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覚めない夢
しおりを挟む最初はドッキリだと思った。
じゃなければ、夢だって。
だって、聖女とか意味わかんない。
だって、異世界とか意味わかんない。
異世界転移とかトリップとか。
そんなの漫画やアニメの話でしょう。
そういうの、読んだことも見たこともあるよ。ゲームだって嫌いじゃない。
けど、それはフィクションの話だから。
自分とは関係ないファンタジーの話だから。
無理だよ。イキナリ全然知らない、文化もルールも違う場所に連れて来られて聖女なんて言われても。
友達もいなくて、SNSも電波もなくて。カバンも置いてきちゃったから持ってるのはスマホだけ。それだって、電気がなければ充電できない。
どうせ一人暮らし始める予定だったから、実家から離れられたのはかまわないけど。
でもそれはこんな形の予定じゃなかった。
桜が映える校庭で皆と写真と動画を撮って。それをいつもみたいにSNSにアップして。お気に入り登録やコメントが増えていくのをウキウキしながら見守って。
一通り思い出におさめて気が済んだら家に帰って着替えて。私服になったら、前から予約してたデザートブッフェで『高校生活お疲れさま会』をやる予定だった。
あのお店、全然予約繋がらなくて皆で何度も何度もリベンジしてやっと奇跡的に卒業式の日に予約がとれたのに。
その後はクラス全員が集まるカラオケ行って、卒業してもうちら3-Cの友情は不滅だよ! なんて盛り上がっちゃうつもりだったのに。
4月から住む予定だった1Kのアパート。
狭いけど、新築で綺麗で。通学にも便利だし遊びに出るのも色んな所に行きやすい立地だった。
家事だって、一人暮らしのために一生懸命覚えたの。『作ってみた』動画とかレシピ動画とか。見るのも撮るのも好きだったから料理は苦痛じゃなかった。
整理整頓はちょっと苦手だけど、あの狭い部屋で快適に暮らすためにネットで調べた整頓術を駆使するつもりだった。
――そう、だった。全部過去形。
左右に垂らしてゆるく編んだ三つ編みの先からポタポタと滴が落ちる。頭のてっぺんから大量に被った水が、地面に染み込んで土の色を変えていく。
びしょ濡れになってうつむく絵麻の視線の先には、無惨に踏み荒らされた花壇があった。
もうすぐ咲くはずだった、小さくて可愛い青い花。地球のバタフライピーに似てるけど、この世界で育つ別の花。その花がぺしゃんこに潰されてしまっている。
絵麻がフェオードルにウィンセント王国に召喚されてから10日。
未だに絵麻はこの世界にいた。
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