魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

side ドルド ~絶望~

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 俺達は困難なことは今までに幾度もあった。

 だが、その度に仲間と助け合い、協力して乗り越える事ができた。


 それは自信となり、次第に周囲からの期待の声が大きくなるのはそう時間がかからなかった。
 期待や応援の声がこんなにもいいもんなのかと仲間と喜び合ったり、酒を飲んで騒いだりもした。

 ランクAの昇格試験、大型の魔物の討伐、災害の救助、これまでなんとか功績を残し、順風満帆な冒険者家業をこれからも続けていくんだとばかり思っていた。


 そう、この仲間達といれば何も怖いものなどないと本気で信じていた。


 この光景を見るまでは…



 俺はあの時の自分をこんなにも恨めしく思ったことはないだろう。

 なんでこんな依頼受けちまったんだ…


 胸に浮かぶのは後悔の念と自分の力に溺れた者の末路かと諦める思いが鬩ぎ合っていた。

 最初は依頼の内容が騎士団からで、高い報酬の割には村人の護衛という、比較的冒険者から見ると難しくない依頼だった。


 たまたまその村にいた俺達は、張り出されたばかりの依頼書に飛びつくように取ったのがきっかけだった。


 指定ランクはB、最近Aランクになった俺達は大抵の依頼はこなせる自信があった。
 迷わずその依頼を受けちまった。



 それが戻れない道とも知らず。



 やっぱりあの時に恰好つけていないで素直に助けを求めるべきだったんだ。

 騎士団と連携して対処すべきだった。


 だが、何もかもが遅すぎた。


「ぢぐ…しょう」


 なんて様だ、Aランクまでなったというのに、数時間前までの自分を殴りたくて仕方ない。

 なんで自分は傲慢で愚かだったんだろうと。



「ぢ… ぐ… しょう…」


 辛うじて目に見える絶望は璃々とした笑顔で笑いながら近づいてくる。


 来るな



 くるな



 く… る… な…


 話は数分前に遡る。


 ーーーーー
 ーーー
 ー


 進行は順調で、休憩を3度挟み、朝日が顔を出したころ俺達は目的地である港町に向かい進行を開始していた。

 夜のうちに現れた魔物は、俺達【ワード】の活躍により、問題なく倒していくことができた。

 護衛対象である村人たちもあまり疲れを感じていない様子で、このままいけば正午には港町につけるはずだった。



「ドルドさん、報酬もらったら次はどこ行くんですか?」


 後輩であるトストンは俺の従弟で、尊敬しているらしく俺が冒険者を始めるといった時も迷わずついてきたかわいい後輩だ。


「ああ、この人達と同じように俺達も船を借りて、リーゼア大陸を見て回るとするか」

「いいわね、まだ見ぬ世界が私たちを待ってる感じがして」


 お調子者だが誰よりも好奇心旺盛、何気に気配り上手なエルフ、シェリーは俺とトストンの幼馴染で最初はこの3人で冒険者家業を始めた。


「そこにドラゴニア族が残した珍しい本もあるかしら?」

「ああ、リーゼア大陸なら、失われたドラゴニア族の残した物が残ってるに違いないよ」


 この二人は後々に仲良くなったスティとソフィアの兄妹だ。
 主に魔法はこの二人が得意で色々と仲間になってから助けられてばかりだった。

 そしてスティとソフィアが加入してからの快進撃は凄まじく、あっという間に俺達は名の知られる冒険者パーティ【ワード】として活動を広めていった。


 次のSランクの昇格試験まではまだまだだが、これといって心配な点もなく、順調に進んでこれた。


