姉弟日和

我妻 夕希子

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第4話・手操る思案①

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本屋を出た俺は、嬉しそうに本を抱えている姉さんを見下ろした。

「ねぇ、姉さん…手、繋いでも良い?」
「え?」

姉さんは驚いた様に俺を見上げてきた。

「…ダメ?」

甘える声を出してみると、姉さんは暫く考え込む。
きっと、即答してくれない理由はー

「この辺、学校の近くだし…に見られると…」

(やっぱり)

姉さんの口から出た〝よりくん〟
コイツが姉さんの…



「姉さん、お願い」

姉さんの肩に顔を埋めると、再度してみる。

姉さんは少し困った様な溜息を漏らすと「仕方がない子ね」と渋々と承諾してくれた。
姉さんが「ん」と右手を差し出してくる
俺は、その手を握る。

そしてー

姉さんの指に自分の指を絡ませた。

所謂、恋人繋ぎ

姉さんはビクッと体を強張らせると、俺を見つめてきた。

「ちょ、唯衣…」

俺から逃げれない様にギュッとキツく指を絡める。

(ダメだよ、姉さん、絶対逃がさないから…)

「唯衣っ」

姉さんの苦情は俺の耳には届かない。
聞く気もないから、なんだけど。

姉さんは不服そうに無言で歩き出す。


ーーあぁ、その顔さえも愛おしい、愛おしい、俺が、、そうさせている。



「姉さん、今日の夕飯なんだと思う?」
「知らない」
「その本、そんなに面白いの?」
「気になるなら唯衣も読んでみたら?」

ご機嫌は斜めでも、俺の質問には答えてくれる姉さんを見つめながら細く笑む。

「じゃあ貸してよ、俺もなんか貸すからさ」
「えー!嫌よ!唯衣が持ってる本ってどれもコレも小難しいんだもん!」

姉さんは頬を膨らませながら俺を見上げてきた。

「そうかな?」
「そうよ!アンタ何歳?!って毎回思ってるんだかー」

姉さんの言葉が止まる。
姉さんの視線の先を追うと、そこには黒髪の好青年人物が誰かと歩いていた。

「よ、り、くん」
「ーーッ」

パッと、姉さんの手が俺の手から抜ける。

(行かせないっ!)

離れた手を掴み直すと勢い良く自分の方へ引き寄せた。

「っな!」
「ダメ、行かせない」

小さな姉さんを包み隠すように抱き締める。
姉さんは俺の胸元をトントンと叩いたり離れようとしたりしていた。


(あぁ、俺の腕の中でもがくキミは、本当に可愛いね)


「おい、見ろよ。路上でよくやるよなー」という声が聞こえると、姉さんはビクッと体を竦めて、今度は自分から隠れる様に埋れてきた。

も、そう思うだろ?」

男の問いに、依藤よりふじと呼ばれた男がチラリとコチラを見遣る。
そして小さく「そうだね」と答えて、2人は通り過ぎて行った。

2人の姿が見えなくなると俺は、漸く姉さんを解放した。

姉さんは眉を下げ哀しそうに俺を見ていた。


「な、んでこんな事したの?」
「ねぇ!なんで?!」
「依くんは!!」

捲し立てる様に姉さんは連続で言葉を放つ。

「依くんは!!」
「姉さんの彼氏だろ」

その先は。
その先は、姉さんの口から聞きたくない。

姉さんの瞳が大きく見開く。

「…取り敢えず、帰ろう」

姉さんに手を差し出す。
姉さんは手を取らずに歩き出した。

(まぁ、仕方が無いか)

俺は姉さんの後ろを、ゆっくりと付いて歩いた。


昔のように。

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