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第1章 時震発生

9.1492年5月、在留外国人の動き

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 令和5年(1492年)5月10日、日本国政府の閣議が開かれている。ちなみに、暦年は前世界のままとして和暦は『令和』、西暦は外の世界のものを使うことに閣議決定して、正式に使っている。
 関官房長官は移転によって消えたために、副官房長官である宗田が官房長官に指名されて議事を進めている。

「さて、議事事項の3にありますように、次に海外に出て行った結果、消えてしまった日本籍の船舶や航空機、逆に日本にいた結果、残ってしまったそれらの取り扱いについて協議したいと思います。この件については、諌山国土交通大臣から説明してもらいます」

「はい、では説明させて頂きます。まず、航空機としては、我が国の旅客機182機が失われました。ただ、反対に外国籍旅客機の192機が、日本の空港に着陸していたか、日本の領空に居たために現在は日本の各空港に滞留しています。たまたま、同じ程度の数ですが、実際はもちろん外国籍の飛行機のほうがずっと日本への離発着数は多いのですが、その時に日本に着陸していたという数が申し上げた数字です。

 また、船舶については、日本の2300隻余りの商船隊の内1822隻が消えてしまいました。これらの多くは外国籍ではありますが、実際には我が国の資本が持っているものが多数です。また、逆に外国籍の船は、288隻が日本におりました。
 さて、消えてしまったものは、飛行機の場合には大部分の所有者のJALまたはANAなどが何らかの財務処理をすることになります。これについては、消えてしまった人や資産と同様に、国としても関わっていきます。
 また、飛行機の場合には外国への路線は飛行場が無ければ使えないわけで、海外に飛行場はないわけでしから、当分の間は活用できずに塩漬けにせざるを得ないでしょう。

 また、国内航空路線の飛行機は、北海道と沖縄関係で34機が消えてしまいました。しかし、その場所自体が500年前に跳んだと推定されていますから、現在の国内用機材で実際のところここしばらくの運用には問題はありません。だから、外国航路の航空機の大部分は、当分の間は負の資産ということになりますね。

 一方の船舶は、今後我が国が世界中で農業または資源開発をして、大量のものを持ち込むに当たって有効に利用できます。その多くが消えてしまったために、今後これを補うために大量の新造船が必要になります。
 その意味で、外国籍の船については、我々が使いたいわけです。これらの運用会社の出先は、大抵日本国内にありますが、所有者は別です。そして所有者の組織の大部分が消えてしまいました。この辺りは、各国の大使館とも折衝して我々が活用出来るようにしたいと思っています。
 それで、先ほど言った造船に関しては経済産業省と現在造船所の拡張とも合わせて協議中ですので、経産大臣にお願いします」

 諌山の言葉に応じて、城山経産大臣が話を続ける。
「ええ、造船に関しては、今後1年半程度の期間に、どうしても500万トンの船腹量の建造が必要という計算になっています。それに対して、我が国の昨年の造船量は180万トン程度でして、休眠している造船所を稼働しても年間250万トン程度という調査結果です。
 ただ、現在が非常事態宣言下ということ、さらに造船現場も相当にロボット化が進んでいることを考慮して、24時間体制の製造工程を組めば、要求の1年半で500万トンは可能だと踏んでいます」

 この件については、いくつかの質疑があって適当なところで、宗田が次の議題に移る。
「さて、次に4つめの議事に移ります。これは、様々な国籍の在留外国人から、日本の農場や資源開発とは別に、自分の国に帰って開発を行いたいということです。そして、ついては日本に援助を、という要求があるわけです。これについて、どう取り扱うべきかということを揉みたいと思います。では元山外務大臣お願いします」

「はい。これは開発とは言っても多くの場合には、それに合わせてアジアや中南米、アフリカなど、ヨーロッパの白人の国々から植民地化、あるいは侵略され、迫害、簒奪されたのでそれを防ぐためということですね。
 とは言え、中南米では白人系の人もいて少し複雑ですが、インディオの迫害を防止しようという人が多いですね。また、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどは、やはり国に帰って開発をして所有権を確かにしようということです。
 ヨーロッパの人々もやはり帰りたいという人々は多いのですが、これも結構複雑です。嘗ての誤りを正すという人もいれば、知識の優位性を生かしてより良い生活をしようという人もいます。

 それで、まずアメリカ合衆国ですが、前にここで揉んだように、彼らとはすでに基本的な合意はできています。つまり、在日米軍がいることもあって、彼らが再度アメリカ合衆国を作るのは認めざるを得ないだろうと。
 ただ、我が国のカルフォルニアの農場開発と、様々な資源開発を共同でやることは認めさせる。さらに原住のインディオの人権は認めて、共存するということです。

