13 / 14
第13話
しおりを挟む
冒険者としての日々も充実しているが、こうして宿でのお仕事を手伝っているとアルバイトという感覚がしてそれはそれで楽しい。
私とリーシアさんがお世話になっている森の恵み亭は、宿ではあるんだけど日中や夜間には食堂として冒険者やフェクチェー住民のお腹を満たしている。
「いらっしゃいませー。こちらのお席にどうぞ」
食事にやってきたお客さんを席に通して、木製のカップに私のスキルで注いだ冷えた水を提供する。
お湯のために火の魔石片を使うように、氷属性の魔石を使えば水や食材を冷たく維持することができるけど、この辺りには氷属性の魔石を落とす魔物がいないので貴重品。そこで私が冷えた水を提供すればお客さんも喜ぶというわけだ。
「シズクさんこれお願いします」
宿の看板娘でもあるユミルさんから料理を受け取ってお客さんのもとへ持っていく。宿の料理は毎日おまかせ一本コース。今日はおいしいと評判のパンとチリコンカンみたいな豆料理と、ちょっとよく分からない葉野菜のサラダだ。冒険者は稼げるようになるまで時間がかかるので、そういった駆け出しでもお腹いっぱい食べられるように安くて多い料理を心がけているそうだ。
「本日のおまかせです」
「おう、嬢ちゃんありがとな。なぁ、今夜この宿で世話になるからよ、夜の世話も頼めないか?」
私が料理を出したお客さんはいかいも冒険者っていう感じのガラの悪そうな男の人で、にやにやした顔で私の身体をなめるように見てくる。いきなりのことで何も言えない私を助けてくれたのはユミルさんだった。
「だめだめお客さん。この子は手伝ってくれている冒険者なんだから。そういうのはちゃんと色町に行ってよね」
「フェクチェーにんなもんねぇだろうがよぉ。嬢ちゃんでもいいんだぜ」
「お客さん……私、すっごく高いんだよ?」
ユミルさんがハンドサインを出すと、客の男が顔をしかめる。
「っけ、足元みやがって。くぅ、冷えた水に免じて勘弁してやるよ」
「うん。それがいい。ほら、シズクさんも行くよ」
そういって男から離れるユミルさんについていくように私も厨房に戻る。ちょっと、気になってしまうのだけれど……。
「ユミルさん、お金さえあれば、その……するの? お世話」
「軽蔑した? ごめんね、安宿の娘にとっては当たり前のことだから。妹はまだそういうことしてないから、もし嫌だったら今度から妹経由でも――」
日本とは、違う。ここは異世界で……ユミルさんにとっては妹たちを守るために、必要なことなんだ。
「ううん、ユミルさんはユミルさんだから。これまで通りでいてほしい、な」
「ありがとう、シズクさん。シズクさんは……心から愛する人と、そういうことができるよう、祈ってるね」
この世界でそういう人と出会えるかは分からないけれど、私はユミルさんの綺麗な心に頷いた。
私とリーシアさんがお世話になっている森の恵み亭は、宿ではあるんだけど日中や夜間には食堂として冒険者やフェクチェー住民のお腹を満たしている。
「いらっしゃいませー。こちらのお席にどうぞ」
食事にやってきたお客さんを席に通して、木製のカップに私のスキルで注いだ冷えた水を提供する。
お湯のために火の魔石片を使うように、氷属性の魔石を使えば水や食材を冷たく維持することができるけど、この辺りには氷属性の魔石を落とす魔物がいないので貴重品。そこで私が冷えた水を提供すればお客さんも喜ぶというわけだ。
「シズクさんこれお願いします」
宿の看板娘でもあるユミルさんから料理を受け取ってお客さんのもとへ持っていく。宿の料理は毎日おまかせ一本コース。今日はおいしいと評判のパンとチリコンカンみたいな豆料理と、ちょっとよく分からない葉野菜のサラダだ。冒険者は稼げるようになるまで時間がかかるので、そういった駆け出しでもお腹いっぱい食べられるように安くて多い料理を心がけているそうだ。
「本日のおまかせです」
「おう、嬢ちゃんありがとな。なぁ、今夜この宿で世話になるからよ、夜の世話も頼めないか?」
私が料理を出したお客さんはいかいも冒険者っていう感じのガラの悪そうな男の人で、にやにやした顔で私の身体をなめるように見てくる。いきなりのことで何も言えない私を助けてくれたのはユミルさんだった。
「だめだめお客さん。この子は手伝ってくれている冒険者なんだから。そういうのはちゃんと色町に行ってよね」
「フェクチェーにんなもんねぇだろうがよぉ。嬢ちゃんでもいいんだぜ」
「お客さん……私、すっごく高いんだよ?」
ユミルさんがハンドサインを出すと、客の男が顔をしかめる。
「っけ、足元みやがって。くぅ、冷えた水に免じて勘弁してやるよ」
「うん。それがいい。ほら、シズクさんも行くよ」
そういって男から離れるユミルさんについていくように私も厨房に戻る。ちょっと、気になってしまうのだけれど……。
「ユミルさん、お金さえあれば、その……するの? お世話」
「軽蔑した? ごめんね、安宿の娘にとっては当たり前のことだから。妹はまだそういうことしてないから、もし嫌だったら今度から妹経由でも――」
日本とは、違う。ここは異世界で……ユミルさんにとっては妹たちを守るために、必要なことなんだ。
「ううん、ユミルさんはユミルさんだから。これまで通りでいてほしい、な」
「ありがとう、シズクさん。シズクさんは……心から愛する人と、そういうことができるよう、祈ってるね」
この世界でそういう人と出会えるかは分からないけれど、私はユミルさんの綺麗な心に頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える
遊鷹太
ファンタジー
安全を無視したコスト削減に反対した結果、
家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。
降格先の倉庫で事故に巻き込まれ、彼が辿り着いたのは――魔法がすべてを決める異世界だった。
この世界では、魔法は一人一つが常識。
そんな中で恒一が与えられたのは、
元の世界の“家電”しか召喚できない外れ魔法〈異界家電召喚〉。
戦えない。派手じゃない。評価もされない。
だが、召喚した家電に応じて発現する魔法は、
戦闘ではなく「生き延びるための正しい使い方」に特化していた。
保存、浄化、環境制御――
誰も見向きもしなかった力は、やがて人々の生活と命を静かに支え始める。
理解されず、切り捨てられてきた男が選ぶのは、
英雄になることではない。
事故を起こさず、仲間を死なせず、
“必要とされる仕事”を積み上げること。
これは、
才能ではなく使い方で世界を変える男の、
静かな成り上がりの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる