異世界でも水分補給は大事です! ~液体生成スキルでのんびりサバイバル~

楠富 つかさ

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第11話

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 翌朝、指定された集合場所で待っていると、小柄な少年と少女がやって来た。少年は短い茶髪に明るい目をした、元気そうな子だ。少女は長い緑髪を後ろでまとめ、少し控えめな雰囲気を漂わせている。今来た男の子やリーシアさんの髪色はまだ現実にもいそうだけど、女の子の緑髪となるとさらにファンタジー感がすごい。

「おはようございます! 僕、レオンです。新人で、まだまだ駆け出しですけど、よろしくお願いします!」
「おはようございます……リナです。よろしくお願いします」
「おはよう、私はシズク。今日は一緒に頑張ろうね」

 三人で軽く挨拶を交わし、農園へと向かう。道中、レオン君が話を盛り上げてくれるおかげで緊張がほぐれた。

「シズクさんは水の魔法が得意なんですか? 私は風がちょっと使えるので、協力すれば広い範囲に水が撒けそうですね」
「それはいいアイデアだよ。そう、少しだけ水が得意でね。まだあんまり大したことはできないけど、これから伸ばしていきたいなって」
「すごいなあ! 魔法が使えるなんて。でも、僕も早く強くなって、一人前の剣士になりたいんだ!」
「レオン、先走りすぎないの。まだ始めたばかりなんだから」

 リナちゃんが軽くたしなめるが、どこか楽しそうだ。その様子に思わず微笑む。
 農園に到着すると、依頼主の農夫さんが迎えてくれた。

「おお、よく来てくれた! 最近、夜になると畑に小さい魔物が出ることがあってな。あと水やりも頼みたい。よろしく頼むよ」

 依頼の説明を受けた後、まずは魔物が出る可能性がある場所を確認しながら畑を見回る。特に目立った異常は見当たらず、日中は平和そのものだった。

「よし、それじゃあ水やりを始めようか。リナちゃん、私に合わせてね」

 両手で水を掬うように手を出し、そこに少しずつ貯めた水を畑の真ん中に向けて飛ばす。

「わあ、すごい! 本当に水が出てる!」

 レオン君が目を輝かせている横で、リナちゃんも感心したように小さく頷いていた。

「シズクさん、こんな風に水が使えるなんて便利ですね。じゃあ、私の風を……それ!!」
「ありがとう。でも、まだまだこれからだから、もっと上手に扱えるようになりたいな」

 三人で協力しながら畑の水やりを進める。途中、レオン君も運んできた水で手伝いをしてくれたり、リナちゃんが作物の様子を観察して農夫さんに報告したりと、自然とチームワークが取れてきた。
 水やりがひと段落し、そろそろ休憩しようかという頃だった。

 「ん……?」

 リナちゃんが首を傾げ、畑の奥の茂みに目を向ける。風に揺れる葉の音に混じって、何かが低く唸るような気配がした。

 「シズクさん、レオン、何かいるかもしれません」

 その言葉に、私とレオン君も警戒する。
 ――ガサガサッ!
 突然、茂みが大きく揺れ、飛び出してきたのは大きな猪のような魔物だった。森で初めて倒したゴブリンなんかより、よっぽど大きくて……怖い。

 「うわっ!?」

 思わず後ずさると、魔物は真っ直ぐこちらに向かって突進してきた。土煙を上げながら迫るその姿に、全身が硬直する。
 動かなきゃ……でも、どうやって? 迫りくる魔物に頭が真っ白になり、脚も竦んで動けない。

 「シズクさん、避けて!」

 リナちゃんの叫びに、ようやく体が反応する。横に飛び退いたが、勢いを完全にかわすことはできず、バランスを崩して尻もちをついてしまった。
 視線を上げると、イノシシとは思えないほどスムーズにUターンしてこちらに再び迫ってくる。どうしよう、完全に狙われてる!

「――!!」

 息が詰まるほどの恐怖が全身を支配する。動かなきゃ。逃げなきゃ。でも、体が言うことを聞かない。

「シズクさん!」

 その瞬間、レオン君が剣を振り下ろした。魔物の脇腹に鋭い一撃が入り、魔物が苦しげに吠える。さらに、リナちゃんが風の魔法を放ち、魔物の動きを封じるように押し返した。

「ええいっ!」

 レオン君が追撃を加え、魔物の首元を深く斬り裂く。血しぶきが飛び、魔物が地面に崩れ落ちた。

 「……終わった?」

 リナちゃんが息を整えながら呟く。
 レオン君が剣を引き、倒れた魔物を確認すると、大きく頷いた。

「うん、もう動かないよ」

 私はまだ、地面に座り込んだままだった。
 魔物を倒したのは私じゃない。私がしたのは、ただ恐怖に呑まれて動けなくなっただけ。森でゴブリンやファイアエレメントを倒した時には感じなかった恐怖を、どうして今更? この世界で生きているんだという、実感を抱くようになったから、なのかな……。リーシアさんやユミルさんの顔がふとよぎった。

「シズクさん、大丈夫ですか?」

 リナちゃんが心配そうにこちらを見て、手を差し伸べてくれる。その手を取ろうとして自分が手のひらに汗をかいていることを実感した。レオン君とリナちゃんがいなかったら、私はどうなっていたんだろう。

「……うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて」

 なんとか笑ってみせたけれど、胸の奥がずしりと重かった。
 私も、強くならなくちゃ――。そう思うのに、体はまだ震えていた。

「おーい、なんかあったのかーい!?」

 農場主さんが遠くから駆け足でやってくる。状況をレオン君が伝えると、ここしばらく畑を荒らしていたのは、このビッグボアだろうと話していた。
 結局、魔物はそれ以降姿を現さなかった。夕方になり、農場主さんは満足そうにお礼を言ってくれた。

「助かったよ。これでしばらく安心だ。みんな、ありがとう!」

 帰り道、レオン君は私を慰めてくれた。

「魔法使いなんだから、あんなに魔物に接近されたら怖いのは当然だよ。事前に気付けなかった僕が不注意だった」
「私も、次はもっと役に立てるように頑張ります」

 年下二人にこんなに気遣われて、余計にみっともないけど……これ以上は心配かけられないよ。

「うん、私も……もっと頑張るから。また次の依頼で会えたらよろしくね」

 少しずつ冒険者としての経験を積み重ねていく。そのためには魔物とももっと戦わないといけない。そんなことを思いながら、もらった報酬をポーチにしまって宿に向かうのだった。
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