断罪のゆりかご ―冷徹なる処刑官アネットと終焉の王国―

楠富 つかさ

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第一章 断罪の剣

第三話 その剣に宿すもの

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 翌日、騎士団の訓練場には、昨日とは打って変わって穏やかな陽光が差し込んでいた。ティナは昨日の一件で顔にわずかな憔悴の色を残していたが、その瞳の奥には揺るがぬ剣への情熱が宿っていた。

「アネット様、どうか……稽古をつけてくださいませんか」

 一等爵家の娘であるアネットの地位は高い。四等爵家に生まれたティナは騎士団入団当初からアネットに憧れていた。十歳から五年間、騎士学校で学んできたティナは優れた剣士であり、実技の優秀者として将来を嘱望された逸材――だった
 ティナの剣技は正確で型の通りであった。それでいて冴えや速さは一流であったため、学生同士で競い合えば常に彼女が勝利した。だが、お手本のように上品な剣技は実戦では通用しない。
 成人して騎士学校を卒業後、三年間でいくつかの部隊を歴任したが、真剣での斬り合いに対する恐怖は克服できず、さりとてアネットへの憧れを捨てることもできず、処刑人部隊に着任したのが半年ほど前であった。罪人の死をすぐ目の前で見て、心を麻痺させる。そんな道を選んだ。

「いいだろう、構えろ」

 アネットもまた、剣の腕前についてはティナのことを認めている。自らの稽古相手として不足はない、と。ただその一方で、戦場を知らない世代の剣であることへの諦念もあった。

「来い」

 アネットの短い号令と共に、ティナが疾駆する。彼女は流れるような動作で木剣を繰り出す。その一撃は速く、正確で、騎士学校での輝かしい成績が伊達ではないことを物語っていた。アネットはそれを最小限の動きでいなし、ティナの剣を受け流す。
 ティナの攻撃は止まらない。連撃、突き、払い。多彩な技が繰り出されるが、アネットはそのすべてを冷静に見切る。まるで、ティナの動きが事前に分かっているかのように、寸分違わず木剣がぶつかり合う音が響く。

「もっと踏み込め」

 アネットが淡々とした声で指示を出す。ティナの動きには、確かに迷いが見られた。実戦の恐怖が、彼女の剣の冴えを鈍らせている。稽古だと分かっていても、どうしても一歩が踏み出せない。
 ティナは歯を食いしばり、渾身の力を込めて木剣を振るう。その剣はアネットの木剣を弾き、胴を狙って一直線に伸びた。しかし、アネットは半歩退くだけでそれをかわし、次の瞬間にはティナの懐に飛び込んでいた。ティナが反応する間もなく、アネットの木剣が彼女の首筋にピタリと当てられる。

「終わりだ」

 アネットの静かな声が響き、稽古は終わった。ティナは息を弾ませながら、悔しそうに肩を落とす。

「……まだまだ、です」
「お前の剣には殺意が足りない。剣とは畢竟、人殺しの道具に過ぎない。剣術を純粋に楽しむのは結構だが、それなら町で道場でも開けばいい」

 アネットはそう言い残し、木剣を脇に抱えて訓練場を後にする。ティナは、その背中をじっと見つめていた。アネットの言葉は、ティナの胸に深く突き刺さった。剣の腕前はあっても、その心を支配する恐怖を乗り越えなければ、真の騎士にはなれない。

「わたしは……貴女になりたい……」

 何にも恐怖することなく自らを貫き職務を全うする、そんな凛々しい姿にティナは焦がれていた。もしアネットに出会わなければ、きっと彼女の言う通り剣術道場を営む誰かに嫁入りし共に道場を盛り立てていただろう、そんな雑念を振り払おうと、ティナは熱心に素振りを繰り返すのだった。全ては騎士として処刑人として、目指す姿に近づくために。
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