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二章
048 奇妙な縁
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パワーゴーレムは人型だけど、おもちゃのロボットと考えた方が良い動きをしてくる。
腕をぐるんぐるん回すし、腰もぐるんぐるん回す。
隙を突いて接近しても、その頃には核が届かない位置へ移動してしまっている。
更には体を丸めて転がってくるので厄介だ。
残り一つとなった核は移動速度が若干上がり、余計に狙いにくくなっているのも、いやらしい。
投擲をしてもなかなか上手く当たらない。
「あーもー! 腹立つなー!」
「せめて核が止まってりゃなー……。……あっ……そうだよ、止めてしまえばいいんだ」
俺は魔力を練り水魔法を発動させる。
できるのは生活魔法程度なので、ホースから出てくる位の威力しかないが、パワーゴーレムにジャバジャバとぶっかけてやった。
「リンメイ! 氷魔法だ!」
「あっ! そういう事か!」
リンメイは俺のやりたい事を察してくれたようで、素早く投擲して氷魔法を放ってくれた。
よし! 溝が氷で埋まって核が移動できなくなってる!
「もらった!」
転がって氷を砕こうと考えたのか、急いで丸くなろうとしているゴーレムの核目掛けて俺は渾身の投擲を放つ。
――バキン!
「「やった!」」
「よっし!」
核が砕けたと同時に、ゴーレムは崩れていく。
「上手くいったねお兄ちゃん!」
「やったな、おっさん!」
「ああ! なんとかなったよ!」
俺達は三人で倒した喜びを分かち合う。
今回は特に、ラキちゃんの本気の攻撃を使わずに倒せた事が嬉しかった。
「ラキちゃんごめんね、俺達の我儘に付き合ってもらって。なんとかラキちゃんの力を借りずに倒せたよ」
「気にしないで。私はお兄ちゃん達とダンジョンに来れるだけで十分だから」
三人で探索しようと決めた時、なるべくラキちゃんは普通の冒険者程度の攻撃に止めてもらうようにお願いしていた。
そうしないと俺とリンメイが経験を積み、成長する事ができないと思ったからだ。
「でたっ! 今回も三つある!」
「いいね!」
今回も宝箱は三つ出現した。ゴーレムは一体だったが、核が三つだったからだろうか?
兎にも角にも、多い事は嬉しい!
「早速開けようぜ! ラキよろしくっ!」
「はーい!」
一つ目の箱を開けると、弓が入っていた。
「おっ弓か。……効果は威力が二割増し。誰か使うか? あたいは使わない」
弓か、少し練習しといた方が良いのかなあ。でも練習するならまずは補正無しの普通の弓のがいいよな。
結局俺もラキちゃんも首を横に振る。
「じゃ、これはギルドに売却するか」
売るなら標準男性のサイズが無難と言う事で、俺が取り出した。
続いて二つ目の宝箱を開けてもらう。
中には魔法使いが持ってそうな杖が入っていた。
「攻撃魔法士がよく使う杖だな。効果は魔法発動までの時間が二割短縮。――ラキ使うか?」
「うーん、もう少し可愛いのがいいです」
ラキちゃんはあまりデザインが好みではなかったようだ。
まあラキちゃんなら、今更性能は気にする必要無いしね。
「じゃ、これもギルドに売却かな」
攻撃魔法士は女性が多いから、リンメイが宝箱から取り出した。
さて最後だ。できたら俺達に役立つアイテムが出て欲しいところ。
三つ目の宝箱をラキちゃんが開けると、チョーカーが入っていた。
真ん中に涙滴型の水色の宝石が付いている。とってもおしゃれな感じだ。
「わぁー……!」
「おおっ! これ結構当たりだ! 五分間どこでも息ができる効果が付いてる」
ラキちゃんはおしゃれなデザインがとても気に入ったのか、目を奪われている。
性能も良い! これは……。
「なあリンメイ、このチョーカーはラキちゃんに譲ってやってくれないかな?」
「ん? いいぜ!」
