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外伝1【翡翠に懐古す】
其の六
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耳を澄ませながら瓦礫の林を駆け抜ける。遠くから罵声と銃声が交互に入り乱れ、それらが絶え間なく鳴り響いている。世見坂を追っているのだろう。
よく見れば、廃墟のいくつかは先ほどの建物と同じように封じられている。雑に取り付けられた板や鉄くずの隙間から、本数や形状のおかしいヒトの腕や、長い舌のようなものが伸ばされたり、あるいは巨大な目がいくつも覗いているのを幾たびも見かけていた。漏れ聞こえるのは、悲鳴とうめきを縒り合わせたような声。
間違いない。中に【獣】がいる。ああやって外に出られないようにして、“餌”を放り込むときだけ開けるのだろう。出られないところを見ると、【獣】でも知能の低い連中を選別しているのかもしれない。しかしなぜ、そこまでしてこいつらを?
と――突如近い場所で動いた物音に、俺は思考を中断した。足音はひとつ。単独行動しているらしい。鉢合わせはまずい。正攻法では圧倒的に不利になる。とっさに瓦礫の陰に滑り込み、銃を構えた。
物陰と薄暗さで限定された視界の中、夜の色した長い髪と、翡翠を差した軍服が視界に飛び込んでくる。世見坂だ。手にした刃は汚れていない。警戒するように辺りを見回している。
俺は銃を下ろし、代わりに小さく呼びかけた。
「世見坂、不夜城だ」
弾かれたようにこちらを振り向いた世見坂が、紅い瞳を細めて表情を緩める。
「不夜城……! よかった、無事だったか」
駆け寄ってくるのに手を挙げて応え、俺も世見坂のほうへと歩を進めた。
「よかぁねえぜ、ったく。おかげでえらい目にあった」
「すまぬ、何度かそちらへ戻ろうとしたのだが……銃撃で阻まれて助けられなかった」
世見坂は申し訳なさそうに眉を寄せた。よく見れば肌にはかすったと思しき火傷の痕がある。軍服もあちらこちらが破れていた。この様子だと、かなり長い時間追い回されていたのだろう。
あの数の敵から逃げながら、俺を助けようとしていたのか。まったく、お人好しにも程がある。ほっといてもよかったのに。……なんてのは建前で、俺のことを優先して気にしてくれたのは正直嬉しかった。
「いいって。気にすんな。それより、入口がふさがってるところはどうやら全部【獣】の檻になってるようだぜ。俺が飛び込んだところもそうだったからな」
俺があの場所の入口を蹴破ったことは偶然だが、その後の攻撃は、今考えれば完全に中へ追いやるためのものだった。つまり俺はまんまと連中の都合のいいように動いちまったわけだ。クソッタレめ。
「……なるほど。君が入った場所の入口に数人いたのはわかったが、攻撃する様子がなかったのはそのせいか」
世見坂が小さくつぶやいた。瞳の赤がちらりと光る。
「ああ。どうやら連中、【獣】どもを飼ってるつもりらしいぜ。何を企んでいやがるんだか知らねえが……このままにするのはまずい。いったん上に」
戻ろう。そう言いかけた俺を手で制し、世見坂の視線がすいと逸れた。
「……君がいない間、情報を少しでも引き出せればと、あえて逃げ回っていたのだが――それだけ情報が得られれば十分そうだ」
ばらばらと、複数の足音が聞こえてくる。確実に、こっちに近づいてきている。気づいたのかもしれない。
「追われている間におおむねの人数と頭らしき人物を把握している。……鬼ごっこは終わりだな」
世見坂は乱れた髪をかきあげながら、音のするほうへ顔を向けている。つい先ほどまでとは様子が違う。目は鮮やかな紅に染まり、どこか獰猛な光をたたえていた。
こいつ、まさか。
「おい、待て。まさか戦うつもりなのか?」
「銃撃がいささか厄介だが、素人の集まりだ。銃撃の合間の隙も多い。懐に入れば造作もなかろう」
世見坂は淡々と言葉を連ね、確実に増えていく敵の足音に耳を傾けている。冗談を言っているようには思えない。
相手は数十人にもなる集団、対する俺たちはふたりきりだ。勝ち目なんてあるわけが無い。ここは一度退いて応援を呼ぶのが筋ってもんだろう。いくら世見坂でも無茶がすぎる。
それでも、世見坂は薄く笑っていた。歓喜の笑み、恍惚の笑み。これから始まる激しい戦闘を心待ちにしているかのようだ。背筋がぞわりと痺れていく。くそ、まただ。こういうとき、どうしてもこいつから視線が外せなくなる。どこからどう見ても野郎だってのに、目眩がするほどの艶があるのは何でなんだ。いや違う、こいつは血を浴びているときのほうが、もっと――ああくそ、違うってんだよ、俺は何を考えてるんだ!
