実る果実に百合を添えて

楠富 つかさ

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#3 果実会ってなに?

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「か、果実会?」

 由梨ちゃんに連れてこられたお茶会は果実会という集まりらしい。私がいちごだから……連れてこられたってわけ? そういえば由梨ちゃんの”り”の字はフルーツの梨だ。

「気づけば果実会もメンバーが膨れて、一気に自己紹介されても大変だろう。まずは君のことを教えてくれないかい?」

 部屋の奥に座っている人が私を真っすぐ見つめる。王子様みたいな風格のある人だ。
 今、部屋にいるのは私と由梨ちゃんも含めて九人。見知った顔は寮で出会った東雲先輩だけだ。つまり知らない人が六人もいる。今日はクラスメイトの自己紹介だって聞いているわけで、そんな一気に覚えられっこない。
 そういうところを配慮してくれたのか、王子様みたいな人は私に自己紹介するように促してきた。まぁ……この人数の前で自己紹介するのもそれなりに緊張するし嫌なんだけど。その上、何故か部屋の一番奥つまるところ上座に座らせられてしまい、帰るわけにもいかず……取り敢えず自己紹介する。
 
「佐野いちごです。えっと、高等部一年二組で、栃木出身です。でもぎょうざはそこまで好きじゃなくて、どっちかと言えばシュウマイ派です。フルーツの苺はけっこう好きで、ミルフィーユが好物です」

 自己紹介をしろって言われても、意外と語ることってなくて……それだけ空疎な十五年を過ごしてきたんだと自分自身に突きつけられる感じがして嫌気がさす。えぇっとが増える私に、由梨ちゃんが趣味はって小さな声で聞いてくれる。

「えっと……えぇっと……趣味、趣味はウィンドウショッピングとカラオケで……歌は全然上手じゃないんですけど、安く済ませられるのでコスパのいい趣味かなって思ってます。好きな科目は国語と社会で暗記ものはけっこう得意です。漢検の準2級を持ってます。……もう、いいですか?」

 すぐ左には最初に声をかけてきた王子様みたいな人がいて、校章バッジの学年色からして高等部三年の先輩だ。その先輩に目配せしてようやく自己紹介を終える。

「いやぁ、いちごの席が埋まるのは実に五年ぶりだ。僕の在学中に迎えることが出来て嬉しいよ。この果実会はフルーツの名前にちなんだメンバーを集めたお茶会でね、かれこれ五十年ほどの歴史を持つ伝統あるお茶会なんだよ。まぁ、木の実にちなんだ名前のメンバーもいるけれど」

 果物にちなんだ名前の学生を集めたお茶会で、果実会……安直なような五十年の歴史があるなら伝統的といってもいいような、そんなことを思いつつ、私の中にはある疑問が浮かんだ。

「あの……いちごって野菜ですよね?」

 果物って木になるものを指すので、メジャーなところで言えばスイカは野菜であるように、いちごもまた野菜の仲間とされている。

「……えっと、この果実会は初代いちご様、吉田苺様が創設した会であり、生物学的な観点よりも実社会に即して、スイカやメロンやいちごも果物として扱うし、栗や胡桃も果実会に入れる、そういう風にして続けてきたのだ。だから、佐野いちごさん。君はこの果実会の会長となるのだよ」
「えっと……え? なんで、会長?」

 私と同じ、いちごって名前の人が作った会だからフルーツとして扱うっていう話は理解できるんだけど、そこからどうして会長のくだりになってしまうのだろうか。

「この果実会の主なルールは三つ、さきほどの名前の件が一つ目。二つ目は会長はいちごの名前にちなむ者が会長になること。ただし、いちご不在の間は相互投票で選出された者が会長代理となること。そして三つ目は恋人が出来たら退会しなくてはならないということ。これら三つのルールを守って果たす果実会の目的……それはいちごの名を持つ生徒のハーレムを形成すること、だ」

 単純に意味が分からなかった。確かにこの星花女子学園はお嬢様学校と言っても差し支えないが、古い伝統校というわけではなくかなり革新的で風通しのいい学校だと思って進学したのに、こんな集まりに巻き込まれるなんて御免だ。なのに……由梨ちゃんをはじめメンバーのきらきらとした眼差しが私の心をかき乱す。別に……女の子が好きとか、考えたことないのに……どうして、胸が高鳴るのよ……。
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