1 / 27
プロローグ
しおりを挟む
「――いくよっ!」
少女の元気の良い声と共に、体育館にピンポン玉の心地よい音が鳴り響く。
フォア深くへのかなりの速球。
少女の打ち込んだ鋭い一撃は、手を伸ばしても届きそうにない。
だけどここで負けるわけにはいかない!
俺は体勢を崩されながらもなんとかボールを打ち返す。
「余裕、余裕♪」
だが彼女はにやっと笑うと、今度はバック深くに打ち込んだ。
球威はより増していて、今度は取れそうにない。
「くそっ!」
俺はボールが落ちていくのを見送るしかなかった。
「……ありがとうございました」
ゲームセット。俺の負けだ。
頭を軽く下げて、試合終了の挨拶。
そして悔しさをぶちまけるようにそのまま床に倒れこむ。
「ふぅー」
床の冷たさがなんとも気持ちいい。
運動して火照った体がゆっくりと冷めていくのを感じる。
ずっとこのままでもいいとすら思ってしまうほどだ。
だがそんな俺を見下ろす影が一つ。
ふと見上げるとそこには対戦相手だった少女が立っていた。
「もーまるでおじさんみたいだよ」
「いいだろ、別に」
呆れたような少女の声に適当に返しつつ、視線を彼女に向ける。黒髪ボブに学校ジャージ。少し地味な恰好だが学年一の美少女と呼ばれるだけあって、そんな姿ですら可愛いとすら思ってしまう。
彼女の名前は朝倉寧々《あさくらねね》。可愛くて卓球の上手い女の子。
そんな彼女はどうしても俺に卓球をやらせたいようで
「ほらほら早く起き上がって。もう一回やろうよ」
「嫌だよ、もう3試合もやっただろ」
「卓球は何試合でも面白いよ」
ドヤ顔でサムズアップ。
それに対し俺は無言で答えるがまだ諦めてはくれない。
「………ス、スポーツの春って言うでしょ?」
「いや、それ秋な」
どんな理由だよ。
というかそんなので俺がやるとでも思っているのか。
「た、卓球やるとモテるらしいよ」
「俺今まで彼女できたことないけど」
「……」
「おい、なんで黙る? そしてなんで哀れむような目で俺を見てるの?」
「と、とにかく卓球は面白いんだよ」
こいつ、今明らかに無視しやがった。
……まああれ以上は俺がつらいからいいけど。
俺が追及してこないことに安心したのか、そのままプレゼンは続く。
「ドライブとか決まると気持ちいいでしょ?」
「……さっきから全部見事に返されてるんですが」
「サ、サーブとかだって」
「全部強打されます」
「もーそんなの屁理屈だよ! そういう競技なんだから!」
確かに屁理屈だけど間違ったことは言っていない。
圧倒的実力差がある相手とやる方が理不尽ってもんだ。
だが俺が否定すればするほど朝倉はどんどん意固地になっていき、
「卓球っ! 卓球!」
ついには地団駄を踏むように踊りだしてしまった。
…………小学生かよ。
「もう帰るわ」
付き合いきれなくなった俺はそそくさとラケットを片付る。
よしもう終わり。早く帰ってゲームをしよう。
俺には戦場で活躍するという任務があるのだ。
だがウキウキで体育館を後にしようとした俺を朝倉は引き留め、
「………どうしても駄目?」
捨てられた子犬みたいにとても悲しそうな声で俺に問いかけてくる。
さらには上目遣いのよくばりセット付。
反則だ。こんなの断れるはずがない。
「わかった、わかったよ。もう1セットだけな」
「本当? やったぁ!」
さっきまでの様子から一変、朝倉は満面の笑みを見せる。
ほんといい性格してるよな、こいつ。
でもこれも今に始まったことじゃない。
思えばあの時からそうだった。
「ほらほら、やるよー。サーブはあげるからさ」
「はいはい、アリガトウ」
「うわーすごい棒読みー」
当たり前だ、サーブ権なんて貰っても嬉しくない。
だが軽口を交えるのとは裏腹にお互いにラケットをを構えていた。
結局俺も朝倉を笑えないないほどの卓球バカなのだ。
自分でも呆れつつ、トスを上げる。
――その最中、俺はふと思い返していた。
すべての始まりとなったあの日のことを。
少女の元気の良い声と共に、体育館にピンポン玉の心地よい音が鳴り響く。
フォア深くへのかなりの速球。
少女の打ち込んだ鋭い一撃は、手を伸ばしても届きそうにない。
だけどここで負けるわけにはいかない!
