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外伝1【翡翠に懐古す】
其の五
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※※※ 死体の鮮明な描写が多くあります ※※※
遠くから、かすかに甘いにおいが香ってくる。花のような、果物のような、そのどちらでもないような。どこか官能を刺激する、独特な香りがする。
「――不夜城」
低く、深く、どこかひやりと響く静かな声音は、闇に溶けた夜更けを思わせる――世見坂だ。戻ってきたのか。
微睡みをたゆたっていた意識が浮上し、俺は慌てて目を開ける。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。上半身を起こせば、遮光布を遠慮がちに開けてこちらを覗く世見坂がいた。世見坂の頭越しに見える洋時計の針は、あれから二時間ほど進んでいる。時刻は夕刻過ぎ、その辺の飯屋が混み始める時間帯だろう。
「……悪ぃ、どうだった」
「ああ。どうやら入相大尉も、あの【獣】のことは違和感を覚えていらしたようでな。ただちに調査せよ、とのことだ」
驚いた。無駄なことを嫌う入相大尉が、まさかそのような答えを出すとは。とっさの反応に困り、俺は世見坂を凝視する。世見坂はわずかに眉を下げて微笑むと、一拍の間を置いて「ただし」と続けた。
「もしも調査するのであれば僕だけでせよ、との仰せだ」
いったい何を言っているのか。理解が遅れた。
「は……?」
間抜けな声が喉から漏れる。世見坂の紅い瞳が細められる。静かな微笑は崩れない。
「そのままの意味だ。単独任務、ということになるな。他部隊に協力を要請をするにも、上部に部隊派遣の申請をするにも、あまりに証拠が足りぬ。だが、もしあの【獣】らが人為的なものであるなら、調査は急がねばならぬと」
言いたいことはわかる。こんな曖昧な推測と憶測だけでは、部隊を動かすことなどできはしない。大尉の立場であれば、早急に上司を納得させるだけの理由が必要になるだろう。
だが。
「ンな無茶な話があるかよ、お前ひとりで行けってのか!? もしも万が一のことがあったら――」
「だから僕だけが行くのだよ、不夜城」
世見坂は、静かに微笑んでいる。逆光だというのに、瞳の色だけがひどく鮮やかで、どうしてか視線が外せない。
「万が一のことがあれば、犠牲は最小限でで済む。僕が戻ってこなければ、それを逆手に取って申告し、もう一度部隊を送り込む、とのことだ」
あまりにもその語り口が穏やかで、だからこそ話の中身の残酷さが浮き彫りになる。あの人はこいつに、死ぬつもりで行けと言っているのだ。もとはといえば、俺が言い出したことなのに。
言葉が出てこない。喉で詰まって、ほどけない。何も言えず睨むしかない俺に、世見坂が困ったように笑っている。
「……単独任務はよくあることだ。大尉は僕のような輩も信頼して、こうして任せてくださっている。僕もみすみす死ぬつもりはない。これまでだってそうしてきた。だから、君はここで休んでいてはくれぬか」
手が、遮光布から離れていく。俺はとっさにその腕をつかみ、引いた。視線が絡む。軍服の袖に刻まれた翡翠の紐が、手のひらに食い込む。
「……不夜城。僕はそろそろ往かねばならぬ。第一階層への列車が終わってしまう」
「なら、」
俺はどうにか、かすれる息とともに声を、言葉を吐きだした。紅いまなざしを己のそれで捕まえて、手に強く力を込めて。
「俺も、往く」
腹から必死に絞り出し、一言それだけ、伝えた。それが精いっぱい、だった。
世見坂が二、三度瞬きする。ひとつ、ふたつ、呼吸を重ねて、それからやっと、返事が返る。
「……もしも僕が動けなくなったなら。即座に撤退し、入相大尉へ報告を入れてくれ。必ずそうすると、約束してほしい」
こいつは何を言いやがる。俺は衛生兵だ。目の前で死にかけている仲間を助けるのが俺の仕事、見捨てることなどできやしない。そんなことわかっているくせに。
「そうならねえように、できる限り補佐する。何が何でも連れて帰る。俺の目の前で死んだら許さねえからな」
だからあえて、そう言った。世見坂はまた一呼吸の沈黙を挟み、諦めたように目を閉じてうなずく。
「……わかった。努力する。往こう」
