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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
手縫いと嫌な予感
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裁縫室の空気が一気に変わった。
キャスも、今まで話していたなつみさんではない誰かが、今、エミリーの中にいると思ったようだ。
すぐにエミリーに向かって聞いてくれる。
「すみません。あなたはなつみさんではないのですよね。どちらさまですか?」
『そういうあなたさまは?』
「私はエミリーの、あなたの、今の、ええっと現世の姉です。名前はキャサリンと言います。」
『そうですか。私は、おきぬと申します。お姉さまには、いつもお世話になっております。』
「いえ。今、世話になっているのは私の方でして…。」
そう言って、今日の経緯をおきぬさんとやらに話して聞かせる。
キャス、すごい。
ロブ並みの順応だ。
頭のいい人は、みんなこうなのかしら。
エミリーは自分のことなのに、なつみさんとは明らかに違う口調に戸惑いを隠せない。
キャスとおきぬさんは、そんなエミリーは脇に置いて、テキパキと二人?で話し合い、早速エプロンの裾を仕上げていくことになったようだ。
どうやらおきぬさんによると、「まつり縫い」という手法で、裾の始末をするらしい。
まず下準備だ。
最初に、糸を適量とる。
これは、短すぎても長すぎてもだめだそうだ。
糸が短すぎると、たびだび糸止めをすることになるので結び目がたくさんできて美しくない。
長すぎると、針を抜いて次の目にかかる時に、引っ張り上げる手間がかかりすぎる上に、糸がこすれてよれてくる。
そして一度ダマを作ると、糸をほどくのにも時間がかかるそうだ。
故に、縫わなければならない長さを見て糸の長さも調整するらしい。
ひょえー、最初からコツがあるんだ。
そして針に糸を通す前に、両手で糸の両端をピーンと張って持ったまま、親指で糸を楽器の弦のように弾く。
これをすることによって、糸の捻じれがとれて縫っている途中でダマにならないそうだ。
へー、ほーー。
そしてここでも、糸や針の番号を布と合わせた。
糸の太さが布の厚みと合わないと、うまくないらしい。
布の厚みや、出来上がった着物の使用目的や洗濯方法にあわせて、縫っていく縫い目の大きさも変える。
結び目も、洗濯や摩擦に耐えられるように見えないところに隠す。
最初は、ほつれないように返し縫いをする。
なん針か縫い進めたら、糸だけが引きつれないように、布と糸が平らになるように指で軽くしごいて均す。
などなどなど………。
うー、頭がくらくらしてきた。
キャスにそこまで出来るわけがない。
とにかく出来ることだけを、おきぬさんの言うがままにやってみるしかない。
キャスは何度か指に針を刺して「あいたっ!」と声を上げながら、おきぬさんのアドバイスで、針目を調節しながらがんばって縫っている。
縫いながら、おきぬさんと雑談もしている。
…意外に余裕だ。
キャスのことだからもっと苦労すると思っていた。
おきぬさんに丁寧に、論理的に説明されたので理解しやすかったのだろうか?
皇太子さまの話が出た時に、おきぬさんがびっくりしていたことから考えると、おきぬさんはなつみさんと同じ日本の人なのかもしれない。
縫物が上手なのは、それを仕事にしていたからだそうだ。
雲海が見えるような山の上のお城で、縫いカタという、お殿様やお姫様の着る物を縫って用意する役目の、取りまとめ役をしていたようで、厳しくて凛とした話し方はその時に培われたものなのだろう。
今回は、手縫いの知識を教えてもらって助かった。
でも、なつみさんより厳しそうなこの人は、とても私自身とは思えない。
この人にも私に似たところがあるのだろうか?
「めんどくさがり」繋がり?
