【R18】君にえっちな言葉でいじめられたい!

茅野ガク

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後編

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「俺とのセックスの最中に考え事ですか?」

「っあ! あぁ──ん!」
「ほら。葉月さんの大好きな背面側位なんだから集中して」
「ひぅっ?!」

 まるで罰とでも言うように、挿入されながら乳首とクリトリスを刺激される。そのうえ囁きと同時に熱い舌を耳にねじ込まれて、堪らない快楽におかしくなりそうだ。


 あの私史上最高の黒歴史な出会いの後。
 その場はにっこりと「初対面の女性にそんな面白いことを言われたのは初めてです」なんて笑って流した悠介だったが、さすがチャラ男。据え膳を食うチャンスは逃さなかった。
 挙動不審な私の言動から瞬時に私が自分の声に弱いことを見抜き、東京に帰って来てから私の捕獲に乗り出した。

 いやいや君みたいな超絶美男子(しかも御曹司)だったら何も私みたいな一般地味女子相手にする必要ないでしょう。取り巻きでもモデルでもナースでも、なんでも食いたい放題でしょう。

 それとも何か。いつも綺麗に盛り付けられた美味いものばっか食べてるからたまには珍味が食べたくなったのか。誰が珍味か。私だ。否定はしない。だって初対面であんなこと叫ぶ女は普通に珍獣だろう。むしろよく抱く気になったよ。すげぇよ。
 なつみも「葉月ちゃん、一目惚れならぬ一聞き惚れだねぇ」なんておっとり笑っていたけど突然あんな行動をとってしまって本気でいたたまれない&申し訳ない。私が武士なら切腹レベルだ。

 セックスなんてそんなに好きじゃなかったはずなのに。
 悠介の整い過ぎた顔も、細身で筋肉質な体型も、軽そうな性格も、気後れするほど裕福な家庭環境も。全部全部、苦手だったはずなのに。
 私は出会ってから三日後には悠介のこの部屋で抱かれていた。
 以来、一年以上。ここに来なかった月はない。


 わかってる。わかってるんだよこの関係に未来がないことくらい。
 何度身体を重ねたって、私と悠介の住む世界は違い過ぎる。
 そもそも私たちの間には肉欲以外、ない。
 悠介はちょっと変わった女を抱きたかっただけで、私はその声に抗えないだけだ。
 悠介さえ飽きてしまえば、すぐにでもこんな関係は終わる。


 ──そう思わなきゃ、そう律しなきゃ、心が何かを叫びそうになる。


「……葉月さんのマンコ、トロトロの濡れ濡れですげぇ気持ちいい」
「ゆ、すけがっ、いじる、からぁ……!」
「一週間ぶりに俺のチンコ入れられて、美味しいって悦んでる。乳首もコリコリ」
「やっ、ん! そんなに、強くっ」
「そうだ、今度俺と会えない間、ここにずっと玩具挿入して過ごしてみます? ……はっ、今、ギュッて締まった。想像して、興奮しました?」

 ずちゅずちゅと卑猥な音を立てながら出し入れされる性器に粘膜が擦られて、尿意を我慢できなくなる。
 私を狂わせる声が、淫靡な言葉で脳を痺れさせる。

「それともまた、さっきみたいにアイマスクつけてバイブでオナニーして貰いましょうか。俺も、その葉月さんのこと思い出してオカズにできるから一石二鳥」
「っ……この、変態っ!」
「でもその変態にこうやって啼かされるのが好きなんでしょう?」
「あ、ぁあ、あ──!!」

 繋がったままぐるりとベッドにうつ伏せにされてパンパンと腰を打ち付けられる。スローだった動きが心の準備のないままに激しいものに変わって声が抑えられない。

「はぁんっ! あぁっっ!」
「っふ、イッて、俺と、一緒に、イッて葉月さんっ」

 興奮に掠れた悠介の声。
 セックスの時にしか、聞けない声。

「─────っ!!」

 一緒に。
 その声が命じるままに、私の中で欲望を吐き出して震える彼を感じながら私も自分を解放した。







(ピル、また処方して貰いに行かなきゃなぁ……)

 情事後の倦怠感に身を沈ませながらぼんやりとそんなことを考える。
 薬のシートが空になるたびに、これで終わりにしようと思うのに。

「葉月さんもうすぐ誕生日ですよね? 連休も近いし、どこか旅行にでも行きません? うちのグループのホテルだったら今からでも間に合いますよ」
「……悠介、いつも言ってるけど私、そういう恋人みたいなのはやめて……」

 そんな甘い視線で、甘い声で囁くのはやめて。
 身分違いの愛を、信じたくなってしまうじゃない。

「葉月さんこそまだそんなこと言ってるんですか? 毎週毎週セックスして、セックスできない時でも一緒に過ごして。恋人以外のなんなんですか」

 呆れたように悠介がぼやくけれど、結婚適齢期の女としてはこれ以上不相応な夢を見るわけにはいかない。
 誕生日は今後の人生を軌道修正する良い機会かもしれない。
 そう思いながら悠介の問いに答える。
「………………セフレ」

「はーづーきーさーーんーー?」
「ぎっ?! 痛っ痛い! こめかみグリグリするの痛い!」
 本気で痛いのに笑顔なのも怖いっ!

