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第3章 時震後1年が経過した

64.地震暦5年(1497年)4月、世界情勢

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 時震暦5年4月、時震から5年経過した時点で、北海道に移住した日本人が155万人、沖縄に5万人、そして海外に移住した450万人である。海外の場合には、すでに独立国が存在した明やベトナム、インドや中東と欧州の国々がある。また、その他にこの間に新たにアメリカ共和国と、豪州共和国、南ア共和国、メキシコ共和国、フィリピン共和国、ブラジル共和国などが建国されている。

 このうちで豪州共和国、南ア共和国については日本人主体の国であり、他の新しい国々は日本にいたその地域の国籍の者達が中心になって建国したものである。これら新しい国々は、いずれも大航海時代に住民はいたが国としての存在が無く、欧州の白人に征服され彼らの国とされた地域である。
 
 日本は、そのこの時代においては巨大な人口の食糧の確保のために、豪州と北アメリカに巨大な農場を総力を挙げて超短期間で開発した。そして、石油・石炭などのエネルギー資源、鉄や様々な鉱物資源、さらに肥料鉱物のために世界中で大規模な開発を行ってきた。

 具体的には、石油は後世サウジアラビアとなった砂漠地帯において世界一のガワール油田を開発し、ここは実質的に支配者がいなかったのですでに日本領としている。石炭と鉄鉱石にボーキサイトは豪州、金と様々なレアメタルについては南ア共和国で開発して、これらはすでに日本人主体の独立国となっている。

 また、リン鉱石は保護領としたナウル島、塩化カリウムは今やアメリカ領となったカナダ地域で日本自ら鉱山を開発した。アメリカ共和国は、在日米軍の将兵が中心になって建国したが、ネイティブ住民が160万人もいたこともあって、10万人以下のアメリカ合衆国国籍のものではどうにもならなくなっている。

 だから、先述の、農場や塩化カリウム鉱山も運営は日本人が行っているし、共和国の各要所の管理メンバーに多くの日本人が加わっており、その数は45万人に達している。これらの日本人は、広大で肥沃かつ資源も豊かなこの国がいずれは世界一の富裕国となると見込んで乗り込んでいる。

 このように、これらの建国された国においては、当然21世紀の文明を植え付けることになるために、その教育を受けた者がそれなりの割合でいないと成り立たないことは明らかである。また、既存の王国などが存在する地域についても、その地域の出身者が日本に多く滞在していないと、21世紀の文明の取り込みができない、またはそのために長い期間を要することになる。

 この点では、70万人以上の在日の国民がいた明、50万人以上の朝鮮と42万人のベトナム、さらに28万人のフィリピン、22万人のブラジルは有利である。だから、当該地にめぼしい国のなかったフィリピンとブラジルは日本の援助の下で建国したのだ。

 中国と呼ばれる地域には、明というこの時点では世界でも最大の人口で最も文明化された国があり、すでに30万の中国籍の人々が帰国していて、彼らの努力もあって急速な近代化が進んでいる。そして、7千万の人口を抱えるこの国は、日本からの距離が近い事もあって、21世紀と同様に農産物の供給基地として期待されており、その生産の近代化に日本からの帰国者が活躍している。

 さらには、明はマンガンや様々なレアメタル等いくつかの重要な鉱物の資源があり、これらについては政府に後押しされた日本資本も入ってすでに開発済で供給を始めている。
 この時代で相対的には豊かな明は、どちらかと言えば侵略するよりされる方で侵略的な性向はない。また、欧州の白人に比べれば、世界中を征服して略奪し実質奴隷化するような真似はしていないし、周辺国に対しても朝貢によって文化を伝播するなど鷹揚な存在である。

 その意味で日本政府がいち早く明と国交樹立に向けて動いたのは、日本への資源・食糧の供給国の役割りを果たすこと、さらに数の多い在日中国人が共産主義を持ち込まないようにする予防的意味もあった。また、人口が世界でも圧倒的に多い中国が、近代化して豊かになって交易相手として、成長してくれることも願っている。

 だから、明政府も、日本からの帰国者の協力の下に、日本への資源・食料供給のみならず、自らの経済成長・近代化のために、経済成長5ヵ年を策定した。それは、圃場整備と灌漑設備の整備を中心とした農業の近代化の他に様々な道路、港湾、鉄道、空港、電力、水供給などインフラ整備に並行して、石油、石炭ガスなどのエネルギー開発、鉄など様々な金属資源の採取が含まれている。

 また、工業についても、民間主導で繊維・服飾、製鉄・製鋼、金属精錬、金属加工、石油精製、食品加工、化学産業に至るまでの工場が建設されている。このようなインフラ建設、工業が勃興すれば経済が廻るので商業も当然盛んになって、各地に近代的な商店街が建設されつつある。

 無論、広大な中国大陸で満遍なくこのような開発が進んでいるわけもなく、南京、北京、広州、杭州、開封など大きな都市の周辺に限られている。しかし、この明の動きは、距離の近さと多くの在日中国人の働きもあって、日本を市場に取り込みながら、日本製品の市場にもなっているために、国民全体が急速に豊かになっている。

