日本列島、時震により転移す!

黄昏人

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第1章 時震発生

8.2023年5月.北海道、戦国日本の取り扱い

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「さて、今日は本土にある戦国日本をどうするのか、我々臨時政府と21世紀の日本国民はどう向き合うのかについて方向を出し、具体策を決めるための会議を行います。

 この件については皆さんもご存知のように議論が沸騰していまして、日本国内のみならず海外からも大きな関心を寄せられています。これは、今後の国としても方針の軸になることになります。また。一方で財政の面から極めて緊急度の高いので、精々あと1ヵ月位で決定し、走りだして不都合があれば修正していくという形で行きたいと思って います。
 そのため、骨格についてはすでに政府案がありますので、それをここで揉んで頂きたいと思っています。では、政府案を国土交通大臣兼本土開発担当大臣の上津圭太氏から説明してもらいます」

 司会の村木総務大臣が開会の挨拶の後に言う。
「はい、まずは現在の本土の状況を簡単に説明します。本土の状況は、12年続いた応仁の乱はがすでに起きて終わっており、首都たる京都は荒れ果てています。来年から『明応の政変』ということで、来年4月に守護大名で管領であった細川政元が、将軍足利義材の首を挿げ替えるという事件が起きています。

 応仁の乱も守護大名の細川、山内のまあ私闘でして、この後国内は乱れに乱れてその後約100年の戦国時代が続くわけです。そのことの問題は、全国が、ほぼ守護大名や極めて多数の国人領主の領土になっていて、実質的な権力を握っており、何をするにも彼らの同意が必要になります。

 だから、今後我々がこの戦国時代の日本を開発し、人々を啓蒙して21世紀の日本に適合させていくには、この状況というのは大きな障害になります。そして、その政権の中枢を成すはずの足利政権というのは、だいぶ前から権力が弱く、大きな守護大名をお互いに争わせることで自分の権力を守るという性格のものでした。

 そして、その後信長、秀吉、家康の時代を経て統一国家になるに当たっては、結局武力で他を従えてそれを成し遂げたのです。そうした武力による統合の動きのなかで、天皇家とそれを取り巻く公卿の存在もありましたが、その収入の根源の領土を武家に奪われて、結局は武家の争いの結果を追認するという存在でした。

 それに対して、我々には自衛隊があって、その隔絶した技術の差によって、種子島の鉄砲伝来以前のこの戦国時代の武力に対しては絶対的な優位にあります。ただ、残念ながらそのように絶対的な優位が故に、相手を撃ち負かして殺傷することは国民の皆さんも、そして世界も認めないでしょう。
  
 ですから、基本的には、これらの守護大名・国人領主に対して、我々が目論む開発に協力することが利益になることを納得させて、我々の要求を飲んでもらうことになります。その際には、天皇家の権威を使いたいと思っています。ご存知のように天皇家は現在の後土御門天皇陛下から、令和天皇迄真っすぐ繋がっています。

 ですから、現在の天皇陛下の下に公卿を宮内庁として組織して、その権威の下に新日本政府を形作っていきます。そこにおいて、今後統一国家として日本国を形成するには、長期的に見れば大名や国人領主の権威を認めるわけにはいきません。

 しかし、歴史をみればそれを直ちに強要すると、死にもの狂いの抵抗があると考えざるを得ません。ですから、各地に21世紀のモデル事業地を設け、そこに人々を引き寄せることで、武力による抵抗をなし崩しに無くすということを考えています。

 その際のモデル地区の建設に当たっては、それなりに強引に実施するしかないでしょうから、その際には多少の武力衝突もやむを得ないと思います。しかし自衛隊は、小銃を始めとして通常の殺傷性の兵器は、脅しのみに使い、対人は催涙弾または催眠弾などの非殺傷武器を使って、武器を持って迫ってくる相手であっても出来るだけ傷つけないようにしたいと考えています。ここまではよろしいでしょうか?」
 現職国会議員の上津は30人ほどの出席者とライブ放送のカメラを見つめる。

