70 / 104
第二章 アルテア大陸
王族軍と騎鳥軍
しおりを挟む久しぶりの賑やかな食事を終え、私達は王族軍が待機している村へ急ぐことにした。
「こんだけの大荷物狙われないといいんだがな」
リーダー格の熊のような獣人のロズンが笑いながらぼやく。
「お前がそれを言うなよ」
呆れ顔のマーキスさんはため息を吐きながら台車を引いていく。
今運んでいる食料を乗せた台車は6台、マーキスさんが言うには避難している獣人達の3日分の食料になるという。
「ようやく見えてきたな」
「ようやく辿り着きましたね」
カインとアインが先頭で目前を眺めながら答える。
前の村を出てからだいぶ日も暮れかかった時、目的地にたどり着くことができたようだ。
夜になる前に来ることができてよかったな…
台車を引き、木製の門を超えると先ほどの村とは違った光景が広がっていた。
木々は高く伸び、それに連なるように様々な大きさの家がひしめくように建ち並ぶ。
夜になり、木製の街灯には優しいオレンジの光が灯り、村全体を明るく照らし出す。
「驚いたな…」
外からはまるでわからなかったが、見上げれば50メートルもあるであろう大きな巨木を中心に木々が立ち並んでいる。
ざわざわと周囲の声が聞こえ、そこに住む住人たちが何事かとゾロゾロ家の中から出てくる。
「お父さん!!」
シェリアがフードを取り、駆け出す。
駆け出す先に待つのは、大きなテントから出てくる赤い髪をオールバックにし、厳つい顔つきの壮年の獣人の男性、黒い鎧を身に纏い、両手に持つのは2本のバトルアックスだろうか。
男はシェリアに気づくと、武器を手放し、両手を広げ、シェリアを抱きしめる。
「シェリア!! 必ず、生きていると信じていたぞ…」
その厳つい顔は崩れ、今にも泣きだしそうな顔をシェリアに向ける。
「お父さん… ただいま…」
涙ながらに話すシェリアの顔はとても嬉しそうだった。
「その、お父さん…… お母さんは…」
急にその笑顔をくしゃりと崩し、シェリアは言い淀む。
「いい、シェリア、何も… 言わなくていい…」
その言葉で全てを察したのだろうシェリアの父親はシェリアを再びぎゅっと抱きしめた。
「うっ… 何もできなかった…」
そこで言葉は決壊し、代わりに大粒の涙をシェリアは流し、父親の胸の中、声にならない声をあげ、今まで貯めていた感情を吐き出した。
しばらくすると落ち着いたシェリアは恥ずかしそうに目元をぬぐい答える。
「す、すみません、取り乱しました… お父さん無事で何よりです…」
「ああ、儂はただ逃げていただけだ、生き残れたのはこいつらのおかげだ」
シェリアの父親が手を示す先に跪き頭を垂れるシルバーの鎧を身に纏った者が答える。
「王からそのような言葉、光栄の極みでございます」
その表情はヘルムに覆われていて伺うことはできないが、声から女性だとわかる。
シルバーのフルプレートに身を包み、背中からは茶色い大きな翼が生えている。
この人が噂に聞く騎鳥軍の一人なのだろう。
「謙遜するでない、騎鳥軍団長キルア=エンドレアよ」
「いえ、私はあくまでも代理ですから…」
「そうだったな…」
急にシェリアの父親は気づいてしまったかのようにその言葉を止めてしまった。
何かわけがあるのだろうか…
「ああ、随分待たせてしまったなマーキス、娘を見つけてくれたこと深く感謝する」
「お礼ならこっちのあんちゃんに言ってくれよ」
ずいっとマーキスさんに前に出され、そのはずみで被っていたフードが外れてしまった。