 こうした明の動きに対して、騎馬民族もある程度は把握しており、その富を奪おうとする動きはあったが、ことごとく日本から帰国した宋将軍の率いる部隊の働きで蹴散らしてきた。中国王朝が、遊牧民に対してこのような優位を持ったのは初めてであり、内陸の彼らの領土に侵略して大きく領土を広げようとする意見も重臣から出された。

 それに対して10代皇帝である孝宗弘治帝が詰問した。
「それが、わが帝国にとって何の利点がある?答えて見よ」
「は、はい。なにより、わが明帝国そして皇帝陛下の御威光をあまねく知らしめるという効果があります」
 その重臣、高民琢が言うが、皇帝は反論する。

「確かに、正面から対抗する騎馬兵共を滅することは宋将軍の兵からすれば容易であろう。しかし、そのような領土を取るということは、その後その地を支配する必要がある。その場合に、治安を保つために、どれだけの軍が必要で、民を治めるためにどれだけの臣下が必要であるか考えたことがあるか?
 そして、遊牧の民は貧しい。そのように貧しい彼等から、投入する兵力・人員に対してどれだけのものが得られるか考えたことがあるか?」

 睨みつける皇帝の眼光に、高は全く言い返すことはできなかった。さらに、孝宗弘治帝は玉座から謁見の間にいる臣下にきっぱり言う。
「よいか、我ら7千万の民に中華の地は十分に広く、充分な資源に満たされている。よしんば、足りないものがあっても、日本を始め外から買えばよい。日本に比べれば、わが明はまだまだ貧しい。彼らの半分の豊かさになるだけでも、全ての民がどれほど豊かになることか。
 それに、貧しい遊牧民の地を奪い取り、彼らを支配しても豊かになるという面からは邪魔になるだけである。越南の地を回復するという者もおるが、同じことだ。唯一日本を征服できれば別であるが、宋将軍その可能性はあるか?」

「陛下、日本を征服するなど絵空事でございます。彼らの持つ兵器は、私どもが使っているものと本質的には同じものですが、その質と威力・量が違いすぎます。そして、そのような我が国に比べ圧倒的な強者の彼等ですが、彼らからわが明を征服しようという気はまったくありません。彼らは我が明を彼らの不足する物の供給源、彼らの作る物の売り先、つまり交易相手としたいのです」

「朕も宋将軍の言う通りだと思う。つまり、我らは日本から帰って来た者どもの知恵を使いながら、この中華の地においてすでに定めた5ヵ年計画にそって豊かになることに専念する。そして、充分に豊かになったら、周辺から膝を屈してくるであろう。その時は、日本と共にわが豊かさのための知恵を与えて、彼らを交易相手とすればよいのだ。よいか、これは我が明帝国の大方針である」

 日本から帰国者の宋中佐が抜擢されて、将軍となり帰国者を中心に直卒の機動遊撃軍を率いている。彼らは僅か2千の兵力で過去何回も遊牧民の襲撃を防ぎ蹴散らしてきた。その部隊には、歩兵は含まれず、すべてランクル改造の装甲車、または兵員輸送用のトラックで移動でき各員が自動小銃、手榴弾を装備している。

 最大火力は、小型ミサイル、無反動砲であるが、彼らの機動力は完全に騎馬を凌いでおり、最大1万5千人の騎馬兵の軍団を鎧袖一触で蹴散らした実績を持つ。もっともその時は長距離攻撃手段である、砲弾、ミサイル、重機関銃の弾が全て尽き、小銃で迎え撃つことを覚悟した時、相手が損害に耐えかねて引いたのだ。

 朝鮮については、明に朝貢している李氏朝鮮国があるが、明と違って資源も食料供給の面での限定的であることから、日本政府にとっても重要性が低く、閉鎖的なこの王朝にはあまり関わろうとはしていない。また、『在日』として長く日本に根を張っている韓国・朝鮮人は、比較的ニューカマーである中国人と違って、余り積極的に“帰国”して近代化開発に取り組もうとはしていない。

 それでも、在日の韓国系企業を中心に3万人ほどが、李氏朝鮮に帰国して日本から様々な製品を持ち込み、それを梃に近代化に取り組んでいる。だが、北朝鮮に似ていると言われる極めて強権的、教条的な支配体制のために苦労しているようで、漸く数件の道路・港湾等の世界開発銀行融資のプロジェクトが始まっている。

 ベトナムについては、幸運なことに黎朝最高の賢帝である5代皇帝聖宋が50歳台の最盛期であり、皇太子の憲宗も優れた施政者であった。そして、在日大使館が旗を振って、日本の援助のもとに20万人以上のベトナム国籍のものが帰国したのだ。彼らの努力で経済成長政策と国土開発計画が立ち上がり、世界開発銀行の融資の下に比較的順調な近代化と経済成長が進んでいる。

