そして夜は華散らす

緑谷

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壱章

閑話――間隙に華

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 華は散る。
 散る。散る。散って、散っては落ちる。

 あっけなく肉を裂き、軽やかに骨を断つその、感触。
 差し出した身体で快楽を貪っていたものが、刃に喰われるその、断末魔。
 たった今まで肉をを駆けめぐっていたその、緋色の熱。
 全身をしどとに濡らす香りに酔い、肌を伝い落ちていくものに、蕩けるほどの悦楽を混ぜて。
 それらをすべて拾い集め、同じ色に染まる吐息をこぼした。

 華は散る。堕ちた花弁でただ、満ちる。
 花弁が降り積もるごとに、もっと、もっとと欲しくなる。


 緋を含んだ影は歩む。
 潤む瞳、淡く染まる肌、吐息に熱を、手には銀を携えて。

 むせかえるほどの艶を孕んで、転々と花弁を散らしながら。
 蟲を誘う華のように、影は次の獲物を欲した。

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