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第一章 ガルディア都市
side セレス=シュタイン ~捕縛~
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「に、兄様……」
私の兄であるアリア=シュタインは国王の体をその手に持った長剣で深々と切り下していた。
国王の体からは止めどなく血が溢れこれが致命傷だと誰もが悟った。
なぜ、 なぜなの、 兄様……
■ ■ ■ ■ ■
話は数時間前まで遡る。
演説会場であるガイム広場に着いた私たちは多くの人の姿に圧倒されていた。
私も数十年ここに住んでいるけどこんなに人が集まっているのは初めて見たかもしれない。
「すごい人っすね」
「久しぶりの国王演説だからね、みんな楽しみなんだよ~」
「ざっと見ただけで千人は超えるくらいいるんじゃないか?」
「そ、そんなにいる!? カナン話盛りすぎだよ!」
でも実際それくらいの人がいるのを目の当たりにしてしまうとあながち間違いじゃないかも……
さっきまで意識していなかったプレッシャーというものが圧し掛かるようだった。
舞台を囲むように多くの人が騎士団の指示のもとぶつからない様に周囲に並んでいる。
周囲は演説が始まるのをいまかいまかと待っているようでざわざわと話し声が飛び交っている。
ふと兄様が立ち止まり、振り返ると私達に指示を出す。
「国王が到着後、国王を護衛するように移動、舞台の上についたら昨日割り振った場所で監視にあたってくれ、何かあったらシーレスで会話を、魔法による攻撃が来た場合セレスが防御魔法を瞬時に展開してくれ」
「わかりました!」
緊急に何かあった場合このシーレスであれば声に出さなくてもみんなと連携が取れる。
そして時間が経過し、一台の馬車が到着する。
馬車から降りてきたのはガルディアの国王ナグル=ウル=ガルディア、現在の国王であり、民衆からの人気も高い英雄として有名。
昔は国王の結婚秘話から多くの本が出るほどで、私もそんな恋愛に憧れたうちの一人。
そんな国王であったが奥様であるユリア=ウル=ガルディアが亡くなってからは娘であるサーシャ=ウル=ガルディアを溺愛する可愛い父親であるともっぱらの噂であった。
最近はその一人娘であるサーシャちゃんが表には出てこなくなり、民衆はとても寂しがっている。
私もちょっと寂しい、彼女は『ガルディアの妖精』と周囲に呼ばれるほど愛くるしく、父親の後をくっついて移動している姿はため息がでるほど可愛かった。
そんな娘を溺愛していた国王であったが、今は国王らしく威厳のある堂々とした面持ちでしっかりとレッドカーペットの上を歩いていく。
私達は警護の為国王に付き従う形で進んでいく。
国王が舞台の壇上に立つとより一層周囲から歓声が巻き起こる。
さすがに上から見たこの景色には圧倒されるものがありますね。
鳴り響く拍手と歓声を国王は手で制すと拡声器のマジックアイテムの前に移り話し始める。
「ガルディアの民よ!! 今日はこのようなめでたい日にここに集まって頂き感謝申し上げる! この度我がガルディアの騎士団、ガルディアンナイトがアルテア大陸の主要都市であるアルタを手中に収めることができた!!」
民衆の歓声が再び大きく響き渡る。
その観衆に紛れて不審な者がいないか探す必要がある。
『パトラ、エリアホークアイを使ってもらえる?』
『りょーかいだよっ! エリアホークアイ!!』
この魔法は数人に遠くの物をはっきりと見えるようにする魔法だ。
私がこの魔法を使ってしまうと威力が強すぎて制御できない可能性がある。
遠くにいる人の肌の細胞なんて見たい人いる? いないよね。
前に私がこの魔法を使ったらジャスティンさんとカナンさんが絶叫してたっけ……
しっかりと魔法がかかったことを確認する。ほんとうにちょうどいいくらいのクリア感!
