日本列島、時震により転移す!

黄昏人

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第2章 過去の文明への干渉開始

26.1492年7月、スペイン2

「ふむ、フランコ、お前は530年の時を超えて日本という国がこの時代に来たと言っているわけだな。お前の文章は読んだし、『献上品』も確認した。確かにあれらの品物はこの欧州ではできまいが、そのような時を経なくても、この世のどこかではできる国があるかもしれん。とは言え、それは全く知らない世界ということで、500年後の世界ということと変わらぬ」

 フランコの挨拶に対して、まずイサベル女王が応じ、次いでフェルナンド王が言う。
「うむ、それでお前の文によると、このスペインに産業革命、つまり産業を完全に変革することを起こしたいというのだな。それは、農業の生産性を上げ、機械を使った工業という産業を起こすとか」

「はい、私の暮らしていた時代のスペインの人口は4700万人でしたが、今は800万から900万人でしょう。つまり私の時代には我が国は5倍以上の人口を抱えていますが、比べると今の時代よりずっと豊かな生活をしていました。
 そして、農業に関しては今と同じ面積の国土で食料の自給率は90%程度でした。つまり、5倍以上の人口でもこのスペインの地で殆どの食料を生産出来ていました。

 そして、その農業は国と生産高の10%以下にしか過ぎず、工業や商業などが他を占めていたのです。どうしてそういうことが起きたかと言えば、技術の発達によって人々の働きの効率が良くなったということです。そして、今回私の時代のスペインの国民を150人連れてきましたが、彼らはそのノウハウを知っています。
 もちろん、簡単にかつ短期間にはそのような効率を揚げるための仕組みと設備は準備できません。そのためには、人々を教育し訓練し、そして多大な投資をする必要があります。それでも、そうですね50年も経てばこのスペインの年間に生み出す富は5倍にはなるでしょう」

 フランコの言葉に暫く沈黙が落ちたが、考えを巡らせていたイサベル女王がやがて言う。
「うむ、確かにお前の献上した資料には、そのようなことが書いてあったな。しかし、お前が言う投資であるが、資料にあったような巨大な設備や工場を作るためには莫大な金が必要だ。ようやくこの国を、アラブの者どもから取り返した我王室にはそのような金はないぞ」
 流石に女王は本質を掴んでいる。

「はい、その点は私の任地であった日本が、産業革命のための投資に必要な借款の仕組みを作るということを約束しています。我が国もその借款を得れば良いのです」
 大使の言葉にフェルナンド王が反応する。

「日本が金を貸すと言うが、それは日本にとって何の得があるのだ?国が自らに得にならないことに金を貸すとは思えんが」

「はい、まずは、今の世界の国々で産業の効率を上げることは間違いなく成功します。これは我らの世界の歴史で証明されたことです。さらに、日本は現在孤独な存在なのです。彼らの社会はそのよって立つ技術基盤と考え方において、失礼ながら両王陛下のこの時代と500年の差があります。
 そして、彼らは自分たちと同じ価値観の国や地域がこの地球上のどこにも無い状態です。そういう意味で彼らが孤独であり、できるだけ早く価値観を共有する国や地域が欲しいということは、彼ら自身が言っていました。
 更には、国や地域は他の国や地域と交易によって、利益を挙げ、刺激を受ける必要があります。その意味で、その相手は出来るだけ価値観を共有できるほどの存在である必要があります」

 大使が答え、両王がその言葉を吟味しているのを見て大使は再度口を開く。
「その価値観ということで、両王陛下にお願いがあります」

 両王は再度大使に注目し、フェルナンド王が応じる。
「うむ、何じゃ?申せ」

「はい、失礼ながら、これをお読みください。これは両陛下が御後援を予定されている、クリストファー・コロンブス、彼はインドへの航路を見つけ、新天地を見つけると言っております。かれはインドではありませんが、新大陸を見つけます。そして、この冊子は彼のその新大陸における所業を述べたものです」

 大使は、王の横に立っている補佐官に薄い冊子を示す。両王が頷くのを確認してその若い補佐官は段から降り、冊子をとって両王に1部ずつ渡す。
 両王がある程度読み進め、顔をしかめるのを見ながらフランコ大使は話を始める。

「そこにありますように、コロンブスは確かに新大陸へ至る航路を開拓します。西回りで別の大陸に至ることを実証したということでは偉業と申して良いと思います。しかしながら、彼はその私欲のために、平和的に歓迎した現地のものから略奪、暴行、殺人を行い、そのために彼の振る舞いが新大陸におけるスペイン軍の見本になってしまいました。
 その彼及びその後継者の略奪の結果として、確かにスペインは金銀を手に入れて一時は栄えます。そして新大陸に領土を得ます。しかし、領土を得ても、金銀を求めて住民を迫害するのみで、その地の生産力を高めて豊かにしようという発想がなく、その利益は限定的なものでした。ですから、スペインの繁栄は長続きせず短期間に留まりました。それは、お渡しした資料に述べる歴史からも明らかであろうと思います。