「いいの!?」
「「ああ!」」
「わー! ありがとう!」
ラキちゃんは早速取り出し、首に付けてみた。
「えっと、どうかな?」
もじもじしながら俺達にチョーカーを付けた姿を見せてくれる。
「うん、とても似合ってるよ」
「おう! 可愛いぞっ」
「えへへ、ありがとう!」
ラキちゃんはとても喜んでくれた。君が喜ぶとお兄さんも嬉しいよ。
このアクセサリーが出たのはとてもありがたい。ラキちゃんが喜んでくれたのは勿論だが、何と言っても性能が良い。
高高度でも問題無く飛行ができる無敵のラキちゃんでも、気絶して水中などに落ちてしまったら息ができないんじゃないかと不安だった。
これがあれば万が一の時に備える事ができる。
「んじゃ、そろそろフィールドエリアに行こうか」
「おう! さっきの奴等がまだ居たら、ドヤ顔で前を通ってやろうぜ」
「あははっ!」
「そうするか!」
俺達は意気揚々と転移門に入って行った。
転移門を抜けると、そこは山に囲まれた世界だった。
周りを囲む高い山々に圧倒されてしまう。
まるでアルプス山脈のようだ。行った事無いけど。
「はぇー……」
「ひゃー……」
「おぉー、なんかあたいの村を思い出すな」
「リンメイの故郷ってこんな感じなんだ」
「まーなー」
このエリアの転移門からは、それぞれの山に向かって道ができていた。
その道は山ごとの横穴へ通じている。たしかこのフィールドエリアは鉱山としても利用されていたから、その道なんだろう。
まあでも、俺達が採取するのはもっぱら高山植物の方なので、中に行く事は無いかな。
俺達が転移門を出ても、既にあの大集団は去ったようで居なかった。
リンメイは残念そうにしていたが、あまり悪目立ちしても良くないからまあいいか。
早速俺達は転移門からエントランスホールへ戻り、ギルドで精算してしまう。
ラキちゃんのおかげで本来ならば宿泊も考慮しなきゃいけない中層の一つ目を、一日で駆け抜けてしまった。
流石にかなりの移動距離だったから疲れてしまったな。
どうやら俺だけでなく二人ともお疲れの様子だったので、今日はさっさと帰る事にした。
二人ともお疲れ様。
今日はダンジョン再構築の日なので、俺はムジナ師匠の所で投擲術の練習をしてきた。
帰り道、突然俺の 【虫の知らせ】 ギフトが発動したため辺りを警戒する。
なんだ? この前襲われた時とは違う……。今日は俺を導くような感じだ。
俺は抵抗せず導かれるままに街中を進んで行く。
この辺はお高い酒場が並ぶ地区だ。
俺には全く縁の無い所だよなと思いつつ更に進んで行くと、とある店と店の隙間に辿り着いた。
ここか? 何に導かれたってんだ……。
「ゲッ!」
思わず声が出てしまった。
見つけたのはカサンドラ王国のバカ王子だったからだ。
うーん、このまま素通りして帰りたい。
でもギフトはコイツを示しているんだよなあ……。――クソッ。
とりあえず近くに寄ってよく見てみると、どうやら酔っぱらって寝ているだけで外傷もなさそうだった。
「おい王子様、こんな所で寝てると風邪ひくぞ」
そう言いながら頬をペチペチ叩く。
「う……うん? 誰だお前は…………どこかで見た顏だな」
「ただの通りすがりだよ」
「あ、思い出したぞ。我らから金をせびった平民ではないか」
「チッ、思い出さなくていいものを……」
とりあえず本人も目を覚ましたことだ。さっさとずらかろう。
「んじゃーな、気ぃつけて帰れよ王子様」
「まて平民」
そう言い俺の手を掴んできた。
「なんだよ?」
「酒を馳走してやるから肩を貸せ」
「別に要らないんだけどなあ……ったく」
仕方が無く王子様に肩を貸し、ちょっとお高めな酒場に入って行く。
流石は王子様、随分と手慣れた感じだ。適当に王子様が注文してしまう。
「いつも侍らせてる子らはどうしたんだよ?」
「フン! たまには一人で飲みたい時もあるのだ」
「ふーん」