遠くまで顔が確認できるくらいに目が良くなっている。
「静粛に! この偉大なる勝利にガルディアの女神もきっとお喜びになってくださるだろう! そしてこの偉大なる勝利の貢献者であるテオ殿に敬意と感謝を込めて侯爵の地位と報酬を与えることとする。テオ殿こちらに上がって来てはもらえるか」
テオさんは昔から屋敷にはあまりいなかったけど兄様をあれだけ鍛え上げてくださった歴戦の戦士です。いずれはこのような武勇も聞く日もくるとは思っておりました。
テオさんが舞台の上までしっかりとした足取りで歩いてくる。
舞台の上に辿り着くと国王は書状と功績を読み上げた。
「この度は偉大なガルディアの騎士団の団長としてアルテア大陸の主要都市であるアルタをその勇敢な武勇で大きく貢献し、制圧ののちに制御下においてくれたことに敬意を表し、貴公に新たなる侯爵の地位を授ける。またそれに伴い・・・
国王が書状を読み上げている最中に唐突にシーレスが起動する。
『みんな引き続き監視を任せる、私は黒いフルプレートの男を目撃した、少し偵察に出るからこのまま監視してくれ』
その声はとても焦っているように思えた。
すごく嫌な予感がする。私は鼓動が早まるのを感じた。
『!?!? 隊長大丈夫ですか!?』
『問題ない、アイツを止められるのは今は私しかいないだろう』
カナンさんが心配するのも無理はない、あの黒い男は兄様と互角以上の力を持っている、問題ないわけがない!!
『に、兄様、あまり無理をしないでくださいね』
『ああ セレス気を付けるよ』
いつもの兄様らしくない早口で会話を終わらせようとしてくる。行ってほしくはないけど私がここを離れるわけにはいかない。
『ここは俺たちに任せるッス!』
『頼むぞ』
通話が切れると兄様は一目散にその路地へ向けて駆け出して行った。
嫌な予感はまだ続いている。私はただ黙ってその走る背中を見つめることしかできなかった。
『私達はさっき以上に周囲に注意するよ』
『陽動かもしれないな、ジャスティン念のため防御力を上げてくれ』
『りょーかいっす! エリアディフエンダー!!』
私たちの防御力を上げ咄嗟の動きに対応できるようにするためより周囲を気にした。
国王はテオさんに書状を渡し終えると今回のアルテア大陸の進行状況について話し始めた。
テオさんは書状を受け取ると舞台から降り、元居た自分の席へと戻っていたらしい。
『みんな、怪しい者はほんとうにいない?』
『いたって怪しいと思える奴はいないっすね…』
『俺もだ、建物の中も気を付けて見てはいるがそれらしい影すらないな』
『あたしも今のところは…… でもなんかよくわからないけど嫌な予感がするよ』
『私も、もうちょっと広く見てみよう!』
兄様が不在というのはこんなにも心細いというのだろうか、一気に不安感が駆け巡る。
何事もなければいいのですが……
探しているとすぐに兄様は走って戻ってきた。
その姿からは傷などなく何事もなかったことが伺える。
「兄様、大丈夫だったのですか?」
起動しようとしたシーレスが起動しないので仕方なく小声で兄様に話しかける。
「ああ、私の勘違いだったようだ」
「そうですか、引き続き気を引き締めましょう」
「ああ」
すれ違う瞬間ふわっと香水の香りがした。
そして兄様は何事もなかったかのように歩き出す。
国王の演説する後ろに。
え?
そっちは違……
兄様は長剣を上段に構え、国王を後ろから深々と切り下した。
え?
なにが、おこっているの?
見るからに致命傷な攻撃は誰も止めることが出来ないでいた。
刹那、上がる悲鳴と怒号が音の洪水のごとく押し寄せる。
兄様は無表情のまま踵を返し、すぐに駆け出す、誰も後を追うことができないでいた。
状況が理解できず、私たち四人は周囲に集まった騎士に取り押さえられる形になった。
それぞれが床に押し倒され腕に金属製の錠をかけられる。
「なんてことをしてくれたんだ貴様達は!!」
その声には聞き覚えがあった。
舞台の上に上がってくるのは私もよく知っている顔、兄様の父君であるアルバラン=シュタイン。
その冷たい表情は身も震えるほどであった。
「わ、私もなにがなんだかわからないのです!!」
ただ必死に叫んだ! このままではみんなが殺されてしまう!
「セレス、貴様は何も聞いてはいないとそう言うのか?」
心が痛んだ、何もわからないが皆を生かすためにはみんなの身の潔白を訴えかけるしかない!!