 そして、そのために当然のことながら、わがスペイン、そして共同歩調をとっていたポルトガルは、新大陸の多くの有色人の国々から深く恨まれております。それに無理はなく、直接コロンブスが略奪・虐殺をして回ったカリブ海の島々を始め、大陸に渡ってもアステカ、マヤ、インカなどの国々を只ひたすら金銀を求めて攻めて滅ぼしてしまいました。

 その相手は、ほとんどが非武装で抗う術がなかった人々でありまして、コロンブスとその後継者が直接に殺した数のみで100万人を超えるのではないかと推察されています。そして、それだけではありません。ご存知のように、この欧州は100年以上前から黒死病に悩まされていますが、一面でそれに慣れて抵抗する力があります。

 一方で、コロンブスが渡ろうとする新大陸の人々は、そのような病気に対する抵抗力がなく、コロンブス一行が持ち込んだ病気によって、兵によって殺された数の多分1桁上の人数が死んでいます。まさに現地の人々からすれば、コロンブスの先導によって入り込んだ我々スペイン人は悪鬼そのものでしょう。私自身、この歴史は恥ずべきものと思っております」

 フランコ大使の重い言葉に、しばしの沈黙の後にフェルナンド王が応じる。
「うむ、我らもコロンブスには会ったが、たしかに油断ならぬ風貌であった。彼が事実ここに書いてあるようなことをしでかすとすれば論外じゃ。しかも、彼そして兵たちの幹部の私腹は肥やせたかも知れんが、国を大きく富ませるまでのことはない。
 とは言え、広大な領土は得るということ自体には大きな利点があると思うがの。黄金を求めて虐殺するということは論外であるが、多数の人力に広大な土地、そして資源は大きな魅力じゃ。コロンブスは外すとして、別の者にその新大陸に行かせればよいと思うがの。それに、その場合にはお前たちの乗って来た船で行けば容易に到達できよう。どうじゃ?」

「両王陛下、残念ながら、日本はその新大陸に私達の時代にその場所に住んでいた人々を送りだしています。従って、その地の者達は、すでにコロンブスの上陸後何が起きるか知っていると考えてよろしいと思います。しかも、彼らには日本の援助によって、武器が持たされています。
 その武器は私達の時代としては威力の大きなものではありませんが、今の我がスペインの兵が装備している物よりずっと優れています。また、いずれにせよ伝染病の問題があります。そのまま送り出せば、現地に疫病を撒きちらずことになります。

 それと、お渡しした資料にもあったと思いますが、コロンブスの艦隊は逆に現地から梅毒という性病を持ち帰って世界に広げました。いつかは新大陸に平和的な目的で行くことは良いと思いますが、こうした病気に対する備えをしてから行くべきです」

 大使の言葉にイサベル女王が反応する。
「まて、お前は黒死病などの死病は、対策・治療が出来ると申すのか?」

「はい、黒死病、つまりペストはもちろん、大部分の病気は原因が突き止められており、それぞれに薬があって殆ど予防または完治します。それは進歩した医学によって、我々がもたらすことのできる恩恵です。我々の時代では。赤子は殆ど死ぬことはなく、人々は若く病気で死ぬことも少ないので平均寿命は80歳程度になっています」

「お前たちは医者を伴っているか?私たちの息子である世継ぎのフアンはどうも体調が良くない。お前たちの医学が進んでいるとすれば、診てやって欲しいのだ」

 身を乗り出して言う女王の言葉に大使は応じる。確かに王太子は、19歳の若さで結核で亡くなっている。
「はい、医者は伴っておりますし、薬は出来るだけ持ってきました。王太子であられるフアン・デ・アラゴン・イ・カスティーリャ殿下に関しては、御病気は歴史に残っております。無論その治療は可能ですし、必要な健康法を実践されれば健やかにご成人なされます」

「おお!そうか、それは嬉しい」
 女王は晴れ晴れとした顔になって、夫に向き直って言う。

「王陛下、とりあえず、コロンブスの出航は止めさせましょう。そのように血にまみれた財宝などは欲しくはない。すでに投資した金については、内政で農業の改善やこのフランコの言う新たな工業などを始めることで、それの何倍も取り返せるでしょう」

「うむ、そうだの、確かに。コロンブスの件はとりあえず延期としておこう。それでは、お前たちの乗って来たという巨船を見に行こう。それにお前たちの言う500年進んだ様々なものを載せているわけだ。それが見られるのだな?」
 フェルナンド王が言うのに大使が応える。

「ええ、もちろんです。いつなりとも結構です。王太子殿下については一度医者にお診せしたいと思いますが、十分な診察は様々な診察の機械を備えている乗って来た船でしかできません。その点もお含みおきください」

