神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

鴨の夫婦

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今年もかもの夫婦がやって来ましたね。

ゆかこさんの神社の池に、二羽の鴨が毎年やって来るのです。


「奥さんは、田んぼが気に入ったみたいね。」

そうですね、ゆかこさん。お婿さんの植えたあの田んぼは隙間すきまが多くて丁度いいみたいです。

鴨の奥さんが田んぼの水を揺らしながらのんびりぷかぷか浮いています。


お日様が午後を告げるころ

神社の池のほとりで羽繕はづくろいをしていた旦那さんが、ゆっくりと池の中に入って行きました。

スィースィッと水をかくと、すぐに羽を大きく広げて飛び立っていきます。

どうやらお出かけのようです。

それに気づいた奥さんもすぐに田んぼから飛び立ちます。

ぬるくなった田んぼの水が泥と一緒にジャブンッと跳ねました。

バサッバサッと低空飛行をしていた鴨の奥さんは見る間に空へ舞い上がって行きました。


あんなに慌てて大丈夫でしょうか。

「大丈夫。ほらあそこ、旦那さんが旋回して待ってるわ。」

いったいどこへ行くんでしょう。

「ついて行ってみましょうか。」

ゆかこさんは、ふわっと飛び上がると薄曇りの空をぐんぐん上がって行きました。


湿った雲の切れ端が頬にぷわぷわあたります。

「まぁ、たくさん集まってるわ。」

大きな川の水辺には数えきれないほどの鴨たちが身を寄せ合って浮かんでいました。

二羽の鴨の夫婦も川の中に降りていきます。


ゆかこさんは水の上に降り立つと、鴨の夫婦に手を振りました。

奥さんが首を振って応えてくれましたよ。

「川下りをして帰りましょう。」

水の上に座ったゆかこさんはスルスルと滑り台のように川を下って行きました。


水かさの増えた川の水はジェットスライダーのようにゆかこさんを運んでいきます。

「わー面白いっ。この川は強い意志を持ってるわ。」

いったいどういう意味なんでしょう。


神社のある町に戻ったゆかこさんは、町の空でくるくるっと廻って濡れた服を脱水しました。

「あれ? にわか雨かな?」

どこかからそんな声が聞こえてきましたよ。
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