くらくらする頭をひとつ振り、俺は銃弾を詰め直す。こいつがやる気だってんなら、俺ひとりで逃げる訳にもいかない。ああくそ、ちくしょうめ。もうどうにでもなれってんだ。
「援護はしてやる。数減らしは期待はすんな」
言葉の隙間を縫って、足音が、気配が、声が、殺気が近づいてくる。ずいぶんと大勢だ。あれからさらに増えたのか、いや、おそらく隠れていた奴らも出てきて加わっているんだろう。世見坂が姿をくらませたことに業を煮やしているのか、聞くに堪えない罵声が響いてくる。
世見坂の笑みが深くなる。より深く、獰猛な刃物の笑みになる。右手に握る刀をくるりと回し、
「ああ。任せたよ、不夜城」
俺の言葉に熱っぽく答えると、世見坂は大きく一歩を踏み出し走り出した。
現れた敵へと躍りかかる。轟く銃声を跳躍して躱し、一気に距離を詰める。長い髪がなびく。ひとりを蹴りつけ首を刎ねる。血飛沫が噴き出し崩れ落ちる。二人目、怯んだ敵の喉元で銀がひらめく。切り裂く。引き裂く。紅い花が咲いて、咲いて、散って、散って、地面に赤く降り積もる。返す刃で三人目を斬り倒し、避けようとする四人目の顎から脳天を刺し貫き、五人目が振りかざした腕を斬り捨て胸を裂き、それを踏み台に跳んで六人目の頭蓋をぶち割る。
七人。八人。九人。十人。もっと。もっと。もっと。みるみるうちに世見坂の髪が、肌が、服が、すべてが返り血に染まっていく。血と臓物がぶちまけられ、屍が重なるその様はまさに地獄だ。だが、死体と体液と内臓にまみれたこの場所で、命を刈り取り踏み散らしながら舞う男の様は――あまりにも美しく、あまりにもおぞましいものであった。
連中が怯むのが気配でわかる。銃撃は乱れて不揃いになる。怒号はいつしか悲鳴に塗り替わる。逃げる敵は皆自身の、他人の血の海へと沈んでいく。こちらを仕留めようと立ち向かう奴も同じ道をたどる。世見坂は笑っている。楽しそうに声を立てて、次々と獲物を手にした刃で食らっていく。
化け物。そんな言葉が頭をよぎる。
わかっている。会話ができる、感情もある、傷つくことだってある、こいつはただの人間なんだだ。わかっている。わかっているのに、本能が怯えて拒絶しようとしている。
身体がすくむ。目の前で人が死ぬのを見たくはない。俺は医者だ。どんな奴だったとしても、誰かが死ぬのを黙って見ていることなどできやしない。それなのに、あいつが舞うごとにもたらされる圧倒的な死から、目を離すことができないでいる。
息が苦しい。心臓がめちゃくちゃに波打っている。世見坂が興奮を隠すことなく、ちろりと唇を舐めている。恍惚に蕩けた緋色が細められる。手足がしびれる。強張って痛む。背筋から全身を駆け巡り、脳天を痺れさせる得体のしれない感覚の正体を、知ってしまったらいけない気がした。
――そのとき、一際鋭く銃声が走り抜けた。俺の惑う意識を裂いて飛来したそれは、ヒトの群れの奥から世見坂の右肩をいとも簡単に貫いた。
「世見坂!!」
思わず飛び出して狙う俺の頬を、もう一発銃撃がかすめていく。野郎どもの奥から現れたそいつは、他の連中よりも一際小柄だ。顔を薄汚い布で巻いて隠し、着物とも洋装ともつかないあせた色のぼろきれをまとっている。
そいつが手にした銃口からは、細く硝煙がたなびいている。世見坂がその煙を視線で追いかけ、
「ふふ、っ」
やがて楽し気に、かすれた吐息ではっきりと、笑った。
笑いながら左手で刀を持ち直す。あいつはもともと左利きだ。右手で握っているのは、相手を油断させるためでしかない。右肩を負傷しているというのに、まるで痛みなど感じていないようだ。
「ふふ、あは、ははっ!」
左手を翻し、世見坂がしなやかに躍りかかる。邪魔をしようと前へ立ちはだかる連中を、鮮やかに、躊躇もなく斬っていく。悲鳴、怒声、戦いの音、入り乱れるその中で、世見坂の笑う声がひやりと冷たく通って聞こえた。
俺もこちらを狙うやつらの銃を弾き飛ばし、足を狙って引き金を引く。そのあとを追って血飛沫が舞う。花のように。こんな薄暗い場所だというのに、ひどくくっきりと染まっていく。世見坂のしなやかな身体が、白い肌が、夜の髪が、何もかもが。あでやかに。あざやかに。命乞いを踏み散らし、罵倒すらも裂き潰して、あいつは綺麗に舞っていた。
ああ、本当に、どうかしてるとしか思えない。こんな大勢を、しかも飛び道具を持っている相手を、こんなにも造作なく、こんなにも楽しそうに、死体の山に変えちまうなんて。
「殺せ! 逃げるな、殺せ! 死体は奴らにくれてやれ!! 腕に目印でもぶっ刺して軍に送り返してやれ!!」
