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外伝1【翡翠に懐古す】
其の四
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入相大尉の部隊にいた者たちには、数日間の短い休暇が与えられることになった。多少なりとも犠牲が出たゆえ、その慰労ということらしい。俺たちもどうやら例外なくその恩恵にあずかれるようだった。
どこまでも灰色の第十二階層、その片隅にある集合寮の一室が、俺と天明、世見坂が住む場所だ。狭い部屋に三人詰め込まれるのも、軍の下っ端にはよくある話。狭い通路を挟んだ左右の壁にある寝台以外はすべて共用で、そのほとんどを天明と俺が独占しているような状態だった。
男三人、ましてや嫌いなやつと同室なんてたまったもんじゃないが、そういう規則なので仕方ない。顔も見たくないときや、ひとりになりたいときなんかは、寝台についた遮光布で物理的に遮断するしかないわけだが――それが通じないときもまあ、よくある話だった。
任務より帰還後、風呂で汚れを流すのもそこそこに寝台に転がり、眠って目覚めて少しばかり考えごとをしていた、その矢先である。
「おい、不夜城。さっさと支度しろ」
天明が遮光布を引き開け、相変わらずの上から目線で話しかけてきた。気取った格好で妙にそわそわしている。何だこいつ。気持ち悪ぃな。
「あ? 何でだよ」
寝台に寝転がったまま答えた俺に、案の定天明が苛立ちをあらわにする。
「まさか、この間の約束を忘れてないだろうな? ぼくに紹介すべき場所があるだろうが」
言われてやっと思い出す。そういえば、この間花札で負けたときに、天明好みの女が買える店を紹介するとか言ったような。
俺はこいつのことは大嫌いだが、こいつのクソみてえな性格と人格に目をつむれば、選ぶ店は趣味がいいところばかりだった。しかもたいてい俺好みの女がいる。一方、俺が気に入った店には天明好みの女が毎度いるし、店の雰囲気もだいたい天明が気に入るようなものばかりらしい。俺たちの利が一致する唯一の部分であるがゆえ、時々肩を並べて女を買いに行くこともあった。
だが今回は残念ながら、そういう気分じゃない。あれからずっと、妙に引っかかっていることがある。今しがた考えていたのもそれだった。
「悪いな。それどころじゃなくなったわ」
「なに!? 貴様、このぼくとの約束を破る気か!?」
「お前が約束破った回数よかマシだろうがよ。それに、俺の疑問が解決したらちゃんと教えてやっから安心しろ」
「本当だな!? 絶対だぞ!?」
金切声を上げる天明を適当にあしらい、俺は反対側の寝台に座る世見坂へと視線を向ける。
世見坂は俺たちの会話に微苦笑を浮かべながら、刀の手入れをしていた。抜き放たれた刀は濡れたような光沢を放ち、世見坂の手に収まっている。
この刃を翻し、笑いながら【獣】を殺し続けていた世見坂が胸中によみがえる。共に入隊して三年ほどになるが、あんなに近くで戦っているのを見たのは初めてかもしれない。あちこちから聞いていた噂以上の、そして俺の想像以上の苛烈さだった。あまりにも荒々しく、あまりにもおぞましく、血と戦いに陶酔する姿はまるで。……まるで。
俺はとっさにそこで思考を止め、首を振った。どうにも変なたとえが浮かんでしまう。こんなこと、男に言うようなもんじゃない。ましてや相手は世見坂だってのに。まったく、どうかしてやがる。
ひとつ深呼吸してから、俺は改めて世見坂へと声を投げる。
「おい、世見坂。【獣】ってやつらは、あんなにでかくなるもんなのか」
世見坂は手入れをやめて俺を見返し、記憶を探るように視線を手元の刀へ移す。
「少なくとも……地上では、あんな大きな個体は見たことがなかったと思う。それだけ豊富な餌がないから、やもしれぬが。……どうした? 急にそんなことを聞いて」
首をかしげる世見坂の肩に、蒼い光沢を含んだ髪が滑り落ちる。それを耳にかけながら、世見坂は再び紅いまなざしを俺へと向けた。
「あー……何か、妙に引っかかっててよ。今回の、【獣】どもについてなんだが」
俺は身体を起こし、座り直して相対する。後ろで天明がぶつくさと恨み言を並べ立てていたが、いつものように癇癪を起こす様子はない。やがてどかりと腰を下ろす音がする。興味だけはあるらしかった。
「まずひとつ。何であんな巨大な個体が、あんなわかりやすい場所に陣取ってたってのに、全然騒ぎになってなかったんだ? あんだけでかけりゃすぐにバレて、誰かしらが通報してるだろ」