俺は世見坂から手を離し、寝台から飛び降りた。すぐさま軍服を整え、銃と銃弾の予備を脚に巻いて固定する。衛生兵に渡される物入は、応急処置用の道具が入っている。中身はここに戻る前に補充してきたから問題はない。腰に巻いて提げ、最後に刀を帯びてから、俺は外へと向かう世見坂の後を追った。
*
第一階層。第三外殻を抜け、第二外殻から第一外殻への境へと向かう。相変わらずここは空気が張り詰め、すえたにおいが充満している。今朝がた来たときよりも暗いのは、外が夜だからだろう。
この【塔】の外壁は、どういうわけか外の光を内壁に写し取るようになっている。もっとも、ここは歪に建て増しされた建造物ばかりで、ろくに外の光なんざ見えやしないわけなのだが――それでも全体的な明るさは多少変わる。
ちらちらと視界の端をかすめるのは、今にも息絶えそうな人工の光。さらに一本奥側で、おそらく女を連れ込む場所と思しき虹光灯が、うすぼんやりと存在を主張している。錆びた水がその表面を流れ落ち、金属や石の壁に汚い痕を幾筋も作っていた。
誰もいない。否、俺たちの進む周囲にわだかまる闇が、あちらこちらでうごめいている。俺たちだけになったからこそはっきりと感じる。俺たちは今、確実に複数人に“見られて”いた。
そこかしこの壁から。背後の物陰から。向こう側の道から。頭上の廃墟から。俺たちの行動のひとつひとつが、何者かによって監視されている。肌に突き刺さる視線を浴びながら、俺は世見坂の隣を黙々と歩いていた。
行軍の道筋とは異なる細い道を、ただひたすらに進んでいく。俺たちが最初に来た道から外れた、いわゆる裏路地のような場所だ。
「不夜城」
世見坂が低くささやきかける。その手は、第一階層に来たときからずっと腰の刀に触れている。
「……警察の詰め所がある。足を止めれば襲われる可能性がある……通り過ぎながら、中の様子を確認しよう」
言われるままに、俺は世見坂の向こう側へと目を走らせる。確かに道の少し先に、白い外壁の小さな建物が見えた。掲げられた地光紋は薄汚れ、かろうじて周囲を縁取る翡翠の色が見て取れる。【獣】の巣になっていた場所からもっとも近い警察の詰め所のようだ。
と――妙な音が聞こえてきて、俺は眉を寄せた。まるで通話系の機械が壊れたときのような、砂を噛んで擦るのに似た、ざりざりと耳障りな音がする。
世見坂もそれに気づいたのか、軽く首を巡らせる。俺も少しばかり歩く速度を落としながら、通り過ぎざまに中の様子を確認した。
開け放たれた扉の向こうは、惨憺たる有様であった。白い壁が赤黒く染め上げられ、濃い血の臭いと腐臭が漂ってくる。警察官がひとり、通信機器と思しきものに覆いかぶさって息絶えている。背中には大きな傷跡。骨が露出するまで切り裂かれている。もうひとりもめちゃくちゃに身体を引き裂かれて床に転がり、澱んだ目で天井を仰いでいた。中にある機械はすべて破壊され、耳障りな音を垂れ流し続けている。蠅がそこかしこに飛び回り、あちこちに蛆が湧いて死体を這いまわっていた。
俺たちが中を覗いた瞬間、周囲の気配がざわめいた。一気に距離が縮まっていく。殺気が膨れ上がり、今にもはじけ飛びそうになっている。下手に探りを入れたら、何をされるかわかったもんじゃない。
俺たちは足を止めることなく、そのまま警察の詰め所を通り過ぎた。視線も、気配も、張り詰めた空気もそのままに、連中はじわじわと数を増やしながらついてくる。
「【獣】の仕業に見せかけているようだが……あれは【獣】ではないな」
再び世見坂の隣に並ぶ俺に、世見坂が声をひそめたままぼそりと言った。
確かに、警官たちの身体の損壊はひどいものだった。だが、【獣】に襲われ死んだ連中とは決定的に異なる点がある。
「ああ。連中、刻まれちゃいるが食い散らかされてねえ。パッと見た限り五体満足、内臓も無事だったぜ」
「機材もすべて破壊されていた。個人の通信機器までひとつ残らず、だ……」
床に散らばり血に沈んでいたのは、やはり個人で所持しているものだったか。あんなに念入りに、小型通信機すらも破壊する必要はあるのだろうか。まるで上層に知れることを恐れているかのような徹底ぶりだった。
通信機器のところにいた警官は、緊急事態を知らせようとしていたのだろう。普通なら破損が出た時点で何らかの信号が送られるなりするだろうが、それすら許さぬほど壊されていた。
第一階層では人死にも機材が壊されるのもよくある話。だから上層では流されていたのかもしれない。ここを襲撃した奴らは、もしかしてそれすらも計算に入れていたのでは?