 またオーストラリアとニュージーランドですが、基本的には我々が農業・資源開発を行うことについては譲れないし、彼らの所有権は認めない。ただ、彼らが帰ってその一員として加わるのであれば、それは構わない。
この点は、アメリカも一緒ですが、そこに住んでいた原住の人々を迫害して彼らのテリトリーを奪ったわけですからね。ただ、アメリカは相手にするのが面倒な武力を持っているので、それなりに言うことを聞くということです。2重規範と言われてもこれは譲れません。

 それから、アジアや中南米、アフリカなどで、多かれ少なかれヨーロッパの被害にあってきた所の人々については3つに分けて考えています。まず、日本にも過去関係があって、今後もいろいろありそうな東アジアと東南アジア、次に石油の出る中東、さらに南米やアフリカなどあまり利害関係が生じにくいところです。そこまではよろしいですか?」

 元山の話に麻木財務大臣が憂鬱そうに言う。
「うーん、世界市場での競争がなくなった今、正直に言えば帰りたいものは帰ってもらいたいところだな。それにしても、彼らの言いたいことを聞いていたらきりがないよ。大体が彼らの母国はもうないのだから、力関係から言えば聞く必要はないのだよな。今の世界の常識から言えば無視だな。だた、その意味から言えば、アメリカは、軍事力を持っているし、まあ利害関係が多いからある程度言うことを聞くのが当然だな」

「でも、首相もおっしゃっていたように所有権を含む人権とかについては、今の我々の常識で行くべきじゃありませんか?大体そうでないと国民が納得しませんよ」
 環境大臣、堀場ひろ子が言う。

「まあ、いろんな話はあるようですが、白人の国家と白人主体の植民地については、すでに話はできていますので、ひとまず元山大臣が言われるように、3つの分類の話を聞きましょう」
 宗田長官が話を進めようとする。

「はい、最初にお話ししておきたいのは、外務省としては、外国籍の人々が自分の国に帰りた場合には、ある程度援助してでも、帰すべきだろうと考えています。これは、不満を持って日本に居てもらうよりは、長期的には良かろうということですね。
 また、その際に銃器については基本的に供与しませんし、作って持っていくことも許可しないものと考えています。現地で虐殺事件でも起こされたら、我々に責任なしとは言えませんからね。現地で作るのだったら、まあやむを得ないでしょうから、その材料・機材を持っていくのはしょうがないと考えています。

 ではまず東アジアですが、朝鮮・中国はすではっきりした国の形がありました。それと、韓国籍・中国籍ともに人数も多く経済力はそれなりですので、その気になれば我が国は助けなくても、それなりの人数と機材を持って帰れるでしょう。
 中国は首都が北京の明の時代、時は10代弘治帝で、この皇帝は中興の祖と呼ばれた賢帝だったようなので、それなりに安定していたと言うことです。だから、彼らが先進技術と機材を持っていけば、現地の政権に割に早く入り込んで、急速に発展するでしょうね。そもその中国な長く世界のスーパーパワーですから。

 朝鮮は李氏朝鮮の明に朝貢していた時代で、王にあまり権力がなくて、重臣が政権を振り回していたようです。ただ、今の王である政宋の時には、それなりに王権が発揮できていたようですね。李氏朝鮮というのは相当な専制政治だったようですから、韓国人が行っても活躍できるかなと言う懸念はありますね。
 ただ、中国にしても朝鮮にしても、帰ろうという人々は、多分現地政権を乗っ取るまでつもりではないでしょうかね。その場合は、うまくいけば、10年とか20年ですれば我が国に対するそれなり対抗勢力になり可能性もあります。とは言え、朝鮮は難しいかな。資源がないですからね。

 また、台湾については、台湾人が言い出して、我が国の食料供給に協力することになり、開発が実際に始まるところまできています。彼らは特別に友好的ですから、できたら建国を助けてやりたいですね。
 あと、ベトナムとフィリピンは、我が国への滞在の人数を多いのですが、経済力はないですね。だから、彼らが帰る時はある程度の支援は必要になるでしょう。ベトナムは明から独立した黎王朝時代なので、帰ればそれなりに活躍できるかもしれないですね。