連中がいた場所は、第一外殻と第二外殻を隔てる壁が崩れて境目がなくなっている区画だった。あの辺は時折闇市が開催されることもあるらしく、寂れた風に見えて意外にも人の出入りはあるという。そんな場所に【獣】が居座っているならば、誰かしらが警戒して話を広めるなり、警察に連絡を入れているはずだろう。
「フン。そんなもの、無能の警察どもが仕事をしなかったからだろうが。これだから無能の集まりは役に立たないんだ」
天明からは、嘲けり混じりの言葉が投げてよこされる。確かに、下層に配置された警察官は、自暴自棄で士気が低いと聞く。仕事をろくにしないやつばかりなら、非常事態でも何もしない、なんてことがあるかもしれない。
しかし、たとえどれだけ士気が低かったとしても、死んでしまったら元も子もない。通報して上層や軍に応援を要請したほうが安全だというのに、なぜそれをしなかったのか。それ以上に、万が一上層階に【獣】を入れてしまったなら、それこそ責任問題となるだろうに。
「仮に連中が仕事してなかったとしてもよ。あんなやつら放置したら、いつ上層に来られるかわかったもんじゃねえだろ。職務怠慢がバレたらクビどころじゃすまねえ」
「ハ! 連中は愚鈍で間抜けで腑抜けばかりだからな。どうせ大した家柄でもないんだろうさ。下賤な奴らが出しゃばるからこうなるんだ」
歪んだ嘲笑と優越とを貼り付けて、天明は髪を気取った仕草で撫でつける。……本当に、こいつは隙あらば他者を貶めてくる。顔も知らない相手によくもまあここまで言えるもんだ。別に警察の連中に特別な感情を持ってるわけじゃあないが、聞いてて気分のいいもんじゃない。
とはいえ、今はそんなのに構っている場合ではない。苛立ちを飲み込んで天明を無視し、俺は次の問いを投げかける。
「二つ目の疑問だ。お前、【獣】どもは巣を作らねぇって言ったな」
「ああ。少なくとも地上にいる間、僕は見たことがない。連中は休息を取らぬゆえ、巣を必要としていないのだろうな」
「なら、なんで連中はあんな場所に巣を作ってたんだ? 瓦礫の奥から出てきてたよな。ほかにも潜む場所、それこそ巣に適した場所なんてたくさんあるのによ」
これは入相大尉も疑問を持っていた部分でもある。巣を必要としないやつらが、なぜ巣を作って待ち構えていたのか。
世見坂は刀を握ったまま、顎に空いた手を当てて考え込む。
「……あの巨体ゆえ、広い場所にある瓦礫に潜んでいたほうが狩りに都合がよかった、と考えられなくもないが……地上でも同じような条件がそろっているはずなのに、そう言われれば確かに妙だな」
「ふん。馬鹿馬鹿しい。その場の環境に即座に適応していただけだろう。別段疑問を持つところでもない、そんなことも考えつかないのか? 頭が悪いな、貴様は」
またもや天明が口をはさんでくる。いちいち煽ってくるのは腹が立つが、一理ある考え方だ。
それでも俺の引っ掛かりは解消されない。地上から入り込んできた【獣】が、すぐにこの場に適応するものなのだろうか。仮にそれが可能であったとしても、なぜあの場所だったのか?
「まだ他にもあるぜ。山ほど人が死んでた場所があったろ。あそこの連中、武器を持ってなかったらしい」
これは上司が大尉に報告していた情報である。
第一階層の住民は、命の危険と隣り合わせで過ごしている。ゆえに、常に何かしら武器を所持しているらしいのだが――殺されて散らばされていた連中は、誰も武器を持っていなかった。血の海の中にあったのは、どれもこれも『売り物』であり、彼らの所持品ではなかったという。
「あそこにあった武器はみんな、使用された形跡がなかったんだとよ。あんなところで商売するなら、武器を持ってねえなんて変だろ?」
上司は「どいつもこいつも、ろくに抵抗した痕がなかった」と言っていた。バラバラに引きちぎられ貪り食われて死体同士が混ざってたようなあの現場で、よくそこまでわかったものだとも思うが、それはともかく。
「……つまり、誰も抵抗せずに【獣】らに殺されたのだ、と?」
「ああ。あんなバケモンに襲われてるのに、だぜ? 売りモン使って抵抗するどころか、逃げることもせずに、だ」
俺はひとつうなずいてみせる。
「あんな下層のゴミどもに、そんな頭があるわけないだろう。どうせ喰われるまで気が付かんような馬鹿ばかりなんだから、襲われても何が起きたか理解なんてできないに決まってるさ」
天明が鼻で笑い、足を組み替えた。こいつの他人への、特に下層の人間に対する過小評価はとどまるところを知らない。こいつの思っているほど、下層の人間たちは馬鹿じゃない。むしろ上層の連中よりずっとしたたかで、ずっとたくましい。勝手な想像と凝り固まった偏見で、よくぞここまで言えるもんである。