うすら寒さを覚えて、俺は肩越しに後ろを見やる。人工の光がちらつく闇の向こうで、幾人もの視線と気配が未だこちらを追いかけている。増えるばかりで減ることがないそれらに追い立てられながら、俺たちは例の場所へと近づいてゆく。
足元に、紅くかすれた血の跡が現れた。重たいもの、死体を引きずった痕だろうか。まだ新しい。世見坂へと視線を投げれば、奴はもうその痕をたどり始めていた。
痕の原因はすぐに見つかった。もがれた手足の残骸と、引き裂かれて真っ二つになった胴体が無造作に転がされ、人工の光に無言のまま照らされている。首はない。中身も全部ぶちまけられて、変色した血が赤黒い海を作っている。未だ鉄の臭いが濃い。近くには、明らかに人間のものと異なる足跡がある。
背筋が冷たくなっていく。こんな状態の死体を見たのは、つい朝方のことだ。あのときとは違う、しかしあのときと同じような死体がここにある。奥へ視線を向ければ、点々と、足跡に添って死体が散らされていた。
「どうなってやがる……」
あの行軍で、世見坂たちが【獣】を全部殺したはず。それなのになぜ、またここに【獣】の痕跡が残っているのだろうか。
「……世見坂」
「わかっている」
対する世見坂の答えは短い。触れているばかりだったその手は、今や刀の柄をしっかりと握っている。前を見据える双眸は、は鮮やかな紅へと変貌していた。
獲物を狙う眼差し、あのときの戦闘と同じ、瞳。背筋がざわつくような艶と、おぞましさを含んだ色。薄闇の中、わずかな光を吸い取って光る鮮烈な赫から、目が離せない。
背後から、前方から、あらゆるところから、気配が、殺意が、ひたひたと静かに押し寄せてくる。寿命の近い灯りがちらつく中、世見坂が紅い視線を俺に向けた。
「――来る。避けろ」
鋭く声が放たれた、その直後。銃声が一発、沈黙を裂いた。
それを合図に、突如周囲の殺意が高まり弾ける。一斉に空気が動き出す。銃を構える音がかすかに聞こえ、俺はほぼ反射的に左へ飛び退った。世見坂も同時に右へと跳び、崩れかけた建物に背をつける。同時に前方および上方より、容赦ない銃弾の嵐が叩き込また。先ほどまで俺たちのいた場所に火花が爆ぜ、空気が一瞬で焦げついていく。
背後の気配が消えている。どうやら最初の銃声を合図に散開したらしい。統率が取れている、すなわち、組織的に動いている連中ということだ。
「“残す”な!! 殺しても構わねえ! やれ!!」
物騒な雄たけびが聞こえた。次いでばらばらと闇がヒトの形を吐き出してくる。
多い。二十人は下らない。皆異様に眼をぎらつかせながら、こちらに銃口を向けている。銃はどれも型落ち品のようだが、手入れされていて使い込まれているのがわかる。こちらの人数が少ないからこそ、ここで始末できると踏んだのだろう。事実、この状況は圧倒的に不利である。戦闘力の平凡な俺に、銃は得意ではない世見坂のふたりきりしかいないのだから。
「くそっ!! なんだこいつら!!」
「不夜城、気を付けろ!」
世見坂が刀を構えると、すぐさま足元に弾丸がぶち込まれる。これじゃ前に進むこともできやしない。俺も応戦しようと銃を抜いたとき、背後に嫌な気配が湧いて出た。
狙われている。舌打ちして辺りを見回す。すぐ近くに板が打ち付けられている廃墟の入口がある。やむを得ずそこを蹴破り中へと飛び込んだ。案の定、先ほどまでいたところに次々と、銃弾が叩きつけられていく。出口には火花と硝煙のにおい。中は中で埃が舞い飛び、思わず咳き込む。粘ついた鉄錆の臭いが鼻を突いたのは、そのときだった。
こみあげてくる吐き気を堪え、腕で鼻を覆って周囲を見回す。それなりに広い。昔は食堂か何かだったのだろうか、あちこちに壊れて砕けた木製の机や椅子、見慣れない機械などがいくつも転がっている。窓は大きいが、すべて鉄くずやボロボロの板が乱暴に打ち付けられている。隙間からは外の光が薄く差している程度。視界はかなり薄暗い。
妙に汚れた床には、食い散らされた死体と血溜まりが染みを作っていた。死体は皆無残に引き裂かれ、飛び出した内臓が食われている。どれもこれも、まだ、新しい。
このやり方は。この死に方は。鼓動が乱れて冷や汗が噴き出す。立ちすくむ俺の耳に、人の悲鳴やうめきにも似た声が刺さる。全身が総毛だつ。心臓がうるさい。強張る手を無理やり動かし、音のする方向へと銃口を向けた。
鉄くずと石で作られた瓦礫の奥から姿を現すのは、ヒトを歪につなぎ合わせた姿の【獣】だった。先ほどの【蜘蛛】ほどではないが、それでも知っている規模よりずいぶんとでかい。溶けかけた人間を縒り合わせた胴体、ぞろぞろと這う無数の腕。奇妙に膨れた頭、顔の中央には鼻孔がひとつ、人間の目が左右にびっしりと、虫の複眼のように寄り集まっていた。ばくりと裂けた口からは血錆の牙が覗き、臓物の一部が垂れさがっていた。
【百足】だ。まさか、ここいら一帯がこいつらの“巣”になっているというのか? 否。そんなことはありえない。確かに俺たちが来たときには、あの場所以外に【獣】は存在していなかった。ならばどうやってこいつらは入り込んできた? ここまで無傷で来れるはずがない。そもそも【獣】を見かけたなら、生きるのに必死な第一階層の連中が何もしないわけがない。
背中がざわつく。破壊された入口から、連中が覗き込んでいる気配がする。攻撃してこない。世見坂が追われているのか、銃撃音が向こう側からかすかに聞こえている。俺が出られないように、あいつが外に出ないように、複数人で張ってるらしい。
ちくしょうめ。そんなに俺がこいつに食われるところが見てえってのか。やはりこの連中が【獣】らをここに引き込んだのだ。おそらく死体を、あるいは生きた“餌”を使っておびき寄せ、手近な廃墟に閉じ込めたのだろう。あとはこんな風に“餌”を中に放り込んでやれば、【獣】どもは肉を取り込んで育っていく。食った分だけでかくなっていくなら、もっとでかく成長した【獣】であれば第三外殻などあっという間に突破しちまうだろう。そうしたらどうなるかなんて、もはや考える意味すらない。
「冗談じゃ、ねぇ……っ!!」
入口のほうへ一歩足を退くも、すぐさま銃弾が数発撃ち込まれる。逃げるなってか、くそったれ!!
