ある日,トカゲに転生~ダンジョン暮らしの少年は外の世界の強さが分からない~

ルー

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第一章 弘樹,転生す

第十二話 極寒の地も寒くなかった件

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四十一~五十階層

 そこは極寒の地だった。平均気温-30度。そこに昼も夜もなくただただ吹雪が吹き荒れるだけであった。

 ここなんだ。寒すぎるじゃないか。それに鑑定からの情報だと常に気温がマイナスだと。これは北極越えしているかも知れない。速いとこ,抜け出してしまおう。

「そうですね。それにこの階層は仲間とはぐれさせる効果もあるようです。私たちには関係ありませんが」
「だな。早く抜けちゃおうぜ」

 弘樹は今猛吹雪の中にいた。ここは四十一階層。吹きすさむ風は攻略者のやる気をそぎ,その寒さで帰らぬ人とする。そして攻略に置いて一番の障害は仲間とはぐれること,つまり遭難であった。

「だが,今の俺には全く効かねぇ」
そう,弘樹にはこの手の物は効かない。少し前ならどうなっていたかはわからないが今の弘樹は鑑定さん(仮)と出会えたことにより軽く覚醒していた。なので鑑定さんと久しぶりの話を満喫していた。

「なあなあ,今妖精の姿なわけじゃん。何か変わったことはあるの?」
「変わったことですか。そうですね,実体を持ったことへの実感がまだありません。不思議な感じです。それに私に気持ちというものが生まれたような気がします」

 それは単純にいいことだな。気持ちが生まれたということは自分で行動できるということ。生きる上で大事なことだ。

「でもさ,どうやって進化したんだ?」
「どうやって,ですか。それは愚問ですね。進化したかったからですよ」
え。進化したかったら進化できるのか。これはもしかしたらすごい発見なのでは。

「できました。私が進化したかったというのと弘樹が進化を願っていたようなので」
「ほー。そうなのか。じゃあスキルの鑑定はなくなったのか」
「いえ,そういうわけではありません。スキル鑑定は今までどうり使えます。前までのように話しかけてはこないと思いますが」
「そうなのか。やっぱり鑑定さんが話しかけてきていたのは特別なことだったのか」
「そうだと思います」
「じゃあさ,今の妖精スタイルの鑑定さんて何ができるの? 俺と会話するだけ?」
「えっと,私のできることは主に戦闘のサポートです。周りの警戒であったり,魔法の開発などですね」
「そっか。それは良かった」
「それに解析鑑定の権限も持っているので鑑定と同じようなこともできますよ」
「鑑定の権限?」
「はい。好きな時に弘樹の鑑定を自由に使うことのできるという権限です」
「つまり,鑑定と同じようなこともできるわけだ」
「そういうことですね」
「すげぇ」
そうこうしているうちに下の階への通路が見えてきた。
「さて,この階層もぱっぱと攻略しますか」
「だな」


 弘樹は炎を吐き目の前にいる熊を蹴散らす。
「よし,これで戦闘終了だ」

 俺もここでの戦闘にかなり慣れてきたと思う。そして何と言ってもMPを制御する力が大幅に上がったのだ。なんでかって? いいだろう。君たちには特別に教えてあげよう。

 まあ,理由は単純だ。ここでは吹雪が魔法を妨害してくるから,簡単な魔法を使うのにもかなりの魔法制御が必要になるからだ。俺は今まで火力に任せてごり押しだったから,MPの制御力が低かったんだ。だけどここではMP制御能力がないとファイアボールも打てない。いやぁ,最初の方はかなり苦戦したよな。

「最初は私の助けも必要だったのに,本当にスポンジのように新しいことを吸収しますね」
スポンジという表現に少し戸惑うが気っと鑑定なりの誉め言葉なのだろう。少なくとも俺はオス捉えるよ。

「ああ。なんと言っても強くならないといけないからな」
「十分強いのですが」
「そうだ,その妖精の姿ってさ,変えられるの?」
「どういう意味ですか? まさか私に変な恰好をさせるつもりですか?」
今の鑑定の姿は妖精なのでかなりかわいい。そして誰が望んだのかなかなかいいスタイルを誇っている。その結果,何が起こるかというと,