 そこに一人の女性委員の手が上がり質問と意見があった。
「非殺傷と言われますが、とっさに襲われた時などどうしても相手を傷つけ、殺すこともあるのではないでしょうか?そういう危険なことはやめた方が良いのではないのですか。実際、歴史を見ると戦国時代と言ってもその時代の百数十年に日本の人口は5割くらい増えています。それは、各領主が頑張った結果ですよ。我々が介入する必要はないのではないでしょうか」

 それに対して前川防衛大臣が答える。
「お答えします。今後人々が本土に行って活動する場合には、原則として自衛隊員が護衛につきます。その際には基本的には催涙弾、催眠弾も携行しますが、小銃・拳銃も持っております。そして、その役割は基本が護衛なので、襲ってきた相手でも出来るだけ殺傷は避けますが、護衛を果たす、そして自分を守ることが優先されます。
 元々そういう所に行かない方が良いという点は、上津大臣に答えてもらいます」

「はい、ご存知のように、北海道と沖縄の行政及び公共事業は多額の政府補助から成り立っていました。また民業としても、本土が消えた結果、廃業せざるを得ない企業も数多くあります。もちろん、本土にあって北海道と沖縄になく、生活に必要な産業はこちらで起こすべく準備しています。

 本土が消えた結果、当面のところ、たぶん20%程度は我々の生活は切り詰めなくてはならないでしょう。しかし、さっき言ったようなわけで何らかの新たな産業を確立できないと、長期的には我々の生活はさらに落ち込んでいきます。そして、現在の本土の人口は多分1千万人程度で、未開発地は際めて広大で、かつ非常に効率の悪い農業や産業がおこなわれています。

 さらには、日本は比較的鉱物資源に恵まれた国土ですが、現在はまだほとんど手つかずです。ですから、我々が21世紀のテクノロジーを駆使して現地の人と共に国土を開発していけば、この時代の人々も急速に豊かになれます。また、我々もその開発過程の経済の刺激の効果によって豊かさを失うことはないという計算になっています。

 このように、我々の都合で言えば、本土を出来るだけ早く開発することは、十分経済的な利益があるということは明らかです。そして、それは我々のみでなく、現在の本土に住む人々にも大きな利益があります。
 現在において、本土における同じ日本人の生活は、殆どの人が食べるので精いっぱいで、戦いに駆り出される肉親の安全心配をしなければなりません。そして、殆どの人が全く教育をうけることなく、世の中の事を知ることも死んでいくのです。彼らが、この21世紀の世界に現れた以上、彼らにこの世界の標準の生活を溶け込んでいくようにするのは我々の使命だと思いますよ」

 女性委員はその後も賛成ではないという趣旨の発言をしたが、他の委員の上津に対する賛成意見で黙ったところを見て、上津大臣が話を続ける。
「では、具体的な開発計画案を説明します。まず、朝廷に接触して皇室の権威の確立と宮内庁について合意を得ます。すでに、商人を通じて九条太政大臣に接触して感触を聞いていますが、経済的な支援と追わせて天皇陛下を象徴とする国家体制とするということには大賛成のようです。だから、この交渉の成果は楽観しています。

 そこで、列島開発計画への協力の命令書を朝廷から出して頂き、それを盾に開発を進めることにしています。具体的な開発は、まず列島を縦断して暫定片側1車線の道路を建設します。北海道は東北青森から京都までを担当して、沖縄の担当が鹿児島から京都までとします。

 この建設に概ね1年を見込んでいますが、京都との連絡はそれまで待っていられませんので、大阪にフェリーの発着所を作り、大阪から京都までは1ヵ月ほどで道路を整備します。なお、道路は最終的には片側2車線を見込んでいます。この道路の橋梁については鋼製の暫定橋で、トンネルはよほど短いもの以外は避けます。

 道路本体については、当面は時間を優先しますので、ブルで整地して締め固め、20cmほどの路盤の砕石の上に細かい砂利を敷き、瀝青材を噴霧して固めます。アスファルト合材の工場は沿線に準備できませんからね。
また、この道路に並行して鉄道を敷く予定にしていますが、これについては道路と違って余り勾配は取れませんので、トンネルが多くなるので概ね3年の工期を見込んでいます。