【百足】がぎちぎちと牙を鳴らす。涎と臓腑の残骸が、血で汚れた顎を伝い落ちる。俺は必死で強張る足を動かし、距離を取ろうと試みる。こんなところで死んでたまるか。
後方でなく横へと動きながら数発ぶっ放してみるものの、多少どす黒い体液が噴き出たくらいで効いた様子はない。俺と奴の距離はおよそ大股で五歩。十分に離れているとはとても言えない。急所がどこかもわからない以上、むやみに弾丸を消費するのは得策ではないだろう。
どうしたらいい。どうすれば。考えろ。冷静になれ。人体急所はいくつもあるが、俺の腕では斬り落としたり致命傷を与えることは不可能に近い。下手に近づけば、返り討ちに合う可能性もでかい。
世見坂の声がかすかに聞こえる。俺を探しているのか。追われているのかもしれない。重たく湿ったものが這いずる音、不気味な呼吸音、鋭く風が、動いた。
とっさに横へ転がった瞬間、【百足】が俺のいた場所へ突っ込んできていた。壁がいとも簡単にひしゃげ、牙の形に穴が開いている。近くにあった木製の椅子は、無数の腕に絡めとられてあっけなく砕け散った。
不規則に緩急をつけて襲ってくる【百足】の猛攻を必死で避けながら、俺は逃げる方法を考えていた。ここは狭すぎる。大人の男を三人つなげた長さのそいつは、天井すらも利用してこちらへ飛び掛かってくる。一瞬でもいい、大きな衝撃を与えた隙に出口を突破することができれば。
周囲を見回す。【百足】のでかい図体で這いまわっているせいで、俺が来たとき以上に室内はめちゃくちゃになっていた。古い機械も潰されて、燃料と思しき水たまりがそこかしこにできている。
一か八かだ。あの液体が可燃性であることを祈りつつ、俺は腰に手を伸ばす。そのときふと、物入に指先が触れた。――そうだ、この中にはアレがある。利用しない手はない!
【百足】がぞわりと腕を伸ばしてくる。とっさに刀を抜いて腕を切り払い、飛びのいて物入に左手を突っ込んだ。無我夢中で探してつかみ出し、【百足】のツラめがけて放り投げる。一瞬【百足】の意識がそちらに向いたとき、俺は銃で“それ”をぶち抜いた。
消毒液と硝子の破片が【百足】の顔面に降りかかる。悲鳴が刺激臭と絡まりあって廃墟に響き、がむしゃらにのたうつ身体や腕が壁を破壊していく。攻撃を刀で防ぎながら、俺は外国製のジッポに火をつけ――【百足】の顔面へと放り投げた。
歪んだ顔面を激しい炎が包みこむ。甲高い悲鳴。悲鳴、悲鳴、悲鳴。叫び声。叫び。かきむしる指もまた炎が移り、断末魔がびりびりと全身を震わせる。もがき苦しみながら【百足】が床へと爪を立て、頭をこすりつけたその瞬間、熱と赫が燃え広がった。
読みは当たったようだ。あっという間に炎が巻きあがる。異変に気付いたか、外にいた連中が入口から顔を出す。
「どけやおらぁ!!」
燃え盛る炎に追われながら、俺は怯む連中の顔面を蹴りつけて廃墟の入口から飛び出した。悲鳴とともに炎に焼かれた【百足】が這い出して来る。巻き込まれた連中に焔が燃え移り、断末魔と共に引き潰されていく。ぶすぶすと肉や髪、人体の焦げる嫌な臭いが鼻をかすめる。ああくそ、見殺しにするのが嫌でたまらない。敵だってのに。だからこういうのは嫌いなんだよ、クソッタレめ。
俺は肩で息をしながら、無理やり意識と視線をソレらから外した。それから銃撃の音と怒声の聞こえる方角へと走り出す。
何ができるというわけではない。ただ、今はなぜだか舞うように戦う、世見坂の姿を見たかった。
遠くから、かすかに甘いにおいが香ってくる。花のような、果物のような、そのどちらでもないような。どこか官能を刺激する、独特な香りがする。
「――不夜城」
低く、深く、どこかひやりと響く静かな声音は、闇に溶けた夜更けを思わせる――世見坂だ。戻ってきたのか。
微睡みをたゆたっていた意識が浮上し、俺は慌てて目を開ける。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。上半身を起こせば、遮光布を遠慮がちに開けてこちらを覗く世見坂がいた。世見坂の頭越しに見える洋時計の針は、あれから二時間ほど進んでいる。時刻は夕刻過ぎ、その辺の飯屋が混み始める時間帯だろう。