 む。鑑定に変な恰好って⋯⋯。いやまて,想像するな,俺。はー,冷静に,冷静に。あくまで鑑定は俺のスキル。スキルだ。

 このように妄想する輩が出てくるのである。

 よし,危なかった。ここで変なことをしたら鑑定に引かれるところだった。だがこれは訂正しておかなければ。
「そういう意味じゃなくてだな,外に出たら,その妖精の恰好ってかなり目立つだろ。だから大丈夫なのかなって」
「そんな心配ですか。全く問題ありませんよ。なぜならこの体はいわば仮の体。消滅して弘樹と一体化できるんです」
「へー。一体化? それってどういう状態なの?」
「一体化はその名の通り一緒になることのことです。簡単に言えば解析鑑定だったころに戻るみたいな感じですね」
「そうなんだ。もし一体化したら妖精スタイルに戻れないなんてことはないよね」
「ええ,大丈夫です。弘樹から魔力を少しもらえばまたこの姿に戻ることができます」
「それは便利だな」

 ふう,良かった。誤解は解けたみたいだ。なぜか鑑定がこっちを残念そうに見ているが気にしないでおこう。


 そして二人は五十階層まで来た。
「やっとここまで来たな。この階層で出てきたモンスターは弱いわけじゃなかったし,これは次の階層に期待だな」
「ですね。これでこの魔窟も弘樹が生まれた場所から二百階層下まで来たことになりますね」
「そうだな。なんだか感慨深いな」
「どういえばレベルはどうなったんですか。さすがに少ししか上がってないと思いますけど上がってるんじゃないですか」
「そういえば一回もレベルアップの音を聞いてないな」
「あ,それならば私が勝手に消しました。戦闘に邪魔だと思い,無音状態にしてあります。もとに戻しますか?」
「いや,いいや。この方が戦闘に集中できるし。でも無音状態なんてあるんだな。知らなかった」
「ええ。あまり知られていることではないですからね」
「じゃあ,一回もレベルアップの音を聞いてなくてもレベルアップしているかもってことか。早速見てみよう。ステータスオープン」

ファイアリザード
Lv 15
HP 74000
MP 27500
攻撃力19500
物理防御力4800
魔法防御力4800
素早さ4400
スキル
炎魔法上級Lv4
炎魔法中級Lv4
炎魔法下級Lv6
解析鑑定
スキル管理
炎系竜流体術Lv5
炎耐性Lv8
炎魔力操作Lv4
進化可能経験値(15/40)

 なかなか上がっていたな。特にスキルのレベルがすごく上がっている。この調子ならスキルの進化も近いうちにできそうだ。なんていったってこっちには鑑定さんがいるんだから。

「それでは下の階に行きましょうか。おそらくですがもう少し下がったらいい狩場があると思いますよ」
ん? なんで鑑定さんはそんなことは分かるんだ?
「はい。この魔窟は百階層ごとに魔物は大きく強くなっています。ですから次の階層に行けば魔物は大きく強化されている可能性が高いです」
「そうか! やっとこの長い旅に終わりが見えたな」
「はい。ですが同時に用心もしてください。敵が強くなれば死ぬ可能性も高くなります」
「だな。安全第一で行こう」

 そして俺はより強き敵を求めて下の階へ降りていくのだった。

~サイド ???~
 弘樹がダンジョンを攻略しているとき,ある城で⋯⋯。
「あいつらもだいぶこの世界になじんできましたね」
「ああ。そうだな」
「次の作戦を手つだわさせますか?」
「いやまだ早い。もう少し強くさせてからの方がいい」
「分かりました。ですが,もしあの都市がなくなればエンラルドは壊滅しますね」
「ああ。勇者がいるからと言ってもあの国は終わりだ」
「では,私たちの栄光に,乾杯」
「乾杯」

 今日もこの世界の夜は深い。
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