 それらの路線は物流の幹線であり、それに並行して、各地にフェリー乗降所を建設して、そこからモデル事業所への枝の道路も建設します。これらの道路は工期短縮のために、表面をセメント混合して改良し、ぬかるまないようにします。フェリー乗降所は、仙台、新潟、東京、静岡、津島、大阪、敦賀、広島、北九州、鹿児島に建設し、さっき言った中央幹線に繋ぎます。

 これらのフェリー発着所の付近に開発拠点として、全国にモデル事業所をを箇所建設します。これは概ね100~500haの農地と商店、学校、小規模工場から成ります。各々にはこちらの世界から100人~1000人を送り込んで配置しますし、防衛に自衛隊を20人から100人配置します。

 商店に置くものは、戦国前期のものとは次元が違うものですし、また農場の効率や作物の質は同様にけた違いですので、地元の人が来ればすぐに解るでしょう。そして、それが自分たちもそのモデル事業所に加われば買え、手に入ることが判れば、すぐに押し寄せてくるはずです。

 また、このようなモデル事業所の他に、豊富な鉱物資源を採取する鉱業については、商業ベースに乗るものについて早急に採掘にかかります。佐渡・鴻之舞・菱刈・串木野などの金銀、岩見・生野のなど銀、足尾・小坂・別子の銅山などですね。その実行に当たり、大きな問題になるのは通貨制度です。この点については佐川財務大臣から説明していただきます」

「佐川です。通貨については、この時代の日本は独自の通貨はなく、明の永楽通宝を使っていますので、流通量も少なく貨幣経済は限定的です。従って、日本の紙幣と貨幣による通貨制度を両方の世界で使うことになると思っています。
 そうなりますと、問題になるのはお互いの世界から買い物をする時に、必要な通貨を持っていないということです。我々は永楽通宝などを受け取っても仕方がないですからね。もちろん我々は、あの程度のものを作ろうとすれば本物以上のものを簡単にできますが、正当なものとは言えません。

 ただ、国人領主等との交渉において、やはり現地で使えるお金は絶対的に必要だと思います。だから、永楽通宝は一定量作っておき、そういう支払いに充てますが、日本円が完全に根付いてから回収します。
 ですから、今考えているのは、臨時政府の予算で戦国世界の人々に我々のお金を与えて、私達の世界で流通しているものを買って頂く。そのことを通じて、実際に使えることを認識してもらう訳です。そうすることによって、日本の紙幣を中心にして通貨制度が根付いていきます。

 具体的には朝廷には、予算としてお金を割り当てますし、公卿には給料の形でお支払いしますし、先ほど申し上げたモデル事業所に加わる人々には、加入金として一定金額を渡すことにしたいと思います。これは今後3年の分として5千億円もあれば済むと思いますから、開発の予算の中では大きなものではありません」
 このような説明と議論がさらに続いたが、臨時政府案は基本的な線で合意された。

    ー*-*-*-*-*-*-

「殿、夜打ちでござる。殿」聞こえた声に、佐渡本間家、本間忠一は、羽茂城の寝間で眠りから覚め、寝床からガバッと起きあがった。この時代布団などはなく、薄くわらの入った布の上でどてらを掛けて寝ていたのだ。しかし、不審だ。河原田とは争っているので見張りはたててはいたが、今頃夜打ちをかけてくるとは思えない。外はすこし白んでいるところを見ると、夜明けが近いのだろう。

 なにか、バリバリという音がして、「わあ!」という悲鳴が聞こえる。彼は刀掛けから2尺2寸の刀を取り、抜き放ってそれを持ち、そろそろと障子に向かって歩く。軽く走るような足音が聞こえ、何かの明るい光が近づいてくる。
「誰か!」
 叫んだ彼の眼の前に、明るい光を放つ何かを持った男が、何か棒のようなものを忠一に向けている。それが轟音とともに光を放ち、彼の体にドンドンと大きな衝撃そして苦痛がはしる。自分の体が倒れるのも判らず、彼の意識は途絶えた。