「はい! 私達四人は何も知りません!!!」
アルバランは少し示唆した後、口元に手を当てて考え込む。
「よかろう、貴様たちの処刑だけは見送ってやろう」
一時的にだが命は繋いだことに安堵する。みんなを見るとパトラは泣きじゃくり嗚咽の声を漏らしていた。
ジャスティンさんは放心していてうわごとの様に「うそっすよね、冗談すよね」と繰り返している。
カナンさんは床を拳で激しくたたいて「なんでだよ!!!」と憤っていた。
視線をアルバランに戻すと拡声器の前に立ち大声で話す。
嫌な予感が当たってしまった。
「全ての騎士に命令をする!! アリア=シュタインを見つけ次第処刑しろ!! これは国家転覆罪だ!」
アルバラン=シュタインは元騎士団長、騎士の命令権は持ち合わせている。
兄様が殺されてしまう!!!
だけど……
だけど……
何もわからない! 私には何も!!
だけどあんな優しい兄様がこんなことをするはずがない!!
記憶の中の兄様の記憶を辿る。
あれはたしか、私が騎士になった時の事……
■ ■ ■ ■ ■
「兄様はどうして騎士になったのですか?」
それは帰り道ふいに聞いた質問だった。
兄様は一瞬驚き少し照れた顔で話してくれた。
「笑わないで聞いてくれるか?」
「もちろんです!」
「昔の憧れでさ、カッコイイ騎士になりたかったんだ。あらゆる敵を倒しお姫様を助け出す絵本がすごく好きでね、私もそんな風に誰かを守りたいと思ったんだ。元々私は一人っ子だったからね、セレスがうちに来てくれた時に思ったんだ。私は家族を守ろうって、初めてできた妹なんだ、すごく嬉しかったんだ、だから私が騎士になった理由はセレスだよ」
「……」
「どうした?やっぱり変だったか?」
はにかむ笑顔がやけに眩しく映ったのを覚えている。
「い、いえ全然!! さすがです兄様! 私は兄様のことを改めて尊敬します!!!」
顔が赤いのを誤魔化すためにふいっと顔を背けてしまった。
兄様はそのまま言葉を続けた。
「何も持ってない私に頑張る力をくれたのはセレスのおかげだよ、あの頃私は魔法が使えないことを嘆いていて何も手につかなかった、そこにセレスが来てくれて…… あの頃髪の色が違うことでいじめられてただろ?」
兄様はちゃんと見ていたんだ…… 私が髪の色でいじめられていたことを、ドラゴニアという種族だから目立たないように生活していたことを。そして私はそのことを絶対に言わなかった。心配をさせたくなかったから……
「その時に思ったんだ、私に力があればなって、誰にも負けない強い力を私が得るためには他の訓練では駄目だったんだ、だからテオに頼んで地獄のような修行をした。辛くて何度も止めたくなったよ、でもさ、セレスは逃げなかった、いじめてきた相手にも怯まず、立ち向かっていった。 はは、兄ちゃんだからな負けたくなかったんだよ」
「そんなことが」
「ああ、そんなことが私にとって大事だったんだよ、妹に負けたくなかった。それだけが私の頑張る力の源だったんだよ」
「なんかカッコいいですね」
「そうか?かっこ悪い気もするけどな」
「私はそうは思いませんよ」
「 ……そうか、私はこの力で多くの人達を救いたいんだ。騎士になったことで救える命があることを多く知った、いまは悲しい思いをする人を減らすのが目標かな」
兄様はただ真っすぐ前を見ていた。そんな素敵な目標に私も近づけたらいいなと何度思ったことか、そんな何事にも真っすぐな兄様が大好きだった。
■ ■ ■ ■ ■
あれは、本当に兄様だったのだろうか?