 フィリピンはまだマゼランも来ていない時代ですが、マゼランと闘ったという王がいたようですから、ある程度の国はあったわけです。人口もまだ500百万はいないはずで、自分たちの国を設立するのは比較的やり易いのではないでしょうか。
 インドシナ半島ではこのころは、アユタヤ王朝が栄えており、クメール文明の一つのアンコール朝はもう没落しているところのはずです。タイ、カンボジア、マレーシア、ラオス、ミャンマーなどの人々は、纏まって帰るつもりのようですから、結構統一国を作るかもしれませんね。

 中東は石油がありますから、拘わらざるを得ません。当面の石油は、カリマンタン島を中心に開発に動いていますが、精々日本の需要の半分程度しか取れませんので、中東に向かうことになります。なにしろ、サウジのガワール油田一つで日本に需要を賄えますからね。
 これについては、すでに準備は始まっていますが、現地首長と交渉はするものの、同時進行で開発をすることになります。帝国主義的と言われても、日本の産業に必須なのでしょうがないということです。

 さらに、中南米やアフリカですが、まだ白人諸国の侵略は始まっていないので、我が国もそれまでには前世界と同じような虐殺や、奴隷化また収奪が起きないように協力するつもりです。ただ、中南米の国籍の人々の中には欧州からの侵略に干渉すべきでないという人々もいますが、明らかに侵略を防ぐという人々が優勢なので、そちらの方に行くことは間違いないと判断しています。

 さらに、この動きのなかでヨーロッパ・欧州の人々、とりわけスペイン人とポルトガル人が問題ですね。彼らはなかなか複雑なようで、彼らの先祖がやってきたことは、今の常識ではとんでもない事なのです。しかし、今の常識で歴史を裁くのはおかしいという者が多いのです。実際のところ、現在において弁護すればそういうしかないわけです。それについては、……」

 そこに阿山首相が口を挟む。
「我々のよう日本列島に居てこの世界に来たものは、21世紀の常識で生きている人間です。それは、ヨーロッパから来た人々も一緒です。散々人権ということを言い立てて、他を批判してきたわけですからね。そして、この15世紀末の世界は、恥ずかしく残虐なヨーロッパによる他の世界への侵略の前夜です。我々はその歴史を知っており、そして容易にその悲劇を止める力があります。

 もちろん、我々は加害者側になる予定であったヨーロッパの人々について、迫害するつもりはありません。こうした国々の人々が国に帰るというなら、我々の常識では恥ずかしく、おぞましいそのような行為をしないように、現時点での施政者に説得して欲しいと思っています。
 我々の論理はそういうことですが、よろしいでしょうか?」

 阿山首相の言葉に、出席者は深く頷く。それを見て阿山は尚も言葉を続ける。
「私も、それぞれの国民が自分の国に帰りたいという意向には、応じるべきだと思います。そして、彼らが21世紀の知識と経験を持ってそれぞれの国に帰り、そこをより良い世界にしていくことを期待しています。また、そのためには我が国もある程度の援助はしていくべきだと思っています。
 また、一方で彼らが現地で襲撃などされて、死傷する恐れの少ない場合には、武器を持たせるべきでないと思います。力があると、人はそれを使いたがります。しかし、21世紀の人々は資料と機材、材料があれば容易にこの時代の水準を超えた銃機を作り出せます。

 そして、それを使って、彼らが嘗てのスペインやポルトガル人のようなことをしない保証はありません。従って、我々はそれを監視して取り締まるためのパトロールをする必要があると思っています。それぞれの地域や国に散らばった人々が現地で工業基盤を作っていくとしても、我が日本は現時点において、知識、人材や産業基盤において絶対的なアドバンテージがあります。
 それは今後100年程度の期間においては変わることはないでしょう。だから、我々はその力を持ったことの責任を果たしていかなくてはならないと思います」

 阿山の言葉が終わると、麻木財務大臣兼副総理が口を開く。
「うーん。そうだね。今我々はこの世界の歴史を変える決定をしているところだ。前の世界におけるヨーロッパは、最初に銃器を作り出した。そして、それに並行して、大洋を渡ることのできる船、印刷術や様々な便利な器具を発明し実用化した。その結果、他の世界に行った時には、その力で10倍以上の彼らが言う蛮人を蹴散らして、世界を征服した訳だ。
 そして、そのヨーロッパ人と全く違う価値観を持った私達が、圧倒的な力を持ってこの世界に現れた。1492年という象徴的な時に着くようにね。この転移が起きたというのは、誰かの意図を感じざるを得ない」

 麻木は一旦言葉を切って、頭を振って続ける。
「10年後はどういう世界になっているかねえ。そして、100年後、また次の2021年は?全く違う世界だろうね。10年後は見ることが出来るな。楽しみだ」麻木が話し終わると、暫く沈黙が下りた。

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