顔を隠した最奥の奴が、声をひっくり返して怒鳴っている。どうやらあいつが頭領らしい。我に返り、俺は銃をぶっ放しながらがなり立てた。
「おいてめぇら!! あんなモン連れ込みやがって、いったい何企んでやがる!!」
「ハッ! クソ軍人どもはどこまでもお気楽だなぁ!!」
そんな俺を馬鹿にしたようなまなざしで眺めると、頭領と思しきチビが鼻で笑う。
「俺らの頭にケツ乗せて押さえこんでるクソみてぇな上層どもを、俺らと同じ目に遭わせてやるのさ!!」
布越しでもわかる歪んだ笑みをたたえ、そいつは細い両腕を広げてさらに言葉を連ねていく。
「平和ボケした奴らが無様に悲鳴を上げて逃げ回って、お綺麗な街並みは肉の塊と血の海に早変わり!! そうすりゃ強いモンが上に立つ!! 地位は逆転、弱肉強食、平等な世界の出来上がり!! 俺らの天下だ!!」
要するに、いつまでもここから上層へ往くことができないがゆえの逆恨みってことか。気持ちはまあ、共感できないわけじゃない。【獣】を使おうなんて誰も考えつかなかったことをやろうとする無謀さも、嫌いじゃあない。しかし、そうした輩を止めるのが俺たち軍人の務めだ。もっと別の方法だったなら、少なくとも世見坂がこんな風になるのを回避できたかもしれないのに。
考えを巡らせる俺の視界に、何か楕円形のものが飛び込んでくる。黒光りする球状のソレは、頭の上に金具がついていない。まさか――手榴弾か!
とっさにその場から逃れる俺の背に、衝撃と爆風が牙を剥いて襲い掛かった。背中を強い痛みと熱が刺し貫く。俺はそのまま前のめりに吹っ飛ばされながら、瓦礫の山へとたたきつけられた。どうにか受け身を取ったものの、したたかに身体を打ち付けて息が詰まる。
内臓に傷はなさそうだが、左の上腕にひどい痛みがある。視線を向ければ、鉄くずの一部が深々と腕に刺さっていた。下手に引き抜いても自力で縫合できない部位の上に、傷がふさがらずに失血する恐れがある。まったく、衛生兵がこんな状態になるなんて、笑おうにも笑えない。
「う、ぐッ、くそ……!」
痛みをこらえて上体を起こすが、先ほどの名残の煙で前が見えない。仲間ごと吹っ飛ばしたのだろう、近くに手足やらが散乱している。世見坂の姿が見えない。敵の頭領もいない。あいつらはどこに。
首を巡らせる俺の向こう、煙の奥で銃声が木霊する。一発、二発聞こえた時点で、俺は痛みもそのままに弾かれたように駆け出した。
地面を汚す血で何度も滑りながら前へ進む。銃声はなおも重なっていく。頭領と交戦しているのかもしれない。どこだ。どこにいる。焦り駆ける俺の耳に突き刺さる、金属同士がぶつかり合う音と絶え間ない発砲音。何度も重なり絡み合いながら聞こえてくるそれに焦りばかりが募っていく。ちくしょう、頼むから俺のいないところで死んでくれるな!
走る。走る。息が切れる。傷が痛む。鋼の骨が左腕に刺さったままだ。近くなる。近づいてくる。心臓がうるさい。足が重い。それでも止まるわけにはいかない。走る。走る。聞こえてくる。物言わぬ死体が道すがらに転がっている。みんな喉を、身体に深い傷を負っている。世見坂がやったとすぐにわかる。まだ生きている。まだ。
金属が金属をはじく音。発砲、鋼と鋼が噛み合う悲鳴、銃声。近くなる。近づいていく。そうして俺がいくつめかの道を曲がったとき――ぎん、と鈍く高い音がした。
見上げる俺の視界を、黒い塊が吹っ飛んでいく。奴の持っていた銃か。視線を下ろせば、その先にふたつの影。世見坂が肩で呼吸をしながら刀を喉へ突きつけている。横顔でもはっきりとわかる、世見坂はどこか陶酔した表情で笑っていた。
一方の頭領は顔の布がボロボロに引き裂かれていた。どこか幼さを残す中性的な顔立ちには、不利な状況への苛立ちと焦り、目の前の敵への恐怖が強く刻み込まれている。攻撃を受けて裂けた胸元からはわずかなふくらみが覗く。女だったのか。
「世見坂、」
俺はかすれる呼吸の下で名を呼びながら、世見坂たちの傍へと近寄っていく。世見坂は一瞬だけ俺を一瞥し、すぐに女へ目を戻した。答えはない。一方の女は、俺の姿を認めた途端に小刻みに震え始めた。膝から崩れ落ちて座り込み、刃を拒否するように首を振る。
「い、いやだ、お願い、殺さないで……! あ、あたし、ホントはこんなことしたくなかったの……! みんなに脅されて、でも仕方なくて!」
世見坂は応えない。わずかな光を吸って真っ赤に染まる眼差しが、目の前の女を映している。
「ごめんなさい、謝るから、お願い……殺さないで……な、なんでも、するから、ね、ねえ、お願い……」
