1 / 8
1話
しおりを挟む
「なぁ、聞いたことあるか? 伝説の盾のウワサ」
「ああ。なんでも盾に選ばれた者にしか使えないって代物だろ?」
「そうそう。確かこの近くの森に神殿があって、そこに安置されているはずなんだよ。俺の師匠の父親の戦友の息子が試したんだけど、装備できなかったって」
「いや……又聞きがすぎるだろ。でもまぁ、俺も聞いたことあるウワサだよ。防御力がとんでもなく高いし、確か魔法も使えて、なんなら意思が宿ってるなんて」
その会話を耳にして、思わず足を止める。
ここは冒険者が集まる食堂、一人寂しく食事を取ろうとしていた私――リスタは、聞き捨てならない単語を聞いてしまったのだ。
(……えっ!? 何それ!? 防御力が高い上に魔法も使える!? そんな凄そうな盾があるんだったら、ぜひ手に入れたい!! そ、それに……意思を持つ盾、とても惹かれるんだけど!!)
私は会話中の二人に近い席へ食事の載ったトレーを置く。
――しかしその時。突然私の背後から声が響いた。
「おい! そこのお前!」
ビクッとして振り返ると、そこには金髪で短髪の美少年がいた。年齢は十六歳くらいだろうか。整った顔立ちだが、眉間にシワを寄せていて近寄り難い雰囲気を放っている。
「……わ、私ですか?」
恐る恐る尋ねると、彼は無言のまま私に詰め寄った。そしてテーブルに置かれたままの私の食事を見て、不愉快そうに呟く。
「……混雑している店で四人卓を占領するとは度し難い」
「あ……す、すみません!!」
慌てて立ち上がるも、少年の後ろにいた女性が再び座るように促す。
「すみませんね、相席したいだけなんですよ。坊ちゃんは無意識に人を威圧してしまうので……」
ぺこぺこと頭を下げつつ同じテーブルで食事を取り始める。金髪の少年は剣士で、後ろの女性はヒーラーのようだ。ヒーラーの女性がにこにこと私を見つめるから正直言って居心地が悪い。
「貴女、ソロなの? 最近来たばかり?」
(うぉぉお……コミュニケーション強者め。苦手なんだよ人と話すのは!!)
……とはいえ無視する訳にもいかないので、コクリと小さく首肯する。
「……そうですけど」
「じゃあ良かったら一緒にパーティー組まない?」
「はいぃ!?」
思わず変な声が出てしまう。すると隣に座っていた金髪の少年がこちらを一睨みしてから口を開いた。
「俺はロンド・フォルサリオ。レベル15の冒険者で、後ろの女はニーナ。同じくレベル15だ」
「よろしくねぇ~」
二人の自己紹介を聞きながら私は混乱していた。えーっと……てっきり彼は嫌がると思っていたのに、名前を告げてレベルまで明かすということは、前向きってこと!? やだよ……私、ソロでいたいのに……。
「あの、私……まだソロでいたいんですけど」
勇気を出して言うと、二人は目を丸くした。
「どうしてよ? せっかく冒険者に成れたんだから、もっと仲間を増やした方がいいと思うわよ?」
「いや、だって……私なんか弱いし。すぐ死んじゃいますよ。だから一人でいいんです」
私が俯き加減で言うと、今度はロンド君が呆れ顔を向けてきた。
「弱かったら死ぬのか? だったら俺達と一緒にいれば安全だろう」
「えっ……でも、私……」
「大丈夫ですよ。坊っちゃんはこう見えて面倒見が良いから。きっと貴女のことを守ってくれると思いますよ」
「こう見えては余計だ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 守るとかそういう問題じゃないんです!」
私は必死になって首を横に振る。
「わ、私……ひ、人と、話すの、苦手、で。だから、作戦の伝達とか、感じた違和感の共有ができなくて、それで……前のパーティー、全滅した。私のせいで、死んじゃった。貴方たちいい人っぽいから、死んでほしくない。……私は、ソロでいい」
一気に喋り終えると、しんとした沈黙が流れた。
(――ハッ! しまった! またネガティブなこと言っちゃった! ど、どうしよう! 初対面のくせに自分の過去をペラペラと語ってウザいやつだと思われたかな。でもそれでパーティーを組むこと、諦めてくれるなら……どうしよう、怖くて顔を上げられない!)
すると突然、私の頭に温かい感触があった。驚いて目線を上げると、ロンド君の手が私の頭を撫でているではないか!
「……へっ!?」
思わず間抜けな声が出る。彼は優しい眼差しで私を見つめていた。
「お前……そんなことがあったのか。辛い思いをしてきたんだな」
「は、はわわわ……」
こんなに優しくされたのは初めてだ……前のパーティーメンバーの知り合いから追い出されてこの国に来たけど……もう誰とも関わらないと決めたのに、まさかいきなり決意が揺らぐなんて……。
「分かった。そこまで言うなら俺たちも無理強いはしない。代わりに、何か知りたいことはあるか? 情報は武器になる。餞別じゃないが、分かる範囲で答えてやる」
私はロンド君が話しかけてきたせいで聞けなかった伝説の盾のことを聞くことにした。
「あぁ、この国では有名な話だな。ここから北西の森にあるとされている。大昔、戦乙女の二つ名で活躍した女性冒険者が愛用していたらしい。持ち主を選ぶというが……その性能は神懸かりの域らしいな」
「あ、ありがとう……その、えっと……剣の女神の加護が、あらんことを」
「達者でな。剣の女神の加護があらんことを」
……目的のない私の旅に一つの目的が出来た。意思のある伝説の盾と……友達になる!