 次に向かうリーゼア大陸ではどんな冒険が俺たちを待っているのかと思うと、はやる気持ちを抑えられなかった。


「正午には港町に着くから気を抜かず行くぞ」

「わかってるよ、ドルドは心配性だな、こんな日中、夜ならまだしも比較的弱い魔物しか出くわさないよ」


 トストンは笑いながらも辺りを見渡す。


「ほら、魔物の気配すらない、辺りにもそんな脅威になる魔物なんていないよ」


「まぁ、私は魔物ではありませんからね」


 不意に聞きなれない誰かの言葉に思わず耳を疑う。


「は!?」


 一斉に声のしたほうを振り返ると、いつからそこにいたのか、金色の髪をした幼い顔の…



 化け物が一緒に歩いていた。



「さ、散開しろっ!!!!!」


「フ、フレア!!!!」


 直後大きく距離を取るため、一斉に飛び、スティの爆炎魔法を化け物にぶち当てる。

 大きな爆炎が上がり、同時に村人達の悲鳴が響き渡る。


 周囲に爆炎魔法の黒煙が立ち込める。


 やったのか?


 すると前の方の案内役のギガントの騎士が慌てた様子でこちらに駆けてきた。


「どうした!? 何があったんだ?」


 意識は急に現れた敵のことで頭が一杯だった。

 久しぶりに冷や汗をかいた。

 しばらくすると黒煙は晴れ、そこには先ほどと変わらぬいで立ちの、化け物が佇んでいた。


「初めましてになるわね、なるかしら? 私の名前はヘンリエッタ、絶望を届けに来たわよ」


 金色の髪、額には大きな2本の角、幼い顔立ちは14歳ほどに見える、だが本来白目の部分まで目は真っ赤で、背中からはドラゴンのような翼、足は蜘蛛のように8本が交差するようにひしめき合っている。


 見たことのない化け物。


 そしてこいつは知性があるのか自分をヘンリエッタと名乗り、言葉を話す。

 やばい、やばすぎる相手だ。


 だが、幾度も大きな魔物を倒してきた魔物専門の冒険者である俺たちは、新しい魔物に好奇心をくすぐられた。


「なんだ… こいつは… おい、俺らも手助けするぞ」


 騎士のギガントの男も見るのは始めてのようだ、魔物の知識など騎士はあまり持ち合わせていないと聞く、なら専門である俺たちがここを引き受け、先に村人たちを誘導してもらったほうが都合がいい。


「いや、騎士団の方々はこのまま港町で村人たちの安全を確保してください、ここは魔物専門に特化した私達【ワード】の出番です」

「しかしだな… あんな魔物見たことないぞ…」

「私達はこれでもAランクの冒険者ですよ?少しは信用して頂きたい、必ず後で追いつきますから」

「ああ、わかった、健闘を祈る」


 まったく、冒険者だからといって舐められるのは何度目になるかな。

 不快感を顔に出さないようにするのが大変だったぜ…

 騎士団達は村人達を引き連れ、行軍を再開した。


「優しいんだな、待ってくれるのか」


 化け物と対話だなんていよいよ俺もいかれてるな。


「もういいのかしら?色々準備があるんでしょう?」

「舐めやがって…」


 小さい割になんて舐めた態度を取る化け物だ、さっきは火炎に耐性がきっとあったんだろう。

 化け物は気持ち悪い笑みを浮かべながらどうやら強化魔法をかけるまで待ってくれるみたいだ。



 ならその笑顔をボコボコにしてやるよ…


「エリアハイオーバーパワー、エリアハイディフェンダー」


 ソフィアの上級範囲強化魔法がかけられる。

 これで攻撃力も防御力も先ほどの2倍だ。


「いつでもどうぞ」


 にやりと笑う化け物。

 今に見てろよ…

 トストンと目で合図をして同時に飛び出す、まずは様子見だが、全力の俺たちの一撃を避けられるかな!!


 大きく踏み込み、瞬時にヘンリエッタまでの距離を詰める。


 チッ、余程余裕があるのか、あるいわ動けないのか、まあいい、くたばれ!!!