「うむ、できるだけ早く予定を組むので、フアンの件はよろしく頼む」
 女王のその言葉に続き、様々な実務的な話、例えば今回帰国した人々の国内の視察の許可などの話を行った後に謁見が終わった。

 謁見後大使は、両王から国内視察の許可が出たという証書を役人に作らせ、すぐさまそれのコピーを取って、パロス港のホセ・ドミンゴ号へバイクで届けた。燃料は貴重なので、出来るだけ節約する必要があるため、ホセ・ドミンゴ号には小排気量のバイクと軽スポーツ車をそれぞれ100台と20台を持ち込んでいる。

 セベリアはカスティーリャ王国とアラゴン王国が合併してできたスペイン王国の首都であるが、今年正式にグラナダ王国を滅ぼして成立したものである。だから、まだ宮殿も仮であって、建築途中の建物が多い。
 大使一行はランド・クルーザー3台、トラック1台で鄙びた港街であるパロスから、18人が乗って人口7万のセベリアにやってきた。無論、馬車しかないところに21世紀の白いスマートなランド・クルーザーと、武骨な灰色のレッカー付きの4トントラックの車列は目立つ。

 パロスから、セルビアまで僅かに95kmの道であり、主要港から首都迄の主要道ということで、舗装はないなりに、それなりに整備はされている。とは言え、15世紀の道路なので一部の橋などかろうじて通過できたところもあるが、平均30㎞/時、3時間半で踏破した。この時代の人々では早馬で一日、通常2日は要する旅程である。

 この一行の噂はたちまち、街に広がり、謁見終了後は、国の様々な階層の人々が大使一行のところに押し寄せた。多くは一行が乗って来た『怪物』を見るためである。

 ちなみに、大使と一緒に来た18名の人々の内、大使館員は謁見の終わるのを待ったが、その他の真っ先に『母国』に帰ろうと目論むような連中が、セルビアまで来ておとなしくしているはずはない。13人はたちまち、街に散っていったが、この点はホセ・ドミンゴ号に残っていた船員以外の人々も一緒で、大使から届けられた両王の許可証をそれぞれがコピーしてたちまち散っていった。

 彼らの足は、基本的に50㏄のバイクと軽の4輪スポーツ車であり、学術研究と認められた者達は、スポーツ車である。バイクはリッター50㎞は走るので、10Lのタンクで500kmは走ることになるが、直線で750km以上あるイベリア半島横断は無理である。

 4輪車は40Lのタンクで600km程度走るが、この場合は1回給油分の燃料を持っていくことが認められている。だがバイクは危険なので、可燃の燃料を持っていくことは禁じられている。ただ、祖国復旧の戦争が終わったばかりで、まだ人々が穏やかとは言えず、山賊も出没する国土の単独行は危険である。従って、外出時には3人以上ということが義務つけられており、3人に1丁の拳銃の携帯が認められている。

 さて、仮宮殿で謁見を終えた大使の元に最初に現れたのは、5人の部下を引き連れた国軍司令官ホセ・ジョアン・ロドリゲス将軍である。実際はもっと早く使者が来ていたのだが、武器を見せろという要求を、大使館付きの武官であるウーブ・スクレ・ディアス中佐が、大使が帰るまで待たせていたのだ。

 ロドリゲス将軍は56歳、カスティーリャ王国の軍を統括してきた知将であり、長身で痩身の厳しい顔ながらもの静かな将官である。この時代のスペイン軍は間違いなく強い。それは、アラブによって祖国を占領されて800年をかけて奪還する戦いを続けてきたことから鍛えられたのである。

 確かに、新大陸において虐殺・強姦を繰り返した彼らの行為は非難されるべきであるが、原始的な銃を持っていたとしても、先住民の仕掛けてくるゲリラを寄せ付けず、正面戦で10倍以上の軍を楽々と破っている。戦慣れした軍が強いのは、日本の戦国後にタイのアユタヤの日本街に居た山田長政以下の日本人が、現地において無双の強さを発揮したのと似ている。ただ、はた迷惑ではあるが。

 大使は、将軍が15歳以下と見える少年を伴っていることに気づいた。将軍がその少年に対して親しみはあっても尊重する態度から、考えられるのはフアン王太子であり、その繊細な顔はイサベル女王に似ている。
 大使は、将軍に挨拶をして次いで、「フアン殿下であられますか?」と聞く。

「そうだ、余はフアン・デ・アラゴン・イ・カスティーリャ、スペイン王国王太子である」
「それは、初めてお目にかかります。先ほどまで両陛下に謁見をさせていただきました」
 フランコ大使は丁寧に挨拶をする。

 その後、ディアス中佐が小銃、拳銃、無反動砲を見せ、触らせて使い方を説明した。その後は、標的に向けて試射を行ったが、ロドリゲス将軍は、これらの武器の使用を訓練しそれらを装備した敵には絶対に敵わないことを理解した。

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