それから王子様は色々と鬱憤が溜まっていたのか、愚痴を言い始める。
下らない愚痴聞いてるせいで酒の味が全くわからねぇ……。
「別に王子様は王様になれなくても公爵様にでもなって領地貰えんだろ? 魔王討伐なんて考えず国へ帰れよ」
「それだとアルシオーネ姉様を我が妻にできないではないか! 私が王にさえなれば彼女の爵位を復権して王妃として迎える事が出来る!」
「えっ、王子様はアルシオーネさんが好きだったの?」
「そうだとも! ずっとお慕いしていた! ――元々は兄上の婚約者であったから叶わぬ恋と諦めていたんだがな……」
頼むから店の中ででかい声出すなよ。なんか衝立の向こうの客から キャー とか ヒュー とか笑い声が聞こえる……。
「だからって魔王討伐は無茶すぎるだろう。既に仲間も一人死んじまってるし」
「ん? 何をいっておるのだ? 死んでなどおらぬぞ。彼女はボス戦で片腕を失い戦線離脱しただけだ。我が国には神聖魔法を使える聖女がおらんからな、今この国の中央と治療のための交渉中だ」
なんだ、死んでなかったのか。王子様の下らない目的のために命を散らさなくてよかったなと、赤の他人ながらホッとしてしまう。
「そんなにアルシオーネさんが好きなら、何もかも捨てて追いかければよかったじゃないか。絶好のチャンスだったはずだぞ?」
「愚か者め。追放したのは我が王家であるぞ。……普通に追いかけて……受け入れてくれるわけが無かろ……う……」
ちょっ、寝るな王子様! 参ったなあ……。こいつの宿がどこか知らないし、ここの代金どーすんだよ。
…………、とりあえず残ってる酒飲んじゃおう……。
「……ったく、全部放り出して追いかけた方が魔王討伐よりもずっと楽だと思うんだけどねぇ……」
本当にバカだなあと思いつつグラスを呷ったら、突然後ろから声が聞こえた。
「臆病者のこの子には地位も名誉も捨てる覚悟なんてありませんわ」
なんと王子様の思い人であるアルシオーネさんが後ろに立っていた。思わずむせてしまう。
「ごめんなさい。話が聞こえてしまいましたの」
「アッ!――」
俺は思わず大声を出しそうになり慌てて口をふさぐ。
アルシオーネさんも王子を起こさないようにと唇に指を立てる仕草をした。
なんと偶然にも衝立の向こうは 『紅玉の戦乙女』 が席に着いていたようだ。
他のメンバーはこちらを見ながらニヤニヤしている。
「折角 【剣聖】 というギフトを授かったのに、この子は本当に意気地なし。それに良くも悪くも純粋すぎて王になれる器ではありません。……国へ帰って幸せに過ごせば良いものを」
どことなくだが、優し気な眼差しで王子を見下ろしていた。
「貴方のお名前を伺ってもよろしいかしら?」
「えっ? ああ、俺はケイタって言います」
「そう、ケイタさん。――ご存知かもしれませんが、私の名はアルシオーネ。以後お見知り置きを」
「あっ、はい、よろしくお願いします」
おお? 深層冒険者が俺なんぞとお知り合いになってくれるのか? マジで?
「ではケイタさん、申し訳ありませんがセリオスの事をよろしくお願いします。きっと貴方が傍にいれば、この子も最悪の結末を回避できる気がしますの」
えっ? はっ!? 突然何を言い出すんだこの子は!?
一瞬何を言われたのか理解できずに、呆けてしまう。
「えぇー……、何を根拠に仰るのか分かりませんが、買い被り過ぎですって。平民の俺には荷が重すぎですよ……」
俺は思わず苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。
「そんな顏しないで下さいまし。きっと貴方なら大丈夫ですわ」
アルシオーネさんは困った表情でふふふと笑い、それから店の者に王子様の迎えを呼んでもらうよう手配してくると言って、この場を離れていく。
「メイランの妹さんを立ち直らせたその手腕、期待しておりますわ」
なっ!? 向こうは俺の存在を知っていたんじゃないか!