俺は体勢を崩されながらもなんとかボールを打ち返す。
「余裕、余裕♪」
だが彼女はにやっと笑うと、今度はバック深くに打ち込んだ。
球威はより増していて、今度は取れそうにない。
「くそっ!」
俺はボールが落ちていくのを見送るしかなかった。
「……ありがとうございました」
ゲームセット。俺の負けだ。
頭を軽く下げて、試合終了の挨拶。
そして悔しさをぶちまけるようにそのまま床に倒れこむ。
「ふぅー」
床の冷たさがなんとも気持ちいい。
運動して火照った体がゆっくりと冷めていくのを感じる。
ずっとこのままでもいいとすら思ってしまうほどだ。
だがそんな俺を見下ろす影が一つ。
ふと見上げるとそこには対戦相手だった少女が立っていた。
「もーまるでおじさんみたいだよ」
「いいだろ、別に」
呆れたような少女の声に適当に返しつつ、視線を彼女に向ける。黒髪ボブに学校ジャージ。少し地味な恰好だが学年一の美少女と呼ばれるだけあって、そんな姿ですら可愛いとすら思ってしまう。
彼女の名前は朝倉寧々《あさくらねね》。可愛くて卓球の上手い女の子。
そんな彼女はどうしても俺に卓球をやらせたいようで
「ほらほら早く起き上がって。もう一回やろうよ」
「嫌だよ、もう3試合もやっただろ」
「卓球は何試合でも面白いよ」
ドヤ顔でサムズアップ。
それに対し俺は無言で答えるがまだ諦めてはくれない。
「………ス、スポーツの春って言うでしょ?」
「いや、それ秋な」
どんな理由だよ。
というかそんなので俺がやるとでも思っているのか。
「た、卓球やるとモテるらしいよ」
「俺今まで彼女できたことないけど」
「……」
「おい、なんで黙る? そしてなんで哀れむような目で俺を見てるの?」
「と、とにかく卓球は面白いんだよ」
こいつ、今明らかに無視しやがった。
……まああれ以上は俺がつらいからいいけど。
俺が追及してこないことに安心したのか、そのままプレゼンは続く。
「ドライブとか決まると気持ちいいでしょ?」
「……さっきから全部見事に返されてるんですが」
「サ、サーブとかだって」
「全部強打されます」
「もーそんなの屁理屈だよ! そういう競技なんだから!」
確かに屁理屈だけど間違ったことは言っていない。
圧倒的実力差がある相手とやる方が理不尽ってもんだ。
だが俺が否定すればするほど朝倉はどんどん意固地になっていき、
「卓球っ! 卓球!」
ついには地団駄を踏むように踊りだしてしまった。
…………小学生かよ。
「もう帰るわ」
付き合いきれなくなった俺はそそくさとラケットを片付る。
よしもう終わり。早く帰ってゲームをしよう。
俺には戦場で活躍するという任務があるのだ。
だがウキウキで体育館を後にしようとした俺を朝倉は引き留め、
「………どうしても駄目?」
捨てられた子犬みたいにとても悲しそうな声で俺に問いかけてくる。
さらには上目遣いのよくばりセット付。
反則だ。こんなの断れるはずがない。
「わかった、わかったよ。もう1セットだけな」
「本当? やったぁ!」
さっきまでの様子から一変、朝倉は満面の笑みを見せる。
ほんといい性格してるよな、こいつ。
でもこれも今に始まったことじゃない。
思えばあの時からそうだった。
「ほらほら、やるよー。サーブはあげるからさ」
「はいはい、アリガトウ」
「うわーすごい棒読みー」
当たり前だ、サーブ権なんて貰っても嬉しくない。
だが軽口を交えるのとは裏腹にお互いにラケットをを構えていた。
結局俺も朝倉を笑えないないほどの卓球バカなのだ。
自分でも呆れつつ、トスを上げる。
――その最中、俺はふと思い返していた。
すべての始まりとなったあの日のことを。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる