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第10話
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ギルドでの登録を終えた私とリーシアさんは、そのまま掲示板の前へと向かった。壁一面に貼られた依頼書の数々。中には「討伐」や「護衛」といった、いかにも冒険者らしい依頼もあるけれど、それらはほとんどが高ランク冒険者専用だ。
「シズク、ここだ。七級の依頼はこの区画だよ」
リーシアさんが指差す先には、他と比べて一段低い位置に掲示された、地味な依頼書たち。内容を眺めると、「清掃」「荷物運び」「配達」など、街のなんでも屋さんのような仕事がずらりと並んでいた。
「冒険者って、意外と地道な仕事が多いんですね……」
「まあ、七級はそういうものさ。依頼主に信頼されてランクが上がれば、少しずつ冒険者らしい仕事も回ってくるようになる。だから最初は地道に実績を積むんだ」
そうなんだ、と頷きながら、掲示板を一つひとつ見ていく。すると、ひときわ目立たない小さな依頼書が目に留まった。
『水汲みのお願い
井戸まで行って水を汲み、自宅まで運んでください。
報酬:小銅貨5枚』
「これなんかどうだ?」
「水汲みですか?」
「簡単そうだし、最初の依頼にはもってこいだろう。報酬も悪くない」
たしかに、難しそうではない。最初の依頼としては気が楽だ。私はその依頼書を手に取ると、受付のほうへと向かった。
「こちらの依頼を受けるのですね。では、受領いたしまた。頑張ってくださいね」
受付で依頼を受けた後、私たちは依頼主のおばさんがいるという場所に向かった。ギルドを出てしばらく歩くと、平屋造りの家が並ぶ静かな住宅街にたどり着く。目当ての家の門にはツル植物が絡まり、古いけれど手入れが行き届いた庭が印象的だ。
「ここが今回の依頼主の家だ。リッカおばさんはよく冒険者に頼み事をしているから、顔を覚えておくといい」
リーシアさんがドアをノックすると、すぐに中から明るい声が返ってきた。
「はーい、どちらさま?」
ドアを開けたのは小柄なご婦人だった。髪は少し白髪混じりで、おそらく五十代後半くらいだろうか。柔和な笑顔が印象的だ。
「あら、リーシアじゃない! 今日はどうしたの?」
「新しい冒険者を連れてきたんだ。この子が今回の水汲みの依頼を引き受けるよ」
「まぁまぁ、それは助かるわ。さっそくお願いしたいところなんだけど……」
リッカさんは私に視線を向けると、「初めましてね」とにこやかに挨拶してくれた。
「初めまして、シズクです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げると、リッカさんは嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあお願いね。裏庭の大きな水瓶が空っぽなのよ。あれをいっぱいにしてほしいの。昔は自分で汲んでたんだけど、最近は腰が痛くてねぇ」
リッカさんに案内されて裏庭に向かうと、確かに大きな陶器の水瓶が置かれていた。人の腰ほどの高さがあり、容量もかなりのものだ。
「井戸は……いや、シズクなら水を出せるんだよな」
リーシアさんがそう言って目を向けてくる。私は頷いて、さっそく水瓶の前に立った。
「じゃあ、やってみますね」
手をかざして集中すると、水瓶の中に勢いよく水が流れ込んでいく。水面がみるみる上昇し、あっという間にいっぱいになった。
「まぁ、すごい!」
リッカさんが手を打って喜んでいる。自分では大したことをしていない気がするけれど、こうして喜ばれるとなんだか嬉しい。
「これで大丈夫ですか?」
「ええ、これで十分よ。本当に助かったわ。ちょっと待っててね、はいこれ。達成の証明書よ。これをギルドに持っていくのよ」
リッカさんは懐から書類を取り出し、私に手渡した。なるほど、依頼人から直接報酬をもらうのではなく、ギルドに報告した上で支払われる形式なんだね。