ただ気になったのはすれ違う時のあの香水の香り……
見上げると完全武装したテオさんが兄様が逃げたほうへすごい速度で飛び出していった。
もし、兄様に化けている者がいるとしたら何もかもが辻褄があう。
お願い兄様どうか死なないで。
私たちは立たされ、騎士に連れられ、歩き出す。
どうやら牢屋に連れていかれるようだ。悔しい、何もできないなんて。
私達は重い足を引きづり牢へと向かうのであった。
私の兄であるアリア=シュタインは国王の体をその手に持った長剣で深々と切り下していた。
国王の体からは止めどなく血が溢れこれが致命傷だと誰もが悟った。
なぜ、 なぜなの、 兄様……
■ ■ ■ ■ ■
話は数時間前まで遡る。
演説会場であるガイム広場に着いた私たちは多くの人の姿に圧倒されていた。
私も数十年ここに住んでいるけどこんなに人が集まっているのは初めて見たかもしれない。
「すごい人っすね」
「久しぶりの国王演説だからね、みんな楽しみなんだよ~」
「ざっと見ただけで千人は超えるくらいいるんじゃないか?」
「そ、そんなにいる!? カナン話盛りすぎだよ!」
でも実際それくらいの人がいるのを目の当たりにしてしまうとあながち間違いじゃないかも……
さっきまで意識していなかったプレッシャーというものが圧し掛かるようだった。
舞台を囲むように多くの人が騎士団の指示のもとぶつからない様に周囲に並んでいる。
周囲は演説が始まるのをいまかいまかと待っているようでざわざわと話し声が飛び交っている。
ふと兄様が立ち止まり、振り返ると私達に指示を出す。
「国王が到着後、国王を護衛するように移動、舞台の上についたら昨日割り振った場所で監視にあたってくれ、何かあったらシーレスで会話を、魔法による攻撃が来た場合セレスが防御魔法を瞬時に展開してくれ」
「わかりました!」
緊急に何かあった場合このシーレスであれば声に出さなくてもみんなと連携が取れる。
そして時間が経過し、一台の馬車が到着する。
馬車から降りてきたのはガルディアの国王ナグル=ウル=ガルディア、現在の国王であり、民衆からの人気も高い英雄として有名。
昔は国王の結婚秘話から多くの本が出るほどで、私もそんな恋愛に憧れたうちの一人。
そんな国王であったが奥様であるユリア=ウル=ガルディアが亡くなってからは娘であるサーシャ=ウル=ガルディアを溺愛する可愛い父親であるともっぱらの噂であった。
最近はその一人娘であるサーシャちゃんが表には出てこなくなり、民衆はとても寂しがっている。
私もちょっと寂しい、彼女は『ガルディアの妖精』と周囲に呼ばれるほど愛くるしく、父親の後をくっついて移動している姿はため息がでるほど可愛かった。
そんな娘を溺愛していた国王であったが、今は国王らしく威厳のある堂々とした面持ちでしっかりとレッドカーペットの上を歩いていく。
私達は警護の為国王に付き従う形で進んでいく。
国王が舞台の壇上に立つとより一層周囲から歓声が巻き起こる。
さすがに上から見たこの景色には圧倒されるものがありますね。
鳴り響く拍手と歓声を国王は手で制すと拡声器のマジックアイテムの前に移り話し始める。
「ガルディアの民よ!! 今日はこのようなめでたい日にここに集まって頂き感謝申し上げる! この度我がガルディアの騎士団、ガルディアンナイトがアルテア大陸の主要都市であるアルタを手中に収めることができた!!」
民衆の歓声が再び大きく響き渡る。
その観衆に紛れて不審な者がいないか探す必要がある。
『パトラ、エリアホークアイを使ってもらえる?』
『りょーかいだよっ! エリアホークアイ!!』
この魔法は数人に遠くの物をはっきりと見えるようにする魔法だ。
私がこの魔法を使ってしまうと威力が強すぎて制御できない可能性がある。
遠くにいる人の肌の細胞なんて見たい人いる? いないよね。
前に私がこの魔法を使ったらジャスティンさんとカナンさんが絶叫してたっけ……
しっかりと魔法がかかったことを確認する。ほんとうにちょうどいいくらいのクリア感!