「……悪ぃ、どうだった」
「ああ。どうやら入相大尉も、あの【獣】のことは違和感を覚えていらしたようでな。ただちに調査せよ、とのことだ」
驚いた。無駄なことを嫌う入相大尉が、まさかそのような答えを出すとは。とっさの反応に困り、俺は世見坂を凝視する。世見坂はわずかに眉を下げて微笑むと、一拍の間を置いて「ただし」と続けた。
「もしも調査するのであれば僕だけでせよ、との仰せだ」
いったい何を言っているのか。理解が遅れた。
「は……?」
間抜けな声が喉から漏れる。世見坂の紅い瞳が細められる。静かな微笑は崩れない。
「そのままの意味だ。単独任務、ということになるな。他部隊に協力を要請をするにも、上部に部隊派遣の申請をするにも、あまりに証拠が足りぬ。だが、もしあの【獣】らが人為的なものであるなら、調査は急がねばならぬと」
言いたいことはわかる。こんな曖昧な推測と憶測だけでは、部隊を動かすことなどできはしない。大尉の立場であれば、早急に上司を納得させるだけの理由が必要になるだろう。
だが。
「ンな無茶な話があるかよ、お前ひとりで行けってのか!? もしも万が一のことがあったら――」
「だから僕だけが行くのだよ、不夜城」
世見坂は、静かに微笑んでいる。逆光だというのに、瞳の色だけがひどく鮮やかで、どうしてか視線が外せない。
「万が一のことがあれば、犠牲は最小限でで済む。僕が戻ってこなければ、それを逆手に取って申告し、もう一度部隊を送り込む、とのことだ」
あまりにもその語り口が穏やかで、だからこそ話の中身の残酷さが浮き彫りになる。あの人はこいつに、死ぬつもりで行けと言っているのだ。もとはといえば、俺が言い出したことなのに。
言葉が出てこない。喉で詰まって、ほどけない。何も言えず睨むしかない俺に、世見坂が困ったように笑っている。
「……単独任務はよくあることだ。大尉は僕のような輩も信頼して、こうして任せてくださっている。僕もみすみす死ぬつもりはない。これまでだってそうしてきた。だから、君はここで休んでいてはくれぬか」
手が、遮光布から離れていく。俺はとっさにその腕をつかみ、引いた。視線が絡む。軍服の袖に刻まれた翡翠の紐が、手のひらに食い込む。
「……不夜城。僕はそろそろ往かねばならぬ。第一階層への列車が終わってしまう」
「なら、」
俺はどうにか、かすれる息とともに声を、言葉を吐きだした。紅いまなざしを己のそれで捕まえて、手に強く力を込めて。
「俺も、往く」
腹から必死に絞り出し、一言それだけ、伝えた。それが精いっぱい、だった。
世見坂が二、三度瞬きする。ひとつ、ふたつ、呼吸を重ねて、それからやっと、返事が返る。
「……もしも僕が動けなくなったなら。即座に撤退し、入相大尉へ報告を入れてくれ。必ずそうすると、約束してほしい」
こいつは何を言いやがる。俺は衛生兵だ。目の前で死にかけている仲間を助けるのが俺の仕事、見捨てることなどできやしない。そんなことわかっているくせに。
「そうならねえように、できる限り補佐する。何が何でも連れて帰る。俺の目の前で死んだら許さねえからな」
だからあえて、そう言った。世見坂はまた一呼吸の沈黙を挟み、諦めたように目を閉じてうなずく。
「……わかった。努力する。往こう」
俺は世見坂から手を離し、寝台から飛び降りた。すぐさま軍服を整え、銃と銃弾の予備を脚に巻いて固定する。衛生兵に渡される物入は、応急処置用の道具が入っている。中身はここに戻る前に補充してきたから問題はない。腰に巻いて提げ、最後に刀を帯びてから、俺は外へと向かう世見坂の後を追った。
*
第一階層。第三外殻を抜け、第二外殻から第一外殻への境へと向かう。相変わらずここは空気が張り詰め、すえたにおいが充満している。今朝がた来たときよりも暗いのは、外が夜だからだろう。
