姉弟日和

我妻 夕希子

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第6話・嘘吐きの始まり①

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「唯衣、おはよ」

ーー月曜日、姉さんは笑顔で階段を降りてきた。

「姉さん、おはよう」

コーヒーを飲みながら俺は姉さんに微笑む。

そして昨日の事が脳裏に蘇る。

女の柔らかな唇、吐息、熱量。


(アレが、姉さんだったなら良かったのに)


苦味のあるコーヒーを口に含みながら俺は、そんな事を思った。

「ね、唯衣」
「ん?」

姉さんは俺の腕を軽くつつく。
そんな姉さんへ視線を向けた。

「今日、一緒に帰れないかも」
「えっ?なんで?」

カチャンッと少し乱雑にカップを置くと姉さんを見つめた。

「依くんと帰るから」


「依くんと帰るから」その言葉を聞いた瞬間、俺の胃がギリッと痛む。

「ねぇさ…」そこまで言い掛けて、俺の声は紡ぐのを止めた。

「わかった、大丈夫だよ、帰り道とかは解ってるし」
「ごめんね?」

手を合わせながら姉さんは眉尻を下げる。
そして、にっこりと微笑んだ。



*****



ーーー学校。

「…中川さん」

机に突っ伏していると、女が声を掛けてきた。

その声は聴き覚えのある声。
ーー日曜日に唇を交わしただと顔を見ずとも解る。

「久城さん」

顔を上げずに俺は答えた。

「…具合でも悪いのですか?」
「違う」
「では、どうしました?」
?」

意地の悪い言葉に、久城は少し黙り込む。
そして口を静かに開いた。



〝なるほど〟

彼女はそれだけを呟くと自分の席へと戻って行った。

どうやら、気付いたらしい。

俺が沈んでいる理由に。

まだ序盤という事もあり、授業も難無く解る。
解るが、今の俺の頭には断片的にしか入って来ない。

心、此処に在らず。

今頃、姉さんはアイツと授業を受けているのだろうか?
同じクラスかさえ解らない、だけど、姉さんと同じ空気を吸っている。
それだけでも羨ましい。

帰り、姉さんはアイツと帰る。
アイツと…何をしながら帰るんだ…?

姉さんに触れるなんて許せない。
俺のだぞ?
俺の姉さんなんだ。

無表情で黒板を眺めていると、隣から視線を感じた。
チラッと横目で隣を見遣る。
頬を赤らめながら女が俺を見ていた。

にこりと微笑んで見せる。
すると女は、俺の方に身を寄せ小声で話し掛けて来た。

「中川くんって、久城さんと付き合ってるの?」
「え?」

眉間にシワが寄る。
初対面、では無いかも知れないが、少々不躾な質問だと思った。

「ほら、昨日、肩を抱いて出て行ったし」
「あぁ…そうだなぁ…ナイショ」

人差し指を女の唇に当て微笑む。
女は、気持ち悪くろこつに女を出して来た。

「えっ、じゃあっ」
「ね、授業、ちゃんと聞いといた方が良いよ」

やや素っ気なく告げると俺は、前を向いて授業を聞いた。

そう、をした。


*****


ーー放課後


「中川くん」

隣の席の女が帰り支度をしている俺を引き留める。

(煩わしいなぁ)

「何?」

煩わしい、という感情は面に出さずに俺は微笑んだ。

「あの、この後…その…」
「ごめんね、俺ちょっと急いでて」
「そっか…」

(そんな悲しそうな顔、やめて欲しいな)

「また明日ね」

そう言って軽く手を振る。
女は少し嬉しそうに手を振り返してきた。



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