「こちら奥尻レーダー基地、皆川2等陸曹、佐渡が島に向けて、5隻の艦船が急行している。速力は25ノット、戦闘艦と思われる。すでにEEZに入っており、領海迄80マイル」

 千歳基地、第2航空団警戒部隊の八島圭太2尉は、奥尻島のレーダー基地からの突然の警報に、はっと眠けが吹っ飛んだ。
「こちら、第2航空団警戒隊の八島2等空尉だ。直ちにそれらの艦船に引き返すように警告せよ」

「は、了解!直ちに警告放送を行います」
 しかし、皆川の呼びかけに艦隊は一切応じない。八島は、その連絡と応答がないことを傍受して、待機していた2機のF15にスクランブル発進を命じた。

 緊急発進した、2R202号機の田川2尉は、基地からの誘導で佐渡沖に向かい自機のレーダーに艦隊を捕らえる。確かに、5隻の小型駆逐艦級の艦船で明らかに戦闘艦だ。田川は僚機の2R 205号機の水井3尉へ連絡の上で、高度を下げて、艦隊に警告をしながらその周囲を回る。
 あ!、レーダーでロックオンされたと慌てて機体をひねり高度を上げる彼であった。その状態を監視していた水井は、その一隻から火柱が立ったのを見て仰天した。

 何と、田川に向けてミサイルを放ったのだ。一発を撃ったということで更に打つ可能性があるし、交戦規定はクリヤーした。水井は直ちにその駆逐艦をロックオンして、抱いていた空対空ミサイル2発を撃った。
 スクランブルの待機をする場合には、当然機銃弾に加え空対空ミサイルを抱いている。水井の撃ったミサイルに向けて、対空砲による射撃はあったが、どう見ても精度は悪く、ミサイルは2発ともに命中した。戦闘機を撃ち落せるミサイルが遥かに大きく動きの遅い船を外す訳はない。

 ただ、艦船に対しての威力は限定的で、命中した艦は夜明けの少し暗い中に赤々と火災が起きているが、沈没するのには程遠い。田川の機はフレアーを撒くまでもなく機動で振り切ったようだから、ミサイルの性能は相当に低い。
その戦闘を受けて、北部航空団から艦隊に向けて、退避しないと全艦撃沈するとの警告放送が入った。艦隊がどのようにするか、2機のF15が見守る中で、それらは旋回して朝鮮半島に向けて舵を切った。

 そして、その時には、陸上自衛隊のアパッチヘリ5機が佐渡島に向かっていた。佐渡から、無線が発せられるのをキャッチしたのだ。そして、彼らは羽茂城において、12人の現地の武士が銃撃で惨殺されているのを発見した。
 それを受けて、さらに3時間後には輸送艦による100人の部隊を佐渡に送りまれて追い回した結果、12人のコマンドが海岸で自殺していたのを発見された。爆発で顔を潰しており、銃器、着ていた服共にどこの国とは特定はできなかった。

 しかし、5隻の艦隊は北朝鮮のハムンの港に入ったことが確認されているので、どの国が今回の侵攻を実施したのは見え見えであった。当然、臨時政府はアメリカ政府と共に強く非難し、その状況を世界に向けて公表した。

「何を考えているのか、あの連中は。たぶん反撃はしないと踏んだのだな。佐渡は金で有名だけど、通算78トンの金と2300トンの銀が取れた程度だ。国家の財政を動かすほどのものではない。しかも、それを採取しようとすると多分今のテクノロジーでも10年はかかる。
 そんな長く占領を続けることが出来ないくらいは解りそうなものだが。それにしても、銃に対して抵抗できない12名もの人を殺した徐は許せん。佐渡には早急にレーダー基地を建設するよ」
 前川防衛大臣は、古巣の自衛隊を訪ねて少し前までの仲間に言った。
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