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出来損ないの王子

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「この国を統べる者は、強い魔力を持ち自由自在に魔法を扱える者でなくてはならない。――つまり、俺こそが次の王に相応しい」


 高らかにそう宣言するフェオードルとそれに追従する周りの男たち。彼らは絵麻にわからない、この場にいない『誰か』を嘲る口調で罵り始めた。

「如何にも、フェオードル様。貴方様こそ我らが次の王です」
「あぁ、それなのにアノ『出来損ない王子』のせいで」
「魔法をコントロールできないばかりか、自らの魔力に喰われる脆弱な肉体しか持たず」
「ベッドの中で寝込んでばかり」
「ここ数年はろくに公務にも出でいないじゃないか」
「なのにあの出来損ない王子の方が王位継承権が上だなんて!」
「あぁ、嘆かわしい。あんな出来損ない、生まれた順番が早かっただけなのに」
「あぁ、あぁ、フェオードル様。我らが次なる王よ」

 またしても高揚していく空気をフェオードルの低い声が遮る。

「……本当に。『あの男』が兄だなんて吐き気がする」

 年齢は絵麻と同じくらいに見えるのに。
 この彼からにじみ出る憎しみのオーラはなんなのだろう。

(この人……フェオードルのお兄さんの悪口をみんなで言ってたの?)

 絵麻も決して家族仲が良かった方ではないが、弟のことを「吐き気がする」とまでは思ったことがない。
 しかし、絵麻のそんな疑問はフェオードルの次の言葉で吹き飛んだ。

「だが喜べみな。俺はついに、聖女の召喚に成功した。『異世界より舞い降りた聖女は王たる者の手をとり共に国を導く』。ウィンセント王国なら幼い子供でも知っている伝説だ。きっとこの聖女が俺を玉座へと導いてくれるだろう」

 聖女が彼を、フェオードルを玉座に導く。
 今までの話の流れからすると、聖女と呼ばれているのは絵麻なわけで――

「――はぁ?! 私、そんなことできないよ……! え、何言ってるの。本当に意味わかんない。魔法? 聖女? ねぇ、ドッキリならやめて。私にそんな力無いよ……! いや、無理無理無理無理!」

 混乱し首を横に振る絵麻を宥めるように、男たちの中から貴族風の男が進み出る。

 カソックに似た形の赤い上着。痩けた頬に整えられた髭。モノクルの奥の細い瞳。
 言葉こそ優しげだが、蟷螂かまきりみたいな男だと絵麻は思った。

「またまた聖女様。貴女の着ている衣はこの世界では見ない形。そして貴女はフェオードル様の召喚の義に合わせて空中より出現なされた。貴女が異世界の存在なのは間違いのないこと。そうですよね?」

「それは……たぶん、そうだけど……」

「ほらやっぱり! 貴女が聖女であれば聖女を召喚したフェオードル様はより王へと近づくのです! ――で、聖女様、貴女は何の属性の魔法がお得意なのですか?」

 男が慇懃無礼に絵麻に尋ねた。




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