どうやら調べられた感じだな……。
衝立の向こうの席にいたメンバーも立ち上がる。どうやら彼女達は帰るようだ。
「それでは私達は先にお暇いたします。――ごきげんよう」
そう言い、アルシオーネさんを先頭に彼女達のパーティは俺に手を振りながら店を出ていく。
帰り際、リンメイによく似たメイランさんが俺の方に寄ってくる。
「リンメイの事ありがとう」
メイランさんはそう言い、俺の頬にキスをして去って行った。
彼女達がここに居たのは偶然じゃないのかもしれない。
やれやれ参ったなあ……。
腕をぐるんぐるん回すし、腰もぐるんぐるん回す。
隙を突いて接近しても、その頃には核が届かない位置へ移動してしまっている。
更には体を丸めて転がってくるので厄介だ。
残り一つとなった核は移動速度が若干上がり、余計に狙いにくくなっているのも、いやらしい。
投擲をしてもなかなか上手く当たらない。
「あーもー! 腹立つなー!」
「せめて核が止まってりゃなー……。……あっ……そうだよ、止めてしまえばいいんだ」
俺は魔力を練り水魔法を発動させる。
できるのは生活魔法程度なので、ホースから出てくる位の威力しかないが、パワーゴーレムにジャバジャバとぶっかけてやった。
「リンメイ! 氷魔法だ!」
「あっ! そういう事か!」
リンメイは俺のやりたい事を察してくれたようで、素早く投擲して氷魔法を放ってくれた。
よし! 溝が氷で埋まって核が移動できなくなってる!
「もらった!」
転がって氷を砕こうと考えたのか、急いで丸くなろうとしているゴーレムの核目掛けて俺は渾身の投擲を放つ。
――バキン!
「「やった!」」
「よっし!」
核が砕けたと同時に、ゴーレムは崩れていく。
「上手くいったねお兄ちゃん!」
「やったな、おっさん!」
「ああ! なんとかなったよ!」
俺達は三人で倒した喜びを分かち合う。
今回は特に、ラキちゃんの本気の攻撃を使わずに倒せた事が嬉しかった。
「ラキちゃんごめんね、俺達の我儘に付き合ってもらって。なんとかラキちゃんの力を借りずに倒せたよ」
「気にしないで。私はお兄ちゃん達とダンジョンに来れるだけで十分だから」
三人で探索しようと決めた時、なるべくラキちゃんは普通の冒険者程度の攻撃に止めてもらうようにお願いしていた。
そうしないと俺とリンメイが経験を積み、成長する事ができないと思ったからだ。
「でたっ! 今回も三つある!」
「いいね!」
今回も宝箱は三つ出現した。ゴーレムは一体だったが、核が三つだったからだろうか?
兎にも角にも、多い事は嬉しい!
「早速開けようぜ! ラキよろしくっ!」
「はーい!」
一つ目の箱を開けると、弓が入っていた。
「おっ弓か。……効果は威力が二割増し。誰か使うか? あたいは使わない」
弓か、少し練習しといた方が良いのかなあ。でも練習するならまずは補正無しの普通の弓のがいいよな。
結局俺もラキちゃんも首を横に振る。
「じゃ、これはギルドに売却するか」
売るなら標準男性のサイズが無難と言う事で、俺が取り出した。
続いて二つ目の宝箱を開けてもらう。
中には魔法使いが持ってそうな杖が入っていた。
「攻撃魔法士がよく使う杖だな。効果は魔法発動までの時間が二割短縮。――ラキ使うか?」
「うーん、もう少し可愛いのがいいです」
ラキちゃんはあまりデザインが好みではなかったようだ。
まあラキちゃんなら、今更性能は気にする必要無いしね。
「じゃ、これもギルドに売却かな」
攻撃魔法士は女性が多いから、リンメイが宝箱から取り出した。
さて最後だ。できたら俺達に役立つアイテムが出て欲しいところ。
三つ目の宝箱をラキちゃんが開けると、チョーカーが入っていた。
真ん中に涙滴型の水色の宝石が付いている。とってもおしゃれな感じだ。
「わぁー……!」
「おおっ! これ結構当たりだ! 五分間どこでも息ができる効果が付いてる」
ラキちゃんはおしゃれなデザインがとても気に入ったのか、目を奪われている。
性能も良い! これは……。
「なあリンメイ、このチョーカーはラキちゃんに譲ってやってくれないかな?」
「ん? いいぜ!」
「いいの!?」
「「ああ!」」
「わー! ありがとう!」
ラキちゃんは早速取り出し、首に付けてみた。