女は頬を濡らしながら、胸元へと手をやり言葉を細く並べていく。世見坂は何も応えない。座り込んだ女が媚びるように世見坂を見上げる。視線が絡む。やがて世見坂が緩やかに刀の切っ先を下げていく――刹那。
女の白い胸元に、ひとつ、ふたつと花弁が散った。鮮やかな紅。そう、そこかしこで海を作っている、血の色と同じ、目の覚めるような赫。やがてそれは次々と降り積もり、紅の範囲を広げながら地面へと流れて滴っていく。
世見坂の刀が、いつの間にか女の細い喉首に食い込んでいた。音もなく肉を裂いた銀の刃が、ゆっくり、ゆっくりと滑っていく。
「あ、が、」
女が潰れた声で呻く。口からあふれた血が伝う。この状況から逃れようと細い指が首に触れて、それから華がひとつ、咲いた。
「……駄目だろう? そんなに喉を見せていては」
――まるで僕に、斬ってくれ、と言っているようなものではないか。
独り言ちる世見坂の声は、熱と興奮に濡れ、どこか夢見るような溶けた響きを含んでいた。
妙に軽い音を立てて倒れて、女はそれきり動かなくなる。がらん、と重たい音も共に落ちる。女の傍らには、よく研ぎ澄まされた一振りの小刀。おそらく世見坂が情をかけた時点で、そのまま動脈を掻き切るつもりだったのだろう。
いったい何が起きていたのか、何も把握できずに立ちすくむ俺を、世見坂の紅い眼が映しだす。
「……なぁ、不夜城。敵はもう、いないのか?」
熱を帯びるまなざしに、蕩けるような問いかけに、俺は一瞬返答に詰まる。
「な、に?」
「喉が渇いて仕方がないのだ、なあ、もう少しだけ……斬ってもよいと、言ってくれ」
その瞬間、俺の背筋を何かが走り抜け、全身が粟立った。
こいつはまだ殺し足りないと言っているのだ。こんなにもたくさん殺しておいて、まだ足りないなんてどうかしている。【獣】どものときはそんなこと、一言だって口にしていなかったのに。
得体のしれないものへのうすら寒い恐怖感が、本能に訴えかけている。だというのに、なぜか恍惚とした紅い双眸から目が離せない。
世見坂の白い肌は淡く上気し、うっすらと汗をかいていた。舌が唇をなぞるその様は――ああ、くそ、こんなの野郎に使う表現じゃない。そうじゃないが、こんなのまるきり娼婦みたいなツラじゃあないか。どこからどう見たって野郎だっていうのに。
世見坂の手が伸びる。俺の頸に、手が触れる。こんなにも赫は鮮やかなのに、他者の命で染まった白い手はずいぶんと冷たかった。動脈の位置を確かめるように、世見坂は何度も何度も俺の頸の皮膚を手のひらで味わっている。物足りないと言いたげなその行動を、俺はただ眺めることしかできなかった。
爛々と光る瞳はまさに、ヒトのものとは呼べそうにない。殺した感覚に酔いしれて、今、ここで次の殺戮の許可を俺に求めている。俺には、いや、普通の人間には理解できないその情動が、こいつを別の生き物にしてしまっている。
俺はどうにか強張った腕を動かし、世見坂の手首を強くつかんだ。そのままゆっくりと引き剥がし、整った男の顔を見つめ返す。血を浴び、他者の命を切り刻んだからこそ、なのか。頭の芯がぐらつくほどに、むせかえるような匂いがする。甘く蕩ける、官能に訴えかけてくる香りが。
狂気の沙汰を内包した、どうしようもないヒトデナシ。人間とはまるで異なる理論を抱いて生きている男。おぞましいほど美しく、あでやかなまでに狂っている、さながらヒトの形をした獣だった。吐き気がこみあげてくるほど醜悪で、それがどこまでも蠱惑的な、誰かを狂わせる魔性の、獣。
ああ、そうか。理解してしまった。俺はこいつが艶を滴らせ、熱を帯び、蕩けて香るこの様を――こいつが血に、戦に、狂う様を。……もっと見たいと、思ってしまっている。どうやら俺もどうかしちまったらしい。体内を駆け巡るこの情動を何と呼ぶのか、俺は嫌というほど知っている。
握りしめた手を離せないまま、俺はゆっくり歩きだす。世見坂も抜身の刀を手にしたままで、黙って俺のあとをついてくる。皮膚を通して溶け合う体温に、俺はどうしようもなく――興奮、していた。
……ああ、くそ。どうかしてるぜ。本当に。
よく見れば、廃墟のいくつかは先ほどの建物と同じように封じられている。雑に取り付けられた板や鉄くずの隙間から、本数や形状のおかしいヒトの腕や、長い舌のようなものが伸ばされたり、あるいは巨大な目がいくつも覗いているのを幾たびも見かけていた。漏れ聞こえるのは、悲鳴とうめきを縒り合わせたような声。
間違いない。中に【獣】がいる。ああやって外に出られないようにして、“餌”を放り込むときだけ開けるのだろう。出られないところを見ると、【獣】でも知能の低い連中を選別しているのかもしれない。しかしなぜ、そこまでしてこいつらを?
