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プロローグ
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あちこちで石が崩れ落ち、荒廃した無人のコロシアム。寒風の吹き込むそこに二つの影があった。
「はぁ、はぁ……」
息を乱しながらも拳を構え相手を見据える白髪に紫の瞳の少女。彼女の目の前には真紅の長髪を高い位置で結った碧眼の美少女が、長剣を片手に私を見据えている。息を切らし、その豊かな胸を上下させながら、それでも彼女の闘気は減衰することなく周囲の空気を張り詰めさせる。
「次の一撃で決着だね、スカーレット」
「そうみたいね、あなたも随分と強くなったわね……リーリエ」
スカーレットの長剣が、真紅のオーラを纏う。リーリエの拳も応えるように白いオーラに包まれる。両者、深く息をはいて地を蹴る。
「せい、はぁ!!」
「ふん!!」
リーリエの拳が届くその二刻前に、緋色の軌跡が閃いた。
「また……私の負けかぁ」
「ふふ、そうね。211連敗になるかしら」
二人の姿はコロシアムから、暖炉によって暖められた一軒の家へと移っていた。窓の外では雪がちらつき、人々がせわしなく行き交っている。
「あなたと出会ってそろそろ8ヶ月、ほぼ毎日決闘をしてずっとわたくしの勝ち。確かにあなたも強くなりましたわ。出会ったばかりの頃のわたくしなら負けていたかもしれない。でも、あなたと闘い続けるうちにわたくしも成長しているということ、忘れないでくださいまし?」
「だよねぇ、スカーレットってば私の動きを予知してるもんね。攻撃がほぼ通らないもの」
「ですが、今回の動きはとても良かったわ。わたくしも今日は危うい勝利でしたもの」
「攻撃する位置、間合い、角度、速度、虚実……100点の一撃はせいぜい3回ってとこかなぁ」
時に百をも超す攻撃とその防御は、戦う者に非常に高い集中力を要求する。
「うぅ、次こそ勝って緋奈ちゃんとあんなことやこんなことを……ムフフ」
「気持ち悪い笑い方しながら皮算用をするくらいなら稽古でもしたらどう、百合恵? あと、本名で呼ばないこと」
「あはは、ついうっかり。ログインしてるのかしてないのか分からなくなってきちゃってさ」
表情をころころと変えながら、頬をかくリーリエにスカーレットは苦笑する。
「では、わたくしはログアウトするわね」
「あわわ、待ってよー。もっと一緒に居たいのぉ。ほら、今日の戦いの講評もまだもらってないし?」
「仕方のない娘ね。確かに今回はあなたのいう当身の五要素に適った攻撃によってかなりのダメージを受けたわ。ただ、虚実に関しては狙いすぎのきらいがあるわね。疲れるでしょう? それじゃあ長時間の戦闘に耐えないわ」
「あぅ……。確かに、目の前がちりちりするような感じになるの」
「それ、結構危ない症状だから気をつけなさいよね。じゃあ、もう落ちるわ。また明日、百合恵」
蒼白い光をともなって姿を消すスカーレットを見送ったリーリエもまた、暖炉のあるリビングから姿を消した。
画期的な技術によって誕生したVR世界、その黎明期はヘッドセットを装着し視界だけで体感したものだが、時が経ちやがて全身の感覚をVRに委ねる技術が生まれた。多くのスポーツがVR世界に旅立ち、主流化していった。そのスポーツの一つに、スポーツチャンバラがあった。
肉体、そして怪我という拘束から解き放たれたVRスポーツチャンバラは多くの近接武器、果ては徒手空拳までをも巻き込み、ヴァーチャルリアリティスポーツコンバット、通称VRSCまたはブルスクと呼ばれるようになり、この新たなスポーツは現代日本人が忘れつつあった闘争本能に火を点け、銃火器を主体とするVRFPSに並ぶ程の爆発的な人気を得た。
この物語はそんなブルスクが大人気な21世紀終盤の日本で出会った二人の少女のお話。特に大きな陰謀に巻き込まれるわけでもない、二人のゆりゆりっとしたようでそうでもない、日常のお話。
「はぁ、はぁ……」
息を乱しながらも拳を構え相手を見据える白髪に紫の瞳の少女。彼女の目の前には真紅の長髪を高い位置で結った碧眼の美少女が、長剣を片手に私を見据えている。息を切らし、その豊かな胸を上下させながら、それでも彼女の闘気は減衰することなく周囲の空気を張り詰めさせる。
「次の一撃で決着だね、スカーレット」
「そうみたいね、あなたも随分と強くなったわね……リーリエ」
スカーレットの長剣が、真紅のオーラを纏う。リーリエの拳も応えるように白いオーラに包まれる。両者、深く息をはいて地を蹴る。
「せい、はぁ!!」
「ふん!!」
リーリエの拳が届くその二刻前に、緋色の軌跡が閃いた。
「また……私の負けかぁ」
「ふふ、そうね。211連敗になるかしら」
二人の姿はコロシアムから、暖炉によって暖められた一軒の家へと移っていた。窓の外では雪がちらつき、人々がせわしなく行き交っている。
「あなたと出会ってそろそろ8ヶ月、ほぼ毎日決闘をしてずっとわたくしの勝ち。確かにあなたも強くなりましたわ。出会ったばかりの頃のわたくしなら負けていたかもしれない。でも、あなたと闘い続けるうちにわたくしも成長しているということ、忘れないでくださいまし?」
「だよねぇ、スカーレットってば私の動きを予知してるもんね。攻撃がほぼ通らないもの」
「ですが、今回の動きはとても良かったわ。わたくしも今日は危うい勝利でしたもの」
「攻撃する位置、間合い、角度、速度、虚実……100点の一撃はせいぜい3回ってとこかなぁ」
時に百をも超す攻撃とその防御は、戦う者に非常に高い集中力を要求する。
「うぅ、次こそ勝って緋奈ちゃんとあんなことやこんなことを……ムフフ」
「気持ち悪い笑い方しながら皮算用をするくらいなら稽古でもしたらどう、百合恵? あと、本名で呼ばないこと」
「あはは、ついうっかり。ログインしてるのかしてないのか分からなくなってきちゃってさ」
表情をころころと変えながら、頬をかくリーリエにスカーレットは苦笑する。
「では、わたくしはログアウトするわね」
「あわわ、待ってよー。もっと一緒に居たいのぉ。ほら、今日の戦いの講評もまだもらってないし?」
「仕方のない娘ね。確かに今回はあなたのいう当身の五要素に適った攻撃によってかなりのダメージを受けたわ。ただ、虚実に関しては狙いすぎのきらいがあるわね。疲れるでしょう? それじゃあ長時間の戦闘に耐えないわ」
「あぅ……。確かに、目の前がちりちりするような感じになるの」
「それ、結構危ない症状だから気をつけなさいよね。じゃあ、もう落ちるわ。また明日、百合恵」
蒼白い光をともなって姿を消すスカーレットを見送ったリーリエもまた、暖炉のあるリビングから姿を消した。
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