剣の閃く天命の物語

楠富 つかさ

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恋する乙女と双剣と

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 一方、教室で事の顛末を見ていた千夏は龍牙に対する憤りを感じていた。

「まったく……龍牙も何を考えているのよ……。愛ちゃん泣かせて……。確かに、適応できない人には辛い状況よね。ていうか、祐也もいないし!」
「吉崎君なら……さっき教室を出て、どこかに行っちゃったよ」

 祐也がいないことに驚く千夏に話しかけてきたのは、池田凛という少女。背が高くすらりとしているものの、あまりアクティブな性格ではない。それでも部活動は千夏と同じく水泳部に所属している。そんな凛は尚も千夏の話を聴いている。

「まぁ、そうは言いつつも、あたしは祐也とよくやったRPGみたいで面白そうだけど。にしても、祐也はどうして屋上に? そうだ! あたしも武器を出そうかな……む、見えた!  これが魔力なんだ。綺麗な水色……。これを武器にするのよね。そうね、祐也と同じがいいな……双剣!」

 千夏が手にしたのは透き通る海のような色をした剣。刀身に描かれているのは波紋と水滴。その剣に驚く凛は、

「千夏ちゃんは、この世界に適応したんだね。私には……まだ無理かも」

 と、呟いた。それに千夏は、

「焦る必要なんてないよ。でも、私は少しだけ、楽しみたいって思ったの」

 そう凛に言うと、愛を落ち着かせている春緋を確認し、周囲を見渡す。他に武器を出している女子を探すためだ。彼女の本心としては、祐也に剣を見せ付けたいのだが、そこに、小柄な少女が一人。

「千夏、ウチも武器を出せた。ちょっと手合わせしてもらえる?」

 声をかけてきたのは平田理紗という女子。小柄ながらも凛々しさ溢れる美しい少女で、意志の強さを感じさせる鳶色の瞳は真っ直ぐに千夏を見据えている。そんな彼女の手には一振りの刀が。そう、剣道部に所属する彼女の獲物は刀なのだ。

「いいよ。廊下にでようか」

 ちょっと無神経だという自覚は千夏にもあるが、楽しまなきゃ損だよね! という気持ちが勝った。
 二人の少女が武器を持って対峙する……。

「現実味がないなぁ……。ていうか、あたしに双剣なんて使えるのかな?」
「たぶん……大丈夫。ウチだって、真剣なんて持ったことないもん」

 一抹の不安を感じながらも不思議と双剣は千夏の手に馴染んだ。双剣を軽々と振り回す。しかし、千夏の振り回す双剣は理紗の刀に確実に受け止められる……。僅かでも隙をつくれば……、

「せりゃっ!!」

 剣道と同じ要領で胴を斬りにかかる。インターハイの女王は伊達じゃない。そう感じながら千夏は、圧倒的な経験の差に白旗を挙げるのだった。

 二人が教室に戻ると、大半の男子が教室から居なくなっていた。教室の男子は砦斗と工藤当真という弓道部の部長である男子、あとは宮原一という少し気弱な印象を与える三人だけだった。

「あれ? 男子は?」

 千夏が当真に訊くと、彼は外を指差した。

 窓の外――校庭には、またもや魔物が闊歩していた。男子たちはその魔物に応戦していたのだ。シンプルな片手剣を振るう者や拳で闘う者。それぞれが、魔物を相手に吹っ切れたといったところか。

「祐也と龍牙と……あとは瑛太がいないけど?」

 もともと男子の少ないクラスだから、いない男子はすぐに分かる……。祐也への心配が千夏の心の中で膨らみだす。

「龍牙は出たきりだし、祐也と瑛太は屋上だと思う……。さて、そろそろ援護に回ろうか、春緋さん、愛さん、部活といこうか?」

 すると、当真はおもむろに弓矢を取り出した……否、このタイミングで生み出したのだ。大樹のような重厚感を与える和弓に魔力の矢を番える。

「すごい……」

 男子達が飛び出す際に開け放たれた窓から矢を放てば、魔物の眼球や首筋に的確に命中する。日々の鍛錬に加えて、この状況が生み出す超人的な力が、彼を百発百中の射手に変貌させる。千夏を含めた多くの女子が、しばらくの間その光景に呆然としていると、上から人影が!

「祐也!!」

 人影の正体は祐也や舞斗、龍牙、瑛太だった。

「取り敢えず無事でなにより……」

 千夏が胸を撫で下ろしたのも束の間、理紗に声を掛けて外へ飛び出した。

「私はみんなの……ううん。祐也の力になりたい!!」

 それは、少女がこの世界で自らの存在意義を見出した瞬間だった。
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