と――突如近い場所で動いた物音に、俺は思考を中断した。足音はひとつ。単独行動しているらしい。鉢合わせはまずい。正攻法では圧倒的に不利になる。とっさに瓦礫の陰に滑り込み、銃を構えた。
物陰と薄暗さで限定された視界の中、夜の色した長い髪と、翡翠を差した軍服が視界に飛び込んでくる。世見坂だ。手にした刃は汚れていない。警戒するように辺りを見回している。
俺は銃を下ろし、代わりに小さく呼びかけた。
「世見坂、不夜城だ」
弾かれたようにこちらを振り向いた世見坂が、紅い瞳を細めて表情を緩める。
「不夜城……! よかった、無事だったか」
駆け寄ってくるのに手を挙げて応え、俺も世見坂のほうへと歩を進めた。
「よかぁねえぜ、ったく。おかげでえらい目にあった」
「すまぬ、何度かそちらへ戻ろうとしたのだが……銃撃で阻まれて助けられなかった」
世見坂は申し訳なさそうに眉を寄せた。よく見れば肌にはかすったと思しき火傷の痕がある。軍服もあちらこちらが破れていた。この様子だと、かなり長い時間追い回されていたのだろう。
あの数の敵から逃げながら、俺を助けようとしていたのか。まったく、お人好しにも程がある。ほっといてもよかったのに。……なんてのは建前で、俺のことを優先して気にしてくれたのは正直嬉しかった。
「いいって。気にすんな。それより、入口がふさがってるところはどうやら全部【獣】の檻になってるようだぜ。俺が飛び込んだところもそうだったからな」
俺があの場所の入口を蹴破ったことは偶然だが、その後の攻撃は、今考えれば完全に中へ追いやるためのものだった。つまり俺はまんまと連中の都合のいいように動いちまったわけだ。クソッタレめ。
「……なるほど。君が入った場所の入口に数人いたのはわかったが、攻撃する様子がなかったのはそのせいか」
世見坂が小さくつぶやいた。瞳の赤がちらりと光る。
「ああ。どうやら連中、【獣】どもを飼ってるつもりらしいぜ。何を企んでいやがるんだか知らねえが……このままにするのはまずい。いったん上に」
戻ろう。そう言いかけた俺を手で制し、世見坂の視線がすいと逸れた。
「……君がいない間、情報を少しでも引き出せればと、あえて逃げ回っていたのだが――それだけ情報が得られれば十分そうだ」
ばらばらと、複数の足音が聞こえてくる。確実に、こっちに近づいてきている。気づいたのかもしれない。
「追われている間におおむねの人数と頭らしき人物を把握している。……鬼ごっこは終わりだな」
世見坂は乱れた髪をかきあげながら、音のするほうへ顔を向けている。つい先ほどまでとは様子が違う。目は鮮やかな紅に染まり、どこか獰猛な光をたたえていた。
こいつ、まさか。
「おい、待て。まさか戦うつもりなのか?」
「銃撃がいささか厄介だが、素人の集まりだ。銃撃の合間の隙も多い。懐に入れば造作もなかろう」
世見坂は淡々と言葉を連ね、確実に増えていく敵の足音に耳を傾けている。冗談を言っているようには思えない。
相手は数十人にもなる集団、対する俺たちはふたりきりだ。勝ち目なんてあるわけが無い。ここは一度退いて応援を呼ぶのが筋ってもんだろう。いくら世見坂でも無茶がすぎる。
それでも、世見坂は薄く笑っていた。歓喜の笑み、恍惚の笑み。これから始まる激しい戦闘を心待ちにしているかのようだ。背筋がぞわりと痺れていく。くそ、まただ。こういうとき、どうしてもこいつから視線が外せなくなる。どこからどう見ても野郎だってのに、目眩がするほどの艶があるのは何でなんだ。いや違う、こいつは血を浴びているときのほうが、もっと――ああくそ、違うってんだよ、俺は何を考えてるんだ!
くらくらする頭をひとつ振り、俺は銃弾を詰め直す。こいつがやる気だってんなら、俺ひとりで逃げる訳にもいかない。ああくそ、ちくしょうめ。もうどうにでもなれってんだ。
「援護はしてやる。数減らしは期待はすんな」
言葉の隙間を縫って、足音が、気配が、声が、殺気が近づいてくる。ずいぶんと大勢だ。あれからさらに増えたのか、いや、おそらく隠れていた奴らも出てきて加わっているんだろう。世見坂が姿をくらませたことに業を煮やしているのか、聞くに堪えない罵声が響いてくる。
世見坂の笑みが深くなる。より深く、獰猛な刃物の笑みになる。右手に握る刀をくるりと回し、
「ああ。任せたよ、不夜城」
俺の言葉に熱っぽく答えると、世見坂は大きく一歩を踏み出し走り出した。
現れた敵へと躍りかかる。轟く銃声を跳躍して躱し、一気に距離を詰める。長い髪がなびく。ひとりを蹴りつけ首を刎ねる。血飛沫が噴き出し崩れ落ちる。二人目、怯んだ敵の喉元で銀がひらめく。切り裂く。引き裂く。紅い花が咲いて、咲いて、散って、散って、地面に赤く降り積もる。返す刃で三人目を斬り倒し、避けようとする四人目の顎から脳天を刺し貫き、五人目が振りかざした腕を斬り捨て胸を裂き、それを踏み台に跳んで六人目の頭蓋をぶち割る。
七人。八人。九人。十人。もっと。もっと。もっと。みるみるうちに世見坂の髪が、肌が、服が、すべてが返り血に染まっていく。血と臓物がぶちまけられ、屍が重なるその様はまさに地獄だ。だが、死体と体液と内臓にまみれたこの場所で、命を刈り取り踏み散らしながら舞う男の様は――あまりにも美しく、あまりにもおぞましいものであった。
連中が怯むのが気配でわかる。銃撃は乱れて不揃いになる。怒号はいつしか悲鳴に塗り替わる。逃げる敵は皆自身の、他人の血の海へと沈んでいく。こちらを仕留めようと立ち向かう奴も同じ道をたどる。世見坂は笑っている。楽しそうに声を立てて、次々と獲物を手にした刃で食らっていく。
化け物。そんな言葉が頭をよぎる。
わかっている。会話ができる、感情もある、傷つくことだってある、こいつはただの人間なんだだ。わかっている。わかっているのに、本能が怯えて拒絶しようとしている。
身体がすくむ。目の前で人が死ぬのを見たくはない。俺は医者だ。どんな奴だったとしても、誰かが死ぬのを黙って見ていることなどできやしない。それなのに、あいつが舞うごとにもたらされる圧倒的な死から、目を離すことができないでいる。
息が苦しい。心臓がめちゃくちゃに波打っている。世見坂が興奮を隠すことなく、ちろりと唇を舐めている。恍惚に蕩けた緋色が細められる。手足がしびれる。強張って痛む。背筋から全身を駆け巡り、脳天を痺れさせる得体のしれない感覚の正体を、知ってしまったらいけない気がした。
――そのとき、一際鋭く銃声が走り抜けた。俺の惑う意識を裂いて飛来したそれは、ヒトの群れの奥から世見坂の右肩をいとも簡単に貫いた。
「世見坂!!」
思わず飛び出して狙う俺の頬を、もう一発銃撃がかすめていく。野郎どもの奥から現れたそいつは、他の連中よりも一際小柄だ。顔を薄汚い布で巻いて隠し、着物とも洋装ともつかないあせた色のぼろきれをまとっている。
そいつが手にした銃口からは、細く硝煙がたなびいている。世見坂がその煙を視線で追いかけ、
「ふふ、っ」
やがて楽し気に、かすれた吐息ではっきりと、笑った。
笑いながら左手で刀を持ち直す。あいつはもともと左利きだ。右手で握っているのは、相手を油断させるためでしかない。右肩を負傷しているというのに、まるで痛みなど感じていないようだ。
「ふふ、あは、ははっ!」
左手を翻し、世見坂がしなやかに躍りかかる。邪魔をしようと前へ立ちはだかる連中を、鮮やかに、躊躇もなく斬っていく。悲鳴、怒声、戦いの音、入り乱れるその中で、世見坂の笑う声がひやりと冷たく通って聞こえた。
俺もこちらを狙うやつらの銃を弾き飛ばし、足を狙って引き金を引く。そのあとを追って血飛沫が舞う。花のように。こんな薄暗い場所だというのに、ひどくくっきりと染まっていく。世見坂のしなやかな身体が、白い肌が、夜の髪が、何もかもが。あでやかに。あざやかに。命乞いを踏み散らし、罵倒すらも裂き潰して、あいつは綺麗に舞っていた。
ああ、本当に、どうかしてるとしか思えない。こんな大勢を、しかも飛び道具を持っている相手を、こんなにも造作なく、こんなにも楽しそうに、死体の山に変えちまうなんて。
