の技術もあって、送り出した5隻のうち2隻が帝国の辺境にたどり着いた。それからは、その優れた偵察隊の指揮官による働きで、ザラムム帝国から技術を継続的に入手するシステムが完成した。
とは言え、これはすでに3つの亜大陸を統合した、ザラムム帝国にとって情報を秘匿する必要を感じなかったという点が大きい。そして優れた総統の指導は、それを実用化することで、軍事技術の改善に努め、軍事技術についてはむしろミモザラ共和国を凌ぐまでになっている。
ただそれは、人間への洗脳や遺伝子レベルの改造、自殺兵器の開発などただ効率と有効性のみを狙ったものになっている。そのために、ノメラも大いに努力したが、その支配下の平民と奴隷も大いに働かされ、さらにその体を“使われる”ことになった。
また、ザラムム帝国において花開いた民政への技術の波及は、ミモザラ共和国においては殆ど見られなかったために、平民以下の生活レベルの向上にはつながらなかった。そうしているうちに、ミモザラ共和国にとって世界征服の準備が整ったと判断する時が来た。しかし、その時にサーダルタ帝国の侵攻が起きたのであるが、その侵攻が無ければ、悲惨な戦争の末にミモザラ共和国の支配下に入った可能性も大きい。
その意味では、ジムカクの多くの人々にとっては、極めて過酷かつ残酷な征服者であるノメラでなく、『文明人』であるサーダルタ帝国に支配されたことは、むしろ幸せであったと後に言われたものである。
ちなみに、サーダルタ帝国は当然ミモザラ共和国も征服しようとしたが、その防衛手法はキチガイじみていた。まずは、『洗脳した』奴隷と平民の兵をして、全く降伏などをさせずに自殺攻撃させ、その間を縫ってノメラが攻撃する。さらに不利になると、平気で奴隷と平民を盾につかって自分たちは逃げ延びようとする。
サーダルタ帝国にとっては、相手を区別せずに全滅させることは容易であったが、すでに偵察の結果、被支配者が過酷な支配をされて、同情すべき立場でかつ明らかに知的生物であることは判っていた。その時点で、文明人の彼らに無差別に殺戮することは不可能であった。
また、ミモザラ共和国は、すでに支配下に置いたザラムム帝国に比べると圧倒的に貧しく、支配下に置くとむしろ重荷になる可能性が大きいと判断された。
さらには、やはり距離が大きいことから、ザラムム帝国には危険はないとされ、その支配下の2つの亜大陸に封じ込めるということになった。その後は、サーダルタ帝国によりレーダーで見張りがされて、ザラムム帝国には船舶・航空機の一切の接近が出来ないようになった。
事実その後、ミモザラ共和国からザラムム帝国への情報収集の船と航空機は撃沈・撃墜されている。共和国は潜水艦も持っているが、潜って5千㎞を航行できるものはなかったので、浮上時に発見されてやはり撃沈されている。こうして、ミモザラ共和国は孤立したが、かれらにはもう一つ開発している手段があった。
それは、奴隷種族のカリバン人に対して、人体実験を様々に試みる中で発見されたものである。その処方の一つで、脳の魔力を司る器官の手術と薬品の投与によって、様々な魔法を高度に使わせることが出来るようになっている。その中に空間魔法でゲートを形成して、空間を繋ぐことが出来る者が現れてきた。
ただその種の被検体は殆ど、自意識を失っていわば正気でなくなるが、電気ショックに伴っての命令には従う。その空間魔法は、距離にはあまり関係がないようであったが、目に見えないところでは送り先を合わせるのに苦労をしていた。だが、様々な試みの中で魔法による探査ができる者の念話による指示により、接続できるようになる地点を設定できるようになってきた。
こうして、領土内の隣の亜大陸までであれば、ゲートを繋ぐことができるようになったが、目標のザラムム帝国までの5千㎞までは探査を伸ばすことは困難であった。しかし、そのうちに脳への手術で魔力を増大させ、その魔力を他の者が使うことができるようになった。
このことで、ノメラの探査能力があるものが、3人以上の魔力を増大させた奴隷とゲートを開ける能力を持つ奴隷を使って、ついにミモザラからザラムム帝国へ移転できるようになった。さらに、3人程度は手で持てる程度の荷物を持って、連続してゲートを通って転移できるようになって、再度ザラムム帝国への偵察(スパイ活動)が始まった。
これは約50年前であるが、その前から年間に10回を越える、サーダルタ帝国による偵察・破壊活動を避けながら、主として地下で行われる武器の製造は続けられてきた。サーダルタ帝国による偵察・破壊活動とは、敵対的な共和国の軍備・技術の発達を防止するために、不定期にガリヤーク機によってミモザラ共和国を探査し、武装あるいは武装に転じる可能性のあるものを破壊するものである。
このなかで、彼らはあくまで征服のための兵器製造を続けてきた。それは、魔力による発火を防ぐ火薬であり、それを使った爆弾、銃器、火砲と航続距離の長い航空機、さらに多くの兵員が乗れる潜水艦である。その開発の中には、空間ゲートの改善も続けられ、全体で20人を越える能力者を集めて、魔力を蓄えた状態であれば、2時間程度の間に2500人の兵員を武器と共に転移させることができるようになった。