「ありがとうございます!」
深々とお辞儀をすると、リッカさんは「またお願いするかもしれないわね」と微笑みながら家の中に戻っていった。
「どうだ、初仕事の感想は?」
リーシアさんがからかうような声で問いかけてくる。
「えっと……簡単だったけど、ちょっと緊張しました。でも、喜んでもらえて良かったです」
「そうだな。冒険者の仕事ってのはなにも危険な戦いばかりじゃない。こういう地道な依頼も大事だ。シズクの能力はこういう仕事にも向いてるし、これからも役に立てる場面は多いだろうよ」
リーシアさんの言葉に私は頷く。冒険者といえば魔物を倒したり、危険なダンジョンに挑んだりするイメージだったけれど、こういう日常の中での助け合いもまた冒険者の仕事なのだ。
「よし、今日はこれでギルドに報告して、少し休もう。明日からも頑張れるようにな」
「はい!」
私は初めての報酬をぎゅっと握りしめながら、リーシアさんと一緒にリッカさんの家を後にした。冒険者としての一歩を踏み出した実感がじんわりと胸に広がっていくのを感じていた。
「あら、お早いお帰りですね」
ギルドに戻り、依頼の報告書を手渡すと受付嬢の方はにこりと笑って小銅貨5枚を手渡してくれた。
「達成、おめでとうございます」
「ありがとうございます。えへへ、初めての報酬……」
もらった小銅貨がなんだかずっしりと感じられた。
「どうする? 急ぎの依頼でなければ明日やりたい仕事を見ていくか?」
リーシアさんに提案され、明日できる仕事がないか、再び七級冒険者用の看板を見やる。やっぱり力仕事や家事、あと子守りみたいなお仕事もある。でも出来ればもう少し冒険者らしい仕事を……。
「あ、これがいいかもしれないです。畑の見張り兼水やり」
やっぱりファンタジー感は弱いけど、水を生み出す力は生かせそうだ。それに、見張り仕事ということもあって、他にも何人かの冒険者と一緒に行動するらしい。いつまでもリーシアさんに頼りっぱなしというわけにもいかない。これは自立のための一歩だ。
「うん、いいと思うよ。私は級もあって参加できないから、他の冒険者と協力してね」
「分かった。頑張るよ」
お仕事は明日の朝から。ひとまず受付で受諾だけ済ませて、私たちは宿に戻ることにした。
「シズク、ここだ。七級の依頼はこの区画だよ」
リーシアさんが指差す先には、他と比べて一段低い位置に掲示された、地味な依頼書たち。内容を眺めると、「清掃」「荷物運び」「配達」など、街のなんでも屋さんのような仕事がずらりと並んでいた。
「冒険者って、意外と地道な仕事が多いんですね……」
「まあ、七級はそういうものさ。依頼主に信頼されてランクが上がれば、少しずつ冒険者らしい仕事も回ってくるようになる。だから最初は地道に実績を積むんだ」
そうなんだ、と頷きながら、掲示板を一つひとつ見ていく。すると、ひときわ目立たない小さな依頼書が目に留まった。
『水汲みのお願い
井戸まで行って水を汲み、自宅まで運んでください。
報酬:小銅貨5枚』
「これなんかどうだ?」
「水汲みですか?」
「簡単そうだし、最初の依頼にはもってこいだろう。報酬も悪くない」
たしかに、難しそうではない。最初の依頼としては気が楽だ。私はその依頼書を手に取ると、受付のほうへと向かった。
「こちらの依頼を受けるのですね。では、受領いたしまた。頑張ってくださいね」
受付で依頼を受けた後、私たちは依頼主のおばさんがいるという場所に向かった。ギルドを出てしばらく歩くと、平屋造りの家が並ぶ静かな住宅街にたどり着く。目当ての家の門にはツル植物が絡まり、古いけれど手入れが行き届いた庭が印象的だ。
「ここが今回の依頼主の家だ。リッカおばさんはよく冒険者に頼み事をしているから、顔を覚えておくといい」
リーシアさんがドアをノックすると、すぐに中から明るい声が返ってきた。
「はーい、どちらさま?」
ドアを開けたのは小柄なご婦人だった。髪は少し白髪混じりで、おそらく五十代後半くらいだろうか。柔和な笑顔が印象的だ。
「あら、リーシアじゃない! 今日はどうしたの?」
「新しい冒険者を連れてきたんだ。この子が今回の水汲みの依頼を引き受けるよ」
「まぁまぁ、それは助かるわ。さっそくお願いしたいところなんだけど……」
リッカさんは私に視線を向けると、「初めましてね」とにこやかに挨拶してくれた。
「初めまして、シズクです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げると、リッカさんは嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあお願いね。裏庭の大きな水瓶が空っぽなのよ。あれをいっぱいにしてほしいの。昔は自分で汲んでたんだけど、最近は腰が痛くてねぇ」
リッカさんに案内されて裏庭に向かうと、確かに大きな陶器の水瓶が置かれていた。人の腰ほどの高さがあり、容量もかなりのものだ。
「井戸は……いや、シズクなら水を出せるんだよな」
リーシアさんがそう言って目を向けてくる。私は頷いて、さっそく水瓶の前に立った。
「じゃあ、やってみますね」
手をかざして集中すると、水瓶の中に勢いよく水が流れ込んでいく。水面がみるみる上昇し、あっという間にいっぱいになった。
「まぁ、すごい!」
リッカさんが手を打って喜んでいる。自分では大したことをしていない気がするけれど、こうして喜ばれるとなんだか嬉しい。
「これで大丈夫ですか?」
「ええ、これで十分よ。本当に助かったわ。ちょっと待っててね、はいこれ。達成の証明書よ。これをギルドに持っていくのよ」
リッカさんは懐から書類を取り出し、私に手渡した。なるほど、依頼人から直接報酬をもらうのではなく、ギルドに報告した上で支払われる形式なんだね。
「ありがとうございます!」
深々とお辞儀をすると、リッカさんは「またお願いするかもしれないわね」と微笑みながら家の中に戻っていった。
「どうだ、初仕事の感想は?」
リーシアさんがからかうような声で問いかけてくる。
「えっと……簡単だったけど、ちょっと緊張しました。でも、喜んでもらえて良かったです」
「そうだな。冒険者の仕事ってのはなにも危険な戦いばかりじゃない。こういう地道な依頼も大事だ。シズクの能力はこういう仕事にも向いてるし、これからも役に立てる場面は多いだろうよ」
リーシアさんの言葉に私は頷く。冒険者といえば魔物を倒したり、危険なダンジョンに挑んだりするイメージだったけれど、こういう日常の中での助け合いもまた冒険者の仕事なのだ。
「よし、今日はこれでギルドに報告して、少し休もう。明日からも頑張れるようにな」
「はい!」
私は初めての報酬をぎゅっと握りしめながら、リーシアさんと一緒にリッカさんの家を後にした。冒険者としての一歩を踏み出した実感がじんわりと胸に広がっていくのを感じていた。
「あら、お早いお帰りですね」
ギルドに戻り、依頼の報告書を手渡すと受付嬢の方はにこりと笑って小銅貨5枚を手渡してくれた。
「達成、おめでとうございます」
「ありがとうございます。えへへ、初めての報酬……」
もらった小銅貨がなんだかずっしりと感じられた。
「どうする? 急ぎの依頼でなければ明日やりたい仕事を見ていくか?」
リーシアさんに提案され、明日できる仕事がないか、再び七級冒険者用の看板を見やる。やっぱり力仕事や家事、あと子守りみたいなお仕事もある。でも出来ればもう少し冒険者らしい仕事を……。
「あ、これがいいかもしれないです。畑の見張り兼水やり」
やっぱりファンタジー感は弱いけど、水を生み出す力は生かせそうだ。それに、見張り仕事ということもあって、他にも何人かの冒険者と一緒に行動するらしい。いつまでもリーシアさんに頼りっぱなしというわけにもいかない。これは自立のための一歩だ。
「うん、いいと思うよ。私は級もあって参加できないから、他の冒険者と協力してね」
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