遠くまで顔が確認できるくらいに目が良くなっている。
「静粛に! この偉大なる勝利にガルディアの女神もきっとお喜びになってくださるだろう! そしてこの偉大なる勝利の貢献者であるテオ殿に敬意と感謝を込めて侯爵の地位と報酬を与えることとする。テオ殿こちらに上がって来てはもらえるか」
テオさんは昔から屋敷にはあまりいなかったけど兄様をあれだけ鍛え上げてくださった歴戦の戦士です。いずれはこのような武勇も聞く日もくるとは思っておりました。
テオさんが舞台の上までしっかりとした足取りで歩いてくる。
舞台の上に辿り着くと国王は書状と功績を読み上げた。
「この度は偉大なガルディアの騎士団の団長としてアルテア大陸の主要都市であるアルタをその勇敢な武勇で大きく貢献し、制圧ののちに制御下においてくれたことに敬意を表し、貴公に新たなる侯爵の地位を授ける。またそれに伴い・・・
国王が書状を読み上げている最中に唐突にシーレスが起動する。
『みんな引き続き監視を任せる、私は黒いフルプレートの男を目撃した、少し偵察に出るからこのまま監視してくれ』
その声はとても焦っているように思えた。
すごく嫌な予感がする。私は鼓動が早まるのを感じた。
『!?!? 隊長大丈夫ですか!?』
『問題ない、アイツを止められるのは今は私しかいないだろう』
カナンさんが心配するのも無理はない、あの黒い男は兄様と互角以上の力を持っている、問題ないわけがない!!
『に、兄様、あまり無理をしないでくださいね』
『ああ セレス気を付けるよ』
いつもの兄様らしくない早口で会話を終わらせようとしてくる。行ってほしくはないけど私がここを離れるわけにはいかない。
『ここは俺たちに任せるッス!』
『頼むぞ』
通話が切れると兄様は一目散にその路地へ向けて駆け出して行った。
嫌な予感はまだ続いている。私はただ黙ってその走る背中を見つめることしかできなかった。
『私達はさっき以上に周囲に注意するよ』
『陽動かもしれないな、ジャスティン念のため防御力を上げてくれ』
『りょーかいっす! エリアディフエンダー!!』
私たちの防御力を上げ咄嗟の動きに対応できるようにするためより周囲を気にした。
国王はテオさんに書状を渡し終えると今回のアルテア大陸の進行状況について話し始めた。
テオさんは書状を受け取ると舞台から降り、元居た自分の席へと戻っていたらしい。
『みんな、怪しい者はほんとうにいない?』
『いたって怪しいと思える奴はいないっすね…』
『俺もだ、建物の中も気を付けて見てはいるがそれらしい影すらないな』
『あたしも今のところは…… でもなんかよくわからないけど嫌な予感がするよ』
『私も、もうちょっと広く見てみよう!』
兄様が不在というのはこんなにも心細いというのだろうか、一気に不安感が駆け巡る。
何事もなければいいのですが……
探しているとすぐに兄様は走って戻ってきた。
その姿からは傷などなく何事もなかったことが伺える。
「兄様、大丈夫だったのですか?」
起動しようとしたシーレスが起動しないので仕方なく小声で兄様に話しかける。
「ああ、私の勘違いだったようだ」
「そうですか、引き続き気を引き締めましょう」
「ああ」
すれ違う瞬間ふわっと香水の香りがした。
そして兄様は何事もなかったかのように歩き出す。
国王の演説する後ろに。
え?
そっちは違……
兄様は長剣を上段に構え、国王を後ろから深々と切り下した。
え?
なにが、おこっているの?
見るからに致命傷な攻撃は誰も止めることが出来ないでいた。
刹那、上がる悲鳴と怒号が音の洪水のごとく押し寄せる。
兄様は無表情のまま踵を返し、すぐに駆け出す、誰も後を追うことができないでいた。
状況が理解できず、私たち四人は周囲に集まった騎士に取り押さえられる形になった。
それぞれが床に押し倒され腕に金属製の錠をかけられる。
「なんてことをしてくれたんだ貴様達は!!」
その声には聞き覚えがあった。
舞台の上に上がってくるのは私もよく知っている顔、兄様の父君であるアルバラン=シュタイン。
その冷たい表情は身も震えるほどであった。
「わ、私もなにがなんだかわからないのです!!」
ただ必死に叫んだ! このままではみんなが殺されてしまう!
「セレス、貴様は何も聞いてはいないとそう言うのか?」
心が痛んだ、何もわからないが皆を生かすためにはみんなの身の潔白を訴えかけるしかない!!