この【塔】の外壁は、どういうわけか外の光を内壁に写し取るようになっている。もっとも、ここは歪に建て増しされた建造物ばかりで、ろくに外の光なんざ見えやしないわけなのだが――それでも全体的な明るさは多少変わる。
ちらちらと視界の端をかすめるのは、今にも息絶えそうな人工の光。さらに一本奥側で、おそらく女を連れ込む場所と思しき虹光灯が、うすぼんやりと存在を主張している。錆びた水がその表面を流れ落ち、金属や石の壁に汚い痕を幾筋も作っていた。
誰もいない。否、俺たちの進む周囲にわだかまる闇が、あちらこちらでうごめいている。俺たちだけになったからこそはっきりと感じる。俺たちは今、確実に複数人に“見られて”いた。
そこかしこの壁から。背後の物陰から。向こう側の道から。頭上の廃墟から。俺たちの行動のひとつひとつが、何者かによって監視されている。肌に突き刺さる視線を浴びながら、俺は世見坂の隣を黙々と歩いていた。
行軍の道筋とは異なる細い道を、ただひたすらに進んでいく。俺たちが最初に来た道から外れた、いわゆる裏路地のような場所だ。
「不夜城」
世見坂が低くささやきかける。その手は、第一階層に来たときからずっと腰の刀に触れている。
「……警察の詰め所がある。足を止めれば襲われる可能性がある……通り過ぎながら、中の様子を確認しよう」
言われるままに、俺は世見坂の向こう側へと目を走らせる。確かに道の少し先に、白い外壁の小さな建物が見えた。掲げられた地光紋は薄汚れ、かろうじて周囲を縁取る翡翠の色が見て取れる。【獣】の巣になっていた場所からもっとも近い警察の詰め所のようだ。
と――妙な音が聞こえてきて、俺は眉を寄せた。まるで通話系の機械が壊れたときのような、砂を噛んで擦るのに似た、ざりざりと耳障りな音がする。
世見坂もそれに気づいたのか、軽く首を巡らせる。俺も少しばかり歩く速度を落としながら、通り過ぎざまに中の様子を確認した。
開け放たれた扉の向こうは、惨憺たる有様であった。白い壁が赤黒く染め上げられ、濃い血の臭いと腐臭が漂ってくる。警察官がひとり、通信機器と思しきものに覆いかぶさって息絶えている。背中には大きな傷跡。骨が露出するまで切り裂かれている。もうひとりもめちゃくちゃに身体を引き裂かれて床に転がり、澱んだ目で天井を仰いでいた。中にある機械はすべて破壊され、耳障りな音を垂れ流し続けている。蠅がそこかしこに飛び回り、あちこちに蛆が湧いて死体を這いまわっていた。
俺たちが中を覗いた瞬間、周囲の気配がざわめいた。一気に距離が縮まっていく。殺気が膨れ上がり、今にもはじけ飛びそうになっている。下手に探りを入れたら、何をされるかわかったもんじゃない。
俺たちは足を止めることなく、そのまま警察の詰め所を通り過ぎた。視線も、気配も、張り詰めた空気もそのままに、連中はじわじわと数を増やしながらついてくる。
「【獣】の仕業に見せかけているようだが……あれは【獣】ではないな」
再び世見坂の隣に並ぶ俺に、世見坂が声をひそめたままぼそりと言った。
確かに、警官たちの身体の損壊はひどいものだった。だが、【獣】に襲われ死んだ連中とは決定的に異なる点がある。
「ああ。連中、刻まれちゃいるが食い散らかされてねえ。パッと見た限り五体満足、内臓も無事だったぜ」
「機材もすべて破壊されていた。個人の通信機器までひとつ残らず、だ……」
床に散らばり血に沈んでいたのは、やはり個人で所持しているものだったか。あんなに念入りに、小型通信機すらも破壊する必要はあるのだろうか。まるで上層に知れることを恐れているかのような徹底ぶりだった。
通信機器のところにいた警官は、緊急事態を知らせようとしていたのだろう。普通なら破損が出た時点で何らかの信号が送られるなりするだろうが、それすら許さぬほど壊されていた。
第一階層では人死にも機材が壊されるのもよくある話。だから上層では流されていたのかもしれない。ここを襲撃した奴らは、もしかしてそれすらも計算に入れていたのでは?