「えっと、どうかな?」
もじもじしながら俺達にチョーカーを付けた姿を見せてくれる。
「うん、とても似合ってるよ」
「おう! 可愛いぞっ」
「えへへ、ありがとう!」
ラキちゃんはとても喜んでくれた。君が喜ぶとお兄さんも嬉しいよ。
このアクセサリーが出たのはとてもありがたい。ラキちゃんが喜んでくれたのは勿論だが、何と言っても性能が良い。
高高度でも問題無く飛行ができる無敵のラキちゃんでも、気絶して水中などに落ちてしまったら息ができないんじゃないかと不安だった。
これがあれば万が一の時に備える事ができる。
「んじゃ、そろそろフィールドエリアに行こうか」
「おう! さっきの奴等がまだ居たら、ドヤ顔で前を通ってやろうぜ」
「あははっ!」
「そうするか!」
俺達は意気揚々と転移門に入って行った。
転移門を抜けると、そこは山に囲まれた世界だった。
周りを囲む高い山々に圧倒されてしまう。
まるでアルプス山脈のようだ。行った事無いけど。
「はぇー……」
「ひゃー……」
「おぉー、なんかあたいの村を思い出すな」
「リンメイの故郷ってこんな感じなんだ」
「まーなー」
このエリアの転移門からは、それぞれの山に向かって道ができていた。
その道は山ごとの横穴へ通じている。たしかこのフィールドエリアは鉱山としても利用されていたから、その道なんだろう。
まあでも、俺達が採取するのはもっぱら高山植物の方なので、中に行く事は無いかな。
俺達が転移門を出ても、既にあの大集団は去ったようで居なかった。
リンメイは残念そうにしていたが、あまり悪目立ちしても良くないからまあいいか。
早速俺達は転移門からエントランスホールへ戻り、ギルドで精算してしまう。
ラキちゃんのおかげで本来ならば宿泊も考慮しなきゃいけない中層の一つ目を、一日で駆け抜けてしまった。
流石にかなりの移動距離だったから疲れてしまったな。
どうやら俺だけでなく二人ともお疲れの様子だったので、今日はさっさと帰る事にした。
二人ともお疲れ様。
今日はダンジョン再構築の日なので、俺はムジナ師匠の所で投擲術の練習をしてきた。
帰り道、突然俺の 【虫の知らせ】 ギフトが発動したため辺りを警戒する。
なんだ? この前襲われた時とは違う……。今日は俺を導くような感じだ。
俺は抵抗せず導かれるままに街中を進んで行く。
この辺はお高い酒場が並ぶ地区だ。
俺には全く縁の無い所だよなと思いつつ更に進んで行くと、とある店と店の隙間に辿り着いた。
ここか? 何に導かれたってんだ……。
「ゲッ!」
思わず声が出てしまった。
見つけたのはカサンドラ王国のバカ王子だったからだ。
うーん、このまま素通りして帰りたい。
でもギフトはコイツを示しているんだよなあ……。――クソッ。
とりあえず近くに寄ってよく見てみると、どうやら酔っぱらって寝ているだけで外傷もなさそうだった。
「おい王子様、こんな所で寝てると風邪ひくぞ」
そう言いながら頬をペチペチ叩く。
「う……うん? 誰だお前は…………どこかで見た顏だな」
「ただの通りすがりだよ」
「あ、思い出したぞ。我らから金をせびった平民ではないか」
「チッ、思い出さなくていいものを……」
とりあえず本人も目を覚ましたことだ。さっさとずらかろう。
「んじゃーな、気ぃつけて帰れよ王子様」
「まて平民」
そう言い俺の手を掴んできた。
「なんだよ?」
「酒を馳走してやるから肩を貸せ」
「別に要らないんだけどなあ……ったく」
仕方が無く王子様に肩を貸し、ちょっとお高めな酒場に入って行く。
流石は王子様、随分と手慣れた感じだ。適当に王子様が注文してしまう。
「いつも侍らせてる子らはどうしたんだよ?」
「フン! たまには一人で飲みたい時もあるのだ」
「ふーん」
それから王子様は色々と鬱憤が溜まっていたのか、愚痴を言い始める。
下らない愚痴聞いてるせいで酒の味が全くわからねぇ……。
「別に王子様は王様になれなくても公爵様にでもなって領地貰えんだろ? 魔王討伐なんて考えず国へ帰れよ」
「それだとアルシオーネ姉様を我が妻にできないではないか! 私が王にさえなれば彼女の爵位を復権して王妃として迎える事が出来る!」