突如、物凄い殺気を感じ、一歩大きく下がる。
すると先ほどまでいた位置にカインとアインが武器を交差するように私の前に立ち、キルア=エンドレアの抜かれ放った剣を止めていた。
「おい!!キルア!彼らは客人だぞ!」
シェリアの父親が激高する。
「王よ、こいつは敵国、ガルディアの騎士です!その赤い鎧が何よりの証拠だ!」
「あまり関心しないな、団長さん、人を見た目で判断するなと教わんなかったか?」
「ええ、いきなり剣を投げるなんて、あなたそれでも団長なんですか?」
「なんだと貴様」
カインとアインが武器を構え、キルアを挑発する。
「待て、待て、お前ら、血の気が多すぎるぞ、まったく」
マーキスさんが二人をなんとか宥める。
「キルアさん、あんたも少し落ち着いてくれ、アリアは俺たちの敵じゃない、シェリアを救ったのはこのアリアなんだよ」
「すまない、敵だと思われても仕方ない恰好をしているのは事実だ、私にも… そちらと同じように事情があるんだ」
「そうか、わかった話を聞こうじゃないか」
どうにか武器を収めてもらうことには成功したようだ。
「ここではなんだ、一旦私の滞在しているテントに向かおう、ここでは話がしづらいんでな」
辺りを見渡すと多くの人たちが怪訝そうな顔で私達を見ていた。
あまり歓迎はされてないようだな…
仕方ない、私はこの大陸では敵の騎士なのだから。
シェリアの父親に促されるまま、テントへと向かった。
「まずは改めて娘を助けていただき感謝する。私はこの大陸の国王であるゴートン=バーン=アルテアと申す者だ」
シェリアの父親ゴートンさんは椅子に深く腰掛け、私をじっと見つめる。
「私からも先ほどの非礼を詫びたい、騎鳥軍団長代理を務めるキルア=エンドレアだ」
キルアさんはヘルムを外し、深々と頭を下げ謝罪する。
茶色いボブの髪、切れ目の目、なかなかに美人な鳥人の女性なのが改めてわかった。
「気にしないで下さい、私はアリアと言います、シェリアの護衛としてこの大陸に来ました」
「それと、失礼な話をするが、その腕は…」
キルアさんは私の右腕の方を指し、眉間に皺を寄せる。
「ええ、失っています」
「やはり… 腕を失った理由はアリアさんがこの大陸に来たことにも、もしかして関係していますか?」
キルアさんは私の表情から察したのだろう。
「どうやら深い事情があるようだな… 娘を助けて貰った礼、ではないが手助けできるやもしれん、話してみてはくれないか?」
真剣な表情でゴートンさんは私の目を見てまっすぐ答えた。
話してもいいだろうか…
そっと左手をシェリアが掴む。
「私も協力しますよ、アリア様…」
シェリア…
こんな私情もはや関係ない話だというのに…
「現在のガルド大陸の国王は私によく似た者に暗殺され、私は濡れ衣を着せられ危うく殺されるとこでした…」
「なんと…」
「腕を失い、とどめを刺される間際、仲間が私を助けてくれて、いろんな人の協力を経て、ここまで逃げ延びることができました… シェリアを故郷に返す目的もありましたが、私は故郷に戻れなくなりました」
そう、帰ることなどできはしない…
ターナーさんは私が生きることを強く望んでくれた…
簡単に命を捨てるような真似はもうできない…
「だけど… まだ捕まったままの部下や妹がいるんです。 また戻れば命はないでしょう… ですが、それでも、無理だとわかっていても、私は…、私は、見捨てることなんてできないんです!」
唇を噛みしめ、握る拳に自然に力が入る。
なんてあの時の自分は無力だったんだろうか!
