そして夜は華散らす

緑谷

文字の大きさ
30 / 46
伍章

閑話――微睡む獣

しおりを挟む
* * *

「――ふや、しろ」
「……自分の名前言ってみろ」
「腕が、ない。やつがれの腕はどこにある……?」
「……、斬り飛ばされたよ。覚えてるな?」
「ふふ、ああ、そうだ。楽しかった。とても。生きている感じがした。あんなに高ぶったのは久しぶりだったよ。とても楽しかったんだ」
「チッ、よくしゃべりやがる。……義手はもう無理だぞ。高ぇんだからよ」

「なあ不夜城」
「何だよ」
やつがれはやはり、血を見ないと生きてはゆけぬよ。ほかの人間も同じだって……思ってたのにな……」
「……、何馬鹿なこと言ってんだ。今更だし当たり前だろ」
「そうだな。ああ、そう、だったな……」

「義足もあとで調律するぞ。七年放置しやがって。馬鹿野郎」
「すまぬ、不夜城。……でも、どうしても帰れなかったのだ」
「うるせぇよ、言い訳すんじゃねえ。勝手にいなくなりやがって。クソったれめ」
「でも……入相さんがどうしてもと言ったから。戻るに戻れなかった」
「入相さんに望まれて嬉しかった、ってか? ハッ! 何能天気な寝言抜かしてやがる。反吐が出るぜ」

やつがれでなければならないと、言ってくれたから。役に立てると、思ったのだ。前のように。本当は、死ななければならなかったけれど。でも、それはどうしても、できなくて」
「……チッ。死ぬだなんて俺の前でよく言えたもんだな?」
「……ふふ、君は相変わらず舌打ちが多いな」
「てめぇの胡散臭ぇ薄笑いもな」

「――不夜城」
「今度は何だよ、うるせぇな」
「……、……やつがれは……どうしてこうなのだろうな」
「てめぇが一番わかってることだろ」
「そう、だな。全部、全部……真似事にすぎぬ。でも、人間の真似事をするのは、とても……楽しかったんだ」
「……黙ってろ」
「でも駄目だった。何をしても喉が渇いてしまうんだ。我慢ができなくて、それで。ああ、これも言い訳だ。結局やつがれはそうしたかった。それだけなんだ」
「黙ってろ」
「だけど、どうしてもそこにいたかった、温かくて、愛しいから、……嬉しくて、しあわせで、たのしくて、のぞまれなくても……そこにいたかったよ」
「……」

「――やつがれは……化け物、だ。そうだろう?」

「……、チッ。そうだよ、てめぇは化け物だ」
「ああ……ありがとう、……不夜城……」
「……化け物は泣いたりしねえモンだ。だから、てめぇの眼から塩水が出てんのは、見なかったことにしてやる。……、おい。……寝ちまったのか? 勝手なやつだな、ったく……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...