しかし、その量の転移を行うと担当していた奴隷とノメラは1日程度は魔力が回復するまで休む必要がある。
このため、サキイ少将は今のところ第1大隊2500人の兵しか転移できなかったのだ。しかし、当初の見込みではジュラムス市役所すなわち、市の中心部に送り込んだ、2500人の兵とある程度の重火器によって、実質的な同市の制圧は終わるとみていた。
なお彼らは、10㎞四方をを超える市域に展開するために、移動用のバイクを持ち込んで、基本的に2人乗りで移動している。ところが、すでに“しでん”という航空機が市の上空を飛び交っている。あれは、傍受していたテレビ放送によると、極めて飛行速度が速く強力な銃砲を持っているらしく、おそらく共和国が実用化している戦闘機では相手にならないだろう。
持ち込んだ機関砲であれば、当たれば撃墜できる可能性は高いが、残念ながら今のところ5基しか持ち込めていないし、あの3次元で自由自在の動きを見ていると、よほど運に恵まれないと撃墜はできないだろう。
その点は、サーダルタ帝国のガリヤーク機相手でも殆ど同じであったが、まだ地球という世界から持ち込んでいるあの“しでん”は、十分に戦力化できていないと見ていたのだ。さらに、“しでん”の搭乗訓練がすでに行われていることが、侵攻のタイミングが今しかないという判断になった。
「大隊の者はすでに十分な人質をとったか?」
ポラサル・サキイ少将は傍にいる副官のニマイ・カザイマ少佐に尋ねた。少佐は弁当箱位の通信機を肩から掛けて、盛んに各中隊に連絡をしている。
「はい、少将。1-1中隊、1-3中隊、1-5中隊の所属小隊は、ほぼ拠点を確保して各兵1名以上の人質を確保しています。しかし、1-2中隊の半数と1-4中隊の半数弱は未だ移動中で、人質を確保できていません」
少佐が答え、サキイ少将は応じる。
「ふむ、まだ確保できていない小隊には急ぐように伝えよ。各隊は威嚇に十分な数の者達を殺したな?」
「はい、十分でしょう。報告によれば殺した数は概数で2千人ですから」
「うむ。当面、敵はあのしでんという戦闘機のはずだ。地上戦闘員の投入は時間がかかるはずだ。そもそもこのジュラムス市には拳銃を持った警官しかいなかったからな。各中隊長には戦闘機に身をさらさないように伝えよ」
「はい、伝えます。あ!閣下“しでん”が降下してきます!音がしないから厄介です」
「おお!降下して来るな。我々も人質を盾にしよう」
少将は言いながら、副官と共に近くの建物にこもる1-1-3-2分隊に近寄る。8名の分隊員は椅子に腰かけ、銃をもってその周囲に座り込んでいる人質の男女を威嚇している。
その外の樹木に根本には、様々な方法で殺された人々が血まみれで積み上げられているために、辺りには濃い血の匂いがたち込めている。その人質は女・子供が大半で、その多くが恐怖にすすり泣いている。
“しでん”は彼らの方に近づいてくるが、多くの人質の存在を知ると何もできず上空を緩やかに旋回する。
『チャンスだ!』少将は思い、念話で近くの機関砲を任せている小隊長に命じる。
『あの上空の戦闘機を撃ち落とせ!』
『はい、撃墜します!』
喜びを含んだ念話の答えと共に、数瞬後左手の木陰から機関砲の轟音が鳴り響く。
撃たれることを警戒していなかったザラムム訓練生に操縦された“しでん”に、炸裂弾が続けて命中して、その底部に連続した爆発が起きた。さらに、1発が25mm高張力鋼板に開いた炸裂口から飛び込んで、重力エンジンの電磁装置を打ち砕いた。
機がたちまち浮力を失った結果、殆ど速度がなかった機は、石のように地面に落ちた。100mを越える高さから、概ね水平に落ちたしでんは地面に激しく叩きつけられて操縦士は失神した。彼は重症である。
一方で、機が破損によって機能を失ったことを知ったAIは、衝撃でその機能を失う前に、重力エンジンの心臓部を如何なる知識も収集できないように溶解するスイッチを入れる。バッテリーの短絡によって発生した熱は、数秒で重力エンジンを溶かして金属の塊にする。
その破壊された“しでん”を見て、サキイ少将と副官を含めた10名のノメラは喝采を上げるが、別の“しでん”が急接近するのを見て警戒する。しかしその“しでん”は、20人を越える人質を見て上空を通り過ぎるのみである。
それを狙って、再度機関砲が咆哮するが、そこにはくるりと信じられないほどの機動をおこなった“しでん”からレールガンが放たれる。
口径25mm秒速7㎞の赤熱した弾は、人質のいない機関砲のそばに着弾したが、その巨大な運動量によって土を熱に変えて爆発し、機関砲と2人の銃手を吹き飛ばす。
鍛えられた戦士であるノメラを、バラバラに吹き飛ばすそれを見たサキイ少将以下のノメラ達はりつ然とするが、少将は人質の有効さを尚も確信するのであった。
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