だが、助けるためには私だけの力だけじゃ無理なのはわかっている。
弱い自分を嫌いになるのはこれで2度目だ…
だから…
「無礼を承知でお願いしたいことがあります! どうか、どうか私に仲間を助ける為に協力してはもらえないでしょうか!!」
必死に頭を下げる。
急に来て何を言ってるんだと思うかもしれない。
でも私にはこれしか…
どんなに不格好でもいい、それでも助けてやりたいのだ…
「キルアさん…」
不意にシェリアが言葉を漏らす。
顔を上げて見るとキルアさんの目元には一筋の涙が流れていた。
「い、いや、すまない、あまりにも私と似た境遇だったので、つい感情を揺さぶられてしまった…そうか…君も助けたい仲間がいたのか…」
ゴートンさんが悲痛な表情で口を開く。
「キルアの兄である、ガイアス=エンドレアは騎鳥軍の団長でな、騎鳥軍の内部で反乱が起こり、ガルディアの兵から儂達王族軍やキルアを逃がすため、一人囮となって、アルタに残ったんだ…」
「そうだったのですか…」
「いくら奴が強いからといってもさすがに一人では捕まるのも時間の問題だった… 大半の騎鳥軍は敵に寝返り、戦況は絶望的だ」
「そして、先ほど全ての国にガルディア大陸からメッセージが発信されました」
暗い表情でキルアさんは語る。
そんな大規模なメッセージの能力を持っている人物は一人しかいない…
ガルディア都市教皇、ドンナム=イルレシアの能力は情報発信だ。
その力は以前、勇者召喚の際、各地の村に郊外任務に出ているストライフ、キール、アルフレアに向けて発信されたものと同じだ。
「『初めまして諸君、私は新たなガルディア国の国王、アルバラン=シュタインだ。何故こんなメッセージが君たちのもとに届くのか疑問が尽きないことだろう、そんな姿を想像すると実に愉快だ。 さて本題に入ろうか、私たちガルディア国はここに宣言する。 全ての大陸を我が物とし、このつまらない戦争を終わらせてやろうと、手始めにそうだな、アルテアの諸君、勇敢な捕虜を殺し、君達の希望を摘んでいこうと思うのだが、どうかな?処刑は3日後に行う、楽しみにしてくれたまえ』と」
「3日後…」
「あまり時間がないな…」
「まじかよ…」
それぞれ三者三様の声を上げる。
「これで、ガイアスが捕まったのは明らか、しかも処刑のおまけ付きだ… すまないが手伝いは他を当たって…」
「助けましょう」
「アリア様…」
「いいんですか?…君には何のメリットもない、ただ犬死にするかもしれないんですよ?」
「キルアさん、あなたも一人で行こうとしていますよね」
「う…」
「キルア、お前…」
怪訝な顔でゴートンさんは見る、それもそのはずだ、行ったら死ぬのは目に見えてわかっている。
「私だって気持ちは同じです。 同じだからわかるんです、無茶だとわかっていてもやらなければいけない、心が逃げるのを許さない、信念を曲げないんです」
「いいのか?本当に」
「ここで逃げたら自分が自分でなくなります! 時間がありません、準備ができたらすぐに向かいましょう」
キルアさんも頷き、テントから出ようとする私達の背に声がかかる。
「おいおい、待て待て、はやる気持ちはわかるが、計画は立てる必要があるぞ」
マーキスさんが首都アルタの地図を片手に私の肩を掴む。
「マーキスさん、いいんですか?」
「乗りかかった船じゃねえか、最後まで協力してやるよ」
にやりとマーキスさんは腕組みをして笑う。
「しゃーない、おっちゃんだけじゃ不安だからな、手伝ってやるよ」
「ええ、僕たちもいれば勝率も上がりますよ」
カインとアインも身を乗り出し答える。
「私は、最初からアリア様の手伝いをすると決めてましたから」
「ったく、せっかく逃げたってのに、まぁ誰か欠けるよりはいいだろ、儂も加勢してやる」
「兄貴が行くんなら、もちろん俺らはどこへでもいくぜ!」
「「「「おう!!」」」」」
シェリア、ゴートンさん、それにロズンさん達まで…
「ありがとうございます!皆さん!!!」
キルアさんは感激のあまり目が潤んでいた。
私も胸に熱く来るものがあり、目頭が熱くなった。
「作戦を練り、確実にガイアスを救い出す、失敗は許されないぞいいな」
「「「「「はい!」」」」」
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?
あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】
世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。
「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる