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【エルフィン ナイトの章】
【聖夜のエピローグⅢ】
しおりを挟むモートの生まれた国にも、人々が桜と呼んで愛でる花がある。
ヘルデの谷と呼ばれる桜の名所や、公園に群生するように植えられた桜の花を、毎年見物に訪れる人も多いと聞いた。
季節や天候の移り変わりが激しい国に生まれた。彼の国の桜は見逃せば、すぐに花が散ってしまう希少な植物だった。
モートはそんな場所には行ったことがない。立ち止まっては花を見て、心和むような気節は、モートが生まれた街にはけして訪れることはなかった。
モートは師匠と旅を続ける中で、道端に桜の咲いている木を一本見つけた。
故郷の桜木とは違い、この国では桜を群生させて植林する習慣はないようだ。
桜の花は確かに美しい。
ふと立ち止まって、その花弁の美しさに目を奪われる人もいるだろう。
しかし桜の花が咲く気節に英国はあまりにも寒い。わざわざ、野外で花を愛でようとする者などいなかった。
この国では桜は、春がまだ遠い日に、野の道や森林で人に顧みられることもなく、ぽつんと咲く花の木だった。
「師匠、桜の花です!」
モートは旅先の馬車の窓から顔を出し、故郷と同じ花を見つけたことに興奮しながら師匠に伝えた。
「モートあれは桜の木ではないよ」
ちらりと窓の外を一瞥した後で、彼の師匠は弟子にそう言った。
「あれは桜にとてもよく似た花でね。お前の故郷の国で桜と呼ばれているのは、あれと同じアーモンドの木なのだよ」
ベットの中で彼女はモートに言った。
「実は私の師である、バブシカ様の庭に生えていた木も本当は桜ではなく、アーモンドの木だったんだ」
「あのどえらい魔法使いの御方が」
「アーモンドと…桜の見分けはつかなかったんだ!」
彼女は可笑しそうに、口元にブランケットを引き寄せて笑った。
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