俺は舌打ちだけして天明を無視した。天明もそれに気が付いたか、イライラと机を指で叩き始める。
「で、だ。もうひとつ、気になることがある。俺らをつけ回してた連中のことだ」
「ああ。僕も気になっていた」
「は? 何? どういうことだ? なんの話だ、ど、どういうことなんだ、おい」
俺と世見坂の言葉に、天明が途端に取り乱し始める。説明しようとする世見坂を手で制し、俺は続きを促した。
「お前はどう感じた? 世見坂」
「……彼らは、僕らがあの場所に踏み入れた途端に姿を消していた。おそらく、少し離れたところで観察していたのだとは思う」
世見坂はひとつ瞬きをし、俺を見る。
「……帰りもつけてきていたが、気づいていたか?」
俺は首を横に振り、否、と示した。正直あの戦いのあと、そこまで気を回している余裕はなかった。負傷者の処置と死者の回収に奔走していて、それどころではなかったのもある。
「第三外殻の扉の前まで、彼らはついてきていた。……これほどまでに消耗した獲物がいるのに、背後から襲いかからずそのままにしていたのはなぜか、ずっと気になっていたのだ」
第一階層では気を抜くな。あっという間に暗がりに引きずり込まれて、バラバラにされて売っ払われるぞ――なんて、冗談めかした忠告を散々言われてきている以上、逆に何もしてこないのは不気味でしかない。軍の備品は高く売れると聞いているし、事実単身でいるところを襲われた軍人も少なくない。
追いかけてきていたのには、監視の意味もあるだろう。だが、どうもそれだけではない気がする。連中には地の利がある。【獣】との闘いで消耗しきっている軍の人間など、隙をついて分断なり孤立させるなりすれば、襲うことなど造作もないはず。だというのに、なぜ何もしてこなかった?
「そ、……そんなの、ぼくたちに恐れをなしたに違いないさ。連中は下賤でクズで馬鹿でゴミでろくでなしだからな、強いやつには媚びへつらう、その機会を伺ってたんだろうさ。下層の連中なんて本当にみっともない奴らばかりだよな! あとでドブネズミと一緒に駆除してやろうじゃないか、なあ?」
ああ、まったくこいつは本当に、人を不快にする天才だ。下層出身の世見坂に対する嫌味もあるのは明らかだ。胸糞が悪すぎる。俺の我慢も限界だった。……もっとも、別に我慢する義理なんざもともと持ち合わせちゃいないわけなんだが。
「おい、なあ、天明よ。さっきから自己紹介してどうしたんだよ。いい加減耳が腐りそうだぜ、そろそろ黙らねえか?」
「き……貴様! 誰に向かって口をきいているんだ!?」
さっきまでビビり散らしてたのはどこへやら、天明がわめいて机を拳でたたいた。真っ赤な顔で立ち上がる。わかりやすすぎて笑えてくる。
「てめぇしかいねぇんだけどなあ、天明浄楽くん。このまま第一階層の闇市会場にでも放り込んでやろうか? いーい血筋のお坊ちゃんなんだ、高く売り買いしてもらえるだろうさ」
「きっ……さま、この、ぼくより劣る下郎のくせにっ……!!」
侮辱された怒りで震えている天明を鼻で笑い、俺も寝台から立ち上がった。ちょうどいい。この間の行軍のときの分も上乗せして、ニ、三発ぐらい殴ってやる。
互いに距離を詰める。腕が伸びる、伸ばされる。互いが互いの胸倉を同時につかんだ、その瞬間。
俺と天明の顔の間に、突如鋼が割り込んだ。濡れた光沢が鏡となって、苛立ちと困惑が濃く刻み込まれた俺の顔を映す。
「……やめろ、ふたりとも」
世見坂が、刀を俺たちの間に差し入れていた。抑止の鋼はどこまでも冷たく、世見坂の白い面も静かな無表情である。しかし、俺たちをとらえる紅い双眸、そこに沈む光は獰猛な鋭さを帯びている。世見坂にしては珍しく、感情が高ぶっているようだった。
殺される。本能がそう悲鳴をあげた。頭に上っていた血が一瞬で引いていく。全身から冷たい汗が噴き出し、足から力が抜けてよろめいた。天明もすっかり青ざめ、崩れ落ちるように椅子へと座り込む。高い鼻梁を横切るように、薄らと血がにじんでいた。
「ひ、こ、この、……地上、の、ろくでなしが……っぼ、ぼくに、こんな、ぶ、無礼者っ……!」
天明の怯えた顔に、引きつる言葉に、世見坂の眉がわずかに下がる。それからすぐに刀が降ろされ、世見坂は寂しそうに淡く笑んだ。
「……すまぬ、ふたりとも。少し……気が高ぶったままだった。手荒なことをして申し訳ない」
「……い、や、……俺らも悪かった。すまねえ」
知らずに緊張していた肩から力を抜き、俺は世見坂に頭を下げる。世見坂も紅い瞳を伏せて首を振り、もう一度謝罪を口にした。長い髪がさらさらと波打つ。かすかに甘い香りがした。
