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ブランシールの魔女
第6節・優しい揺り籠
しおりを挟む魔女は、ユウキに明確な仕事内容を伝えると「やる事がある」と言って、屋敷を出て行ってしまった。
物語にでてきそうな魔女の屋敷。
足の踏み場も無いこの屋敷。
ユウキは再度、ゆっくりと屋敷を見渡す。
窓際には、樹で出来た大きいテーブル。
その上には乱雑に積み重なって今にも倒れそうな書物。
(入口に背を向ける感じで座るのか?)
年季の入った椅子を触りながら、ユウキはそんな事を思った。
その座り方は余りにも不自然に感じたのだろう。
いくら、恐れられている〝魔女の森〟とは言え、入口側に背を向けるなんて、怖いもの知らずの輩に「殺してくれ」と言っている様なモノだ。
(そんな輩さえ、魔女は恐れていないと言う事なのかーー)
「取り敢えず、人が住めるくらいには綺麗にするか」
独り言を溢すと、ユウキは壁に立て掛けてあった箒を手に取った。
*****
屋敷の掃除は、陽が落ちるまで掛かった。
ユウキ達がブランシールに迷い込んだのは、朝方の頃。
この足の踏み場も無い屋敷内を、ユウキは1人で綺麗に片付けたのだった。
「大分、人が住めるくらいにはなったかな」
コトンと箒を壁に立て掛けながら、ユウキは自問する。
窓側に設置してあったテーブルと入口側に置かれた椅子の配置を逆にした、という点を除けば
、大幅に変わった点は無かった。
やはり、この配置の方が空気の入れ替えも楽だし、何より安全だとユウキは思った。
(魔女もびっくりするだろう)
ユウキは、そんな微かな期待を胸に魔女の帰りを待った。
ーー程なくして、魔女は帰宅した。
その時の魔女の第一声は、酷かった。
クリムゾンの瞳を見開き、肩を震わせると、ユウキを睨んだ。
そしてーー
「なんだ!!!!これは!!!?!」
魔女の指が示す方を、ユウキは恐る恐る見遣る。
ユウキの目に配置替えをしたテーブルが映った。
「え?だ、ダメだったか?」
眉を下げながらユウキは魔女を見た。
「何故、こんな事をした」
魔女はユウキに問う。
「この方が安全だと思ったからだ」
ユウキは臆する事なく魔女を真っ直ぐ見て答える。
「安全だと?」
ピクリと魔女の眉が動く。
「そうだ…、あんな、入口を背にしていたら、危ないじゃないか!!」
一層、魔女の表情が険しくなる。
ぐっと胸元を掴まれると、ユウキは少し屈む姿勢となった。
「貴様、この!!妾が危ないだと?戯けが!妾を誰と知る!!?!!妾を愚弄しているのか?!」
「なっ!愚弄してるんじゃない!!女の子扱いをしているんだろ!!!」
勢いで出た言葉に、魔女は眼を大きく見開いた。
「…ぇ?」
スルッと胸元を掴んでいた手が離れる。
「…魔女?」
顔を真っ赤にしながら、魔女は俯いていた。
「だ、だが、妾はッ、前の方が良いのじゃッ」
指をパチンッと鳴らす。
優しい風が吹くとテーブルと椅子の配置が元に戻った。
くるり、とユウキに背を向け、魔女は歩き出した。
「…妾は…この椅子に腰を掛け」
古びた椅子を撫でた後、ゆっくり腰を下ろす。
そして、ギィギィと揺り籠の様に椅子を軋ませながら窓の外を眺めた。
「この窓から見える景色を眺めるのが、何よりも好きなのだ」
そう、朗らかに微笑んだ魔女の顔は、背後にいるユウキには見えなかったが、声が、雰囲気が、魔女が微笑んだ。と言っている様であった。
「…悪かった」
バツの悪そうにユウキは謝罪する。
心からの謝罪である。
「良いのじゃ、妾も…すまなかったな」
振り返る事はせずに、魔女はゆっくりとテーブルに肘を付くと自分の頬に掌を乗せた。
魔女との生活が始まる。
この魔女は知らないだろう。
この時、ユウキが胸に抱いた決意を。
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