上 下
22 / 25
【エルフィン ナイトの章】

【聖夜のエピローグⅡ】

しおりを挟む




幼い頃にバブシカという魔女と出会い、私は彼女の弟子となった。

彼女は弟子となった私に、同じテーブルの席に着くように言った。

そして美味しい食物や、温かくて清潔な寝場所と、何より大事な魔法使いの学びを与えてくれた。

彼女は私に、出会ったその日のうちに、新しい名前をつけてくれた。

キルシェ…それは桜の花。キルシェ バウムとは異国の言葉で桜の木という意味。

私が魔女の師と暮らした屋敷の庭には、古い桜の木が一本あってさ。

師は私にその名をつけてくれたんだ。

私の師はとても花が好きな御方でね。

まず屋敷を建てる前に、その桜を見つけて、それがとても気に入り、そこに自分の棲家を構えることにしたのだ。

彼女は私にそう話して聞かせてくれた。

「だからこの家に来たお前に、私の好きな花の木の名前をやろう。花の名前もいいけれど、花は木よりも儚いからね」

私の名前はこの国の言葉じゃない。

私の先祖が生れ暮らした国の言葉だ。

その言語は、魔法に使われる古代の文字と同じ場所で生れ人世に流れたと聞く。

だから魔法使いの名前には相応しい名前なのだと。師は私をひと目見ただけで、そんなこともすぐにわかったようだ。

「この花はとても強い花だ。冬の寒さにも、風にも雨にもけして花を散らさず、どの花よりも長く咲き続ける。そんな花さ。どうだい、キルシェ バウムとは、あんたに相応しい名前じゃないか」

私は大層誇らしく、すぐに誰かに自慢したかった。けれどそれは魔法使いや魔女となった者には許されないことだ。

命とりになるからね。

モート…お前の生まれた国に私の名前と同じ桜はあるか?
 
しおりを挟む

処理中です...