天明は青い顔でふてくされたまま、そっぽを向いて黙りこくっている。謝る気はないらしい。本当にこいつの性根は腐ってやがるな。腹立つ。
一言嫌味でも言ってやろうかと思った俺を、世見坂が引き留める。それからしばし逡巡し、目を伏せたまま小さくこぼした。
「……今ここで殴り合いをされたら、抑えられなくなる。だから……今日は少し、控えてもらえるとありがたい」
その物言いに、俺はふと背筋が寒くなった。嫌な想像が意識をかすめる。
こいつがもともと喧嘩が嫌いなのは知っていた。本人もたびたびそういったことを口にしていたし、実際に何をされてもやり返さずにいることも知っている。変ないちゃもんをつけられて、黙って殴られているのを見かけたことも何度かある。やり返せと言ったのだが、「それはできぬ」とかたくなに拒否していた。
もしかしてこいつは、俺が思っていたほど穏やかではないのかもしれない。相手を傷つけることが苦手なのではなく、単純に「殺さないようにするために」おとなしくしているだけなのではないか。
刀がするりと鞘に収まる。その音でふと我に帰り、俺はやっと息を吐いた。そうだ。今考えるべきはそこではない。深呼吸をひとつしてから、頭の中を整理する。
俺の中には、仮説があった。あの【獣】どもが、もしも偶然入り込んできたものではなく、第一階層の者たちによって人為的にあの場所に配置されていたとしたならば。
誰も通報しなかったのは、複数人でそれを隠していた、あるいは口止めをしていたからとも考えられる。そうなると、警察は買収されている可能性もあるだろう。
【獣】どもがあの場所にいたのは、そこで餌を十分もらえるとわかっていたから。死んでも誰も悲しまない奴らであふれている階層なのだ、“餌”の調達はいくらでもできる。闇市の人間たちが警戒しなかったのは、同じ階層の顔見知りだったから。組織などが経営するものであれば、市のルールは組織が決める。武器を取り上げることも容易だろう。
軍を監視していたのは、あわよくば餌にしようとしていたのではないだろうか? 帰りも追いかけてきていたのは、もしかしたら警戒する人間を見定めていたのかもしれない。
まったく確証のない、不確定な想像と推測だ。だが、どうにも作為的なものを感じて仕方がなかった俺には、これが一番納得できる答えだった。
俺の導き出した推論を伝えると、世見坂は小さくうなずき「あり得ぬ話ではないな」と言った。
「だが、何のためにそんなことを? 【獣】を飼いならすことなど不可能だ」
「そこまではわからねえ。だが、もしもあの【獣】が人為的に引き込まれたモンだとしたら――おそらくもう一度、同じことが起きる。今度はもっとわかりにくくなるだろうな、下手すりゃ上層に持ち込まれるかもしれねえ。その前にどうにかしねえと」
「ば、馬鹿馬鹿しい! そんなわけあるか!」
金切声でわめく天明を宥めながら、世見坂が音もなく立ち上がる。
「……入相さんに、そのことを伝えてみる。指示を仰いでみよう」
「そんなくだらない推論を大尉に言うつもりなのか!? 貴様らどちらも気が違っている!!」
「天明」
世見坂が静かに言葉を遮る。何かをされると思ったのだろう、天明が小さく悲鳴を漏らして固まった。
「可能性が否定できないからこそ、確証を得ねば。杞憂ならばそれでいいが、もしこの推測が本当ならば……事が大きくなる前に潰さねばならぬ。それが僕ら軍人の仕事だろう?」
「ぼ、……ぼくだって、軍人だ。そんなことはわかっている」
「ああ、天明は僕と違って聡明だからな」
世見坂は微笑む。悪意でも嫌味でも何でもない、それは純粋な賞賛であった。俺と違って、こいつは天明のことを信頼している。人がいいのか、馬鹿なのか。たぶん両方なんだろう。
「大尉は無駄を嫌うゆえ、そのことを心配しているのだろう? だが、聞いてみなければ大尉の御意思も、僕らのすべきこともわからぬ」
天明が爪を噛んで黙り込む。見下しているこいつに言いくるめられているのが気に入らないらしい。
刀を腰に差し、世見坂は戸口へと歩いていく。伸びた背筋に結った髪が滑らかに揺れる。
世見坂は入相大尉に認められ、引き抜かれ、じきじきに教育を受けて入隊している異例の存在だ。通常ならば、直接大尉の耳に入れることなんて考えられない。直属の部下であるこいつだからこそできる芸当だろう。立場の乱用と言えばそれまでだが、今は大いに利用させてもらう。
「頼んだぜ」
「ああ。あまり期待はしないでくれ」
そう言い残して、世見坂は出ていった。天明が舌打ちして椅子を蹴飛ばす。そのまま足音も荒々しく、大股にそのあとに続く。何するつもりか聞こうとしたが、噛みつかれるのは面倒臭い。乱暴に扉が閉められる、空気の震える音と衝撃を肌で感じながら、俺は再び寝台に転がった。