「殺せ! 逃げるな、殺せ! 死体は奴らにくれてやれ!! 腕に目印でもぶっ刺して軍に送り返してやれ!!」
顔を隠した最奥の奴が、声をひっくり返して怒鳴っている。どうやらあいつが頭領らしい。我に返り、俺は銃をぶっ放しながらがなり立てた。
「おいてめぇら!! あんなモン連れ込みやがって、いったい何企んでやがる!!」
「ハッ! クソ軍人どもはどこまでもお気楽だなぁ!!」
そんな俺を馬鹿にしたようなまなざしで眺めると、頭領と思しきチビが鼻で笑う。
「俺らの頭にケツ乗せて押さえこんでるクソみてぇな上層どもを、俺らと同じ目に遭わせてやるのさ!!」
布越しでもわかる歪んだ笑みをたたえ、そいつは細い両腕を広げてさらに言葉を連ねていく。
「平和ボケした奴らが無様に悲鳴を上げて逃げ回って、お綺麗な街並みは肉の塊と血の海に早変わり!! そうすりゃ強いモンが上に立つ!! 地位は逆転、弱肉強食、平等な世界の出来上がり!! 俺らの天下だ!!」
要するに、いつまでもここから上層へ往くことができないがゆえの逆恨みってことか。気持ちはまあ、共感できないわけじゃない。【獣】を使おうなんて誰も考えつかなかったことをやろうとする無謀さも、嫌いじゃあない。しかし、そうした輩を止めるのが俺たち軍人の務めだ。もっと別の方法だったなら、少なくとも世見坂がこんな風になるのを回避できたかもしれないのに。
考えを巡らせる俺の視界に、何か楕円形のものが飛び込んでくる。黒光りする球状のソレは、頭の上に金具がついていない。まさか――手榴弾か!
とっさにその場から逃れる俺の背に、衝撃と爆風が牙を剥いて襲い掛かった。背中を強い痛みと熱が刺し貫く。俺はそのまま前のめりに吹っ飛ばされながら、瓦礫の山へとたたきつけられた。どうにか受け身を取ったものの、したたかに身体を打ち付けて息が詰まる。
内臓に傷はなさそうだが、左の上腕にひどい痛みがある。視線を向ければ、鉄くずの一部が深々と腕に刺さっていた。下手に引き抜いても自力で縫合できない部位の上に、傷がふさがらずに失血する恐れがある。まったく、衛生兵がこんな状態になるなんて、笑おうにも笑えない。
「う、ぐッ、くそ……!」
痛みをこらえて上体を起こすが、先ほどの名残の煙で前が見えない。仲間ごと吹っ飛ばしたのだろう、近くに手足やらが散乱している。世見坂の姿が見えない。敵の頭領もいない。あいつらはどこに。
首を巡らせる俺の向こう、煙の奥で銃声が木霊する。一発、二発聞こえた時点で、俺は痛みもそのままに弾かれたように駆け出した。
地面を汚す血で何度も滑りながら前へ進む。銃声はなおも重なっていく。頭領と交戦しているのかもしれない。どこだ。どこにいる。焦り駆ける俺の耳に突き刺さる、金属同士がぶつかり合う音と絶え間ない発砲音。何度も重なり絡み合いながら聞こえてくるそれに焦りばかりが募っていく。ちくしょう、頼むから俺のいないところで死んでくれるな!
走る。走る。息が切れる。傷が痛む。鋼の骨が左腕に刺さったままだ。近くなる。近づいてくる。心臓がうるさい。足が重い。それでも止まるわけにはいかない。走る。走る。聞こえてくる。物言わぬ死体が道すがらに転がっている。みんな喉を、身体に深い傷を負っている。世見坂がやったとすぐにわかる。まだ生きている。まだ。
金属が金属をはじく音。発砲、鋼と鋼が噛み合う悲鳴、銃声。近くなる。近づいていく。そうして俺がいくつめかの道を曲がったとき――ぎん、と鈍く高い音がした。
見上げる俺の視界を、黒い塊が吹っ飛んでいく。奴の持っていた銃か。視線を下ろせば、その先にふたつの影。世見坂が肩で呼吸をしながら刀を喉へ突きつけている。横顔でもはっきりとわかる、世見坂はどこか陶酔した表情で笑っていた。
一方の頭領は顔の布がボロボロに引き裂かれていた。どこか幼さを残す中性的な顔立ちには、不利な状況への苛立ちと焦り、目の前の敵への恐怖が強く刻み込まれている。攻撃を受けて裂けた胸元からはわずかなふくらみが覗く。女だったのか。
「世見坂、」
俺はかすれる呼吸の下で名を呼びながら、世見坂たちの傍へと近寄っていく。世見坂は一瞬だけ俺を一瞥し、すぐに女へ目を戻した。答えはない。一方の女は、俺の姿を認めた途端に小刻みに震え始めた。膝から崩れ落ちて座り込み、刃を拒否するように首を振る。
「い、いやだ、お願い、殺さないで……! あ、あたし、ホントはこんなことしたくなかったの……! みんなに脅されて、でも仕方なくて!」
