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第二章 アルテア大陸
王族軍と騎鳥軍
しおりを挟む久しぶりの賑やかな食事を終え、私達は王族軍が待機している村へ急ぐことにした。
「こんだけの大荷物狙われないといいんだがな」
リーダー格の熊のような獣人のロズンが笑いながらぼやく。
「お前がそれを言うなよ」
呆れ顔のマーキスさんはため息を吐きながら台車を引いていく。
今運んでいる食料を乗せた台車は6台、マーキスさんが言うには避難している獣人達の3日分の食料になるという。
「ようやく見えてきたな」
「ようやく辿り着きましたね」
カインとアインが先頭で目前を眺めながら答える。
前の村を出てからだいぶ日も暮れかかった時、目的地にたどり着くことができたようだ。
夜になる前に来ることができてよかったな…
台車を引き、木製の門を超えると先ほどの村とは違った光景が広がっていた。
木々は高く伸び、それに連なるように様々な大きさの家がひしめくように建ち並ぶ。
夜になり、木製の街灯には優しいオレンジの光が灯り、村全体を明るく照らし出す。
「驚いたな…」
外からはまるでわからなかったが、見上げれば50メートルもあるであろう大きな巨木を中心に木々が立ち並んでいる。
ざわざわと周囲の声が聞こえ、そこに住む住人たちが何事かとゾロゾロ家の中から出てくる。
「お父さん!!」
シェリアがフードを取り、駆け出す。
駆け出す先に待つのは、大きなテントから出てくる赤い髪をオールバックにし、厳つい顔つきの壮年の獣人の男性、黒い鎧を身に纏い、両手に持つのは2本のバトルアックスだろうか。
男はシェリアに気づくと、武器を手放し、両手を広げ、シェリアを抱きしめる。
「シェリア!! 必ず、生きていると信じていたぞ…」
その厳つい顔は崩れ、今にも泣きだしそうな顔をシェリアに向ける。
「お父さん… ただいま…」
涙ながらに話すシェリアの顔はとても嬉しそうだった。
「その、お父さん…… お母さんは…」
急にその笑顔をくしゃりと崩し、シェリアは言い淀む。
「いい、シェリア、何も… 言わなくていい…」
その言葉で全てを察したのだろうシェリアの父親はシェリアを再びぎゅっと抱きしめた。
「うっ… 何もできなかった…」
そこで言葉は決壊し、代わりに大粒の涙をシェリアは流し、父親の胸の中、声にならない声をあげ、今まで貯めていた感情を吐き出した。
しばらくすると落ち着いたシェリアは恥ずかしそうに目元をぬぐい答える。
「す、すみません、取り乱しました… お父さん無事で何よりです…」
「ああ、儂はただ逃げていただけだ、生き残れたのはこいつらのおかげだ」
シェリアの父親が手を示す先に跪き頭を垂れるシルバーの鎧を身に纏った者が答える。
「王からそのような言葉、光栄の極みでございます」
その表情はヘルムに覆われていて伺うことはできないが、声から女性だとわかる。
シルバーのフルプレートに身を包み、背中からは茶色い大きな翼が生えている。
この人が噂に聞く騎鳥軍の一人なのだろう。
「謙遜するでない、騎鳥軍団長キルア=エンドレアよ」
「いえ、私はあくまでも代理ですから…」
「そうだったな…」
急にシェリアの父親は気づいてしまったかのようにその言葉を止めてしまった。
何かわけがあるのだろうか…
「ああ、随分待たせてしまったなマーキス、娘を見つけてくれたこと深く感謝する」
「お礼ならこっちのあんちゃんに言ってくれよ」
ずいっとマーキスさんに前に出され、そのはずみで被っていたフードが外れてしまった。