入相大尉の部隊にいた者たちには、数日間の短い休暇が与えられることになった。多少なりとも犠牲が出たゆえ、その慰労ということらしい。俺たちもどうやら例外なくその恩恵にあずかれるようだった。
どこまでも灰色の第十二階層、その片隅にある集合寮の一室が、俺と天明、世見坂が住む場所だ。狭い部屋に三人詰め込まれるのも、軍の下っ端にはよくある話。狭い通路を挟んだ左右の壁にある寝台以外はすべて共用で、そのほとんどを天明と俺が独占しているような状態だった。
男三人、ましてや嫌いなやつと同室なんてたまったもんじゃないが、そういう規則なので仕方ない。顔も見たくないときや、ひとりになりたいときなんかは、寝台についた遮光布で物理的に遮断するしかないわけだが――それが通じないときもまあ、よくある話だった。
任務より帰還後、風呂で汚れを流すのもそこそこに寝台に転がり、眠って目覚めて少しばかり考えごとをしていた、その矢先である。
「おい、不夜城。さっさと支度しろ」
天明が遮光布を引き開け、相変わらずの上から目線で話しかけてきた。気取った格好で妙にそわそわしている。何だこいつ。気持ち悪ぃな。
「あ? 何でだよ」
寝台に寝転がったまま答えた俺に、案の定天明が苛立ちをあらわにする。
「まさか、この間の約束を忘れてないだろうな? ぼくに紹介すべき場所があるだろうが」
言われてやっと思い出す。そういえば、この間花札で負けたときに、天明好みの女が買える店を紹介するとか言ったような。
俺はこいつのことは大嫌いだが、こいつのクソみてえな性格と人格に目をつむれば、選ぶ店は趣味がいいところばかりだった。しかもたいてい俺好みの女がいる。一方、俺が気に入った店には天明好みの女が毎度いるし、店の雰囲気もだいたい天明が気に入るようなものばかりらしい。俺たちの利が一致する唯一の部分であるがゆえ、時々肩を並べて女を買いに行くこともあった。
だが今回は残念ながら、そういう気分じゃない。あれからずっと、妙に引っかかっていることがある。今しがた考えていたのもそれだった。
「悪いな。それどころじゃなくなったわ」
「なに!? 貴様、このぼくとの約束を破る気か!?」
「お前が約束破った回数よかマシだろうがよ。それに、俺の疑問が解決したらちゃんと教えてやっから安心しろ」
「本当だな!? 絶対だぞ!?」
金切声を上げる天明を適当にあしらい、俺は反対側の寝台に座る世見坂へと視線を向ける。
世見坂は俺たちの会話に微苦笑を浮かべながら、刀の手入れをしていた。抜き放たれた刀は濡れたような光沢を放ち、世見坂の手に収まっている。
この刃を翻し、笑いながら【獣】を殺し続けていた世見坂が胸中によみがえる。共に入隊して三年ほどになるが、あんなに近くで戦っているのを見たのは初めてかもしれない。あちこちから聞いていた噂以上の、そして俺の想像以上の苛烈さだった。あまりにも荒々しく、あまりにもおぞましく、血と戦いに陶酔する姿はまるで。……まるで。
俺はとっさにそこで思考を止め、首を振った。どうにも変なたとえが浮かんでしまう。こんなこと、男に言うようなもんじゃない。ましてや相手は世見坂だってのに。まったく、どうかしてやがる。
ひとつ深呼吸してから、俺は改めて世見坂へと声を投げる。
「おい、世見坂。【獣】ってやつらは、あんなにでかくなるもんなのか」
世見坂は手入れをやめて俺を見返し、記憶を探るように視線を手元の刀へ移す。
「少なくとも……地上では、あんな大きな個体は見たことがなかったと思う。それだけ豊富な餌がないから、やもしれぬが。……どうした? 急にそんなことを聞いて」
首をかしげる世見坂の肩に、蒼い光沢を含んだ髪が滑り落ちる。それを耳にかけながら、世見坂は再び紅いまなざしを俺へと向けた。
「あー……何か、妙に引っかかっててよ。今回の、【獣】どもについてなんだが」
俺は身体を起こし、座り直して相対する。後ろで天明がぶつくさと恨み言を並べ立てていたが、いつものように癇癪を起こす様子はない。やがてどかりと腰を下ろす音がする。興味だけはあるらしかった。
「まずひとつ。何であんな巨大な個体が、あんなわかりやすい場所に陣取ってたってのに、全然騒ぎになってなかったんだ? あんだけでかけりゃすぐにバレて、誰かしらが通報してるだろ」
連中がいた場所は、第一外殻と第二外殻を隔てる壁が崩れて境目がなくなっている区画だった。あの辺は時折闇市が開催されることもあるらしく、寂れた風に見えて意外にも人の出入りはあるという。そんな場所に【獣】が居座っているならば、誰かしらが警戒して話を広めるなり、警察に連絡を入れているはずだろう。
「フン。そんなもの、無能の警察どもが仕事をしなかったからだろうが。これだから無能の集まりは役に立たないんだ」
天明からは、嘲けり混じりの言葉が投げてよこされる。確かに、下層に配置された警察官は、自暴自棄で士気が低いと聞く。仕事をろくにしないやつばかりなら、非常事態でも何もしない、なんてことがあるかもしれない。
しかし、たとえどれだけ士気が低かったとしても、死んでしまったら元も子もない。通報して上層や軍に応援を要請したほうが安全だというのに、なぜそれをしなかったのか。それ以上に、万が一上層階に【獣】を入れてしまったなら、それこそ責任問題となるだろうに。
「仮に連中が仕事してなかったとしてもよ。あんなやつら放置したら、いつ上層に来られるかわかったもんじゃねえだろ。職務怠慢がバレたらクビどころじゃすまねえ」
「ハ! 連中は愚鈍で間抜けで腑抜けばかりだからな。どうせ大した家柄でもないんだろうさ。下賤な奴らが出しゃばるからこうなるんだ」
歪んだ嘲笑と優越とを貼り付けて、天明は髪を気取った仕草で撫でつける。……本当に、こいつは隙あらば他者を貶めてくる。顔も知らない相手によくもまあここまで言えるもんだ。別に警察の連中に特別な感情を持ってるわけじゃあないが、聞いてて気分のいいもんじゃない。
とはいえ、今はそんなのに構っている場合ではない。苛立ちを飲み込んで天明を無視し、俺は次の問いを投げかける。
「二つ目の疑問だ。お前、【獣】どもは巣を作らねぇって言ったな」
「ああ。少なくとも地上にいる間、僕は見たことがない。連中は休息を取らぬゆえ、巣を必要としていないのだろうな」
「なら、なんで連中はあんな場所に巣を作ってたんだ? 瓦礫の奥から出てきてたよな。ほかにも潜む場所、それこそ巣に適した場所なんてたくさんあるのによ」
これは入相大尉も疑問を持っていた部分でもある。巣を必要としないやつらが、なぜ巣を作って待ち構えていたのか。
世見坂は刀を握ったまま、顎に空いた手を当てて考え込む。
「……あの巨体ゆえ、広い場所にある瓦礫に潜んでいたほうが狩りに都合がよかった、と考えられなくもないが……地上でも同じような条件がそろっているはずなのに、そう言われれば確かに妙だな」
「ふん。馬鹿馬鹿しい。その場の環境に即座に適応していただけだろう。別段疑問を持つところでもない、そんなことも考えつかないのか? 頭が悪いな、貴様は」
またもや天明が口をはさんでくる。いちいち煽ってくるのは腹が立つが、一理ある考え方だ。
それでも俺の引っ掛かりは解消されない。地上から入り込んできた【獣】が、すぐにこの場に適応するものなのだろうか。仮にそれが可能であったとしても、なぜあの場所だったのか?
「まだ他にもあるぜ。山ほど人が死んでた場所があったろ。あそこの連中、武器を持ってなかったらしい」
これは上司が大尉に報告していた情報である。
第一階層の住民は、命の危険と隣り合わせで過ごしている。ゆえに、常に何かしら武器を所持しているらしいのだが――殺されて散らばされていた連中は、誰も武器を持っていなかった。血の海の中にあったのは、どれもこれも『売り物』であり、彼らの所持品ではなかったという。
「あそこにあった武器はみんな、使用された形跡がなかったんだとよ。あんなところで商売するなら、武器を持ってねえなんて変だろ?」
上司は「どいつもこいつも、ろくに抵抗した痕がなかった」と言っていた。バラバラに引きちぎられ貪り食われて死体同士が混ざってたようなあの現場で、よくそこまでわかったものだとも思うが、それはともかく。
「……つまり、誰も抵抗せずに【獣】らに殺されたのだ、と?」
「ああ。あんなバケモンに襲われてるのに、だぜ? 売りモン使って抵抗するどころか、逃げることもせずに、だ」
俺はひとつうなずいてみせる。
「あんな下層のゴミどもに、そんな頭があるわけないだろう。どうせ喰われるまで気が付かんような馬鹿ばかりなんだから、襲われても何が起きたか理解なんてできないに決まってるさ」
天明が鼻で笑い、足を組み替えた。こいつの他人への、特に下層の人間に対する過小評価はとどまるところを知らない。こいつの思っているほど、下層の人間たちは馬鹿じゃない。むしろ上層の連中よりずっとしたたかで、ずっとたくましい。勝手な想像と凝り固まった偏見で、よくぞここまで言えるもんである。
俺は舌打ちだけして天明を無視した。天明もそれに気が付いたか、イライラと机を指で叩き始める。
「で、だ。もうひとつ、気になることがある。俺らをつけ回してた連中のことだ」