「ああ。なんでも盾に選ばれた者にしか使えないって代物だろ?」
「そうそう。確かこの近くの森に神殿があって、そこに安置されているはずなんだよ。俺の師匠の父親の戦友の息子が試したんだけど、装備できなかったって」
「いや……又聞きがすぎるだろ。でもまぁ、俺も聞いたことあるウワサだよ。防御力がとんでもなく高いし、確か魔法も使えて、なんなら意思が宿ってるなんて」
その会話を耳にして、思わず足を止める。
ここは冒険者が集まる食堂、一人寂しく食事を取ろうとしていた私――リスタは、聞き捨てならない単語を聞いてしまったのだ。
(……えっ!? 何それ!? 防御力が高い上に魔法も使える!? そんな凄そうな盾があるんだったら、ぜひ手に入れたい!! そ、それに……意思を持つ盾、とても惹かれるんだけど!!)
私は会話中の二人に近い席へ食事の載ったトレーを置く。
――しかしその時。突然私の背後から声が響いた。
「おい! そこのお前!」
ビクッとして振り返ると、そこには金髪で短髪の美少年がいた。年齢は十六歳くらいだろうか。整った顔立ちだが、眉間にシワを寄せていて近寄り難い雰囲気を放っている。
「……わ、私ですか?」
恐る恐る尋ねると、彼は無言のまま私に詰め寄った。そしてテーブルに置かれたままの私の食事を見て、不愉快そうに呟く。
「……混雑している店で四人卓を占領するとは度し難い」
「あ……す、すみません!!」
慌てて立ち上がるも、少年の後ろにいた女性が再び座るように促す。
「すみませんね、相席したいだけなんですよ。坊ちゃんは無意識に人を威圧してしまうので……」
ぺこぺこと頭を下げつつ同じテーブルで食事を取り始める。金髪の少年は剣士で、後ろの女性はヒーラーのようだ。ヒーラーの女性がにこにこと私を見つめるから正直言って居心地が悪い。
「貴女、ソロなの? 最近来たばかり?」
(うぉぉお……コミュニケーション強者め。苦手なんだよ人と話すのは!!)
……とはいえ無視する訳にもいかないので、コクリと小さく首肯する。
「……そうですけど」
「じゃあ良かったら一緒にパーティー組まない?」
「はいぃ!?」
思わず変な声が出てしまう。すると隣に座っていた金髪の少年がこちらを一睨みしてから口を開いた。
「俺はロンド・フォルサリオ。レベル15の冒険者で、後ろの女はニーナ。同じくレベル15だ」
「よろしくねぇ~」
二人の自己紹介を聞きながら私は混乱していた。えーっと……てっきり彼は嫌がると思っていたのに、名前を告げてレベルまで明かすということは、前向きってこと!? やだよ……私、ソロでいたいのに……。
「あの、私……まだソロでいたいんですけど」
勇気を出して言うと、二人は目を丸くした。
「どうしてよ? せっかく冒険者に成れたんだから、もっと仲間を増やした方がいいと思うわよ?」
「いや、だって……私なんか弱いし。すぐ死んじゃいますよ。だから一人でいいんです」
私が俯き加減で言うと、今度はロンド君が呆れ顔を向けてきた。
「弱かったら死ぬのか? だったら俺達と一緒にいれば安全だろう」
「えっ……でも、私……」
「大丈夫ですよ。坊っちゃんはこう見えて面倒見が良いから。きっと貴女のことを守ってくれると思いますよ」
「こう見えては余計だ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 守るとかそういう問題じゃないんです!」
私は必死になって首を横に振る。
「わ、私……ひ、人と、話すの、苦手、で。だから、作戦の伝達とか、感じた違和感の共有ができなくて、それで……前のパーティー、全滅した。私のせいで、死んじゃった。貴方たちいい人っぽいから、死んでほしくない。……私は、ソロでいい」
一気に喋り終えると、しんとした沈黙が流れた。
(――ハッ! しまった! またネガティブなこと言っちゃった! ど、どうしよう! 初対面のくせに自分の過去をペラペラと語ってウザいやつだと思われたかな。でもそれでパーティーを組むこと、諦めてくれるなら……どうしよう、怖くて顔を上げられない!)
すると突然、私の頭に温かい感触があった。驚いて目線を上げると、ロンド君の手が私の頭を撫でているではないか!
「……へっ!?」
思わず間抜けな声が出る。彼は優しい眼差しで私を見つめていた。
「お前……そんなことがあったのか。辛い思いをしてきたんだな」
「は、はわわわ……」
こんなに優しくされたのは初めてだ……前のパーティーメンバーの知り合いから追い出されてこの国に来たけど……もう誰とも関わらないと決めたのに、まさかいきなり決意が揺らぐなんて……。
「分かった。そこまで言うなら俺たちも無理強いはしない。代わりに、何か知りたいことはあるか? 情報は武器になる。餞別じゃないが、分かる範囲で答えてやる」
私はロンド君が話しかけてきたせいで聞けなかった伝説の盾のことを聞くことにした。
「あぁ、この国では有名な話だな。ここから北西の森にあるとされている。大昔、戦乙女の二つ名で活躍した女性冒険者が愛用していたらしい。持ち主を選ぶというが……その性能は神懸かりの域らしいな」
「あ、ありがとう……その、えっと……剣の女神の加護が、あらんことを」
「達者でな。剣の女神の加護があらんことを」
……目的のない私の旅に一つの目的が出来た。意思のある伝説の盾と……友達になる!
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる