5 / 6
ブランシールの魔女
第5節・万物の生命の魔女
しおりを挟むユウキが屋敷に入れたのは、数分後の事だった。
軋む扉がギィィと開く。
「入れ」
奥の方から魔女の声がした。
ユウキは恐る恐る足を踏み入れ、未知とも言える魔女の屋敷の中を横目で見遣った。
ユウキの予想を遥かに超えて、屋敷の中は汚かった。
「足の踏み場も無い」とは、まさに魔女の屋敷の事を指すのだろう。
「此処が妾の城じゃ」
腰に手を充て、魔女は誇らし気に口角を上げる。
「…最後に掃除したのはいつだ?」
「は?」
こてん、と小首を傾げながら魔女はユウキを見遣る。
「ぁ、いや…で、俺の役目は何だ?」
ユウキはバツが悪そうに、しゃがみ込むとエルの頭を撫でながら呟いた。
「妾の身の周りの世話をせぇ」
ユウキと魔女の間に暫しの沈黙が流れる。
「…は?」
沈黙を破ったのはユウキの方からだった。
眉をピクリと上げ、怪訝な顔を魔女に見せる。
魔女はそんな怪訝な顔を知ってか知らずか「フフン」とクリムゾンに光る勝気な瞳を細めた。
「…はぁ…森では、お前が掟」
ぽつり、と呟く。
ーーそして、何かを決意したかの様に
「わかった。お前の世話をしてやる」
そう言うとユウキは、ゆっくりと立ち上がった。
魔女は満足気に口元を緩めると、親指と人差し指でスカートを摘んだ。
白髪の頭を恭しく下げ、もう片手は胸元へと添える。
「ーー我が愛しき子よ。私の名は〝エルシオール・ジル・ヴォワザン〟」
子供に言う様に優しく。
「万物の生命の魔女にして、この森、ブランシールを創りし者に御座います」
一礼が終わる。
魔女は顔を上げて、ニッと笑って見せた。
「…ぁ…ユ、ユウキ、俺の…いや、違う、僕の名前はユウキです」
ペコリと頭を下げながら、チラリと魔女を伺う。
魔女はユウキのぎこちない挨拶を瞳を細めながら見ていた。
その表情は優し気であった。
「よし、面倒な挨拶も済んだな」
空気を変える様に、魔女が手をパンッと叩く。
「明日から宜しく頼むぞ、ユウキ」
「待ってくれ、詳しい仕事内容を教えてくれ」
自分を通り過ぎて屋敷を出ようとした魔女の腕を慌てて掴む。
「詳しい仕事内容?」
眉をピクリと上げながら魔女は不思議そうに復唱した。
「そうだ」
「妾の世話と言ったでは無いか」
「いや、そうだけど」
また暫くの沈黙が流れる。
「屋敷の掃除、妾の食事、洗濯、お使い」
片指を折りながらブツブツと呟く。
「ソレが仕事内容だな?」
「うむ、取り敢えずはな」
明確な仕事内容を啓示され、ユウキはやっと掴んでいた腕を離した。
「わかった、精一杯やらせて貰う」
「うむ、利口な判断じゃ」
魔女が笑う。
あどけなく。
「食料とかは何処に保管してあるんだ?」
「保管?」
「そうだ、野菜とか肉とか」
「野菜はその辺に生えてるであろう?肉もその辺にいる動物やヤモリを捕まえたら良いのじゃ」
魔女の言葉に、ユウキは目を見開くと絶句した。
0
あなたにおすすめの小説
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。
kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。
真実の愛ならこれくらいできますわよね?
かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの
でもそれは裏切られてしまったわ・・・
夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。
ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる