姉弟日和

我妻 夕希子

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第3話・歪みだす糸②

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「もしかして、姉さんに会いたいの?」

俺の言葉に久城はピクリとした。
どうやら肯定らしいその動きに、俺は溜息を漏らす。

「なんで?なんで会いたいの?」

(君とは今日、出会ったばかりじゃないか)

俺の唇は冷たく動いていた。
久城は真っ直ぐと俺を見つめている。

久城が口を開いた瞬間

「唯衣?」

と俺を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。
俺は声が聞こえた方を振り向く

(なんてタイミングの悪い)

「姉さん」

軽く息を切らした様に肩を揺らしながら、愛おしい姉さんは立っていた。
そして俺の後ろに佇んでいる少女に視線を送る。

「その子は…」
「クラスメイトだよ、じゃあ、俺達行くからーっ」
「待って下さい!」

姉さんの腕を掴んで、足早に去ろうとする俺を遮る声。

「自分は、中川さんと同じクラスになった久城 理玖くじょう りくです」

久城の視線は姉さん一直線に向けられている。

「え、あ、はじめまして、唯衣の姉の中川 唯芽なかがわ ゆめです」

姉さんは優しく微笑んで挨拶を返した。

一歩、久城は姉さんに近寄る。

「コチラの本、お姉様が探していると中川さんからお伺い致しまして…」

そう言うと、久城は手に持っていた本を、姉さんに差し出した。

「こ、これは!!!!」

姉さんの目が輝く。
きっと姉さんの目には、本から後光でも射しているかの様に映っている事だろう。

「でも、コレは君のだろ?」

俺が横から口を出すと、姉さんは残念そうに眉を下げた。

「いえ、自分は違う本屋で買いますので…それに、コチラはコレが最後の1冊でしたから」
「なら!尚更のこと、受け取れないよ!」

今度は姉さんが口を開く。

「ーーーでは、どうしても気になると仰るのなら………」

久城のに俺の心は騒めく。

「お姉様、今度、自分として下さい」

久城が柔らかく微笑んだ。
姉さんは驚いた顔をしていたが、直ぐに微笑み返し


「ふふ、いいよ」

そう言いながら、久城の持っている本を受け取った。
きっと〝交渉成立〟というヤツなのだろう

「ちょ、ちょっと待ってよ、今日会ったばかりで…」
「あら、別に良いじゃない、ね?理玖ちゃん」
「…です」

女対男、2人対1人、俺がオカシイみたいじゃないか

「中川さん、嫉妬ですか?」

チラリと見上げてくる久城の瞳が細まる。

まるで、俺を挑発している様にー

「そうなの?もぉ、相手は女の子だよ?」

姉さんは口元に手を充てるとクスクス笑った。

「じゃあ、連絡先を交換しようか?」と姉さんが動き出す。
久城も嬉しそうに携帯を取り出した。


(待ってくれ、何を考えているんだ)


何を


何を!


一体、コイツは何を企んでいるんだ?!!


連絡先を交換し合う姿を眺めながら、俺の思考はグルグル回る。

視界も回る様な気がして、俺は軽くフラついた。

「唯衣?大丈夫?」

いつの間にか、交換作業が終わっていた姉さんが、フラついた俺を支える。

「だ、大丈夫だよ」

苦笑を浮かべると久城を見遣る。
久城は、真っ直ぐ俺を射抜く様に見ていた。

「流石に疲れちゃったかな?早く帰ろうか?」

姉さんが心配そうに俺の背中を摩ると、鞄から財布を取り出した。

「ごめん、理玖ちゃん、唯衣を少しの間、お願い出来る?」
「了承しました」

姉さんは急ぎ早やにレジへと向かっていった。
取り残された俺と久城の間には微妙な雰囲気が纏わりつく。

「どういうつもりだ」

最初に切り出したのは俺。

「どうとは?」
「なんで姉さんに近寄った?」
「あの小説を愛読しているなんて、貴重な人材であります」
「…」
「目の付け所が良いと感じました、惹かれました」

「それが答えでは、ご不満ですか?」と久城は俺を見上げて問い掛ける。

「ーっ」

沈黙が流れた
その沈黙は、姉さんが戻ってくるまで続いたのだった。

姉さんは俺達の微妙な雰囲気に首を傾げていたが、久城に礼を述べると俺の腕を引いた。

「理玖ちゃん、この本、本当にありがとう」
「いえ、自分も同じ趣味の方に出会えて有意義でありました」
「私達は此処で…理玖ちゃんも、気を付けて帰ってね」

久城に会釈をすると俺達は踵を返して、本屋を後にする

店内に残された久城が小さく口を開いた


「ーーーあの人が、のー…」


久城が漏らした言葉は、人の気配で掻き消され、俺達には届かなかったー


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