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第5話・歪な鳥籠③
しおりを挟むーー日曜日
「じゃあ、唯衣、行って来るから」
玄関で姉さんが声を掛けて来た。
「…帰り、迎えに行く」
「え~?大丈夫だよ、そんな遅くならないし」
姉さんが笑いながら俺に手をひらひらと振った。
「いや、絶対行くからッ」
「ッ?!」
振られた手を掴み上げ、やや強く主張する。
姉さんはビクッと肩を震わせながら俺を見た。
「昨日から、ちょっと変だよ?どうしたの?」
俺は答える事なく、パッと姉さんから手を離して「行ってらっしゃい」をした。
姉さんは不可思議そうな怪訝な顔をした後、小さく「帰る頃に連絡するね」と告げて出て行った。
*****
自室のベッドで俺は今日の事を考えた。
(あの女、姉さんに余計な事を言わないだろうな)
ソレばかりが不安で、生きた心地が全くしない。
ーーやはり、尾行すれば良かっただろうか
そう思い立つと俺はベッドから起き上がる。
その時、携帯のバイブが鳴った。
『おはようございます。今、お姉様と合流しました。久城』
ーー久城理玖
コイツにIDを教えた覚えが無い。
すかさず、返信を打つ。
『姉さんから聞いたのか?』
『はい』
『変な事、言うなよ』
『変な事とは…貴方がお姉様を女として愛していると言う事をですか?』
久城から流れる様に返ってくる返信に怒りのゲージが上がる。
『大丈夫です、折角掴まえたのですから、逃しませんよ。』
『17時にはお姉様を解放してあげます。中川さんは17時前、広場の公園まで来て下さい』
送られてきた返信に、俺の心臓部がギリッと軋んだ。
*****
ーー夕方。
俺は久城から指定された場所に来ていた。
公園に着くと2人は既に立ち話をしており、俺の存在にまだ気付いていない様であった。
声を掛けるか悩んでいると、久城が俺の存在に気付く。
そして。
姉さんの頬に手を添えると、彼女はーー
彼女は姉さんにキスをした
「ンッ?!!」
突然のキスに驚いたのか、姉さんは久城を軽く押し退けた。
久城は舌を舐めながら姉さんを見つめる。
顔を真っ赤に染め上げた姉さんは凄く色っぽく映った。
「り、理玖、ちゃん?」
「すみません、つい…今日が凄く楽しくて」
「ぁ、も、もぅっ、びっくりしちゃった!」
「すみません」
姉さんが笑いながら久城の頭を撫でた。
久城は、申し訳無さそうに眉を下げている。
「あ、いけない、帰る時に連絡するって約束してたんだ」
「では、自分はコレで」
久城は会釈すると、人気の無い道を歩き出した。
姉さんは慌てながら携帯を取り出して俺に連絡をしてくる。
『今から帰るね』
その連絡を眺め
『今から行く』と返信すると、俺は久城を追って歩く。
街灯の横に設置されているベンチに、久城は座っていた。
「まさか本気だったんだな」
「当たり前じゃないですか」
久城の前まで歩きながら俺は言葉を掛けた。
久城はゆっくりベンチから腰を上げる。
俺の首筋に久城の腕が回ると、少しだけ俺は屈んでみせる。
そして見つめ合った後、自然な流れで俺達は唇を重ねた。
「お姉様との間接キスのお味はどうですか?」
「……そうだね、慰め程度には悪くない」
離れた唇を眺めて俺は答えた。
「姉さんを迎えに行く」
「中川さん、取り引きの事、忘れないで下さいね」
「あぁ」
そう返答すると俺は、姉さんを迎えに歩き出した。
ーー昨日の事が脳裏に甦る。
開かれた寝室。
その寝室の壁に貼られた見覚えのある男の写真。
「取り引きをしませんか?」
久城が大事そうに愛おしそうに、写真を撫でる。
「自分がお姉様との間接的な橋になります」
写真に話しかけながら久城は続けた
「自分をお姉様だと思って慰めて下さい、その代わり」
「その代わり?」
俺の方を向くと久城は笑いながら言った。
「兄さんから、必ず、彼女を引き剥がして下さい」
ーーこの久城理玖という女は狂っている。
純粋に狂っているのだ。
「名字が違うようだけど」
「離婚なんて良くある話ですよ」
そして俺は全てに合点がいった。
初めて会った時に感じた〝安堵感〟
それはーー
「中川さん、貴方と自分は」
「同族だったというワケか」
「同じ穴の狢です」と久城が自嘲する様に微笑んだーー
この歪な鳥籠に、姉さんを閉じ込める事は出来るのだろうか
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