「はい! 私達四人は何も知りません!!!」
アルバランは少し示唆した後、口元に手を当てて考え込む。
「よかろう、貴様たちの処刑だけは見送ってやろう」
一時的にだが命は繋いだことに安堵する。みんなを見るとパトラは泣きじゃくり嗚咽の声を漏らしていた。
ジャスティンさんは放心していてうわごとの様に「うそっすよね、冗談すよね」と繰り返している。
カナンさんは床を拳で激しくたたいて「なんでだよ!!!」と憤っていた。
視線をアルバランに戻すと拡声器の前に立ち大声で話す。
嫌な予感が当たってしまった。
「全ての騎士に命令をする!! アリア=シュタインを見つけ次第処刑しろ!! これは国家転覆罪だ!」
アルバラン=シュタインは元騎士団長、騎士の命令権は持ち合わせている。
兄様が殺されてしまう!!!
だけど……
だけど……
何もわからない! 私には何も!!
だけどあんな優しい兄様がこんなことをするはずがない!!
記憶の中の兄様の記憶を辿る。
あれはたしか、私が騎士になった時の事……
■ ■ ■ ■ ■
「兄様はどうして騎士になったのですか?」
それは帰り道ふいに聞いた質問だった。
兄様は一瞬驚き少し照れた顔で話してくれた。
「笑わないで聞いてくれるか?」
「もちろんです!」
「昔の憧れでさ、カッコイイ騎士になりたかったんだ。あらゆる敵を倒しお姫様を助け出す絵本がすごく好きでね、私もそんな風に誰かを守りたいと思ったんだ。元々私は一人っ子だったからね、セレスがうちに来てくれた時に思ったんだ。私は家族を守ろうって、初めてできた妹なんだ、すごく嬉しかったんだ、だから私が騎士になった理由はセレスだよ」
「……」
「どうした?やっぱり変だったか?」
はにかむ笑顔がやけに眩しく映ったのを覚えている。
「い、いえ全然!! さすがです兄様! 私は兄様のことを改めて尊敬します!!!」
顔が赤いのを誤魔化すためにふいっと顔を背けてしまった。
兄様はそのまま言葉を続けた。
「何も持ってない私に頑張る力をくれたのはセレスのおかげだよ、あの頃私は魔法が使えないことを嘆いていて何も手につかなかった、そこにセレスが来てくれて…… あの頃髪の色が違うことでいじめられてただろ?」
兄様はちゃんと見ていたんだ…… 私が髪の色でいじめられていたことを、ドラゴニアという種族だから目立たないように生活していたことを。そして私はそのことを絶対に言わなかった。心配をさせたくなかったから……
「その時に思ったんだ、私に力があればなって、誰にも負けない強い力を私が得るためには他の訓練では駄目だったんだ、だからテオに頼んで地獄のような修行をした。辛くて何度も止めたくなったよ、でもさ、セレスは逃げなかった、いじめてきた相手にも怯まず、立ち向かっていった。 はは、兄ちゃんだからな負けたくなかったんだよ」
「そんなことが」
「ああ、そんなことが私にとって大事だったんだよ、妹に負けたくなかった。それだけが私の頑張る力の源だったんだよ」
「なんかカッコいいですね」
「そうか?かっこ悪い気もするけどな」
「私はそうは思いませんよ」
「 ……そうか、私はこの力で多くの人達を救いたいんだ。騎士になったことで救える命があることを多く知った、いまは悲しい思いをする人を減らすのが目標かな」
兄様はただ真っすぐ前を見ていた。そんな素敵な目標に私も近づけたらいいなと何度思ったことか、そんな何事にも真っすぐな兄様が大好きだった。
■ ■ ■ ■ ■
あれは、本当に兄様だったのだろうか?
ただ気になったのはすれ違う時のあの香水の香り……
見上げると完全武装したテオさんが兄様が逃げたほうへすごい速度で飛び出していった。
もし、兄様に化けている者がいるとしたら何もかもが辻褄があう。
お願い兄様どうか死なないで。
私たちは立たされ、騎士に連れられ、歩き出す。
どうやら牢屋に連れていかれるようだ。悔しい、何もできないなんて。
私達は重い足を引きづり牢へと向かうのであった。
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