「だって! 私もうすぐ24だよ?! そろそろもう結婚してる同級生も出始めた年だよ?!」
「だから、俺と結婚すれば良いじゃないですか」
「無理」
「無理なことなんてありませんよ。うち分家だからそんな厳しくないですし。いつになったら俺のこと信じてくれるんですっ?」

 信じたいよ?! 私だって本当は悠介のこと信じて、幸せな未来を夢見たいよ?!

 でも、でも────っ!!

「~~っ! ヤだ! 悠介、私とこういう関係になった後もよく女の子に囲まれてるじゃん!」
「………………は?」
「クリスマスもバレンタインも誕生日も、私以外の子達からたくさんプレゼント貰ってたし!」
「………………え?」
「あーーっ! ヤだ! こんな自分ヤだ! 嫉妬とか無理!」

 ホント、本気で無理! 嫉妬とか無理!
 たかが男が自分以外の女の子と話してるくらいで冷静でいられなくなるなんて、こんなの、私じゃないっ!!

「え、葉月さん、え? プレゼントも女の子も、断る方が面倒だから流してたんですけど、まさか、それが原因で……?」
「育った環境も違い過ぎるし! こんな一般家庭育ちの声フェチの変態女、飽きられたら終わりじゃん! 悠介くらいお金持ちのお嬢様がライバルとして現れたら勝てっこないじゃん?!」

 てか「実は生まれたときからの許嫁です」みたいなピンクの髪した女子が空から落っこちてきても「あり得そうスッね」って納得できるくらい君んち&君のスペックいろいろ現実感ないじゃん?!
 
「葉月さん落ち着いて。話、聞いて」
「無理無理無理っ! 立ち直れない、本気になって結婚適齢期過ぎてからフラレるとか立ち直れないっ! やっぱり今のうちに別れた方が────」
「聞けって!!」

 ガッ! と両手で頬を挟まれて、悠介と至近距離で視線を固定される。
 キスの体勢と似てるのに、甘さなんて微塵もなくて、むしろ悠介から放たれるどす黒いオーラには殺気すら感じる。

「誰が、誰と別れるって? 誰が、誰に飽きるって?」
「……悠介が、私に──」
「黙れ。葉月さん。自慢じゃないけど俺、けっこう忙しい方なんです。それなのに、あの俺達が出会った日。従兄弟に頼まれたくらいであんな海の方まで行くわけないでしょう?」
「それは確かに思ったけど。じゃあ、なんで……」
「言っときますけど、俺は入学した時から葉月さんのこと知ってましたからね」
「…………え?」
「従兄弟から連絡を受けて、あいつらの幼馴染と一緒に旅行してるのがあなただとわかった時。これはチャンスだと思ったんです」
「っ!」
「もうわかりますよね? 俺は、葉月さんのことを、あの場所で会う前からずっと好きだった」

 悠介の少し垂れた甘い瞳に宿る真剣な光。
 泣きたくなるくらいに私の心を揺さぶる声、言葉。

「…………すぐにその言葉に飛びつけるほど、私は素直な女じゃないよ」
 視界は涙で滲んでいるくせに、可愛いげのない返事しかできない私は本当に損な性分だ。

「考えると、やっぱ不安になること多いし……」
 ボソボソと呟くと、そんな私を見下ろしていた悠介が何故か極上の笑みを浮かべる。完璧なまでの、王子様スマイル。


 ……待って。今の流れで笑う要素有った?
 何故か全身の鳥肌が立って冷や汗が吹き出すのは、どういう本能が働いているの。



「わかりました。……葉月、お前、今すぐ今日からピル飲むのやめろ」

 はい? なんでここで急にピルの話?

「──は? ごめ、ちょっと意味がわからな……」
「子供でもできて、籍も入れちゃえばさすがに俺の本気がわかるでしょう?」
「いやいやいやいやいや?! 子供とか籍とか、そんな簡単なものじゃないよね?!」

 大事! 双方の合意、大事!

「大丈夫。葉月さんが素直になれない人だって最初からわかってますから。……ピルってやめてどれくらいで妊娠可能になるのかな? まぁいいや。一ヶ月でも二ヶ月でも半年でも。葉月さんが孕むまで部屋から出さないので」
「そういうの監禁って言うの知ってる?! 私、仕事があるんだけど?!」

 いや、仕事だけの問題じゃないけどね?!

「俺が養うから心配しないでください」
「迷惑! 職場に迷惑がかかるから!」
「じゃあうちのグループから人材を斡旋します」

 話が通じない!!
 悠介ってこんな強引なキャラじゃなかったよね?!


「葉月さん。俺、いい加減セフレって言い張るあなたに、俺の愛をわからせなきゃ。って思ってたんですよ。だから……」
「だ、だから……っ?」




「──覚悟してくださいね?」




 言われてることは恐ろしいのに、その聞いたことのない声に別の意味でゾクゾクしたなんて。
 倉戸葉月。やっぱり重度の声フェチみたいです。




fin
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