うすら寒さを覚えて、俺は肩越しに後ろを見やる。人工の光がちらつく闇の向こうで、幾人もの視線と気配が未だこちらを追いかけている。増えるばかりで減ることがないそれらに追い立てられながら、俺たちは例の場所へと近づいてゆく。
足元に、紅くかすれた血の跡が現れた。重たいもの、死体を引きずった痕だろうか。まだ新しい。世見坂へと視線を投げれば、奴はもうその痕をたどり始めていた。
痕の原因はすぐに見つかった。もがれた手足の残骸と、引き裂かれて真っ二つになった胴体が無造作に転がされ、人工の光に無言のまま照らされている。首はない。中身も全部ぶちまけられて、変色した血が赤黒い海を作っている。未だ鉄の臭いが濃い。近くには、明らかに人間のものと異なる足跡がある。
背筋が冷たくなっていく。こんな状態の死体を見たのは、つい朝方のことだ。あのときとは違う、しかしあのときと同じような死体がここにある。奥へ視線を向ければ、点々と、足跡に添って死体が散らされていた。
「どうなってやがる……」
あの行軍で、世見坂たちが【獣】を全部殺したはず。それなのになぜ、またここに【獣】の痕跡が残っているのだろうか。
「……世見坂」
「わかっている」
対する世見坂の答えは短い。触れているばかりだったその手は、今や刀の柄をしっかりと握っている。前を見据える双眸は、は鮮やかな紅へと変貌していた。
獲物を狙う眼差し、あのときの戦闘と同じ、瞳。背筋がざわつくような艶と、おぞましさを含んだ色。薄闇の中、わずかな光を吸い取って光る鮮烈な赫から、目が離せない。
背後から、前方から、あらゆるところから、気配が、殺意が、ひたひたと静かに押し寄せてくる。寿命の近い灯りがちらつく中、世見坂が紅い視線を俺に向けた。
「――来る。避けろ」
鋭く声が放たれた、その直後。銃声が一発、沈黙を裂いた。
それを合図に、突如周囲の殺意が高まり弾ける。一斉に空気が動き出す。銃を構える音がかすかに聞こえ、俺はほぼ反射的に左へ飛び退った。世見坂も同時に右へと跳び、崩れかけた建物に背をつける。同時に前方および上方より、容赦ない銃弾の嵐が叩き込また。先ほどまで俺たちのいた場所に火花が爆ぜ、空気が一瞬で焦げついていく。
背後の気配が消えている。どうやら最初の銃声を合図に散開したらしい。統率が取れている、すなわち、組織的に動いている連中ということだ。
「“残す”な!! 殺しても構わねえ! やれ!!」
物騒な雄たけびが聞こえた。次いでばらばらと闇がヒトの形を吐き出してくる。
多い。二十人は下らない。皆異様に眼をぎらつかせながら、こちらに銃口を向けている。銃はどれも型落ち品のようだが、手入れされていて使い込まれているのがわかる。こちらの人数が少ないからこそ、ここで始末できると踏んだのだろう。事実、この状況は圧倒的に不利である。戦闘力の平凡な俺に、銃は得意ではない世見坂のふたりきりしかいないのだから。
「くそっ!! なんだこいつら!!」
「不夜城、気を付けろ!」
世見坂が刀を構えると、すぐさま足元に弾丸がぶち込まれる。これじゃ前に進むこともできやしない。俺も応戦しようと銃を抜いたとき、背後に嫌な気配が湧いて出た。
狙われている。舌打ちして辺りを見回す。すぐ近くに板が打ち付けられている廃墟の入口がある。やむを得ずそこを蹴破り中へと飛び込んだ。案の定、先ほどまでいたところに次々と、銃弾が叩きつけられていく。出口には火花と硝煙のにおい。中は中で埃が舞い飛び、思わず咳き込む。粘ついた鉄錆の臭いが鼻を突いたのは、そのときだった。
こみあげてくる吐き気を堪え、腕で鼻を覆って周囲を見回す。それなりに広い。昔は食堂か何かだったのだろうか、あちこちに壊れて砕けた木製の机や椅子、見慣れない機械などがいくつも転がっている。窓は大きいが、すべて鉄くずやボロボロの板が乱暴に打ち付けられている。隙間からは外の光が薄く差している程度。視界はかなり薄暗い。
妙に汚れた床には、食い散らされた死体と血溜まりが染みを作っていた。死体は皆無残に引き裂かれ、飛び出した内臓が食われている。どれもこれも、まだ、新しい。
このやり方は。この死に方は。鼓動が乱れて冷や汗が噴き出す。立ちすくむ俺の耳に、人の悲鳴やうめきにも似た声が刺さる。全身が総毛だつ。心臓がうるさい。強張る手を無理やり動かし、音のする方向へと銃口を向けた。
鉄くずと石で作られた瓦礫の奥から姿を現すのは、ヒトを歪につなぎ合わせた姿の【獣】だった。先ほどの【蜘蛛】ほどではないが、それでも知っている規模よりずいぶんとでかい。溶けかけた人間を縒り合わせた胴体、ぞろぞろと這う無数の腕。奇妙に膨れた頭、顔の中央には鼻孔がひとつ、人間の目が左右にびっしりと、虫の複眼のように寄り集まっていた。ばくりと裂けた口からは血錆の牙が覗き、臓物の一部が垂れさがっていた。
【百足】だ。まさか、ここいら一帯がこいつらの“巣”になっているというのか? 否。そんなことはありえない。確かに俺たちが来たときには、あの場所以外に【獣】は存在していなかった。ならばどうやってこいつらは入り込んできた? ここまで無傷で来れるはずがない。そもそも【獣】を見かけたなら、生きるのに必死な第一階層の連中が何もしないわけがない。
背中がざわつく。破壊された入口から、連中が覗き込んでいる気配がする。攻撃してこない。世見坂が追われているのか、銃撃音が向こう側からかすかに聞こえている。俺が出られないように、あいつが外に出ないように、複数人で張ってるらしい。
ちくしょうめ。そんなに俺がこいつに食われるところが見てえってのか。やはりこの連中が【獣】らをここに引き込んだのだ。おそらく死体を、あるいは生きた“餌”を使っておびき寄せ、手近な廃墟に閉じ込めたのだろう。あとはこんな風に“餌”を中に放り込んでやれば、【獣】どもは肉を取り込んで育っていく。食った分だけでかくなっていくなら、もっとでかく成長した【獣】であれば第三外殻などあっという間に突破しちまうだろう。そうしたらどうなるかなんて、もはや考える意味すらない。
「冗談じゃ、ねぇ……っ!!」
入口のほうへ一歩足を退くも、すぐさま銃弾が数発撃ち込まれる。逃げるなってか、くそったれ!!
