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【エルフィン ナイトの章】
【聖夜のエピローグⅠ】
しおりを挟む「俺は、まだ帰らない」
そう言ってモートは、月明りの射し込む窓辺で彼女に微笑みを返した。
「あんたが作ってくれた、デザートだってまだ、俺は全部食ってねえしさ」
そう言ってテーブルの脇に置かれた、逆さにしたままの山高帽子を手元に引き寄せて、中身を取り出して彼女に見せた。
掌の上に乗せたのは、クラッカーに入っていたおまけ。木で作られた小さな兵士の人形と、つまらないクイズが書かれた紙きれと、頭に被っていた紙の王冠。
それを手品師がするように、彼女の目の前で5本の指を折り畳んで隠した。
「俺からあんたに贈りたい物だ」
開いたモートの掌の上には、小さなひと粒のダイヤが輝きを放っていた。
彼女は暗闇の中で息をのんで訊ねた。
「これは、まさか…!モート、お前は錬金術が使えるのか!?」
彼女らしい言葉だった。
まずロマンスより魔法に目がいくところが。どうして、プロポーズとはとってくれないのか。
モートは心の中で苦笑した。
彼女の言葉にモートは首を振る。
山高帽の中から、先ほど右手に乗せていたクリスマスのおまけを取り出して見せた。
「ダイヤが精製出来る魔法使いなんて聞いた事がないぞ…こんな力があれば、金を節約する必要だってないはずだろうに」
「これは俺の魂の一部を結晶化させたものだ…俺のあらゆる魔法の要となる力さ。けど、これは俺の魂だから…売って金に替えるわけにはいかない、だろ?」
モートはそう言って彼女の手を掴み、掌に宝石をのせた。
「だから、キルシェ バウム…俺はお前にこれを持っていて欲しいんだ」
「しかし、お前の追い求める宿敵はイグニート…焔の…お前の魔法の本質が、要となるのがダイヤの結晶化ならば」
モートが懸念した通り、聡明な彼女はすぐに気づいてしまったようだ。
互いに交した言葉。
その意味の持つ重さを噛み締め、心なしか彼女の唇は震えているように思えた。
「たが今夜はクリスマスイブだろ」
その話は別の日にすればいい。
この世界で最も美しいと思う。ロンドンの魔女に対して敬意をはらったつもりだ。
いきなり彼女の体を抱きしめ、その唇を奪ったりする前に、彼女にそう告げた。
「モート、私はお前に言った。魔法使いが自分の名前を明かすの相手は、本当に敬意を払う者か、さもなければ、すぐに殺す者だけだと」
「ああ確かにそう聞いた…ありが…!」
モートがそう言い終わる前に、彼女は懐から出した短剣を降り下ろした。
後ろに飛び退く間も与えず、鋭く尖った剣先が彼の貫頭衣に突き立てられた。
「キルシェ…なにをするんだ…」
壁の隅にある柱時計が、文字盤上の針が夜の12時を示したことを報せていた。
モートが彼女と出会い、初めてその名を口にした聖夜のことだった。
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