突如、物凄い殺気を感じ、一歩大きく下がる。
すると先ほどまでいた位置にカインとアインが武器を交差するように私の前に立ち、キルア=エンドレアの抜かれ放った剣を止めていた。
「おい!!キルア!彼らは客人だぞ!」
シェリアの父親が激高する。
「王よ、こいつは敵国、ガルディアの騎士です!その赤い鎧が何よりの証拠だ!」
「あまり関心しないな、団長さん、人を見た目で判断するなと教わんなかったか?」
「ええ、いきなり剣を投げるなんて、あなたそれでも団長なんですか?」
「なんだと貴様」
カインとアインが武器を構え、キルアを挑発する。
「待て、待て、お前ら、血の気が多すぎるぞ、まったく」
マーキスさんが二人をなんとか宥める。
「キルアさん、あんたも少し落ち着いてくれ、アリアは俺たちの敵じゃない、シェリアを救ったのはこのアリアなんだよ」
「すまない、敵だと思われても仕方ない恰好をしているのは事実だ、私にも… そちらと同じように事情があるんだ」
「そうか、わかった話を聞こうじゃないか」
どうにか武器を収めてもらうことには成功したようだ。
「ここではなんだ、一旦私の滞在しているテントに向かおう、ここでは話がしづらいんでな」
辺りを見渡すと多くの人たちが怪訝そうな顔で私達を見ていた。
あまり歓迎はされてないようだな…
仕方ない、私はこの大陸では敵の騎士なのだから。
シェリアの父親に促されるまま、テントへと向かった。
「まずは改めて娘を助けていただき感謝する。私はこの大陸の国王であるゴートン=バーン=アルテアと申す者だ」
シェリアの父親ゴートンさんは椅子に深く腰掛け、私をじっと見つめる。
「私からも先ほどの非礼を詫びたい、騎鳥軍団長代理を務めるキルア=エンドレアだ」
キルアさんはヘルムを外し、深々と頭を下げ謝罪する。
茶色いボブの髪、切れ目の目、なかなかに美人な鳥人の女性なのが改めてわかった。
「気にしないで下さい、私はアリアと言います、シェリアの護衛としてこの大陸に来ました」
「それと、失礼な話をするが、その腕は…」
キルアさんは私の右腕の方を指し、眉間に皺を寄せる。
「ええ、失っています」
「やはり… 腕を失った理由はアリアさんがこの大陸に来たことにも、もしかして関係していますか?」
キルアさんは私の表情から察したのだろう。
「どうやら深い事情があるようだな… 娘を助けて貰った礼、ではないが手助けできるやもしれん、話してみてはくれないか?」
真剣な表情でゴートンさんは私の目を見てまっすぐ答えた。
話してもいいだろうか…
そっと左手をシェリアが掴む。
「私も協力しますよ、アリア様…」
シェリア…
こんな私情もはや関係ない話だというのに…
「現在のガルド大陸の国王は私によく似た者に暗殺され、私は濡れ衣を着せられ危うく殺されるとこでした…」
「なんと…」
「腕を失い、とどめを刺される間際、仲間が私を助けてくれて、いろんな人の協力を経て、ここまで逃げ延びることができました… シェリアを故郷に返す目的もありましたが、私は故郷に戻れなくなりました」
そう、帰ることなどできはしない…
ターナーさんは私が生きることを強く望んでくれた…
簡単に命を捨てるような真似はもうできない…
「だけど… まだ捕まったままの部下や妹がいるんです。 また戻れば命はないでしょう… ですが、それでも、無理だとわかっていても、私は…、私は、見捨てることなんてできないんです!」
唇を噛みしめ、握る拳に自然に力が入る。
なんてあの時の自分は無力だったんだろうか!
だが、助けるためには私だけの力だけじゃ無理なのはわかっている。
弱い自分を嫌いになるのはこれで2度目だ…
だから…
「無礼を承知でお願いしたいことがあります! どうか、どうか私に仲間を助ける為に協力してはもらえないでしょうか!!」
必死に頭を下げる。
急に来て何を言ってるんだと思うかもしれない。
でも私にはこれしか…
どんなに不格好でもいい、それでも助けてやりたいのだ…
「キルアさん…」
不意にシェリアが言葉を漏らす。
顔を上げて見るとキルアさんの目元には一筋の涙が流れていた。
「い、いや、すまない、あまりにも私と似た境遇だったので、つい感情を揺さぶられてしまった…そうか…君も助けたい仲間がいたのか…」
ゴートンさんが悲痛な表情で口を開く。
「キルアの兄である、ガイアス=エンドレアは騎鳥軍の団長でな、騎鳥軍の内部で反乱が起こり、ガルディアの兵から儂達王族軍やキルアを逃がすため、一人囮となって、アルタに残ったんだ…」
「そうだったのですか…」
「いくら奴が強いからといってもさすがに一人では捕まるのも時間の問題だった… 大半の騎鳥軍は敵に寝返り、戦況は絶望的だ」
「そして、先ほど全ての国にガルディア大陸からメッセージが発信されました」
暗い表情でキルアさんは語る。
そんな大規模なメッセージの能力を持っている人物は一人しかいない…
ガルディア都市教皇、ドンナム=イルレシアの能力は情報発信だ。
その力は以前、勇者召喚の際、各地の村に郊外任務に出ているストライフ、キール、アルフレアに向けて発信されたものと同じだ。
「『初めまして諸君、私は新たなガルディア国の国王、アルバラン=シュタインだ。何故こんなメッセージが君たちのもとに届くのか疑問が尽きないことだろう、そんな姿を想像すると実に愉快だ。 さて本題に入ろうか、私たちガルディア国はここに宣言する。 全ての大陸を我が物とし、このつまらない戦争を終わらせてやろうと、手始めにそうだな、アルテアの諸君、勇敢な捕虜を殺し、君達の希望を摘んでいこうと思うのだが、どうかな?処刑は3日後に行う、楽しみにしてくれたまえ』と」
「3日後…」
「あまり時間がないな…」
「まじかよ…」
それぞれ三者三様の声を上げる。
「これで、ガイアスが捕まったのは明らか、しかも処刑のおまけ付きだ… すまないが手伝いは他を当たって…」
「助けましょう」
「アリア様…」
「いいんですか?…君には何のメリットもない、ただ犬死にするかもしれないんですよ?」
「キルアさん、あなたも一人で行こうとしていますよね」
「う…」
「キルア、お前…」
怪訝な顔でゴートンさんは見る、それもそのはずだ、行ったら死ぬのは目に見えてわかっている。
「私だって気持ちは同じです。 同じだからわかるんです、無茶だとわかっていてもやらなければいけない、心が逃げるのを許さない、信念を曲げないんです」
「いいのか?本当に」
「ここで逃げたら自分が自分でなくなります! 時間がありません、準備ができたらすぐに向かいましょう」
キルアさんも頷き、テントから出ようとする私達の背に声がかかる。
「おいおい、待て待て、はやる気持ちはわかるが、計画は立てる必要があるぞ」
マーキスさんが首都アルタの地図を片手に私の肩を掴む。
「マーキスさん、いいんですか?」
「乗りかかった船じゃねえか、最後まで協力してやるよ」
にやりとマーキスさんは腕組みをして笑う。
「しゃーない、おっちゃんだけじゃ不安だからな、手伝ってやるよ」
「ええ、僕たちもいれば勝率も上がりますよ」
カインとアインも身を乗り出し答える。
「私は、最初からアリア様の手伝いをすると決めてましたから」
「ったく、せっかく逃げたってのに、まぁ誰か欠けるよりはいいだろ、儂も加勢してやる」
「兄貴が行くんなら、もちろん俺らはどこへでもいくぜ!」
「「「「おう!!」」」」」
シェリア、ゴートンさん、それにロズンさん達まで…
「ありがとうございます!皆さん!!!」
キルアさんは感激のあまり目が潤んでいた。
私も胸に熱く来るものがあり、目頭が熱くなった。
「作戦を練り、確実にガイアスを救い出す、失敗は許されないぞいいな」
「「「「「はい!」」」」」
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