【百足】がぎちぎちと牙を鳴らす。涎と臓腑の残骸が、血で汚れた顎を伝い落ちる。俺は必死で強張る足を動かし、距離を取ろうと試みる。こんなところで死んでたまるか。
後方でなく横へと動きながら数発ぶっ放してみるものの、多少どす黒い体液が噴き出たくらいで効いた様子はない。俺と奴の距離はおよそ大股で五歩。十分に離れているとはとても言えない。急所がどこかもわからない以上、むやみに弾丸を消費するのは得策ではないだろう。
どうしたらいい。どうすれば。考えろ。冷静になれ。人体急所はいくつもあるが、俺の腕では斬り落としたり致命傷を与えることは不可能に近い。下手に近づけば、返り討ちに合う可能性もでかい。
世見坂の声がかすかに聞こえる。俺を探しているのか。追われているのかもしれない。重たく湿ったものが這いずる音、不気味な呼吸音、鋭く風が、動いた。
とっさに横へ転がった瞬間、【百足】が俺のいた場所へ突っ込んできていた。壁がいとも簡単にひしゃげ、牙の形に穴が開いている。近くにあった木製の椅子は、無数の腕に絡めとられてあっけなく砕け散った。
不規則に緩急をつけて襲ってくる【百足】の猛攻を必死で避けながら、俺は逃げる方法を考えていた。ここは狭すぎる。大人の男を三人つなげた長さのそいつは、天井すらも利用してこちらへ飛び掛かってくる。一瞬でもいい、大きな衝撃を与えた隙に出口を突破することができれば。
周囲を見回す。【百足】のでかい図体で這いまわっているせいで、俺が来たとき以上に室内はめちゃくちゃになっていた。古い機械も潰されて、燃料と思しき水たまりがそこかしこにできている。
一か八かだ。あの液体が可燃性であることを祈りつつ、俺は腰に手を伸ばす。そのときふと、物入に指先が触れた。――そうだ、この中にはアレがある。利用しない手はない!
【百足】がぞわりと腕を伸ばしてくる。とっさに刀を抜いて腕を切り払い、飛びのいて物入に左手を突っ込んだ。無我夢中で探してつかみ出し、【百足】のツラめがけて放り投げる。一瞬【百足】の意識がそちらに向いたとき、俺は銃で“それ”をぶち抜いた。
消毒液と硝子の破片が【百足】の顔面に降りかかる。悲鳴が刺激臭と絡まりあって廃墟に響き、がむしゃらにのたうつ身体や腕が壁を破壊していく。攻撃を刀で防ぎながら、俺は外国製のジッポに火をつけ――【百足】の顔面へと放り投げた。
歪んだ顔面を激しい炎が包みこむ。甲高い悲鳴。悲鳴、悲鳴、悲鳴。叫び声。叫び。かきむしる指もまた炎が移り、断末魔がびりびりと全身を震わせる。もがき苦しみながら【百足】が床へと爪を立て、頭をこすりつけたその瞬間、熱と赫が燃え広がった。
読みは当たったようだ。あっという間に炎が巻きあがる。異変に気付いたか、外にいた連中が入口から顔を出す。
「どけやおらぁ!!」
燃え盛る炎に追われながら、俺は怯む連中の顔面を蹴りつけて廃墟の入口から飛び出した。悲鳴とともに炎に焼かれた【百足】が這い出して来る。巻き込まれた連中に焔が燃え移り、断末魔と共に引き潰されていく。ぶすぶすと肉や髪、人体の焦げる嫌な臭いが鼻をかすめる。ああくそ、見殺しにするのが嫌でたまらない。敵だってのに。だからこういうのは嫌いなんだよ、クソッタレめ。
俺は肩で息をしながら、無理やり意識と視線をソレらから外した。それから銃撃の音と怒声の聞こえる方角へと走り出す。
何ができるというわけではない。ただ、今はなぜだか舞うように戦う、世見坂の姿を見たかった。
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