「ああ。僕も気になっていた」
「は? 何? どういうことだ? なんの話だ、ど、どういうことなんだ、おい」
俺と世見坂の言葉に、天明が途端に取り乱し始める。説明しようとする世見坂を手で制し、俺は続きを促した。
「お前はどう感じた? 世見坂」
「……彼らは、僕らがあの場所に踏み入れた途端に姿を消していた。おそらく、少し離れたところで観察していたのだとは思う」
世見坂はひとつ瞬きをし、俺を見る。
「……帰りもつけてきていたが、気づいていたか?」
俺は首を横に振り、否、と示した。正直あの戦いのあと、そこまで気を回している余裕はなかった。負傷者の処置と死者の回収に奔走していて、それどころではなかったのもある。
「第三外殻の扉の前まで、彼らはついてきていた。……これほどまでに消耗した獲物がいるのに、背後から襲いかからずそのままにしていたのはなぜか、ずっと気になっていたのだ」
第一階層では気を抜くな。あっという間に暗がりに引きずり込まれて、バラバラにされて売っ払われるぞ――なんて、冗談めかした忠告を散々言われてきている以上、逆に何もしてこないのは不気味でしかない。軍の備品は高く売れると聞いているし、事実単身でいるところを襲われた軍人も少なくない。
追いかけてきていたのには、監視の意味もあるだろう。だが、どうもそれだけではない気がする。連中には地の利がある。【獣】との闘いで消耗しきっている軍の人間など、隙をついて分断なり孤立させるなりすれば、襲うことなど造作もないはず。だというのに、なぜ何もしてこなかった?
「そ、……そんなの、ぼくたちに恐れをなしたに違いないさ。連中は下賤でクズで馬鹿でゴミでろくでなしだからな、強いやつには媚びへつらう、その機会を伺ってたんだろうさ。下層の連中なんて本当にみっともない奴らばかりだよな! あとでドブネズミと一緒に駆除してやろうじゃないか、なあ?」
ああ、まったくこいつは本当に、人を不快にする天才だ。下層出身の世見坂に対する嫌味もあるのは明らかだ。胸糞が悪すぎる。俺の我慢も限界だった。……もっとも、別に我慢する義理なんざもともと持ち合わせちゃいないわけなんだが。
「おい、なあ、天明よ。さっきから自己紹介してどうしたんだよ。いい加減耳が腐りそうだぜ、そろそろ黙らねえか?」
「き……貴様! 誰に向かって口をきいているんだ!?」
さっきまでビビり散らしてたのはどこへやら、天明がわめいて机を拳でたたいた。真っ赤な顔で立ち上がる。わかりやすすぎて笑えてくる。
「てめぇしかいねぇんだけどなあ、天明浄楽くん。このまま第一階層の闇市会場にでも放り込んでやろうか? いーい血筋のお坊ちゃんなんだ、高く売り買いしてもらえるだろうさ」
「きっ……さま、この、ぼくより劣る下郎のくせにっ……!!」
侮辱された怒りで震えている天明を鼻で笑い、俺も寝台から立ち上がった。ちょうどいい。この間の行軍のときの分も上乗せして、ニ、三発ぐらい殴ってやる。
互いに距離を詰める。腕が伸びる、伸ばされる。互いが互いの胸倉を同時につかんだ、その瞬間。
俺と天明の顔の間に、突如鋼が割り込んだ。濡れた光沢が鏡となって、苛立ちと困惑が濃く刻み込まれた俺の顔を映す。
「……やめろ、ふたりとも」
世見坂が、刀を俺たちの間に差し入れていた。抑止の鋼はどこまでも冷たく、世見坂の白い面も静かな無表情である。しかし、俺たちをとらえる紅い双眸、そこに沈む光は獰猛な鋭さを帯びている。世見坂にしては珍しく、感情が高ぶっているようだった。
殺される。本能がそう悲鳴をあげた。頭に上っていた血が一瞬で引いていく。全身から冷たい汗が噴き出し、足から力が抜けてよろめいた。天明もすっかり青ざめ、崩れ落ちるように椅子へと座り込む。高い鼻梁を横切るように、薄らと血がにじんでいた。
「ひ、こ、この、……地上、の、ろくでなしが……っぼ、ぼくに、こんな、ぶ、無礼者っ……!」
天明の怯えた顔に、引きつる言葉に、世見坂の眉がわずかに下がる。それからすぐに刀が降ろされ、世見坂は寂しそうに淡く笑んだ。
「……すまぬ、ふたりとも。少し……気が高ぶったままだった。手荒なことをして申し訳ない」
「……い、や、……俺らも悪かった。すまねえ」
知らずに緊張していた肩から力を抜き、俺は世見坂に頭を下げる。世見坂も紅い瞳を伏せて首を振り、もう一度謝罪を口にした。長い髪がさらさらと波打つ。かすかに甘い香りがした。
天明は青い顔でふてくされたまま、そっぽを向いて黙りこくっている。謝る気はないらしい。本当にこいつの性根は腐ってやがるな。腹立つ。
一言嫌味でも言ってやろうかと思った俺を、世見坂が引き留める。それからしばし逡巡し、目を伏せたまま小さくこぼした。
「……今ここで殴り合いをされたら、抑えられなくなる。だから……今日は少し、控えてもらえるとありがたい」
その物言いに、俺はふと背筋が寒くなった。嫌な想像が意識をかすめる。
こいつがもともと喧嘩が嫌いなのは知っていた。本人もたびたびそういったことを口にしていたし、実際に何をされてもやり返さずにいることも知っている。変ないちゃもんをつけられて、黙って殴られているのを見かけたことも何度かある。やり返せと言ったのだが、「それはできぬ」とかたくなに拒否していた。
もしかしてこいつは、俺が思っていたほど穏やかではないのかもしれない。相手を傷つけることが苦手なのではなく、単純に「殺さないようにするために」おとなしくしているだけなのではないか。
刀がするりと鞘に収まる。その音でふと我に帰り、俺はやっと息を吐いた。そうだ。今考えるべきはそこではない。深呼吸をひとつしてから、頭の中を整理する。
俺の中には、仮説があった。あの【獣】どもが、もしも偶然入り込んできたものではなく、第一階層の者たちによって人為的にあの場所に配置されていたとしたならば。
誰も通報しなかったのは、複数人でそれを隠していた、あるいは口止めをしていたからとも考えられる。そうなると、警察は買収されている可能性もあるだろう。
【獣】どもがあの場所にいたのは、そこで餌を十分もらえるとわかっていたから。死んでも誰も悲しまない奴らであふれている階層なのだ、“餌”の調達はいくらでもできる。闇市の人間たちが警戒しなかったのは、同じ階層の顔見知りだったから。組織などが経営するものであれば、市のルールは組織が決める。武器を取り上げることも容易だろう。
軍を監視していたのは、あわよくば餌にしようとしていたのではないだろうか? 帰りも追いかけてきていたのは、もしかしたら警戒する人間を見定めていたのかもしれない。
まったく確証のない、不確定な想像と推測だ。だが、どうにも作為的なものを感じて仕方がなかった俺には、これが一番納得できる答えだった。
俺の導き出した推論を伝えると、世見坂は小さくうなずき「あり得ぬ話ではないな」と言った。
「だが、何のためにそんなことを? 【獣】を飼いならすことなど不可能だ」
「そこまではわからねえ。だが、もしもあの【獣】が人為的に引き込まれたモンだとしたら――おそらくもう一度、同じことが起きる。今度はもっとわかりにくくなるだろうな、下手すりゃ上層に持ち込まれるかもしれねえ。その前にどうにかしねえと」
「ば、馬鹿馬鹿しい! そんなわけあるか!」
金切声でわめく天明を宥めながら、世見坂が音もなく立ち上がる。
「……入相さんに、そのことを伝えてみる。指示を仰いでみよう」
「そんなくだらない推論を大尉に言うつもりなのか!? 貴様らどちらも気が違っている!!」
「天明」
世見坂が静かに言葉を遮る。何かをされると思ったのだろう、天明が小さく悲鳴を漏らして固まった。
「可能性が否定できないからこそ、確証を得ねば。杞憂ならばそれでいいが、もしこの推測が本当ならば……事が大きくなる前に潰さねばならぬ。それが僕ら軍人の仕事だろう?」
「ぼ、……ぼくだって、軍人だ。そんなことはわかっている」
「ああ、天明は僕と違って聡明だからな」
世見坂は微笑む。悪意でも嫌味でも何でもない、それは純粋な賞賛であった。俺と違って、こいつは天明のことを信頼している。人がいいのか、馬鹿なのか。たぶん両方なんだろう。
「大尉は無駄を嫌うゆえ、そのことを心配しているのだろう? だが、聞いてみなければ大尉の御意思も、僕らのすべきこともわからぬ」
天明が爪を噛んで黙り込む。見下しているこいつに言いくるめられているのが気に入らないらしい。
刀を腰に差し、世見坂は戸口へと歩いていく。伸びた背筋に結った髪が滑らかに揺れる。
世見坂は入相大尉に認められ、引き抜かれ、じきじきに教育を受けて入隊している異例の存在だ。通常ならば、直接大尉の耳に入れることなんて考えられない。直属の部下であるこいつだからこそできる芸当だろう。立場の乱用と言えばそれまでだが、今は大いに利用させてもらう。
「頼んだぜ」
「ああ。あまり期待はしないでくれ」
そう言い残して、世見坂は出ていった。天明が舌打ちして椅子を蹴飛ばす。そのまま足音も荒々しく、大股にそのあとに続く。何するつもりか聞こうとしたが、噛みつかれるのは面倒臭い。乱暴に扉が閉められる、空気の震える音と衝撃を肌で感じながら、俺は再び寝台に転がった。
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