 左右から斧と剣がヘンリエッタに向け迫る。


「なっ!?」

「嘘だろ」


 少女のような細腕が強化された斧による攻撃と剣による同時攻撃を素手で掴み離さない。


「ぐはぁああ!!」

「づぅうう!!!」


 そのまま交差するように地面に思い切り叩きつけられる。

 ギガントの男が、強化魔法を施した攻撃が、少女の細腕に阻まれ、地面に叩きつけられる。


「いいわぁ… その顔」


 クスクスと笑い、キチキチと足を動かし、歩いていく化け物。


「来るな!化け物め!!アイス… ひっ!?」


 スティがやや離れた位置から、冷却魔法を唱えようとした瞬間、ぶれる様に化け物はスティの目の前に移動し、至近距離でその目を覗き見る。


 その瞬間だった。


「ひぃぃいいいいあいいいあああいあいあいあいああいあおいあいおあいお!!!!」


 言葉にもならない叫びをあげ、スティは錯乱さくらんしたように必死に逃げようとする。


「あはははは」


 化け物は何がおかしいのかその光景を眺め楽しそうに笑う。


「どうしたのよ… スティ…」


 泣きそうな顔のソフィアは足が震えているようで、おかしくなった実の兄の姿に恐怖を感じていた。


「あっばじゃっじゃぁあああああああああぁぁっぁぁぁあああ」


 錯乱し、地面に何度も自分の頭を打ち付けるスティ。


「や、やめなよ!!ス、スティ!!」


 頭から血を流しても打ち付けるのを止めないスティを無理やり引きはがすシェリー。


「ぅおぁああああああぁっぁあ」

「えっ!?」


 シェリーの体から鮮血が迸る。

 どさりと倒れたシェリー、あたりにはシェリーの血だろうか、どんどん溢れてくる。


「シェリー!!!!」

「うぉうぉあああああっぁぁっぁ」


 スティは起き上がり手にしているナイフで何度も何度も血だらけになっているシェリーをめった刺しにしていく。


 ザシュ、グシュ、という肉を裂く嫌な音が何度も何度も聞こえる。



 地獄だった…


 やめてくれ…


 やめてくれ…


 いつの間にか涙を流している自分に気づく、なぜ俺は地面に倒れたまま動けないんだ!!!



「うっ… あ… うぇえええええ」


 ソフィアがその恐怖と仲間を目の前で殺されたショックで吐いてしまった。

 顔は真っ青で今にも倒れてしまいそうだった。


 そこに化け物が笑いながら近づく…


「どうしたの?何を泣いているの?」

「ひぃ… おぇえええええ」


 崩れ落ちるソフィアの手を化け物がとり、倒れないように支えている…


「それにしても綺麗な指ね…」

「な、なにを…」

「えい、えい」

「ひぎゃああああああああ!!!!!」

「いい音色ね」


 パキンパキンと軽い音を立ててソフィアの指が壊されていく。


「やめろぉおおおお!!!!」

「待て!? トストン!!!!」


 先に倒れていたトストンが起き上がり、剣を振りかざし、化け物に向かい駆け出す。


 瞬間。


 ピヒュンという音と共に、トストンの体が引き裂かれる。

 辺りに散らばるはトストンの肉片だ。



「ぅううああああああああ!!!」



 思わず叫ばずにはいられなかった。


「ちゃんと周りはよく見たほうがいいよ? 私の糸細くて見えにくいから」


 クスクスと笑うヘンリエッタは仲間の死骸の上でちょこんと座り、未だに叫びながらシェリーの体に刃を刺しているスティの首をもぎ取ると、興味深そうに眺めた。


「不思議ね、血はなんで赤いのかしら?」


 血しぶきを浴びながら平然と死体を観察する化け物。


「味も、生きてる時と死んでるときは違うし不思議ね」

「や、やめろ…」


 スティの体に齧り付き咀嚼すると今度は痛みで気絶したソフィアの首元に噛みつく、ソフィアは一瞬ビクンと痙攣をしたのちにぱたりと動かなくなった。




トストン、シェリー、ソフィア、スティ、皆やられてしまった…

「う… ぅう」

「興味はつきないものね、あなたはどんな声を上げるかしら?楽しみだわ」


 絶望がゆっくりと迫る。

 その断末魔の声を聞くのはヘンリエッタただ一人だった…




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