「えっ、王子様はアルシオーネさんが好きだったの?」
「そうだとも! ずっとお慕いしていた! ――元々は兄上の婚約者であったから叶わぬ恋と諦めていたんだがな……」
頼むから店の中ででかい声出すなよ。なんか衝立の向こうの客から キャー とか ヒュー とか笑い声が聞こえる……。
「だからって魔王討伐は無茶すぎるだろう。既に仲間も一人死んじまってるし」
「ん? 何をいっておるのだ? 死んでなどおらぬぞ。彼女はボス戦で片腕を失い戦線離脱しただけだ。我が国には神聖魔法を使える聖女がおらんからな、今この国の中央と治療のための交渉中だ」
なんだ、死んでなかったのか。王子様の下らない目的のために命を散らさなくてよかったなと、赤の他人ながらホッとしてしまう。
「そんなにアルシオーネさんが好きなら、何もかも捨てて追いかければよかったじゃないか。絶好のチャンスだったはずだぞ?」
「愚か者め。追放したのは我が王家であるぞ。……普通に追いかけて……受け入れてくれるわけが無かろ……う……」
ちょっ、寝るな王子様! 参ったなあ……。こいつの宿がどこか知らないし、ここの代金どーすんだよ。
…………、とりあえず残ってる酒飲んじゃおう……。
「……ったく、全部放り出して追いかけた方が魔王討伐よりもずっと楽だと思うんだけどねぇ……」
本当にバカだなあと思いつつグラスを呷ったら、突然後ろから声が聞こえた。
「臆病者のこの子には地位も名誉も捨てる覚悟なんてありませんわ」
なんと王子様の思い人であるアルシオーネさんが後ろに立っていた。思わずむせてしまう。
「ごめんなさい。話が聞こえてしまいましたの」
「アッ!――」
俺は思わず大声を出しそうになり慌てて口をふさぐ。
アルシオーネさんも王子を起こさないようにと唇に指を立てる仕草をした。
なんと偶然にも衝立の向こうは 『紅玉の戦乙女』 が席に着いていたようだ。
他のメンバーはこちらを見ながらニヤニヤしている。
「折角 【剣聖】 というギフトを授かったのに、この子は本当に意気地なし。それに良くも悪くも純粋すぎて王になれる器ではありません。……国へ帰って幸せに過ごせば良いものを」
どことなくだが、優し気な眼差しで王子を見下ろしていた。
「貴方のお名前を伺ってもよろしいかしら?」
「えっ? ああ、俺はケイタって言います」
「そう、ケイタさん。――ご存知かもしれませんが、私の名はアルシオーネ。以後お見知り置きを」
「あっ、はい、よろしくお願いします」
おお? 深層冒険者が俺なんぞとお知り合いになってくれるのか? マジで?
「ではケイタさん、申し訳ありませんがセリオスの事をよろしくお願いします。きっと貴方が傍にいれば、この子も最悪の結末を回避できる気がしますの」
えっ? はっ!? 突然何を言い出すんだこの子は!?
一瞬何を言われたのか理解できずに、呆けてしまう。
「えぇー……、何を根拠に仰るのか分かりませんが、買い被り過ぎですって。平民の俺には荷が重すぎですよ……」
俺は思わず苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。
「そんな顏しないで下さいまし。きっと貴方なら大丈夫ですわ」
アルシオーネさんは困った表情でふふふと笑い、それから店の者に王子様の迎えを呼んでもらうよう手配してくると言って、この場を離れていく。
「メイランの妹さんを立ち直らせたその手腕、期待しておりますわ」
なっ!? 向こうは俺の存在を知っていたんじゃないか!
どうやら調べられた感じだな……。
衝立の向こうの席にいたメンバーも立ち上がる。どうやら彼女達は帰るようだ。
「それでは私達は先にお暇いたします。――ごきげんよう」
そう言い、アルシオーネさんを先頭に彼女達のパーティは俺に手を振りながら店を出ていく。
帰り際、リンメイによく似たメイランさんが俺の方に寄ってくる。
「リンメイの事ありがとう」
メイランさんはそう言い、俺の頬にキスをして去って行った。
彼女達がここに居たのは偶然じゃないのかもしれない。
やれやれ参ったなあ……。
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