…いやいや、それはないでしょう。
◇◇◇
キャスのエプロンが仕上がって、やれやれした。
逐一声を出して縫いかたの説明をしたせいか喉が渇いたので、キャスと一緒にお茶を飲んでいたら、お昼の時間になってしまった。
ううっ、午前中がつぶれちゃった。
本の続き読みたいなぁ。
まあ雨もまだ降ってるし、外へも行けない。
ふふ、午後からたっぷり読書三昧だよね。
キャスと、ティールームから食事室に移動する。
とそこに、ロベルトがちゃっかり座って、デビ兄と話をしていた。
ロブ…デビ兄に会いに来たんだよね。
まさか私に用事じゃないよね。
そんな願いもむなしく、エミリーたちが部屋に入って来ると、ロブは顔を輝かして立ち上がった。
「エム、待ってたんだ。もう、キャスのエプロン出来たの?」
おぅ、のう。
いつになったら本が読めるのよぅーーーーー。
キャスも、今まで話していたなつみさんではない誰かが、今、エミリーの中にいると思ったようだ。
すぐにエミリーに向かって聞いてくれる。
「すみません。あなたはなつみさんではないのですよね。どちらさまですか?」
『そういうあなたさまは?』
「私はエミリーの、あなたの、今の、ええっと現世の姉です。名前はキャサリンと言います。」
『そうですか。私は、おきぬと申します。お姉さまには、いつもお世話になっております。』
「いえ。今、世話になっているのは私の方でして…。」
そう言って、今日の経緯をおきぬさんとやらに話して聞かせる。
キャス、すごい。
ロブ並みの順応だ。
頭のいい人は、みんなこうなのかしら。
エミリーは自分のことなのに、なつみさんとは明らかに違う口調に戸惑いを隠せない。
キャスとおきぬさんは、そんなエミリーは脇に置いて、テキパキと二人?で話し合い、早速エプロンの裾を仕上げていくことになったようだ。
どうやらおきぬさんによると、「まつり縫い」という手法で、裾の始末をするらしい。
まず下準備だ。
最初に、糸を適量とる。
これは、短すぎても長すぎてもだめだそうだ。
糸が短すぎると、たびだび糸止めをすることになるので結び目がたくさんできて美しくない。
長すぎると、針を抜いて次の目にかかる時に、引っ張り上げる手間がかかりすぎる上に、糸がこすれてよれてくる。
そして一度ダマを作ると、糸をほどくのにも時間がかかるそうだ。
故に、縫わなければならない長さを見て糸の長さも調整するらしい。
ひょえー、最初からコツがあるんだ。
そして針に糸を通す前に、両手で糸の両端をピーンと張って持ったまま、親指で糸を楽器の弦のように弾く。
これをすることによって、糸の捻じれがとれて縫っている途中でダマにならないそうだ。
へー、ほーー。
そしてここでも、糸や針の番号を布と合わせた。
糸の太さが布の厚みと合わないと、うまくないらしい。
布の厚みや、出来上がった着物の使用目的や洗濯方法にあわせて、縫っていく縫い目の大きさも変える。
結び目も、洗濯や摩擦に耐えられるように見えないところに隠す。
最初は、ほつれないように返し縫いをする。
なん針か縫い進めたら、糸だけが引きつれないように、布と糸が平らになるように指で軽くしごいて均す。
などなどなど………。
うー、頭がくらくらしてきた。
キャスにそこまで出来るわけがない。
とにかく出来ることだけを、おきぬさんの言うがままにやってみるしかない。
キャスは何度か指に針を刺して「あいたっ!」と声を上げながら、おきぬさんのアドバイスで、針目を調節しながらがんばって縫っている。
縫いながら、おきぬさんと雑談もしている。
…意外に余裕だ。
キャスのことだからもっと苦労すると思っていた。
おきぬさんに丁寧に、論理的に説明されたので理解しやすかったのだろうか?
皇太子さまの話が出た時に、おきぬさんがびっくりしていたことから考えると、おきぬさんはなつみさんと同じ日本の人なのかもしれない。
縫物が上手なのは、それを仕事にしていたからだそうだ。
雲海が見えるような山の上のお城で、縫いカタという、お殿様やお姫様の着る物を縫って用意する役目の、取りまとめ役をしていたようで、厳しくて凛とした話し方はその時に培われたものなのだろう。
今回は、手縫いの知識を教えてもらって助かった。
でも、なつみさんより厳しそうなこの人は、とても私自身とは思えない。
この人にも私に似たところがあるのだろうか?
「めんどくさがり」繋がり?
…いやいや、それはないでしょう。
◇◇◇
キャスのエプロンが仕上がって、やれやれした。
逐一声を出して縫いかたの説明をしたせいか喉が渇いたので、キャスと一緒にお茶を飲んでいたら、お昼の時間になってしまった。
ううっ、午前中がつぶれちゃった。
本の続き読みたいなぁ。
まあ雨もまだ降ってるし、外へも行けない。
ふふ、午後からたっぷり読書三昧だよね。
キャスと、ティールームから食事室に移動する。
とそこに、ロベルトがちゃっかり座って、デビ兄と話をしていた。
ロブ…デビ兄に会いに来たんだよね。
まさか私に用事じゃないよね。
そんな願いもむなしく、エミリーたちが部屋に入って来ると、ロブは顔を輝かして立ち上がった。
「エム、待ってたんだ。もう、キャスのエプロン出来たの?」
おぅ、のう。
いつになったら本が読めるのよぅーーーーー。
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