世見坂は応えない。わずかな光を吸って真っ赤に染まる眼差しが、目の前の女を映している。
「ごめんなさい、謝るから、お願い……殺さないで……な、なんでも、するから、ね、ねえ、お願い……」
女は頬を濡らしながら、胸元へと手をやり言葉を細く並べていく。世見坂は何も応えない。座り込んだ女が媚びるように世見坂を見上げる。視線が絡む。やがて世見坂が緩やかに刀の切っ先を下げていく――刹那。
女の白い胸元に、ひとつ、ふたつと花弁が散った。鮮やかな紅。そう、そこかしこで海を作っている、血の色と同じ、目の覚めるような赫。やがてそれは次々と降り積もり、紅の範囲を広げながら地面へと流れて滴っていく。
世見坂の刀が、いつの間にか女の細い喉首に食い込んでいた。音もなく肉を裂いた銀の刃が、ゆっくり、ゆっくりと滑っていく。
「あ、が、」
女が潰れた声で呻く。口からあふれた血が伝う。この状況から逃れようと細い指が首に触れて、それから華がひとつ、咲いた。
「……駄目だろう? そんなに喉を見せていては」
――まるで僕に、斬ってくれ、と言っているようなものではないか。
独り言ちる世見坂の声は、熱と興奮に濡れ、どこか夢見るような溶けた響きを含んでいた。
妙に軽い音を立てて倒れて、女はそれきり動かなくなる。がらん、と重たい音も共に落ちる。女の傍らには、よく研ぎ澄まされた一振りの小刀。おそらく世見坂が情をかけた時点で、そのまま動脈を掻き切るつもりだったのだろう。
いったい何が起きていたのか、何も把握できずに立ちすくむ俺を、世見坂の紅い眼が映しだす。
「……なぁ、不夜城。敵はもう、いないのか?」
熱を帯びるまなざしに、蕩けるような問いかけに、俺は一瞬返答に詰まる。
「な、に?」
「喉が渇いて仕方がないのだ、なあ、もう少しだけ……斬ってもよいと、言ってくれ」
その瞬間、俺の背筋を何かが走り抜け、全身が粟立った。
こいつはまだ殺し足りないと言っているのだ。こんなにもたくさん殺しておいて、まだ足りないなんてどうかしている。【獣】どものときはそんなこと、一言だって口にしていなかったのに。
得体のしれないものへのうすら寒い恐怖感が、本能に訴えかけている。だというのに、なぜか恍惚とした紅い双眸から目が離せない。
世見坂の白い肌は淡く上気し、うっすらと汗をかいていた。舌が唇をなぞるその様は――ああ、くそ、こんなの野郎に使う表現じゃない。そうじゃないが、こんなのまるきり娼婦みたいなツラじゃあないか。どこからどう見たって野郎だっていうのに。
世見坂の手が伸びる。俺の頸に、手が触れる。こんなにも赫は鮮やかなのに、他者の命で染まった白い手はずいぶんと冷たかった。動脈の位置を確かめるように、世見坂は何度も何度も俺の頸の皮膚を手のひらで味わっている。物足りないと言いたげなその行動を、俺はただ眺めることしかできなかった。
爛々と光る瞳はまさに、ヒトのものとは呼べそうにない。殺した感覚に酔いしれて、今、ここで次の殺戮の許可を俺に求めている。俺には、いや、普通の人間には理解できないその情動が、こいつを別の生き物にしてしまっている。
俺はどうにか強張った腕を動かし、世見坂の手首を強くつかんだ。そのままゆっくりと引き剥がし、整った男の顔を見つめ返す。血を浴び、他者の命を切り刻んだからこそ、なのか。頭の芯がぐらつくほどに、むせかえるような匂いがする。甘く蕩ける、官能に訴えかけてくる香りが。
狂気の沙汰を内包した、どうしようもないヒトデナシ。人間とはまるで異なる理論を抱いて生きている男。おぞましいほど美しく、あでやかなまでに狂っている、さながらヒトの形をした獣だった。吐き気がこみあげてくるほど醜悪で、それがどこまでも蠱惑的な、誰かを狂わせる魔性の、獣。
ああ、そうか。理解してしまった。俺はこいつが艶を滴らせ、熱を帯び、蕩けて香るこの様を――こいつが血に、戦に、狂う様を。……もっと見たいと、思ってしまっている。どうやら俺もどうかしちまったらしい。体内を駆け巡るこの情動を何と呼ぶのか、俺は嫌というほど知っている。
握りしめた手を離せないまま、俺はゆっくり歩きだす。世見坂も抜身の刀を手にしたままで、黙って俺のあとをついてくる。皮膚を通して溶け合う体温に、俺はどうしようもなく――興奮、していた。
……ああ、くそ。どうかしてるぜ。本当に。
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