 フィリピンは沿岸部に交易集落があるが、全体としてはブルネイの緩やかな支配を受けており、スペインによる征服前夜の段階であった。これらの集落には海から接近できる点で輸送に有利であるため、そこに日本で働いていた人々が『帰国』して、日本から様々な製品を持ち込むことで早めに地歩を築くことができた。

 そして、内陸にも支配を広げ、2年前にフィリピン共和国を建国しているが、ベトナムと違い統治体系を一から作る必要があるためと、帰国者の人々が資本に乏しいためと国民性もあってか、10万人近い21世紀人が帰国しているものの、開発の進みは緩やかである。

 さて、実質的に日本人が建国した豪州共和国であるが、広大な耕作可能な領地と世界有数である鉄、石炭、ボーキサイト等の豊かな資源によって、どんどん日本人移住者を増やしており、すでにその人口は50万人の現住のパナ人、数万の帰国オーストラリア人を含めて350万人を数える。

 この数は、160万人のネイティブを加えても、総人口250万のアメリカ共和国を上まわり、21世紀人の日本人が300万人を占める豪州が人材の質では勝る。そして、時震直後日本へ穀物を供給するために超特急で開発された南東部の農業地帯によって小麦、大豆等の穀物を栽培して日本の需要の70%を賄っている。

 さらに西部沿岸のケアンズを中心にした石炭、北西部の鉄鉱山、南東端部のボーキサイトがほぼ100%日本の需要を満たしている。メルボルンの地に建設された南豪市は、厳密に言うと大陸の南東に位置するが、海洋性気候で過ごしやすいために首都として最大の人口となっており、すでに人口50万を超えている。

 ここには国内需要のための石油精製工場、繊維・服飾、製鉄・製鋼、金属精錬、金属加工などの工場も建設されているが、首都としての行政機能も持って、大規模な商店街も形成されている。これは、何と言っても現時点では一人当たりのGDPが500万円を超える日本人の購買力は突出ししており、彼らが集まる都市の商店街は規模が大きくなることによる。

 また、ケアンズの位置に建設された東豪市は石炭の積み出し港と亜熱帯性農業の中心であるが、人口は10万人を超えたところだ。鉄鉱山群からの鉄鉱の積出港として、北西端のポートヘッドランドの位置に建設された北豪市は、その重要性に比し熱帯という位置から人口は5万人に満たない。その他に、西部沿岸中央部シドニーの位置、南西部のパースの位置には良好な気候から多くの日本人々が住み着き、町を形成しつつある。

 なお、豪州はその広大さから、鉄道の敷設は限定的で、貨物は船舶と人は航空機の利用を主として考えられている。鉄道は北豪市から周辺鉄鉱山を結ぶ路線、東豪市から周辺石炭鉱山を結ぶ路線が実用化されたほかに、東部沿岸の南豪市から東豪市までが計画されて建設が始まった。

 21世紀においても、水に乏しい内陸部の開発はされていなかったために、豪州の都市は沿岸部に集中している。だから、各都市・集落には港湾が優先して整備され、貨物輸送は船舶の利用が主となっている。国際空港は、首都であり最大の都市の南豪市の他に東豪市、北豪市で完成し、それに加えて各地に10ヶ所以上の地方空港が建設され運用されている。

 無論道路も建設されており、西部沿岸縦貫道、東部沿岸縦貫道、南部沿岸縦貫道はすでに完成しているが、北部は熱帯雨林のために、なお2年を要するとされている。このような状況で、豪州共和国にはまだまだ大きなスペースがあり、今後とも日本人の流入が続くと予想されている。

 また、日本にとって重要な中東のアラビア第1油田であるが、産業が油田とその積み出しのみの存在であり、気候的には過酷な地であるために、日本人には魅力ある地ではない。このため、豪州のように独立国とせずに、日本領としている。

 その中心都市である石油積み出し港のサルワには、現在7万人が住んでいるが、日本人は3万人で残りは周辺中東諸国民であり、彼らの多くは労働者であるが、1万人余りは学生である。これは、日本がアラビアの地から石油という資源を収奪していることは間違いないため、将来において、禍根を呼ぶとの考えからである。

 このため、周辺中東諸国を世界への21世紀文明から置き去りにしてはならないという考えとなったのだ。そこで、サルワに労働者を引き寄せ、さらに若者を教育することで、地域全体の近代化を進めようということになったのだ。そこで、日本人のみならず、中東の若者を受け入れ小・中・高に大学教育を行う大規模な学校を建設することになった。

 現在でもすでに1万人が集められ、小・中・高課程の教育が始まっている。その入学者を集めるために、特別なチームが中東各所に出かけて行って、言葉が解らずとも行えるように工夫された図による知能試験を行って、それなりの知性を示したものを受け入れることにしている。この教育は基本的に無料である。

 それに加えて本領のサルワ付近に、中東をマーケットとする工業地帯を建設することになり、相当数の工場がすでに稼働している。日本政府は、これらの費用にすでに2兆円を投じているが、21世紀において原油を買うのに比べれば僅かな費用である。そして、それが将来中東においての日本への悪意を減じるために役立つことを念じているわけだ。

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